本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『リスキリング大全』(清水久三子)

お薦めの本の紹介です。
清水久三子さんの『リスキリング大全 キャリアの選択肢が増えて人生の可能性が広がる』です。

清水久三子(しみず・くみこ)さんは、人材コンサルタントです。
外資系コンサルティング会社で、企業変革や人材開発のプロジェクトを数多く担当された後に独立。
現在は、「プロを育てるプロ」として、ビジネス書の執筆や全国での講演・講師活動をされるなど、ご活躍中です。

「リスキリング」とは?

「リスキリング」とは、現在の職場や産業のニーズに合わせて、ビジネスパーソンが自分の職業や役割に必要なスキルや知識を更新し、新しい技術や業務に適応するために、自己啓発や継続的な学習を行うことです。

清水さんは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必然性やパンデミックが加速したこの状況から、歴史的に大きなリスキリングが広範囲で必要となることは自明の理だと指摘します。

 日本では2021年2月26日に開催された経済産業省「第2回デジタル時代の人材政策に関する検討会」において、リスキリングの必要性が触れられ、2022年10月の岸田首相の所信表明演説でリスキリング支援として1兆円を投じると表明したのは記憶に新しいところです。
また日経リスキリングサミットでは首相自ら登壇し、リスキリング支援として、以下の三本柱を発表し、リスキリングという言葉は脚光を浴びるようになりました。

①転職・副業を受け入れる企業や非正規雇用を正規に転換する企業への支援
②在職者のリスキリングから転職までを一括支援
③従業員を訓練する企業への補助拡充

このリスキリング施策で目指しているものは2つあります。1つ目は「雇用の維持」、2つ目は「成長分野への人材移動」です。

1つ目の雇用の維持は、デジタル化が進むことで多くの人が職を失う技術的失業を防ぐことを目的としています。AIやロボットによって置き換えられる可能性のある仕事は、単純作業や繰り返し作業、ルーティンワークなどがよくあげられていましたが、ChatGPTのような高度な言語処理が可能な対話型AIによって、影響を受ける職業はさらに広がります。
2つ目の成長分野への人材の移動は、特に日本においては非常に重要な問題です。前述の岸田内閣のリスキリング施策には「転職」という言葉が2度出てきます。これは成長産業に人材移動を促すことを主眼としたリスキリングを支援するということです。日本では、終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムが、労働市場の硬直化を招き、成長分野への労働移動を妨げ、生産性の低下にもつながっています。
この状況を打破しようと、政府は労働者を新しい成長分野に移動させることで産業構造の転換を後押しし、労働生産性の向上および持続的な賃上げにつなげたいと考えているわけです。これは「雇用維持」から「労働移動」へと政策の大きな転換を表しているといえるでしょう。

リスキリングとは何かをしっかりと理解するために、これまでの学び方や、近年よく耳にする学び方と比較してみましょう。リスキリング、アップスキリング、リカレント、独学、資格取得という5つの学びについて違いを一覧表にまとめています。
それぞれ重なる部分もありますが、大きく目指すもののやり方の違いというものを見ていくと、よりリスキリングの学びとは何かが明確になってきます(下の図表0−1を参照)。

>リスキリング vs アップスキリング
「新しい仕事」か「今の仕事か」が最も大きな違いです。従来の企業研修は、アップスキルのためのプログラムがほとんどでした。一方で、リスキリングは新しい仕事に就くことが前提です。あるいは他部門や社外で働くことによって学びを得る越境学習やプロジェクト参加によって、今と異なる環境で働いてどんなスキルが必要なのかを模索しながら学ぶこともあります。これがアップスキルの学び方との大きな違いです。

>リスキリング vs リカレント
リカレントは一定期間、職を離れて、教育機関に入ることが大きな特徴です。これまで仕事で得てきたことを体系的に学び直したり、新しい領域を汎用的・総合的に学ぶことによって中長期のキャリアのための準備をするということがリカレントの目的です。そこが直近の(概ね1年以内がひとつの目安)仕事に就くためのリスキリングとの違いです。

>リスキリング vs 独学
独学はビジネススキルや教養、趣味などジャンルを問いません。身につけたいスキル領域を独学で習得することももちろんありえます。リスキリングは比較的新しい領域のスキルを身につけることが多く、その領域が体系的になっていないことが多い傾向にあります。
仕事をしながら必要なスキル・ノウハウは何かを模索しながら身につける点が、独学との違いといえるでしょう。

>リスキリング vs 資格取得
資格がリスキリングに必要な場合もありますが、資格取得が目的化してしまうと、新しい仕事に就けない場合もあります。従来の資格には資格ビジネスとして産業化しているものが多くあります。産業化しているということは、「枯れた領域」であることも多いでしょう。
資格取得は、一定の要件を満たすことで認定されるため、明確な目標があり、取り組みやすいです。しかし、リスキリングは新しい職業に就くことを目的にしているので、闇雲に資格取得に走らず、その資格が本当に必要なのかを考える必要があります。

ここまで、リスキリングの目指すところと従来の学びとの違いについてお話ししてきました。リスキリングは国や企業も後押ししている、これからの時代に必要なことだということが、お分かりいただけたと思います。
なのに何故かリスキリングに前向きな気持ちを抱けないという「リスキリングアレルギー」を持っている人は多いようです。読者の皆さんの中にも、「学んでも、どう新しい仕事に結びつけるのかイメージがわかない」という方がいるかもしれません。
リスキリングに対するアレルギーは、マインドとスキルの問題に由来します。マインドの問題として大きいのは、新しいことに取り組む際の「どうせやっても無理」「そんな上手くいくはずがない」というメンタルブロックの存在です。通常のスキルアップの学びと比べて、リスキリングは新たな仕事に対応するという高い目標があるため、メンタルブロックを持つ人は非常に多いのです。
一方、スキルの問題というのは、仕事に必要な個別スキルの問題ではなく、リスキリングを成功させるスキルがないという問題を意味しています。リスキリングは学生時代の試験のための勉強とは大きく異なります。また、単一のスキルや資格を取得できたらそれでOKというわけではありません。新しい仕事で成果をあげるためのスキルを身につけるのですから、そのやり方を知らなければ、一生懸命まじめに頑張って勉強したのに思うような結果が出なかったという状態になってもおかしくはないのです。
つまり、リスキリングを成功させるためのスキルがなければ、どれだけ努力しても、リスキリングは上手くいかないということになります。

『リスキング大全』 まえがき より 清水久三子:著 東洋経済新報社:刊

図表0 1 比較表 リスキリング大全 まえがき
図表0-1.比較表
(『リスキング大全』 まえがき より抜粋)

清水さんは、リスキリングが上手くいかないのはマインドとスキルの問題だと指摘します。

本書は、人材育成のプロである清水さんが、この「マインド」と「スキル」の2つを変革してリスキリングを成功させるためのノウハウをわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「リスキリング」の成功要因は?

清水さんは、リスキリングの成功要因を以下の3つのキーワードでまとめています。

①Pivot(軸足を定めての方向転換)
②Speed(短期間での立ち上がり)
③Resilience(困難からの復元力)

 リスキリングは、仕事や職を変えることを前提として身につけるという意味です。自分がやりたい仕事や職が明確にある場合もあれば、自分の意に沿わない仕事や、その時点では興味を持っていない職に就くよう外部から強いられることもあります。そうなると今の自分のスキルでは無理だと気持ちが挫(くじ)けそうになりがちです。そういった場合であっても、自分の強みをしっかりと見据えたうえで、それを軸としてリスキリングに取り組む人が成功することが多いのです。
リスキリングは新しい環境に順応するためのものです。ただでさえストレスはつきものですから、心の拠り所が必要です。「私はこれが得意」「自分の強みはこのスキル」など何か軸があると、新しいことにも順応しやすいのです。

このように軸足を定めて方向を変えることを「Pivot(ピポット)」といいます。ピボットというとスポーツを思い浮かべる方も多いでしょう。バスケットボール、サッカー、アメリカンフットボールなどの球技において、選手が体の一部を固定して回転する動きのことを指します。具体的には、足の先を一定の位置に固定して、体を回転させることで相手の守備をかわし、シュートやパスを狙う動きです。
ビジネスにおいてのピボットは、既存のビジネスモデルや戦略からの転換を指します。具体的には、ビジネスモデルにおいて、ある一定の要素を固定して、その周りで方向転換をすることを指します。つまり、企業が自身の強みやコアな事業領域を固定し、その周りで新たな展開や戦略転換を行うことで、市場や顧客のニーズに合わせた変化に対応しようとする手法です。特に新興企業やスタートアップ企業にとっては、非常に重要な戦略的な要素となります。市場や顧客の需要が変化し、既存のビジネスモデルが上手く機能しなくなった場合、早期にピボットすることで企業を再生させ、成長につなげていきます。
このピボットの考え方はリスキリングをする時にも役立ちます。リスキリングは新しい領域へのピボットですから、自分の軸足となるスキルを定めて、「じゃあ、あちらの方向に向かうにはどんなスキルをさらに身につければいいだろう?」「この強みをどういう方向に向けたらさらに役に立つだろう?」と考えるのです。
(中略)
ピボットを行ううえでスキル以外も軸足とすることができます。それは「自分はこういうことに取り組みたい」「こういう問題を解決したい」「こういう領域で貢献したい」という志(こころざし)です。この志が軸になり、新たな領域への取り組み意欲や学ぼうというモチベーションにつながっていきます。
志やスキルといった、自分の軸となるものが分かっていると、自分にとってのリスキリングの意味が明確になります。

(中略)
私はリスキリングを始めようとしている人にカウンセリングを行う際「今のあなたの強みは何ですか?」「これからやってみたい仕事は何ですか?」ということを聞きます。
「強みは特にありません」「これといってやりたいということはないです」という方もいらっしゃいます。このように、軸がない場合には実はリスキリングしづらいのです。
軸を持つということは、様々な変化に直面するなかで、キャリアが変化する必然性を、自分で主体的に肯定できるということです。この変化を肯定するためにも、軸を定めていろいろな方向性を試してみるピボットが有効なのです。

体験記にあった6人のリスキリング期間は幅がありますが、数ヶ月から半年くらいの期間で行われています。また、リスキリングしてから新しい仕事に就く場合と、新しい仕事を実践しながらリスキリングする場合の両方があります。仕事が先か、リスキリングが先かについては後ほどお話ししますが、いずれにしてもリスキリングの期間はそれほど長くはありません
スキルを習得する前に新しい仕事に就いた場合には、数日から数週間でリスキリングが必要な場合もあります。(中略)
リカレントや資格取得などは、数年かけるという場合もありますが、リスキリングについてはそれほど長い時間をかけることはまれです。1年も経ってしまうとビジネス環境も変化し、求められるスキルセット(特定の業務を遂行するための技術、知識、経験の組み合わせ)が変わってしまうことも多いからです。
特にどのような場合に、迅速なリスキリングが求められるかというと、以下のような場合です。

1新しい技術の導入
新しい技術の導入により、業務プロセスやビジネスモデルが変化する場合です。例えば、AIやブロックチェーンなどの技術の導入といったDX領域では、技術進歩も速くリスキリングが遅れるほど、取り返しのつかない状況になっていきます。
ゆっくりと時間をかけてのリスキリングではなく、走りなから必要なことを認識してその場でリスキリングしていくことが求められます。

2業務プロセスの変更
業務プロセスの変更により、新しいスキルや知識が必要になる場合があります。例えば、近年ではコロナ禍で働き方が大きく変化し、コミュニケーションや業務のやり方が変化しました。Zoomなどのオンラインコミュニケーションに迅速に対応してチャンスをものにできた人もいれば、「早くもとどおりにならないかな」とこれまでのやり方をそのまま非効率にやっていた人もいました。
実際に私の周囲の講師陣の中には、デジタルへの苦手意識からオンライン対応が遅れ、コロナ禍に収入が激減した人もいました。

3新規事業の立ち上げ
新規事業の立ち上げにより、新しいスキルや知識が必要になる場合があります。例えば、ベンチャー企業やスタートアップ企業での立ち上げや、新規市場への進出などがこれにあたります。
これらは競合も意識して動く必要があるため、自分ペースでのリスキリングでは太刀打ちできませんし、「これは自分の役割ではない」などと、仕事を選んでいる時間はありません。

リスキリングのスピード感はどこから生まれてくるのかというと、目標志向からです。
目標が明確であるということは、いつまでにどういう状態になっていればよいのかという「ゴール」がはっきりと意識できている状態です。何となく「〇〇のスキルを身につける」というのは目標ではなく、目標達成の途中の状態です。スピード感を持ってリスキリングできる人は、ゴールからの逆引きでいつまでに何をものにしなければならないのかが分かっているのです。
リスキリングは新しい仕事や職に就くためのものですが、さらにその先にあるのは、その仕事や職であけたい成果=ゴールです。このゴール設定から逆引きしないと、スキルを身につけたものの「実践的ではない」「成果が出ない」「既に手遅れ」という状態になってしまいます。
このスピード感を保つための考え方として、「新しい仕事に就いて3ヶ月で何らかの成果を出す」という目標設定をするのが1つのおすすめです。3ヶ月で成果を出そうとすると、その仕事の全体像や、自分自身に求められていることを理解しようとするはずです。このようなイメージを持って能動的にリスキリングするのと、会社から出ろと言われた研修を何となく受けるのでは全く違う仕上がりになりそうだと思いませんか?

目標志向になることで、スピード感のあるリスキリングができるようになります。

3つめは困難から自分を復元する力=レジリエンスです。私は『一流の学び方』(東洋経済新報社)というビジネスパーソンに必要な学び方についての本を出版していますが、ビジネスパーソンの学びの成功要因として、このレジリエンスは入れていませんでした。なぜ、リスキリングについてはこのレジリエンスが入ってくるかというと、痛みを伴うものだからです。
リスキリングは新しい仕事や職に就くことを前提としています。そこには大きな変化があります。場合によっては意に沿わない変化を強いられることもあるでしょう。それはまるで、自分が脚本・演出・主役をつとめるはずの物語が強引に中断され、筋書きまで変えられてしまうようなものです。当然、そこには痛みがあるはずです。
人は想定していなかったものが目の前にあらわれると、驚いたり、困惑したり、パニックになり、「どうしてこんなことをしなくてはならないの?」「なぜ、この私が?」「あの時こうしていれば、こうならなかったのに・・・・・」など色々な感情がうずまきます。
しばらくするとそれが怒りに変わってきて、「会社・上司が悪い」と誰かを責めたり、抵抗してみたりします。こういった姿勢では、リスキリングはもちろん、新しい環境や仕事で成果を出すということは難しいでしょう。
ではどうしたらよいのでしょうか? そこで、自分の物語を再構築していく復元の力、つまりレジリエンスが必要となるのです。

レジリエンスとは、困難を乗り越える力を指します。外的なストレスや困難、苦難に対して、精神的・身体的な回復力や耐性があるということです。また、不確実な状況に対して柔軟に対応できる能力や、失敗や挫折に対して前向きに取り組むことができる能力、なども含みます。
(中略)
前向きに自分からキャリアチェンジをした人でも、「こんなはずじゃなかった・・・・・・」「これは思い描いていたこととは違う」ということは当然あります。そういったつまずきや失敗から学びとり、乗り越えていくレジリエンスストーリーは、実はリスキリングのハイライト(山場)でもあります。
Chapter7で、越境(ビジネスパーソンが自らの所属する職場や業務の枠を越え、学び・成長の機会を得る活動)について紹介しますが、「越境学習者は二度死ぬ」という言葉があります。その葛藤が学びそのものともいわれており、この葛藤を乗り越えられるかはレジリエンスにかかっています。
(中略)
さらに、新しいスキルを身につけるためには、他者からのフィードバックが不可欠です。フィードバックの中には耳が痛いものも当然ありますし、むしろそのようなフィードバックのほうが成長のためには必要なものです。レジリエンスがない人は、グサリと刺さるフィードバックがあると心が折れてしまい、立ち直ることができません。つまり、必要な成長機会から学べないのです。新しい取り組みは痛みがつきものですから、リスキリングには自己回復力が必須なのです。

『リスキング大全』 Chapter2 より 清水久三子:著 東洋経済新報社:刊

何ごとも下ごしらえ、前準備が大事。
それはリスキリングについても同じです。

しっかり方針を定めて、自分に足りない部分は何か、強みとなる部分は何かを見極める。
それがリスキリングの最初の一歩です。

「リスキリング」に必要な能力とは?

稼ぐためのリスキリングに必要な能力は、大きく2つに分けられます。
「キャリア・アダプティリティ」と「リスキリング能力」です(下の図表3−1を参照)

図表3 1 稼ぐ力 リスキリング大全 Chap3
図表3-1.稼ぐ力
(『リスキリング大全』 Chapter3 より抜粋)

 サビカス博士は、ナラティブ・アプローチで有名な21世紀を代表するキャリアの理論家です。ナラティブ(narrative)とは日本語で「語り・物語」を意味します。個人の語りや物語に着目し、その語りを通して問題を解決していくという手法のことです。サビカス博士は「自分でキャリアを作る」ことを「自分の人生物語の著者になる」と表現しています。
環境(企業や社会から求められること)と自分(自分のやりたいこと)が完全にフィットするということは、ほぼありえません。そのような状況でキャリアを作り上げていくということは、継続的に環境と自分に対する意味づけや解釈を変化させていきながら、次第に両者を近づけていくことになるわけです。
現在、リスキリングの必然性が叫ばれている背景には、社会や会社の要請からくる環境変化があります。リスキリングを自分自身にとって実り多いチャンスに変えられるかどうかは、自分を主人公にした物語に起きる良い出来事として、変化を意味づけできるかどうか、つまり自分が納得できる物語として描くことができるかどうかにかかっています。リスキリングを「降って湧いた嫌な出来事」と捉えるのか、「大変かもしれないけど意味のある経験」と捉えるのかによって、取り組み方や得られるものが変わってきます。ちなみに前のChapterでリスキリングの成功要因としてあげたレジリエンスは「上手くいかないことが起きた時に、自分の物語を再構築していく復元の力」であり、こちらもナラティブ・アプローチで復元を試みるものです。

故スティーブ・ジョブズ氏の伝説のスピーチの中にある「コネクティング・ザ・ドッツ(Connecting the dots)」もナラティブ・アプローチです。点と点をつなぐという意味ですが、ジョブズ氏はスピーチの中で、ある時の経験や行動があとになってつながり、意味のあるものになってくる例をあげており、以下のことを述べています。
「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎ合わせることなどできません。できるのは、あとからつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない」
ここで重要になってくるのは、そもそも自分は点を打っているかどうか、そしてその点を大きくしようとしているかどうかという2点です。
点は行動の結果であり、行動しない限り点は生まれません。何かを新しく始めていたり、チャレンジをしていることが、自分の点を増やすことにつながります。極端にいえば、何も新しいことをしなければ、点は生まれません。まずは、点を打っているかどうかを自分に問いかけてみましょう。
そして、打った点は、はじめはとても小さいものです。つなげにくいものでしょう。大きい点のほうが思い出しやすく、点と点がつながりやすいです。それが物語の作りやすさにつながります。その点に蒔いた種を、芽吹かせて成長させておくためには、その時の経験から得られる学びをしっかりと深めておくことが必要です。
自分は今、リスキングを意味づけするうえで重要です。

サビカス博士は、点と点をつないでキャリアを自分の物語として適合させていくために必要な資質として、関心(Concern)、統制(Control)、好奇心(Curiosity)、自信(Confidence)の4つがあるとしています。

>関心(Concern)=ビジョン/計画力
4つのうち最も重要な資質は、関心を持つことです。自分のキャリアや将来起こりうる環境変化に興味関心がなく、会社任せにしていては、キャリアを適合させることはできません。「自分はどうなりたい・どうありたいのか?」と関心を持ち考えていく力、つまり、ビジョンや計画を立てる力が必要です。
敷かれたレールの上を走っていれば安心という考えは、もはや過去の幻想です。ビジョンというととても大層なものに思えるかもしれませんが、これは「社会をこう変えたい!」というような大きなビジョンを描くことばかりではありません。「自分がしたくないこと」を見極めることでもあります。
私はキャリアカウンセリングでは、「やりたいこととやりたくないことをはっきりするように」と指導します。やりたくないというと一見ネガティブに思えますが、自分がしたいことがよく分からない場合には、そちらから考えた方が「では自分が何がしたいのか」という関心や方向性が明確になってきます。

>統制(Control)=決断力
統制とは、キャリアを自分でコントロールできる力です。もちろん、自分が置かれている社会や会社組織という環境の中には、自分ではコントロールできないものもあります。とはいえ、コントロールできないことばかりに目を向けていると無力感にとらわれ、自己効力感が落ちてしまいます。自分がコントロールできるものと、できないものを見極めて、何をすべきかを決めていく決断力が必要になります。
リスキリングに失敗する人は自分がコントロールできる範囲を限定しがちです。「自分がこんなことを望んでいいのかどうか分からない」「あの人に何か言われるかも・・・・・」などコントロールを他者に任せてしまっています。
私が支援した人で「仕方がないですよね」が口癖になっている人がいました。その口癖をやめて「じゃあ、どうしよう?」という一言をまず言うように指導したところ、考え方が徐々に変わってきました。「じゃあ、どうしよう?」という一言は次の行動を考え、自分で決めるのだと言う意識に変えることができます。

>好奇心(Curiosity)=探究力
好奇心は、数あるキャリア理論の中でも必須な資質だと取り上げられます。それだけキャリア形成やリスキリングを成功させるうえで重要だということです。自分の興味があるものに対して、積極的に関わりを持つこと(=点を打つ)、それを深めていく探究力(=点を大きくする)が求められます。
好奇心があまりない人に対して「何事にも好奇心をもて」と言ってもそもそも聞く耳がないので意味がありません。
そんな人にアドバイスしているのは、「3ヶ月に3回自分の専門外、できれば違う会社の人と話す。自分が通常は手にとらない分野の本を3冊読む。行ったことのない場所に3ヶ所行く」という宿題です。最初から好奇心旺盛ではない人は、自分の興味以外のことを計画的に知る行動を習慣にすることで徐々に視界が開けて好奇心にも火がつきます。

>自信(Confidence)=問題解決力
自信があることで、未経験の領域や不安定な環境の中でも、自分のキャリアを発展させやすくなります。自信がある人は、自己効力感が高い人でもあります。自己効力感とは、ある課題や目標に対して自分が適切な行動を取り、実現できる能力があると感じられている状態です。そうあるためには、問題解決力が自分に備わっている必要があります。
鶏と卵のようですが、自己効力感がないと問題解決は失敗しがちであり、問題解決の経験を積まなければ自己効力感が得られません。日常や仕事の中にある小さな問題を1つ1つ解決していくことで問題解決力を上げ、自己効力感を高めていきましょう。
自信がない場合の対策としては、前のChapterのインポスター症候群対策でも紹介した、スキルの棚卸しと「3 good things」がおすすめです。
私が支援している人の中には、自分が何ができるのかがよく分からないと自信なさげな人もいました。そのような人たちの多くが、リスキリングや越境学習を通じて葛藤しながら、新しい自分の姿を見ることによって、自己効力感を上げていきました。自信と自己効力感は鶏と卵の関係ですから、たとえ今自信がなかったとしても、リスキリングを通じて自信をつけるのだと考えてみましょう。

『リスキリング大全』 Chapter3 より 清水久三子:著 東洋経済新報社:刊

清水さんは、これら4つの資質を持ち合わせている人は、自分の進むべきキャリアを明確に認識でき、継続的に成長して自分のキャリアを環境と適合させていくことができると述べています。

これから多くの企業では、終身雇用や年功序列などから、ジョブ型雇用(職務内容を明確に定義して、その職務を遂行するにふさわしいスキルや実務経験を持つ人を採用する手法)へとシフトしようとしています。

リスキリングに関心がない人も、備えるに越したことはありません。
これらの4つの資質を高めるよう、普段から意識していきたいですね。

学びの基本は「多読」にあり!

ある新しいスキルを身につけようとしたとき、最初のステップは「概念の理解」です。

このステップでは、その分野全体の概念や基礎知識、専門用語がわかるレベルを目指し具体的には、とにかく情報を収集し、インプットすることになります。

清水さんは、書籍やインターネットは、情報を入手するためのコストもあまりかからず、基礎知識の土台を作るうえでとても重要なコンテンツだと指摘します。

(前略)これらのコンテンツからのインプットの基本は「多読」です。ビジネスの場合、「ここだけ読めばOK」という領域はほとんどありません。厳選した書籍をみっちり読み込むのではなく、多少内容が重複していても気にせずに数十冊を読みこなす「多読」こそ、学びには重要なのです。
まず大前提として、基礎知識のインプットは「質の前に量」だということです。質を高めるためには量が必要です。書籍の場合、リスキリングという観点では、1つのテーマに対して10〜20冊を1つの目安にするのが妥当なラインでしょう。
それを目安に、「まったく未知の領域は30冊ぐらい」とか、「ある程度、周辺業務や周辺業界についての知識がある領域は10冊ほど」といった具合に、自分の知識に応じて適宜調整してください。

なぜ多読が必要なのかというと、多読することによって、優れた情報と、そうでない情報、つまり「良質見解」と「悪質見解」を見分ける目利きができるようになるからです。そして、「共通見解」と「相違見解」を知るためにも、多読は必要です。
共通見解とは、誰もが同じ指摘をしている事柄です。例えばAIをテーマにする本のすべてに、「AI活用の第一領域は自動化と効率化」と書かれていれば、それが共通見解です。
他方、ある本には「今後教育の領域にも加速的に活用が広がる」、ある本には「教育への適用は規制をかけるべき」など、本によって主張が異なるものがあるでしょう。それが、後者の相違見解です。このように多読をすることで、良質な情報だけを見抜き、また情報を多角的に仕入れることによってインプットの偏りを防ぐことができます。
リスキリングが上手くいかない時や、仕事で成果が出せない時の特徴として、具体と抽象の行き来ができていないことに加え、限定されたものの見方しかできていないということがあります。こうなってしまうのは、知識の土台がないからです。知識の土台がないと目の前にある情報がよいのかどうかを判断する軸がないために、鵜呑みにしてしまうです。
情報を鵜呑みにすることは、仕事に限らずとても危険です。良質と悪質、共通と相違が頭に入っていれば、目の前の情報の判断がしやすく、選ぶ情報やモノの質があがります。間違ったやり方に気がつかなかったり、何かに騙されたりということも防げます。
仕事をする中で、「なぜこれを選んだのか?」と確認すると、「ここに書いてあったからです」とたまたま得た情報をそのまま使う人がいます。しかし、それが本当によいかどうかは比較しない限りわかりません。以下のようにそれを選んだ理由が必要です。

「A、B、Cと3つ比較したのですが、〇〇という観点でAを選びました」
「2つのやり方がありますが、今回の場合だと適切なのはこちらです。ただしこういうリスクがあります」

ビジネスには、絶対的な正解がありません。「これさえ読めば大丈夫」という教科書もありません。情報を取捨選択する判断軸を持つためにも、まずは多読で知識の土台を作りましょう。

書籍を購入する際、私は数十冊を「まとめ買い」します。必要な本が何かを何度も調べたり、書店に行く時間はとれませんし、「パラレル読み」(複数の本を並行して読む)をするために、まとまった量の本を初めに用意します。一通りの情報を押さえておくために「カテゴリーまとめ買い」のような感じで、まずは10冊程度の本を買うといいでしょう。
この段階で「全部読めなかったらどうしよう」などと心配はせず、「積ん読」に終わったらもったいないなんてことも考えずに、必要な投資だと思って一括購入してください。
「とりあえず2〜3冊買って、残りは順次買っていこう」と考える人もいるかもしれませんが、そのやり方はあまりおすすめできません。後述しますが、同時に何冊も手元にあったほうが、パラレル読み、サーチ読みがやりやすいからです。
ネット情報を集める場合にも同様で、とりあえず検索結果の一番上に出てきたものを読み始めるのではなく、まずは関連すると思われるものをどんどんブックマークしていきます。こちらは書籍購入よりはお金もかからないので、取り組みやすいと思います。
ただし、ブックマークする段階では、サイトを読みこまないことがポイントです。ここでじっくり読み始めると、だらだらとネットサーフィンをする状態になり、時間を無駄にしてしまいます。

概念の理解を早めるうえで、本の選択はとても重要です。最近とくに思うのは、本の二極化が進んでいるということです。つまり、本当に良書といえる本と、易しくしすぎて得られるものが少ない本です。
例えば、『1時間でわかる〇〇』『××はこれだけやればOK!』といったような本があります。入門としてこのような本が必要でしょうし、その手軽さから、ベストセラーになっている本もあります。本当にザッと概要把握するだけでよければ、こうした本で十分なこともあります。
しかし、リスキリングという観点から見ると、このような本ばかりを読んでいると、なかなか学びが自分の血肉にはなりません。やわらかいものばかり食べていると、顎の力や吸収力が弱くなってしまうように、サラリと読める本ばかり読んでいると、理解力や思考力が衰えてしまいます。
図表5−2(下図を参照)は各分野を学ぶ際に必読書と呼ばれるものの一部です。自分が学ぶ分野での必読書があれば、たとえ難解でも歯応えがある本でも、目を通すようにしましょう。一緒に仕事をする人がそれを前提として話をする場合も多いからです。実際にクライアントから「あの本に書いてあるけど・・・・・」「〇〇の思想としてはこうかもしれないけど・・・・・」と会議中に話題になり、読んでおいてよかったと思ったことが何度もありました。

良書を選ぶ方法の1つとしては、翻訳本を選ぶのもよいでしょう。翻訳本は大抵の場合、原著がベストセラーだったり、高い評価を得たものがほとんどです。いわば、フィルターを1つくぐっていますから、良書である確率が高いでしょう。
また、ビジネス系の書籍の翻訳本は、十分な調査研究をもとにしたしっかりした内容のものが多いのも特徴です。一方、日本のビジネス書は、本書も含めてですが、個人の成功体験から導き出したノウハウを語るものが多いようです。
どちらがいいということはないのですが、体系的な思考を得たり、汎用性があるのは、やはり調査研究をもとにして書かれた海外の翻訳本に軍配が上がるので、翻訳本で気になるものがあったら、迷わず購入することをおすすめします。
ネットの場合、海外のサイトも視野に入れてもよいでしょう。最近ではDeepLなど翻訳ツールやChatGPTなども翻訳に使えますので、英語が苦手でも読むハードルは下がっています。

「本は読まずに眺める」
楽しむ読書ではなく、学習するための読書であるならば、こう割り切って考えることも大切です。じっくりと全部読まずに、目当てのキーワードや使える箇所を拾っていくというのが、短時間でインプットをするために不可欠な読み方だからです。
私は読書をしていると、よく「読んでいるのではなく、パラパラとめくっているようですね」と言われます。実はその通りで、私はあらかじめ自分の中で「何を知りたいか」という目的を決めて、それをサーチ(検索)する感覚でページをめくっています。キーワードや求めている情報を探してページを繰り、見つかると書き出したり、マーカーを引いたりして、またページをめくっていきます。
キーワードは、読む前から決めている場合もあれば、多読をしているうちに必要なキーワードがだんだん浮かび上がって見えることもあります。キーワードを含む文にマーカーを引いたり、メモとして書き出したりします。関連するグラフや記述など、参考になりそうな箇所もチェックしておきましょう。いつでも自分のデータベースとして参照できるように、ポストイットで印をつけるなどしておくと後々便利です。
リスキリングではこの「サーチ読み」が基本です。一字一句見逃すまいと熟読する、あるいは何が何でも頭から通読する、というようなことをしていては、時間がいくらあっても足りません。
ビジネス関連の書籍を読む目的は読破することではありません。どこを読むか、何がわかればよしとするか。あらかじめその辺のアタリをつけておいて、目的を持って読み進めるのがベストです。そうしなければ、「読み終えたけれど、何がわかったのかさえわからない」ということになりかねません。
このように、自分の中でサーチする対象が決まっていれば、かなり速く本を読み進めることができます。私の場合、だいたい2日に3〜5冊は読んでいます。

書籍やネットの情報は、まずは一度にまとめて入手するということをお伝えしましたが、それは「パラレル読み」をするためです。パラレル読みとは、複数の本を同時並行(パラレル)で読むスタイルです。なぜ同時並行で読むのがよいのかというと、学習効果が高まるからです。ある本で述べられていたことと他の本で述べられていたことが自分の中で関連づけられたり、ある本でわからなかったことが他の本でわかったり、といった具合です。
またサーチ読みをしながら読むことを考えると、1冊目に書いてあったことは2冊目以降は飛ばすこともできます。差分を読んでいけばよいので、さらに読むスピードが高まります。
良質・悪質、共通・相違見解を得るにはパラレル読みが一番適しています。こういった大量の書籍を読むにあたり、紙の本だけでなく、電子書籍やオーディオブックなども使いこなすことでさらに効果的なインプットができます。

『リスキング大全』 Chapter5 より 清水久三子:著 東洋経済新報社:刊

図表5 2 各分野の必読書はおさえる リスキリング大全 Chap5
図表5-2.各分野の必読書はおさえる
(『リスキリング大全』 Chapter5 より抜粋)
「概念の理解」のための読書は、あくまでスキル取得のためのインプットが目的です。
そのためには、1冊1冊を熟読するより、たくさんの本をいっぺんに読む「パラレル読み」が効率的だということですね。

チャレンジを阻む「3つの壁」とは?

清水さんは、新しいことに取り組むうえで、自分の気持ちや心のあり方をきちんとセットしておく(マインドセットする)ことは大切だと指摘します。

マインドセットとは、その仕事で成果を出すための考え方や志向性、仕事の進め方のことです。

マインドセットを変えるための最初のステップ。
それは「メンタルブロック」の解除」です。

清水さんは、自己変革であるリスキリングは、様々な自分のうちなる抵抗=メンタルブロックを解除しないと成功しないと述べています。

 では、新たなリスキリングや仕事に向けてのメンタルブロックの解除方法から見ていきましょう。まずは、新しいことに取り組むことを阻む3種類の壁=メンタルブロックを紹介します。

①思い込みの壁
思い込みの壁とは自分の可能性を限定したり、根拠は特にない決めつけなど、自分にブレーキをかけてしまう以下のような考え方です。
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可能性の否定:
「リスキリングなんて自分には無理に決まっている」
「〇〇の領域は自分には向いていない」
年齢バイアス:
「もういい歳だから若い頃のように新しいことは覚えられない」
「今更若手のように一から仕事を覚えるないてしたくない」
変化の拒否:
「仕事をころころ変えるなんてよくない」
「リスキリングさせられるなんて嫌だ」
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②恐怖心の壁
恐怖心の壁とは、よく分からないことからくる不安や、見栄やプライドなどから、失敗を必要以上に回避しようとしたり、人からの評価を気にしすぎて、新しいことを恐怖に感じてしまう以下のような考え方です。
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未知なのものへ不安:
「失敗したらどうしよう・・・・・・」
「今あるものを手放したくない」
見栄からくる恐怖心:
「若い人に使われるなんて恥ずかしい」
「できない人だと思われたくない」
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③環境の壁
環境の壁とは、今所属している組織や、家族・友人などからの同調圧力や反対に由来した、ブレーキとなる意見や考え方です。
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同調圧力:
「このままでいいんじゃない?」
「そんなことしたって無駄だよ」
家族の反対:
「すごく忙しくなって大変になっちゃうんじゃないの?」
「会社を辞めるなんて世間体が悪い。収入が減るなんて困る」
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誰でも考え方の癖があります。さらに社会や世間の常識、家族・友人の意見などから、様々なバイアスがかかった見方をしてしまいます。本書のテーマであるリスキリングについても、ネガティブに捉えている人も少なからずいるようです。
ただ、実際に成果をあげている人は、このようなメンタルブロックを意図的に解除して活躍していることが多いのです。実際に私はシステムエンジニアからコンサルタントになる時と、コンサルタント会社から独立する時の2回、メンタルブロックを解除しました。
1回目の時は、「コンサルタントなんて自分には無理だ」という思い込みの壁を、2回目の時は「独立したら収入が減るのではないか」というメンタルブロックを解除しました。今となっては、自分が持っていたメンタルブロックを「なんであの頃はあんな風に考えてしまっていたんだろう?」と笑えるくらいです。そして、私のメンタルブロックを解除してくれた、人生の先輩方には本当に感謝しています。

では、どうやってメンタルブロックを解除したらよいかを説明します。

思い込みの壁の乗り越え方

自分が「こうだ」と思っている思い込みに対して、逆の事例をできるだけたくさん探します。
例えば「年取ってからは新しいことは無理」と思っているのであれば、高齢で新しいことにチャレンジして成功している人をたくさん調べてみましょう。
そういう人が見つかるにつけ、「あ、なんだ。そんなにたくさんできる人がいるんだ」「え、あの人もできてるの?」とブロックが解除されていきます。世の中に「絶対」はないのです。自分の知っている範囲にないから「絶対無理」だと自分を信じ込ませてしまうのです。そうではない事例を見ることによって「あ、これもありなんだ」「自分でもできるかも」と認知が変わっていきます。
メディアに取り上げられている人でもいいですが、できれば近い存在が見つかると、ブロックを解除しやすくなります。もし見つかったら話を聞きに行くと、たやすくメンタルブロックを解除できる場合もあります。

恐怖心の壁の乗り越え方

恐怖心の場合は、今自分が持っているもの、例えば、ポジション、収入、評価、人間関係などを手放すことへの恐れが根底にあります。既にある程度成功している人だと、その成功体験に縛られてしまったり、今の地位や名誉などに執着して手放すことをためらってしまいます。
思い込みの壁と同様に、チャレンジして成功した事例を知ることで、ブロックが解除されることもありますが、それでもためらう場合には、今自分が持っているものは、一体いつまでその価値を失わずに存在し続けるのかを考えてみましょう。
あと何年その価値は目減りせずにあり続けるのかを考えると、現状維持の方がもしかすると恐怖かもしれないという考えに変わっていきます。
また、この恐怖心は「隣の芝生は青く見える」の逆で「知らない仕事は怖く見える」という状態から来ています。既にその仕事をしている人に接したり、見学させてもらったり、コミュニティに参加したりすることで、少しずつ慣れていくことにより不安を払拭していきましょう。

環境の壁の乗り越え方

職場の同僚や友人などからの同調圧力からは、距離を置くのが一番です。「人間は、いつも周りにいる5人の平均をとったような人になる」というのはアメリカの起業家であり自己啓発を手掛けるジム・ローン氏の名言です。実際にアメリカの研究で、年収に置いてこれが証明されています。
つまり付き合う人が変われば、それまでの周囲からの影響で築かれたていたブロックが解除されるということになります。リスキリングを成功させたいのであれば、自分から能動的に付き合う人を選んでいくべきでしょう。
転職業界では、転職や起業などをしようとして家族の反対にあうことを「嫁(もしくは夫)ブロック」と呼びます。同じ会社内での異動でも、多忙な部署や職種への転身となるとブロックが発動することもあります。これは家族も思い込みや恐怖心の壁を持っているということです。
ブロックを受けると、反対するパートナーのことを「理解が足りない、邪魔をしてくる人」と思いがちですが、実は自分に問題がある場合も少なくありません。事前に相談もなく、いきなり「こうするから」と言われたら、誰でも「ちょっと待って」と言いたくなるものです。まずは報告ではなく、相談のスタンスをとりましょう。その際に話し合うことは、例えば以下のようなものです。

○なぜ新しい仕事に変わるのか
○なぜこのタイミングなのか
○家族の生活はどのように変化するのか
○家族が得られるメリットは何か
○家族にとってのデメリットと対応策

これらをいきなりプレゼスタイルで相手にぶつけ、論破しようとするのはおすすめしません。その場では説得した気になるかもしれません。しかし、そのあとよくない事態になった際に「やっぱり私は反対だったのに・・・・・・」と非協力的な態度を取られる可能性が高いからです。
あくまでも相手の不安や懸念点を丁寧に聞き出したうえで、「じゃあ、どうしようか?」と一緒に決めるというスタンスをとったほうがよいでしょう。パートナーのブロックは、リスクヘッジにもなります。目指すべきは論破ではなく、相手からの共感を得ることです。

メンタルブロック解除シート

メンタルブロックには強弱があり、1つだけではなく、複数が絡み合っている場合もあります。それほど葛藤せずにするっと解除できる人もいれば、なかなか解除できない人もいます。まずは自分がどんなメンタルブロックを持っているのかを棚卸しして、それを乗り越える方法を洗い出し、実行してみましょう。そのために、3つの壁を乗り越える「メンタルブロック解除シート」を活用してみてください(下の図表7-1を参照)。

まず、左側に自分が壁だと思っていることを記入します。3つの壁の例にあげたような「自分には〇〇できない」など自分が持っている思い込みでもよいですし、「〇〇さんにこう思われたらどうしよう・・・・・・と気になる」など些細なことでも構いません。言語化することで、「あ、自分はそんなことを気にしてたんだ」とブロックが解除される場合があるからです。
そして、壁が明らかになったら、その右にどうやって解除するかを記入し記入ます。例えば、「自分が目指す仕事にリスキリングして成功している人を5人見つけて話を聞く」「〇〇先輩に相談してみる」など具体的な行動を考えて記入します。
最後に、行動をした結果、自分の考えがどう変わったのかを記入します。もしあまり変化がなければ、次の行動をあらためて考えてみましょう。

『リスキング大全』 Chapter7 より 清水久三子:著 東洋経済新報社:刊

図表7 1 メンタルブロック解除シート リスキリング大全 Chap7
図表7-1.メンタルブロック解除シート
(『リスキリング大全』 Chapter7 より抜粋)
 新しい道を進もうとしたとき、それを阻む最も大きな壁が自分自身である。
ほとんどのケースが、当てはまるかもしれません。

メンタルブロックは、根拠がない、単なる思い込みです。
そして、普段は心の奥に眠っていて自覚できていないことがほとんどです。

意識の光に当てて、その正体をしっかり見極めれば、恐れるものではありません。
「お化け」と一緒ですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

日本人は、生物学的な特徴のひとつとして、不安遺伝子を保持する割合が多いとされています。

ただ、不安を感じやすい特性には悪いことばかりではなく、利点もありリスクへの感度が高く対応するのが得意ともいえます。

実は、日本人と「リスキリング」の相性は、いいのかもしれません。

清水さんは、学ぶことによって不安を払拭し、乗り越えていった体験の蓄積が、人生を広く深く豊かなものにしてくれるとおっしゃっています。

不安をバネに、ピンチをチャンスに。

「リスキリング」は、私たちの可能性を大きく切り開いてくれるツールです。
私たちも、ぜひ、そのノウハウを自分のものにしたいですね。

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