【書評】『スタートアップ!』(リード・ホフマン、ベン・カスノーカ)
お薦めの本の紹介です。
リード・ホフマンさんとベン・カスノーカさんの『スタートアップ!』です。
リード・ホフマンさんは、起業家、投資家です。
世界最大のビジネス向けのネットワークサービス、「リンクトイン」の共同創業者でもあります。
ベン・カスノーカさんは、起業家、著述家です。
「ビジネスウィーク」から「アメリカ最高の若手起業家」のひとりにも選ばれています。
なぜ、今「スタートアップ!」なのか?
「スタートアップ」とは、本来、新興企業や起業を意味します。
著者は、人はみな起業家(アントンプレナー)として生まれついている
と述べています。
だからといって、すべての人に、会社を興すことを勧めているわけではありません。
では、なぜ、「人はみな起業家」なのか。
それは、人には、創造への熱意がDNA(遺伝子)が組み込まれている
からです。
著者は、創造こそ、起業家精神のエッセンス
であるから、とその理由を説明しています。
この変化の激しい先の読めない時代だからこそ「スタートアップ」の精神を持つべき
だと説きます。
情報が乏しくヒト・モノ・カネの足りない状態で、時間に追われながら判断をくだす。何の保証も安全網もないから、それなりのリスクをとることになる。起業家が会社を興して成長させようとするときの環境条件は、わたしたちみんながキャリアを築こうとするときの条件と同じである。一瞬先に何が起きるかわからない。限られた情報、熾烈な競争。変わりゆく世の中・・・・。しかも、ひとつの仕事に費やす時間は短くなってきている。つまり、絶えず順応を繰り返す必要があるのだ。もし順応できずに振り落とされても、誰も――勤務先も、政府も――あなたを受け止めてくれないだろう。
スタートアップは、このような視界不良、変化、制約と真正面から向き合っている。「スタートアップ!」 第1章 より リード・ホフマン、ベン・カスノーカ:著 日経BP:刊
起業家精神を忘れると、どうなるでしょうか。
かつての起業家精神の粋が集まっていた自動車産業の聖地、デトロイトの盛衰を例に挙げて説明しています。
デトロイトは、1940年代から1960年代にかけて、フォードモーター、ゼネラルモーターズ、クライスラーという現地発祥の「スタートアップ」3社の恩恵で活況に沸き、世界の中心であるかのような繁栄を誇っていました。
しかし、その後リスクを避け、実力主義に背を向け、慢心して官僚体質に染まって
いったため、日本メーカーの台頭と消費者のニーズの変化に対応することができず、没落の一途を辿りました。
デトロイトの状況は、決して対岸の火事ではありません。
かつては追いかける立場だった日本メーカーも、今では追われる立場です。
デトロイトの姿に、何となく、近い将来の日本がダブって見えなくもないですね。
企業も国も、頼りにすることができなくなった、今の時代。
万が一の時に備える。
その意味でも、「スタートアップ」の精神を、一人一人が持つことは大切です。
本書は、「スタートアップ」に必要なスキルや考え方について、具体的にまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「永遠のベータ版」という発想
「スタートアップ」の精神は、何かを始める一時期にだけ持つものではなく、常に持ち続けなければならないもの
です。
テクノロジー企業は、ソフトウェアを正式に発売した後もしばらく「ベータ版」というラベルを貼ったままにして、「完成品ではないため大がかりな改良は時期尚早」であることを念押ししている。一例として、グーグルのGメールは2004年にサービスを開始したものの、利用者数が数百万にも達した後もなお、2009年まで公式にはベータ版のままだった。
(中略)
起業家にとって、「完成した」は禁句である。彼らは、偉大なる企業は進化を怠らないことを心得ている。
誰もがこの「完成した」を禁句にすべきだろう。わたしたちはみんな、いわば未完成品なのだ。くる日もくる日も、もっと学び、行動し、人間としての幅を広げ、成長するための機会にめぐり合う。自分の仕事人生を「永遠のベータ版」と位置づけておくと、自分には欠点があり、自力でさらなる向上を目指す余地があり、順応や進化が求められている、と意識せざるをえない。それでもこの発想は明るい見通しにあふれている。なぜなら、自力で向上を目指すことができるという事実、そしてこれと同じだけ大切な、世の中をよくすることができるという事実を歓迎しているからだ。「スタートアップ!」 第1章 より リード・ホフマン、ベン・カスノーカ:著 日経BP社:刊
満足してしまった時点で、それ以上の成長は望めません。
更なる向上を目指し、改善を繰り返して成長し続けること。
それが「スタートアップ」精神の基本です。
「ABZプランニング」とは?
著者は、自分の決めた目標や大志に従ってキャリアプラン通りの道を進めることは稀
たとして、順応力のあるしっかりとしたキャリア・プラン作りを勧めています。
それが「ABZプランニング」と呼ばれる手法です。
では、A、B、Zは何を表すのだろう?プランAは現状を指す。いまあなたが競争上の強みをどう活かしているか、それがプランAである。
このプランを実践しているあいだにも、何かを学び、身につけながら、微調整をしているはずだ。何度もやりなおしをするのである。プランBは、目標や目的、あるいはそこにたどり着くルートが変わった場合に採用するもので、一般にプランAと大枠では同じである。プランAからブランBに切り替えるのは、プランAではうまくいかないとか、今よりもすばらしい機会が見つかった、といった事情によるだろう。
(中略)
ひとたびプランBに切り替えてその路線でいくと決めたら、今度はそれがあなたにとってのプランAとなる。
(中略)
プランZはイザというときの備え、つまり救命ボートのようなものだ。ビジネスでも人生でも、いつも最前戦で活躍しているのが望ましいだろう。もし失敗して路頭に迷うようなら、そんな失敗は受け入れられない。だから、もしキャリアプランがどれも行き詰ったり、人生の方向性を大きく変えたかったりする場合にも、プランが必要なはずだ。それがプランZである。この備えがあれば、プランAやプランBに不透明さやリスクがあっても、受け入れることができるだろう。「スタートアップ!」 第3章 より リード・ホフマン、ベン・カスノーカ:著 日経BP社:刊
つねに自分が、キャリアプラン作りの道のりの最中にいる。
そういう意識を持つ上でも、役に立つアイデアです。
人生、いつ何が起こるか分かりません。
急な方向転換を余儀なくされたとき、慌てないように準備をしておく。
それに越したことは、ありませんね。
短期のリスクは長期の安定性を高める
非常に衝撃的で稀な、予想外の出来事のことを「ブラック・スワン」と呼びます。
「9.11」のNY同時多発テロ、1987年の株価大暴落などがその例です。
予測は不可能で、そもそも起こる可能性も低いのです。
しかし、起こったときの影響力は、凄まじいものがあります。
著者は、波風の少ない環境をブラック・スワンが襲った場合のほうが破壊力は大きい
と指摘します。
「名門紙の編集者」と「フリーのライター」を例にとります。
定期的な収入と仕事をあてにでき、人脈も広げやすい編集者。
一方、フリーのライターは収入は、不安定で、つねに仕事を仕事が完全に無くなるリスクを背負います。
しかし、雑誌業界が崩壊するなどの、予想もつかない事態が起こると、立場が逆転します。
編集者は職を失い、そのような窮状を乗り越える力を養ってこなかったので、食い詰める可能性が高いです。
一方、フリーのライターは、もともと七転び八起きを重ねてきたので、何とかやっていける可能性が高いです。
「リスクは避けられる」と思い込んでいると、人生が変わるかもしれないチャンスを逃してしまう。しかも、とてもリスク耐性の弱い生き方を選んでしまい、やがてとんでもない苦難に直面するだろう。それだけではない。変曲点のような仕事人生を脅かす出来事がいつ起きるかは、決して完璧には見通せない。逆境を跳ね返す力があれば、難題が降って湧いたらどうなるかをあまり気にせずに、大きなチャンスに賭けることができるだろう。自分のスタートアップを成功に導くには、長い目で見た場合のリスクへの対処法として、逆境への強さを身につけるしかないのだ。
肝に銘じてほしい。もしリスクに気づかずにいたら、リスクの方があなたを探し当てるだろう。「スタートアップ!」 第6章 より リード・ホフマン、ベン・カスノーカ:著 日経BP社:刊
「3.11」の大震災は、間違いなく「ブラック・スワン」です。
誰も、短期のリスクを取らずに、安易な方向に逃げることの危険性を実感したことでしょう。
「短期のリスクが長期のリスクを小さくする」
肝に銘じたい言葉ですね。
「スタートアップ」精神を持ち続けよう!
著者は、最後に以下のようにまとめています。
わたしたちは生まれながらの起業家である。
しかし、だからといって起業家のような人生を約束されたわけではない。本能や直感は育てなくてはならない。潜在力は開花させなくてはいけない。どんな仕事をするにせよ、人生の方向性を自分で決め、起業家的な技能を活かすことはできる。問題は意欲があるかどうかである。今の世の中はその意欲が求められる。
(中略)
「自分のスタートアップ」というときの「自分」は、「自分たち」という意味を併せ持つことを覚えておいてほしい。この本では、新しい現実に順応するための個人向けの戦略をいくつも紹介してきたが、人脈を大切にするとその効果が倍増するのだ。人脈力をテコにすれば、生き残りと繁栄が可能になる。「スタートアップ!」 おわりに より リード・ホフマン、ベン・カスノーカ:著 日経BP社:刊
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「こうしたい」という自らの意欲。
助けてくれる仲間たちの存在。
結局、最後は、この2つがものをいいます。
今の時代は、「変われないこと」が、最大のリスクです。
つまり、「変われること」が、最大のリスクヘッジになるということです。
そういう意味でも、「スタートアップ!」の精神は、つねに持ち続けていたいですね。
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