【書評】『政府は必ず嘘をつく』(堤未果)
お薦めの本の紹介です。
堤未果さんの『政府は必ず嘘をつく アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること』です。
堤未果(つつみ・みか)さん(@TsutsumiMika)は、米国を中心に活躍されている国際派ジャーナリストです。
米国野村證券に勤務中、「9.11」の同時多発テロに遭遇し、以後、ジャーナリストとして各種メディアで発言・執筆・講演活動を続けられています。
「ウォール街デモ」が意味するもの
2011年末に米国内で起こった、ウォール街デモ(OWS)。
「ウォール街を占拠しよう」を合言葉に、全米に広がりました。
このデモの背景には、米国を支配する「狂った仕組み」への反発があります。
狂った仕組みとは、想像を絶する資金力をつけた経済界が政治と癒着する〈コーポラティズム(協調主義)〉
のことを指します。
米国では、上位1%の人間が、国全体の富の8割を独占しています。
このあまりに行き過ぎた格差社会が急速に進むきっかけとなったのが、OWSの10年前にニューヨークで起きた「9.11テロ」でした。
政府とグローバル企業に操られたメディアが一体となって情報を巧みに操作し、大幅な規制緩和とあらゆる分野の市場化を推し進めました。
その結果、この10年で米国内の貧困層は3倍にも拡大しています。
日本でも「3.11」以降、コーポラティズムが進み、米国と同様の問題を引き起こしています。
例えば、官僚、東電、マスコミ、学者などから構成されている〈原子力村〉の存在。
堤さんは、原発事故直後からメルトダウンなどの重要な情報を隠ぺいし矮小(きょうしょう)化し、国民を欺き続けている
と厳しく追及します。
政府が国民の目を欺くために情報統制を厳しくし、メディアもそれに加担する。
堤さんは、このままでは日本もこのまま米国と同じ道を進むことになる
と警鐘を鳴らします。
本書は、9.11以降、米国がたどった〈失われた10年〉を振り返り、3.11以降、日本が前に進むヒントを探るための一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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〈風評被害防止〉の名の下、政府がネットを監視する
米国では、「9.11」の直後、米国内のすみずみまで監視する許可を当局に与えた〈愛国者法〉が議会をスピード通過しました。
この法律は、政府に求められたネット・プロバイダーは、利用者の個人情報を全て提供することを義務付けるもの。
もともと時限立法だったこの〈愛国者法〉は、オバマ大統領によって恒久化されています。
堤さんは、日本でも「3.11」の後、同じような動きが起こっていると警鐘を鳴らします。
さらに、2011年6月24日。経済産業省傘下の資源エネルギー庁が、ホームページに「平成23年度原子力安全規制情報広聴・広報事業(不正確情報対応)という名で、以下のような通達を載せている。
「ツイッター、ブログなどインターネット上に掲載される原子力等に関する不正確な情報または不適切な情報を常時モニタリングし、それに対して速やかに正確な情報を提供、又は正確な情報へ導くことで、原子力発電所の事故等に対する風評被害を防止する」
モニタリング実務を行うのは、7月半ばに行われた入札で、2012年3月までの契約を約7000万円で落札した大手広告代理店アサツーディ・ケイだ。
モニタリングは通常、24時間・365日体制で行われる。事前にNGワードが設定された自動投稿監視ロボットが、ネットの中をすみずみまで巡回。NGワードに引っかかる投稿だけが、監視業務を行う会社の画面に上がってきたところで有害情報と見なされ、発注元に報告される。
原発政策を推進する国の政策に不利になるような情報や〈メルトダウン〉〈ECRR〉などの単語は、すぐに通報される可能性が高い。
7月27日の衆議院厚生労働委員会で、福島で放射能の除染活動を続ける東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授が、猛烈に政府の被災地対応を批判する動画が話題になった。視聴数でランキングトップだったこの動画は、翌日、ユー・チューブのサイトから削除されている。
「監視態勢強化」は、市場にとって大きなビジネスチャンスになる。
9.11をきっかけにした〈愛国者法〉導入と共に、アメリカ政府が民間委託したネット監視や逮捕者の拘禁などは、関し分野における10兆円規模の新産業として花開いた。この10年で政府によって閉鎖されたサイトの数は累計10万を超え、“思想犯”のレッテルを張られた国民には、いまだに正式な裁判すら適用されていない。『政府は必ず嘘をつく』 第1章 より 堤未果:著 角川書店:刊
たしかに「風評被害を防止する」というと聞こえはいいですね。
その裏側に、国民にとって重要な情報も、自分たちにとって都合の悪い事実は隠ぺいしよう。
そういう政府の意図が見え隠れします。
大資本のマーケティング戦略に組み込まれた「米大統領選」
「自由の国」米国を代表するイベントともいえる米大統領選。
ここでもマスコミを支配するグローバル企業の「カネの力」が猛威を振るいます。
世界市場拡大を目指すグローバル企業にとって、マスコミと政府を押さえることは常識だ。形としての二大政党は、民主主義の基本である〈選択の自由〉がまだ機能していると国民に思わせる効果もある。かくして、大資本からの政治献金は両党に均等に配られ、選挙における〈政府〉はもはや重要ではなくなっていたのだった。
選挙キャンペーンが始まるたびに、大資本傘下のマスコミは一斉に対立軸を強調する報道を流す。
二大政党が土台から崩れたことに、多くの有権者がいまだに気づかないのだ。
「2008年のオバマ選挙を支援した若者たちが今、ウォール街の抗議デモに参加しながらオバマに怒りの声を上げている。なぜだと思いますか?」
そう言うのは、自身もオバマ選挙オーガナイザーの一人だったエレイン・クラルだ。
「今ではすっかり、大資本のマーケティング戦略と化した〈二大政党〉という幻想を信じこんだからです。オバマ選挙で〈政権交代すれば解決する〉と私たちは無邪気に期待した。それが、アメリカ一の広告代理店選挙戦略だとも知らずにね。3・11以降、日本の原発安全神話を支えてきた存在が明らかになってきた? あれと同じです」
「原発を推進してきた自民党」と「原発事故が起きた時に隠ぺいする民主党」の根っこは同じだった。官僚と企業の癒着が安全神話をまき続け、マスコミや学者も支配下においていた〈原子力村〉の存在は、3・11以降、海外メディアにも大きく取り上げられている。
コーポラティズム支配が進むほどに、選挙もまた消費活動のひとつとしてマーケティング戦略に組み込まれていく。わかりやすいスローガンとドラマチックな演出、高揚感と感動。全て有権者の嗜好と社会の流れという市場データに基づいて、綿密に計算されているのだ。『政府は必ず嘘をつく』 第2章 より 堤未果:著 角川書店:刊
民主政治の模範とされている米国の二大政党制。
しかし、それすらもグローバル企業を中心とした大資本のマーケティング戦略に組み込まれている。
その事実には、驚かされます。
経済至上主義、市場主義の恐ろしさを改めて思い知らされます。
市場化を導入するための国民“洗脳”ステップ
米国が自国内だけでなく、世界各国で推し進めている「市場化政策」の導入。
それは、いくつかのステップを踏みながら進行していきまます。
最初のステップは、「敵を作ること」です。
愛国者法を議会に通したときの“敵”は「テロリスト」でした。
次のステップは、「スローガン」です。
9・11以降、ブッシュ大統領や政府が繰り返していたのも、
「アメリカは負けない」「アメリカはひとつだ」などのスローガンでしたね。
最後のステップは、「政策の内容をぼかす」というもの。
このステップによって、政府に都合のいい政策が、スローガンによってもたらされた高揚感と勢いで大衆に支持されます。
そして、中身のよくわからないまま法律化されます。
政府が内容をぼかす時、それをさまざまな角度から検証議論の場を提供するのはマスコミの役割だ。だが、このマスコミこそが、議論をさせず、情報は一部しか見せないという最後の二つのステップを担い、ワンフレーズポリティクスを作り出すプレイヤーとなっている。
電力会社が最大のスポンサーになっているテレビが流す報道が何に支配されているかは一目瞭然だが、郵政選挙や政権交代選挙、2010年に突如出現した〈TPP〉なども、マスコミの見出しや社説はどれもあからさまにこの手法に沿っていた。24分野は「農業VS製造業」という抽象的なスローガンばかりだ。
五大紙の社説は全てこうしたワンフレーズを含む推進内容になっており、「復興特区」の「漁協」のように、「農協」が旧体制のシンボルとして日本の成長を阻む敵のように描かれた。
テレビや新聞が反対運動を取り上げる際には、なぜか目を吊り上げて行進する農業団体の映像ばかりが映される。一方、24分野の詳しい内容や分野ごとの徹底した議論など、この協定に参加することの是非を国民がじっくり検証するための十分な材料はマスコミからは出てこない。利益を阻むと見なされた時、NAFTAで大きな問題となったISD条項(国内法が企業の市場や利益を阻むと見なされた時、企業が政府を国際投資紛争解決センターに訴えることができる)や、日本人の生活に大きな影響を及ぼす医療の市場化など、農業以外の重要項目が含まれていることが明らかになったのは、最初に〈TPP〉が日本のマスコミに登場してから1年後、野田首相が交渉参加を表明したのと同時期だった。
復興の名の下に、東日本大震災被災地における外資への税制優遇が提唱されている「特区構想」や、「グローバル化」を掲げるだけでその実態が説明されないまま参加表明されてしまった〈TPP〉。
ショック・ドクトリンは見えない津波のように、じわじわと日本にも近づいてくる。聞き心地のいいスローガンに惑わされずに、繰り返される過去の事例と重ね合わせ、注意深く見なければならない。『政府は必ず嘘をつく』 第3章 より 堤未果:著 角川書店:刊
マスコミが派手に煽り立てると、政策の本質的な部分から国民の目線をそらしてしまいます。
国民にとって大事な、生活に直結する事案に関する主要なマスコミの意見はほとんど同じ。
原発問題、消費税増税問題、年金問題、TPP参加の是非など。
やはり、そこには何かの“見えざる意図”が働いているのでは、勘ぐりたくもなりますね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
政府が何か政策を実行する場合。
その裏には、必ずその政策で利権を確保できる業界団体の力が働いています。
現状にそぐわなくなった法律の改正が遅々として進まない。
そんな状況は、業界団体の圧力による部分が大きいです。
「政府は必ず嘘をつく」
政府は、必ずしも国民を第一に考えて政策を実行し、法律を作っていないということ。
政府といえども組織です。
いかなる組織にとっても、第一の目的は「組織の存続」です。
自分たちの存在を脅かすものを恐れ、助けてくれるものを支援する。
それは、ある意味、当然の成行きです。
だからこそ、私たちは、政府の進める政策の裏の意図まで読み取らなければなりません。
〈コーポラティズム〉の行き着く先は、想像を絶する超格差社会です。
米国の「失われた10年」を他山の石として、手遅れにならないうちに方向転換する必要がある。
本書は、そんな瀬戸際に立つ日本に一石を投じる良書です。
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