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【書評】『北朝鮮スーパーエリート達から日本人への伝言』(加藤嘉一)

 お勧めの本の紹介です。
 加藤嘉一さんの『北朝鮮スーパーエリート達から日本人への伝言』です。

 加藤嘉一(かとう・よしかず)さんは、コラムニストです。
 高校卒業後、北京大学の国費留学生として中国語や中国の内情や風習などを学ばれています。
 現在は、英フィナンシャルタイムス中国版コラムニストや北京大学の研究員などを務められ、“中国の今”を世界に向けて発信されています。

今、北朝鮮で、何が起こっているのか?

 今回のテーマは、中国と国境を接している、お隣の国、北朝鮮です。

 2011年末、金正日総書記が亡くなり、世界的に注目された北朝鮮。
 依然として、日本などの西側の国々からは、鉄のカーテンで仕切られた不気味な国です。

 北朝鮮の国内は、どのような状況で、何が起こっているのか。
 気になるところです。

 加藤さんは、北京大学在学中に、同じく北朝鮮から来ていた留学生たちと仲良くなります。 
 彼らとの意見交換を行う中、「国境」を自分の目で見ることを勧められます。

 最も仲よくしていた一人、K君の言葉を思い出した。
「加藤、国際関係にとって真相がどこにあるか分かるのが国境だよ」なぜ、そこに国境が存在するのかを考えることだ。民族の数と国境の数が異なる理由を考えることだ。国境は天から降ってきたわけじゃない。主権国家という枠組みに縛られている人間が、往々にして暴力的な手法で、勝手に引いたものに過ぎない。
国境で何が起こっているか、国境に何が見えるか、どういう匂いがするか、どういう人達が行き来していて、そこで何が妨害されているか、それらをしっかり理解すること。すべてはそこから始まる。
そして、君達日本人の本当の姿が、そこからはっきり見えるはずだ・・・・」
一人の北朝鮮スーパーエリートから日本人である筆者への伝言だった。

  「北朝鮮スーパーエリート達から日本人への伝言」 まえがき から 加藤嘉一:著 講談社:刊

 この言葉に後押しされ、筆者は5回に渡り、中国と北朝鮮の国境を訪れます。
 そこで見た「現実」とは、何だったのでしょう?

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中朝間の国境の現状

 今まで、少なく見積もっても30万人以上の朝鮮人が政治的、経済的理由で中国へ「脱北」(北朝鮮から海外へ亡命すること)しています。

 しかし、中朝間を頻繁に往復している商人によると、2005年以降、脱北者の数が急激に減ったとのこと。
 その原因は、中朝関係が緊張して、国境付近のあらゆる移動が厳格に管理されてきたためです。

 中朝間の合法的な貿易や人の往来が減り、逆に「走私(ゾウスー)」(中国語で「密輸」を意味します)は急激に繁殖してきたとのこと。

 中国側は、「北朝鮮は親分である中国に一切の面子(メンツ)をよこさない」と不満が溜まっているようです。
 中国も、北朝鮮のワガママぶりに、相当手を焼いているということでしょう。

 中国と北朝鮮を隔てる国境は、一つの川です。
 距離にして、たった10m程度を巡って、命懸けのやり取りが日常的に行われています。

 加藤さんは、実際にマツタケの密輸現場に立ち会います。
 本書には、その緊迫した様子も描かれています。

 同様に、脱北の現場も目撃していますし、多くの脱北者に話を聞いていて、その内容が本書の大部分を占めています。

 そこから読みとれることは、北朝鮮国内の困窮ぶりです。
 日々の食べ物にも困るような物資の不足、軍隊の腐敗ぶり、政権内の激しい権力争いなどなど、生々しい話が次々と出てきます。
 その中から、いくつか抜き出します。

脱北者ビジネスについて

 北朝鮮の国境では、「脱北者ビジネス」が存在します。
 そして、脱北を支援する、多くの「国境コーディネーター」がいます。

 もちろん、中国でも、北朝鮮でも、非合法です。
 取締は、厳しいです。

 脱北ビジネスで主役となっているのが、意外にも米国です。

 脱北者ビジネスの資金源は、ほとんど米国の教会組織から出ています。
 また、多くの韓国人、中国人、及び韓国系米国人が「国境コーディネーター」として活動しています。

 そして、年間2回くらいのペースで米国本土から教会の関係者が状況をチェックしに、拠点である国境の街・延辺地区に来ているそうです。
 彼らの目的は、何でしょうか。

 アメリカからのキリスト教宣教師の当初の目的は、韓国系ネットワークや延辺地区の朝鮮人エリアを活用し、北朝鮮にキリスト教を広め、中から金正日体制を崩壊させていくというものであろう。
 将来的に朝鮮半島が統一したときのイデオロギー統一も視野に入れていると思われる。
 韓国系アメリカ人が深く絡んでいるのが興味深い。米韓同盟の存在と、近年の韓国におけるキリスト教の急速な普及という二点から見ると、その辺りにミソがありそうだ。推測の域を出ないが、本プロジェクトにはアメリカ当局も絡んでいる。政治的な力学も働いているということだ。

  「北朝鮮スーパーエリート達から日本人への伝言」 第一章 から 加藤嘉一:著 講談社:刊

 脱北を阻止したい、北朝鮮。
 朝鮮民族統合を夢見る、韓国。

 北朝鮮の体制を崩壊させ、核開発の脅威を取り除きたい、米国。
 韓国だけでなく、北朝鮮にも、キリスト教を普及させたい、教会組織。

 米国に対抗して、北朝鮮への影響力を維持したい。
 自らの体制維持のため、宗教が自国に広まることを避けたい。

 そんな理由から、取締を強化する中国。

 当事者たちの思惑が、さまざまに交差する国境。
 そこは、まさに「国際関係の縮図」といえます。

「脱北者ビジネス」は、2009年に米国のジャーナリスト二人が北朝鮮に拘束された事件以降、その数は急激に減りました。
 関係各国の指導者が変わり、今後の展開は、どうなるのでしょうか。

「情報の運び屋」としての商人の存在

 北朝鮮国内には、商人を中心とした10万人以上の華人ネットワークがあります。

 彼らは、中国に帰って来てから、中国の役人と面会し、金銭を受け取る代わりに情報を提供しています。
 いわば「情報の運び屋」として重要な役割を担っています。

 加藤さんは、北朝鮮労働党の幹部とも繋がりのある、有力な商人と直接話す機会を得ます。
 その時の会話の内容の一部は以下の通りです。

 まず、北朝鮮人民は、自分たちの置かれている状況をきちんと把握しているのか、について。

「北朝鮮人民は、金正日体制がいかに落ちぶれて時代遅れなのかを、きちんと理解しています。政府や軍人の前ではいい顔をして、洗脳されたふりをしているだけ。実際は、夜中に隠れてハリウッドや韓国の映画を楽しんでいるんだ。中国から非合法的に流れ込んだハリウッド映画は、一般民衆が外の世界を知る唯一のルートになっているんですよ」

  「北朝鮮スーパーエリート達から日本人への伝言」 第三章 から 加藤嘉一:著 講談社:刊

 次期指導者に就任する、金正恩についてです。

「はは、私の知る限り、ごく普通の若者ですよ。ハリウッドを好み、頻繁にその映画を観ながら、それを娯楽としているようだ。エンターテイメントやスポーツが大好きらしい。そうそう、レオナルド・ディカプリオがお気に入りらしい。ものすごい欧米崇拝者だっていう話も中の人間から聞いたことがあるなぁ。

  「北朝鮮スーパーエリート達から日本人への伝言」 第三章 から 加藤嘉一:著 講談社:刊

 私たち日本人の推測と比べても、“当たらずとも遠からず”という印象ですね。

 この本に書かれている内容がすべて、正しい情報であるかはわかりません。
 しかし、加藤さんが自らの足で現地を訪れ、自ら聞いて、見て、感じて書いた内容です。

 それだけリアリティがあり、説得力のある中身です。

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 今後、日本が進むべき道を考えるうえで、示唆に富んだ内容。
 冒頭の北朝鮮留学生が言っていたように、世界から見た「日本人の本当の姿」も、おぼろ気ながら浮かび上がってきます。

 指導者が替わり、ますます今後の成り行きが注目される、北朝鮮と中国。
 中朝国境を巡る動きを中心に、両国の動きや北朝鮮の内情などがとてもよくまとまっています。

 東アジア情勢に興味ある方には、是非一度お読み頂きたい一冊です。

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