【書評】『幸せな挑戦』(中村憲剛)
お薦めの本の紹介です。
中村憲剛さんの『幸せな挑戦 今日の一歩、明日の「世界」』です。
中村憲剛(なかむら・けんご)さんは、プロサッカー選手です。
2013年4月現在、Jリーグの川崎フロンターレに所属しています。
06年から5年連続でJリーグベストイレブンに選ばれるなど、日本サッカー界を代表する選手のお一人です。
「挑戦を続けられること」それだけで幸せ
自らを“非エリート選手”だと認める中村さん。
「挑戦を続けていくこと。挑戦を続けられること。それだけでも幸せなんだ」と強調します。
高校二年生まで、クラスでいちばん小さく、足の速さも真ん中より下のまま。
相手チームの選手と体がぶつかれば、はじき飛ばされてしまいます。
しかし、中村さんは、それでもサッカーをやめませんでした。
さまざまな挫折をバネに、プロ選手になり、日本代表にまで上り詰めます。
なにも特別でない自分が、日本代表に入れた理由。
それは、“自分が好きで、自分を信じていたこと”だと述べています。
本書は、“これからの自分”に期待し、努力を重ね続ける中村さんの人生論をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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続けるための「二本柱」
W杯など数々の大舞台を経験してきた中村さん。
重要な場面で結果を左右するのは、ディティールの積み重ねである
と指摘します。
その日一日の行動、それまでの一週間の過ごし方が大事であるということ。
具体的には、つねに「二つの気持ち」を軸にしてサッカーを続けてきた
とのことです。
ひとつはやはり、自分に期待しているということ。
自分に期待しているからこそ、こんなふうになりたいという理想を描き、そこに近づくための努力を惜しまなかった。
そこにおけるイメージのつくり方は、人によってもずいぶんと違ってくるはずだ。「こんなドリブルができるようになりたい」「こんなパスができるようになりたい」などと自分の中で具体的に課題をつくっていくのもいいはずだ。
(中略)
そして長いスパンにおけるもうひとつの軸は「人に負けたくない」という想いが強かったということだ。
負けず嫌いだからこそ、人よりうまくなりたいと頑張れる。
負けたくないといっても、そこで特定の選手をライバルとして設定したりはしない。
(中略)
サッカーでは、監督によって戦術も変わってくるし好みも異なる。仮に監督が替わったことによってレギュラーではなくなったとしても、新たにそのポジションに入った選手をライバルだと思わない。もちろん、ある程度の競争意識は持つけれど、その選手に比べて、自分がうまいか下手かということばかり考えていても仕方がない。どんな監督に対しても「ケンゴを使いたい」と思わせることができなかった時点で、自分が悪かったというだけだからだ。
だとすれば、ポジションを取られた相手の選手を抜こうと考えるのではなく、自分がもっと成長すればいいだけだ。
負けず嫌いの意地は、そういうふうに発揮していけばいい。『幸福な挑戦』 第1章 より 中村憲剛:著 角川書店:刊
いくら好きで入ったとはいえ、プロの世界は厳しいものです。
「自分を高めていこう」という気持ちを保つのは、容易ではないはず。
中村さんは、自分の内部から湧き上がってくるもの以外に、外部の環境もうまく利用しています。
そして、最終的に、自分の成長やモチベーションにつなげます。
上司が替わっても、変わらずに活躍できる人には、それなりの理由があります。
好きなサッカーを続けるために
中村さんは、今でこそ「司令塔」として、敵の急所を突くパスを武器に活躍しています。
しかし、サッカーを始めた当初は、マラドーナに憧れていたドリブラーでした。
プレースタイルが大きく変わったのは、中学生のときです。
なぜ、パサーになろうと考えたのか。それ以外に選択肢がなかったからだ。
そのときでも僕は、まだまだからだが小さいほうだった。小さくて足が遅い僕が、小学生の頃のようにドリブルで相手を抜こうとしても通用しない。
「それでも試合に出るためにはどうすればいいのか?」「試合で活躍するためにはどうすればいいのか?」「好きなサッカーを続けるためにはどうすればいいのか?」
そう考えたときに自分のスタイルを変えなければならないという答えが出てきた。
そうせざるを得なかったということだ。
ドリブルするにも誰もいないところでボールを受けられればいいけれど、足が遅ければすぐに相手に寄せられるし、体を当てられれば、はじき飛ばされてしまう。だとすれば、当たられる前にパスを出そう――。
自分でも、よくそういう方向転換をする決断ができたと思うが、それができていたから、いまの自分があるのは間違いない。
(中略)
もし、背が小さかった中学時代もドリブラーでいることにこだわっていたなら、通用せずにしぼんでいっただろうし、そこからの成長もなかったはずだ。
パサーになろうと決めたあとにも、「小さいなら小さいなりにどうすればいいか」を考えながら練習や試合をしていた。それが現在につながっているのは間違いない。『幸福な挑戦』 第2章 より 中村憲剛:著 角川書店:刊
「好きなサッカーを続けるためにはどうすればいいか?」
パサーへの転向は、それを必死に考え続けた上での決断です。
いつまでもドリブルに固執(こしゅう)していたら、今の中村さんの活躍はありませんでした。
「からだの小ささ」と「足の遅さ」。
サッカー選手として大きなハンデを背負いながらも、自分自身の可能性を信じ続けた前向きな姿勢が、新たな可能性を引き出しました。
見習いたいところです。
すべての過去に納得している
中村さんは、自らの半生を振り返って、ある程度、運に左右されることはあるかもしれないが、自分の人生がどうなっていくのかは自分次第だ
と述べています。
思うようにいかないときに、「ついていない」と言って、そのひと言に理由を集約させようとする人も少なくないのだろう。さまざまなことを環境や組織のせいだと考える人もいるのだと思う。
人それぞれ、いろんな事情や都合があるのはもちろんわかる。だけど、そうして自分以外のところにうまくいかない理由を見つけている人たちの話を聞いていると、寂しい気持ちになってくる。
それまでにたどってきた道の責任は自分がとるしかないし、変えたいことがあったとしたなら、自分で変える努力をするしかない。不満を口にしていても何も変わらないし、こうしたいと思うことがあるときに、行動に移せるかどうかは自分次第だ。
人生がどうなるかということは結局、さまざまな分岐点で自分自身が何をしてきたかということで決まっていくのだと思う。
いま振り返ってみても、ここまでに僕がたどってきた道のりは、驚きに満ちている。自分で自分に期待していたけれど、実際にここまで来られるとは想像していなかった。
これまでの人生の中には「ここからやり直したい」といったポイントはどこにも見当たらない。
過去に満足はしていなくても、すべての過去に納得している。
少しずつ少しずつ、前へと進みながら、「感謝、感動、感激」を積み重ねてきた。
だからこそ“中村憲剛の現在(いま)”がある。それがなかったとしたなら現在はない。『幸福な挑戦』 第3章 より 中村憲剛:著 角川書店:刊
どんなときも、自分自身で考えて決断する。
そして、自分自身への期待を捨てることなく努力してきた中村さん。
自分の人生は、自分以外の誰のものでもありません。
「過去に満足はしていなくても、すべての過去に納得している」
そう言い切れるくらい、自分自身に責任を持てる人生を送りたいですね。
「入ってから」は自分次第のプロの世界
中村さんは、最近の若手選手は精神的に弱い印象を受けることが多い
と述べています。
とくにエリート街道を歩んでプロになった選手は、強く怒られた経験も少なく、打たれ弱いのかもしれない
と指摘します。
Jリーグに入ってくる選手の中には、それまではずっと「お山の大将」でいられたエリートが多い。とくに高校を卒業してすぐに加入した選手にはその傾向が強いように感じる。
子供の頃からずっとチームのエースとしてやってこられていたので、当たり前のようにプロの門を叩けたわけだ。そのため、そこでガツンとやられると、すぐにへこんでしまう。
挫折など、いくらでも経験すればいい。
僕のようにぎりぎりでプロになれた選手から言わせてもらえば、プロは「入ってから」より「入るまで」のほうが、はるかに難しい。
プロを目指してサッカーをやっていても、プロになれないことのほうが普通というか、ほとんどであるのが現実だ。
プロになれた人間は、そこまでたどり着くことができなかった人たちが数えきれないほどいる事実を忘れてはいけない。プロになることができたなら、あとは本人の頑張りしかない。
チームの中での不遇を他人のせいにばかりしていても仕方がない。
プロで挫けていく選手というのは、努力がたりないか、自分で何かを変えようとしていないのが悪いだけだ。
貪欲に自分を磨き続ける姿勢があったなら、絶対に上へと行けるはずだ。
エリートではない僕という選手の存在もそのことを体現している。『幸福な挑戦』 第4章 より 中村憲剛:著 角川書店:刊
“エリート”と呼ばれる人ほど、怒られた経験が少なく、打たれ弱い。
そんな傾向にあるのは、サッカーに限らず、です。
どの分野でも、その道一本で生きる人は、厳しい生存競争を勝ち残ってきています。
好きなことを続けられる幸せを謙虚に受け止め、自分自身を磨き続けろ。
厳しくも温かい、先輩からのエールですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
中村さんがサッカーを続ける原動力。
それは、「好きなサッカーがもっとうまくなりたい」という、純粋な願いです。
今の自分に満足しない。
「もっとすごいプレーができるのではないか」という自分自身への期待をする。
中村さんは、そうやって常に、いまより上を求めていくのが楽しい
とおっしゃっています。
結果だけではなく、プロセスに楽しみを感じることができる。
そんな人が、途中で燃え尽きることなく、一番遠くまで進むことができる。
その良いお手本ですね。
これからも「幸せな挑戦」を続けるであろう、中村さんのご活躍を願っています。
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