本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『官僚の責任』(古賀茂明)

 お薦めの本の紹介です。
 古賀茂明さんの『官僚の責任』です。

 古賀茂明(こが・しげあき)さんは、元通産省(現・経産省)の官僚で、評論家です。

日本の官僚システムは、何がいけないのか?

 天下り、縦割り行政などの、日本の官僚システム。

 それらの問題点に関しては、以前より多くの方が指摘されています。
 しかし、政府の対応は鈍く、ほとんど手付かずのままとなっています。

 それらの問題点が一気に表面化したのが、「3.11」の大震災でした。

 原発事故対応のみならず、被災地への対応、外国メディアへの対応などで、

「省庁によって、言うことが違う」
「省庁同士の連携がまったくない」

 などの批判が多く寄せられました。
 
 古賀さんは、以下のように述べています。

 そこで本書では、「優秀であるはずの官僚がなぜ堕落していくのか」「何が彼らを省益に走らせるのか」といった官僚の行動心理を、具体例をもとにできるかぎり平明に解説しながら、外部からはうかがいにくい霞ヶ関の実像を紹介することに主眼を置いた。
 そうすることで読者の方々にも「官僚の責任とは何か」という漠然とした、しかし、本質的な疑問をもう一度考えていただくとともに、官僚に責任をまっとうさせるための国家公務員制度改革の必要性とその具体策をあらためて広く問いかけたいと考えている。

  「官僚の責任」 はじめに より  古賀茂明:著  PHP研究所:刊

 人の問題というより、組織の問題です。
 やはり、どんなに優秀な人間でも、知らないうちに、所属する組織に馴染んでしまうものです。

 環境は、本当に大事です。
 腐ったみかんの入った箱に入れたみかんは、腐ってしまいます。

 古賀さんは、実際に官僚組織の中で働いていました。
 その中身は、説得力はあるし、かなりリアルです。

 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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経産省と東電の癒着は、なぜ起こった?

 最近話題に上がる、経産省と東電との“癒着”についてです。 

 何より、経産省にとって東電は最高の天下り先の一つである。
(中略)
 大概は立派な部屋に美人秘書、それに大きな黒塗りの専用車と豊富な交際費があてがわれている。
 これらの待遇は経産省とリエゾン、すなわち仲介役を務めることを期待されてのことかと思いきや、そういった 役回りの人間はほかにたくさんいて、経産省に日参している。したがって天下った官僚には―いちおう担当はあるが―実質的にはほとんど仕事はなく、東電側も真剣に働いてもらおうなどとは思っていない。
 要は人質なのである。
 東電ではないが、ある電力会社に天下りした私の先輩言っていた。
「『どんな仕事をしているのですか?』と訊かれるのがいちばん困るんだよ」
 東電も内情は同じ。したがって、経産省は東電の意向には逆らいにくい。今回のようにトラブルを起こした時であっても、「そんなことではダメだ」と厳しく指導できるかといえば、はなはだ心もとないと言わざるをえないのが現実なのだ。

  「官僚の責任」 第1章 より  古賀茂明:著  PHP研究所:刊

 民間に天下って、多額の給料をもらっておきながら、何も仕事をしない「人質」とは。
 耳を疑いたくなりますね。

官僚の評価システムについて

 官僚の評価システムについてです。 

 政策の成果は評価しない代わりに、それ以前の「法律をつくった」という事実で評価してしまう。しかもじつは、そちらのほうが官僚の利益拡大のためには重要なのだ。
 その段階で「目に見える官僚のための成果」を出すにはどうすればいいか。いちばん手っ取り早いのが、役所の利益権限をどれだけ拡大したかということになってしまう。
 だから、法律をつくると同時に予算を取り、関連団体をつくる。そうすることで「私は天下りポストを一つつくりました」、あるいは「数百億もの予算を取ってきて、民間に配分する権限をこれだけ拡大しました」と成果を公言できる。役人にとっては、これが民間企業における営業成績になるわけだ。言うなれば、利権が官僚にとっての「売り上げ」なのである。
(中略)
 すなわち、権限と予算とポスト。
 この三点セットをつけることを自動的に考えるように思考回路が形成されているのだ。

  「官僚の責任」 第3章 より  古賀茂明:著  PHP研究所:刊

 省庁内の人事は、2年か3年ほどで入れ替わっていきます(それも、責任の所在を明確にさせないための工夫です)。
 そのために、このような評価システムとなりました。

 どう考えても、「ムダを作った人が優秀」というようにしか受取れませんね。

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 この本を読むと、彼らは国民の利益のために仕事をしている訳ではなく、省の利益のために働いているのがよく分かります。

 こうした実態を述べたうえで、古賀さんは以下のようにおっしゃっています。

 では、政治家たちを動かすのは何か。
 国民の強い意志―やはり、これしかない。
 今回の震災で、日本人の我慢強さ、団結力、助け合いの精神などが世界じゅうから驚きの目で見られ、賞賛された。
(中略)
 政治家も官僚も、日本人のそういった国民性に大いに甘えてきたのだと私は思う。彼らは、自分たちの地位や身分が脅かされるとはいっさい思っていない。だから、あれだけ好き勝手なことができるのだ。なにしろ、今回の大震災を「絶好のチャンス」と考えている者すらいるほどなのである。
(中略)
 誤解を恐れずに言いたい。今回の東日本大震災は、よりよい明日の日本を築くための契機となりうる。いや、なにがなんでも絶対にそうしなければいけない。
 もう一度われわれの足下を見つめなおし、いったい、どうしてこんなことになってしまったのか、官僚や政治家だけでなく、全国民が、原発事故の真の原因はもちろんのこと、その対応も含めて徹底的に検討し、どこが間違っていたのか、何が足りなかったのか、素直に反省し、改革のための糧としなければならない。
 日本にはポテンシャルがある。決してやる気がないわけでもない。あとは、それを行動に移すだけなのだ。

  「官僚の責任」 おわりに より  古賀茂明:著  PHP研究所:刊

 古賀さんは、役人やシステム自体を批判はしています。
 しかし、決して憎んでいるわけではありません。

 厳しい指摘の裏には、彼らへの愛情がこもっているのがわかります。

 各省庁で働く方々自身も、何がどう間違っていて、どうしたら改善されるべきなのかが、わからないのでしょう。

 変えるには、外からの圧力が必要です。
 だからこそ、国民が声を上げなければいけません。

 何ごともまずは、実態を知ることからですね。

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