本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『すべては一杯のコーヒーから』(松田公太)

 お薦めの本の紹介です。
 松田公太さんの『すべては一杯のコーヒーから』です。

 松田公太(まつだ・こうた)さんは、起業家、政治家です。
 大学卒業後、大手銀行に就職するも数年後に退行し、「タリーズコーヒージャパン」を立ち上げ、日本でも有数のコーヒーチェーン店まで育て上げられました。
 現在は、国会に戦いの場を移し、奮闘されています。

情熱は、「運」を引き寄せる

 松田さんは、最初に以下のように述べています。

 どんなことをするにも情熱の有無で結果は大きく変わってくる。私は人より特別な才能を持っているとは思っていない。ただ、自分の信じた事に寝食を忘れて打ち込むことはできる。
 情熱は誰でも平等に持つことができる。その点が生まれ持っての資産や容姿、才能とは違う。
 あなたは「あの人は生まれつき恵まれている。自分は平凡だから仕方ない」などと諦めていないだろうか? 確かに、スタートラインでの差はあるかもしれない。しかし、特別な境遇にある人たちよりも強く持って取り組めば、何事にも負けないはずだと私は信じている。
 また、情熱は不思議と「運」をも引き寄せ、不可能だと思っていたことを可能にしてしまう力も持っている。

 「すべては一杯のコーヒーから」 プロローグ より  松田公太:著  新潮社:刊

 本書は、松田さんが起業に成功するまでの半生を、回顧禄としてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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すべては「一杯のコーヒー」から

 宮城県で生まれた松田さんは、5歳の時にお父さんの仕事の都合で、アフリカのセネガルへ移住します。
 小学校の高学年までそこで過ごした後日本に帰国するも、またすぐに海外へ移住、10代の8年間を米国のマサチューセッツ州で過ごします。

 小さい頃に、いろいろな海外経験を得られた。
 そのことは、松田さんにとって、とても大きなことでした。

 とくに「食」に関する文化の違いは強烈で、食文化が国際交流に果たす役割は極めて大きいと感じました。

 だが、大学を出て銀行に就職してからも、「食に関わる分野で起業したい」という気持ちは持ち続けていた。「日本の食文化を海外に広め、外国人が持つ日本食への先入観を変えること」、また逆に「外国の食文化を日本に紹介すること」を自分でやってみたいと思ったからだ。
(中略)
 大それて聞こえるかもしれないが、日本食の伝道師となって日本をもっと理解してもらいたい、また、海外の食べ物を日本に広めることでその国との交流を促したい。そして、いつしかそれが自分の「使命」ではないか、と考えるようになっていたのである。

 「すべては一杯のコーヒーから」 第2章 より  松田公太:著  新潮社:刊

 松田さんが、コーヒーと関わるきっかけ。
 それは、友人の結婚式への出席でボストンを訪れたとき、一杯のコーヒーに出会ったことです。

「スペシャルティコーヒー」という、高品質の豆にこだわった高級コーヒーでした。
 松田さんは、一口で、そのコーヒーの虜となります。

 帰国後も、その味が忘れられずに、再び渡米。
 スペシャルティコーヒーの発祥の地、シアトルでコーヒーショップを渡り歩き、飲み比べをします。

 そこで「タリーズ」と運命的な出会いをします。

 タリーズとの運命的な出会いは、シアトルでの1日目、飲み歩きを始めてちょうど10店目のことだった。最初にドリップコーヒーの「コーヒー・オブ・ザ・デイ」(本日のコーヒー)を飲んで、「何てうまいんだ!」と感じたのが第一印象だった。衝撃的といえる味である。
(中略)
 他のコーヒーに比べて最も雑味がなくコクがあり、しかも渋みの中に不思議と甘みすら覚えた。それまで飲んだなかで、香り、味とともに最高だ。その考えは、結局、50店を回り終えるまで変わらなかった。

 「すべては一杯のコーヒーから」 第1章 より  松田公太:著  新潮社:刊

 本編の大部分は、松田さんが銀行を退行して、一から起業を進めていく上での苦労話が中心となっています。

 出資金のかき集め。
 タリーズ本社との交渉。
 出店の際の役所との折衝。

 さまざまな難題が降りかかってきます。
 しかし、松田さんはそれら正面から向き合い、1つ1つ解決します。

勇気を持って、一歩踏み出すこと

 松田さんも、会社を辞め、多額の借金の信用書に印鑑を押す時には、かなり勇気が必要でした。

 新しいことを始めるときには、誰だって不安がつきまとう。特にそれが独立であったり、転職であったり、自分の人生を大きく変えてしまうものであればなおさらだ。
 また、自分が正しいと思った道でも、様々な難関が押し寄せてくれば弱気になるのは、人間であれば当たり前だろう。
 しかし、人生は一度きり。
 やらずに後悔するより、やれるところまでやって失敗を受け入れる方が納得できるのではないか。
 1号店をつくるために生まれて初めて7千万もの大金を借りた。私は信用書に印鑑を押す前に、自宅近くのコンビニエンスストアを回った。そしてアルバイトの募集状況と時給を調べ、1日15時間働けば、30年程度で借金の返済ができることを確認した。
 別に失敗したからといって、命まで取られるわけではない。
 後は自分の力を信じて、挑戦し、最後まで諦めないことだ。

 「すべては一杯のコーヒーから」 第4章の冒頭 より 松田公太:著  新潮社:刊

 人には必ず、大きな決断を迫られる時がきます。
 そのとき、不安を乗り越えて、自分自身が進みたい方向に思い切って飛び込めるか。

 それが大きな分岐点となります。

「決断の時」が、いつ来るのか。
 それは、本人も分かりません。

 松田さんも、一杯のコーヒーに出会うまで、自分がコーヒー会社を作るとは、夢にも思っていなかったでしょう。

「周りの意見に左右されず、自分自身で判断する」

 日頃から、その癖を付けておかないといけませんね。

情熱を持って、人に接すること

 能力のある人と情熱がある人、どちらを採用するかと問われれば、私は迷わず「情熱がある人」と答える。他の業界はどうか知らないが、タリーズのような飲食業では、情熱さえ持ち合わせていれば、人は必ず成長できると信じている。
 飲食業では、商品と同じくらいにコミュニケーション能力が重要だと思う。言い換えれば、どんなに能力が高くても、人が好きでなければ務まらない仕事なのだ。私は常々、店舗のフェロー(社長以下、タリーズで働く全て人を指す言葉)に向かって「同僚もお客様も全員好きになろう」と言っている。もちろん、誰しも周囲の人すべてを好きになるのは難しい。しかし、まずはそういう気持ちで人と接していれば、何かが変わる信じている。

 「すべては一杯のコーヒーから」 第5章 より  松田公太:著  新潮社:刊

 コミュニケーション能力が必要なのは、飲食業に限ったことではありません。

 業務が専門化され、複雑になった今の時代。
 1人の力だけで仕事をするという機会は、めったにありません。

 何にしても、上手くなるには「上手くなりたい」という気持ちが、まず必要です。
 その気持ちを継続させるには、情熱は欠かせません。

夢を持ち、目標を明確化すること

 最後に、松田さんは、自分を見失わずに、起業を成功させる秘訣を、以下のように述べています。

 上場企業の社長や創業者だからといって強い人間だとは限らない。たまたま時流に乗って会社を上場させたが、その時に得た資金や高い株価をもとに理念のない買収だけを繰り返しているような経営者もいる。対外的には「会社のため、社員のため」などと言いながら、その実、持株を高くつり上げ、自分の資産を増やすことしか頭にない経営者すらいる。
(中略)
 私自身、自分の弱さは十分に自覚しているつもりだ。だからこそ、安易な快楽や贅沢に流されてしまうことが、怖いのである。それでは、事業に成功してお金を手に入れたとしても、自分を見失わない強い人間になるにはどうしたらよいだろうか。
(中略)
 それは、夢を持ち、目標を明確にすることである。そして、個人として持っている夢や目的にシンクロしている会社で働くことが、人間としての成長に繋がる。社長でも社員でもアルバイトでも、そのことには変わりがない。

 「すべては一杯のコーヒーから」 エピローグ より  松田公太:著  新潮社:刊

 松田さんのように、大きな「夢」や「ビジョン」を持ち続け、リスクを取って本気で実行できる人は、今の日本では、希有な存在です。

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『「強い意志」や「情熱」さえ持ち続ければ、何でもできる』

 そんな信念を、自ら証明してみせた松田さん。
 後に続く人の大きな励みになりますね。

 これから、日本にも松田さんのように、勇気をもってリスクを取れる起業家が多く誕生することを願っています。

 それには、個人の努力と共に、規制緩和やセーフティネット構築など、より起業しやすい環境作りも欠かせません。

 松田さん自ら国会議員となられた大きな理由も、この辺りにあるのではないでしょうか。
 閉塞感が漂う日本社会に、大きな風穴を空けてほしいですね。

 松田さんの、これからのご活躍を願っています。

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