本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『脳と心の整理術』(茂木健一郎)

 お薦めの本の紹介です。 
 茂木健一郎先生の「脳と心の整理術」です。

 茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)先生は、脳科学者です。
 ご自身のご専門に留まらず、幅広い分野で活躍されています。

頭を整理するコツは、「忘れるスキル」を身につけること

 イライラやストレスの元となっている、ネガティブな考え。
 どうしたら、それらをすっきり片付けることができるのか、に焦点を当てています。

 頭を整理するためのコツ。
 それは、「忘れるスキルを身につけること」です。

 しかし何かを記憶させておくだけならば、人間の脳でなくてもできます。現にコンピューターにデータを蓄積しておくことは現代なら簡単にできます。分からないことがあればインターネットで検索すれば、すぐにたくさんの情報にアクセスできます。
 時代は20年前とは明らかに変わりました。インターネットが出てくる前と、出てきた後で、人間の脳に求められるスキルも変化してきたのです。
 むしろ現代の世の中は、忘れるスキルこそ必要になってきているのではないでしょうか。人生が上手くいかないことの多くは、過去を忘れないことにも原因があります。
 いろいろな物事を覚えていることが、覚えすぎていることが、幸せに生きることや人生を切り開くことの邪魔になっている場合もあるのです。

  「脳と心の整理術」  はじめに より  茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

 記憶力は、これだけIT技術が発達した時代には、あまり必要ありません。

 それよりも、必要のない記憶を整理して、頭と心をすっきり空っぽにしておく。
 その方が、いろいろなことを新しく吸収出来ますし、健康にも良いです。

 では、嫌な記憶は、どのように整理して、忘れたらいいのでしょうか?

 茂木先生は、記憶という機能を以下のように説明します。

 大脳にある側頭連合野に一度蓄えられ、それが前頭前野に伝えられることで引き出されることが、「思い出す」ということ。

 反対に、その回路が使われないということ、言いかえれば「思い出さない」ということが「忘れる」ということ。

「一度、側頭連合野に蓄えられた記憶は、実は永久に脳から消えることはない」

 と言われています。

「忘れる」ということは、頭の中から記憶が完全に消える、ということではありません。
 その記憶と意識を繋ぐ回路が、使われなくなるということです。

 茂木先生は、この脳の働きを上手く使うことによって、意図的に、嫌な記憶を「忘れる」ことが可能だと述べています。
 具体的には、「ネガティブな回路の隣にポジティブな回路を作ってあげること」です。 

 ネガティブな経験をすると、脳の中ではマイナス思考の道路がつくられます。そして事あるごとに、感情という名の車がそのネガティブな思い出の道路を通ることになります。しかしそれを繰り返し続けると、そのうちマイナス思考の道路はいつもネガティブな感情による渋滞で前に進まなくなります。そこでその道路の脇に、もう一本別のポジティブな道路をつくってあげるのです。そしてたまには渋滞してばっかりのネガティブ道路ではなく、空いているポジティブ道路をドライブするのです。そこで楽しいことや、幸福な思い出を味わうことで快適なドライブができたのならば、今度から新しく入ってくる感情という名の車をそちらに誘導してしまえばいいのです。そうすれば、マイナス思考の道路は取り壊されることはなくとも、ほとんど使わないで済ませることができます。

  「脳と心の整理術」  第2章 より  茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

 そのための具体的な方法に、「フォーカシング」があります。

 フォーカシングとは、ネガティブな感情の元となっている「過去の嫌な記憶」を敢えて探し出し、その感情と関係付けることです。

 フォーカシングは、脳のメンテナンスのようなものです。生活の中で何となく気になっていることは、たいてい過去の記憶と繋がっています。だから何か気になることがあったら、それと似たような感情を持った経験が過去になかったかを探っていくのです。
「過去のこの記憶と繋げたら、物事が整理できるな」、そう思えたら、フォーカシングは成功です。こんがらがった糸がほどけ、リラックスした状態になれるのです。
(中略)
 フォーカシングは、それら答えのない問いを整理して、散らかってしまっている脳の中をスリムでしなやかなものに変えてくれるのです。脳の中の引っかかりが整理できていない人は、自分でもどのような感情が脳の記憶の中に隠れているのか分からないので、ときとしてその散らかった状態のものを他人にぶつけてしまうことがあります。
(中略)
 自分の心のメンテナンスをすることで、他人との関係性においても柔軟な態度や気遣いをすることができる。それがフォーカシングの効力なのです。

  「脳と心の整理術」  第2章 より  茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

 自分の中で、嫌な感情が何なのかが納得できれば、それ以上気にすることはなくなります。

 気にしないということは、嫌な感情と、その元となった記憶を繋ぐ回路を使わなくなるということです。
 すなわち、それが「忘れる」ということです。

 思い出したくない記憶に、あえて焦点を当てること(フォーカシングすること)。
 それが、逆に忘れることに繋がるということです。

 茂木先生は、「脳と心の整理の達人」として、芸術家の岡本太郎やアップルコンピュータの創業者スティーブ・ジョブズを挙げています。

 彼らは、また、年齢を重ねるごとに魅力的になっていった人物です。

 彼らに共通するのは、豊富な経験を持ちつつも、過去のいやな記憶を忘れることができた人だという点です。過去を消し去ったわけではありません。過去は過去として持ちつつも、その失敗にとらわれることなく、新たな人生を歩み出せた人たちなのです。僕は彼らのような人を、スーパーチャイルドと呼んでいます。
 子供は純粋で好奇心旺盛ですが、経験が足りません。スーパーチャイルドは、経験を豊富に持ち、知識や様々な方面へのコネクションを持ちながら、子供のような純粋さと好奇心をも併せて保ち続けている大人なのです。
 子どもの心を持ちつつも経験豊かであるスーパーチャイルドは、魅力的でいろいろな人を惹きつけ、また、我々を未来の世界へと導いてくれる存在です。彼らは子どもの心を失わないがために、常に未来を夢に見、不可能なことをいつのまにか可能にしてしまう行動力と純粋な希望を持っているのです。

  「脳と心の整理術」  第5章 より  茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

 年齢を重ねて、魅力を増していく人。
 彼ら、彼女らは、みな、過去の過ちや失敗を、自分なりに消化しています。
 さらに、それらを経験として蓄積し、嫌な感情の方は忘れています。

 要は、その方法・スキルを身に付けているか、付けていないか、です。

 色々な夢を諦めて、自分自身に希望を持てなくなる。
 それは、過去の経験に基づく、ネガティブな感情が邪魔をしているだけです。

「何かやりたい」

 そう思った時に、無意識のうちに過去の同じような場面での失敗を持ち出してしまう。

 そうすると、

「どうせ今回もダメだろう・・・」

 という回路が働きます。

 年を重ねるにつれて、ネガティブな回路は強化されます。
 それさえなければ、過去の苦い経験は、私たちの貴重な「宝物」です。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 過去に囚われて立ち止まるか。
 それとも、囚われないで前に進むか。

 それが重要です。

『過去のしがらみを取り除けば、誰でも彼らのような魅力的な人間になれる』

 茂木先生も、もちろん『スーパーチャイルド』の一人です。
 これからのご活躍が、ますます楽しみです。

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