【書評】『腸を鍛える』(光岡知足)

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 お薦めの本の紹介です。
 光岡知足先生の『腸を鍛える――腸内細菌と腸内フローラ』です。

 光岡知足(みつおか・ともたり)先生は、農学博士、微生物学者です。
「腸内細菌学」を樹立したパイオニアで、この分野の世界的権威として有名な方です。

腸内の「発酵」と「腐敗」を分けるものとは?


 大腸には、300〜500種類、100兆個ともいわれる腸内細菌が生息しています。
 重さにして、60キロの体重の人で1〜1.5キロにもなります。

 大腸にこれだけ多くの菌が棲みついているのは、大腸の運ばれてきた未消化の栄養素をエサにしているためです。

 どんな食べかすでも同じように分解されるわけではありません。腸内細菌のような微生物がエサを分解する過程は、その性質の違いによって「発酵」と「腐敗」に分けられます。
 発酵は、食べものに含まれる糖類が分解されることによって起こります。それを担っている有力な菌が乳酸菌であり、ヒトの腸内ではビフィズス菌が該当します。ビフィズス菌が増えると腸内のpHが酸性に傾き、悪玉菌の増殖を抑えることができます。
 ビフィズス菌による発酵作用によって、結果として腸の健康が保たれるため、私は「善玉菌」と呼んだのです。
(中略)
 いっぽうの腐敗は、食べものに含まれるタンパク質が分解されることで起こります。問題となるのは、その際に発生するアミン、インドール、スカトール、フェノールなどの有害物質の存在です。
 これらの有害物質によって食べかすは腐敗し、それが腸内環境を悪化させる要因になります。便秘や下痢、さらには有害物質が血液を通じて、体のすみずみまで運ばれていくことで、肌荒れなどが起こりやすくなるのです。
 もちろん、便がくさくなるのも有害物質の影響です。実は、便がくさいのは腸内腐敗が進んでいる証拠です。腸内環境を善玉菌が優位な状態に改善させていかないと、細胞の老化が進み、がんやアレルギーなどの引き金にもなりかねません。
 なお、腐敗を引き起こしている菌の代表は、大腸菌やウェルシュ菌などで、私はこれらの菌を「悪玉菌」と呼びました。大腸菌は常に悪さをしているわけではありませんが、食生活の乱れ、タンパク質を過剰摂取する状況が続くと、腸内腐敗に加担するようになります。
 善玉菌と悪玉菌を簡単にまとめると、次のようになります。

 善玉菌:糖をエサにして増殖する(発酵をうながす)
 悪玉菌:タンパク質をエサにして増殖する(腐敗をうながす)


 気をつけなければならないのは、糖は取り方をまちがえると血糖値を上げてしまうリスクがあるという点です。また、タンパク質は腸内腐敗をうながすいっぽうで、筋肉やホルモンを生成し、活力をもたらす大事な役割もあります。

 『腸を鍛える』 序章 より 光岡知足:著 祥伝社:刊

 栄養バランスが大事だという話はよく耳にしますが、本当に大事なのは腸内細菌のバランスです。
 光岡先生は、善玉菌が全体の2割に達すると、良好な健康状態が保てると述べています。

 善玉菌の中でも、特に重要なのが、「ビフィズス菌」です。
 ビフィズス菌は、乳酸菌の一種で、さまざまな乳酸菌のなかで、ヒトの腸内で優勢になるのはビフィズス菌のみとのこと。
 光岡先生は、長年の研究から、ビフィズス菌が一定の割合で棲息していると、腸内環境が良好な状態に保たれることを突き止めました。

 本書は、腸内でのビフィズス菌の働きを説明し、ビフィズス菌を増やすことで腸内環境を改善する方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「善玉菌」を増やすことのメリット


 光岡先生は、善玉菌(=ビフィズス菌)の働き、それらを増やすことのメリットについて以下のように説明しています。

 ビフィズス菌が腸内フローラの2割を占めていれば、pH(水素イオン指数のこと。7で中性、それより大きければアルカリ性、7未満で酸性)が酸性に保たれ、腸の健康状態が良好に保たれることは説明しましたが、実はこの菌が増えることのメリットはそれだけではありません。
 ひとつは腸の蠕動(ぜんどう)運動(腸の平滑筋が動くことで、腸内の食べ物を移動させる)がうながされ、便通がよくなります。ビフィズス菌の多い腸のほうがお通じはスムーズなのです。
 また、ビフィズス菌には、ビタミンB群、ビタミンK、葉酸(ようさん)などさまざまな種類のビタミンを合成する働きもあります。
 ビタミンB群(B1、B2、B6、B12など)は、エネルギーの代謝に必要不可欠な栄養素として知られています。たとえば、米を精製して白米にすると、このうちのビタミンB1が不足し、せっかく摂取した糖質を効率よくエネルギーに変えられなくなります。こうした状態が慢性化することで引き起こされるのが脚気(かっけ)で、日本では江戸時代から戦前にかけて多くの人がこの病気に悩まされてきました。
 エネルギー代謝がうまくいかなくなるため、倦怠感(けんたいかん)、むくみ、食欲不振などが表われ、ひどい場合は心不全を起こしますが、ここで注目したいのは、穀類(こくるい)を精製することのデメリットです。
 穀類を精製すると食物繊維が失われますから、精製したものばかり食べていると腸の蠕動が低下し、腸内の腐敗が進みます。そうした環境ではビフィズス菌は繁殖しませんから、ビタミンB群も合成されません。
 これに対して、大豆や野菜を菌の力によって発酵させると、その過程でビタミンやアミノ酸などが生み出され、栄養が増します。味噌や納豆、ぬか漬けなど、そのようにして作られた発酵食品を日常的に摂っていれば、腸内でビフィズス菌が増殖しやすくなり、腸内フローラが安定します。
 もちろん、ここでもビタミン類が合成されますから、糖質のエネルギー代謝にもプラスに働くでしょう。

 『腸を鍛える』 第1章 より 光岡知足:著 祥伝社:刊

 玄米、それに味噌や納豆、ぬか漬け。
 伝統的な日本食には、腸内環境を改善し、健康を守る知恵が詰まっていたのですね。
 日本人の平均年齢が世界トップレベルなのも、うなずける話です。

「腸内細菌」と「加齢」


 光岡先生は、腸内細菌の割合は年齢によって変化すると述べています。

 善玉菌であるビフィズス菌は赤ちゃんの頃がもっとも多いのですが、ビフィズス菌の増殖が始まるのは生後3日目あたりからです。この世に生(せい)を享(う)け、外界(がいかい)の空気に触れることで、腸内の酸素量が一気に増え、最初は大腸菌や腸球菌のような好気性細菌が増えていきます。
 そして、これらの菌が酸素を消費していくにつれて、腸内は次第に嫌気性の環境になり、ビフィズス菌の大増殖が始まります。4〜7日目には、便1グラムあたり1000〜1000億個にも達するようになり、腸内細菌の実に95パーセントを占めるまでになります。
 こうしたビフィズス菌が最優勢な状態は、離乳の時期まで続き、その後、食事の摂取と共に徐々に日和見菌が増えていくことで、ビフィズス菌の割合は2割程度に落ち着くようになります。もちろん、2割と言ってもかなりの数ですから、ビフィズス菌が腸内フローラの優勢菌のひとつであることに変わりはありません。
 この割合がキープできるかぎり、悪玉菌(大腸菌、ウェルシュ菌)の増殖はかなり抑えることができ、腸内フローラを健康な状態に保てますが、注意しなければならないのは中年期以降です。
 離乳の時期からずっと横ばいであったビフィズス菌の割合が、老年期に向かうにつれ減少していき、悪玉菌と逆転するケースも出てくるからです(図表2)。
 前章でも触れたように、食生活をおろそかにしていると、中年期以降に腸内腐敗が進み、体はどんどん老化します。「加齢と共に悪玉菌が増える」という体のしくみを理解し、「腸を元気にする食事」を取り入れていくことが健康長寿のカギになるのです。

 『腸を鍛える』 第2章 より 光岡知足:著 祥伝社:刊

腸内フローラの年代別変化 第2章P61
図表2.腸内フローラの年代別変化 (『腸を鍛える』 第2章 より抜粋)


 よく、「老化は腸から始まる」といわれます。
 その理由は、歳とともに腸内の善玉菌と悪玉菌の比率が変化するから。

「加齢と共に悪玉菌が増える」

 この事実を忘れず、日々の食生活に気を配りたいものですね。

ビフィズス菌のエサになる「オリゴ糖」


 最近の研究により、乳酸菌を取り入れるだけ、腸管免疫が活性化することが確かめられています。
 つまり、乳酸菌が生きた状態で大腸まで届かなくても、腸内環境を整える効果があるということ。

 光岡先生は、「生きた菌」より「エサ」を摂取したほうが、腸内フローラの改善はスムーズに進むと述べています。

 腸内のビフィズス菌の「エサ」として有効なもののひとつが、「オリゴ糖」です。

 いっぽう、オリゴ糖にはビフィズス菌のえさになることで、腸内フローラを改善させる働きがあります。しかし、さまざまな糖類のなかで、なぜオリゴ糖だけがそうした性質を持っているのでしょうか?
 この点について理解するには、炭水化物の性質をまず理解する必要があります。炭水化物は、結びついている糖の数によって単糖類(たんとうるい)、少糖類(しょうとうるい)、多糖類(たとうるい)に分けられますが、オリゴ糖は少糖類に属しています。
 少糖類にはショ糖(いわゆる砂糖)、麦芽糖、乳糖も含まれますが、これらはふたつの糖(果糖とブドウ糖)が結びついた二糖類であり、オリゴ糖は3〜10個の糖が結びついているため、厳密には種類が違います。
 二糖類は腸内ですぐに単糖に分解され、吸収されていくため、あまり摂りすぎると高血糖のリスクが高まります。しかし、おもしろいことに、3〜10個のオリゴ糖になるとほとんど吸収されなくなります。
 たとえば、乳果オリゴ糖は、胃酸によって1.5パーセント、小腸の粘膜にある酵素によって5パーセントしか分解されません。つまり、摂取しても90パーセント以上は消化・吸収されず、これがビフィズス菌のエサになるのです。
 糖ですから甘味はあるのですが、当然、高血糖のリスクもほとんどなく、しかも砂糖の半分くらいのカロリーしかありません。
 ちなみに、ご飯などに含まれるでんぷんは多糖類の仲間で、200〜300個も糖が結合しているため、消化に時間がかかり、そのぶん、腸の蠕動(ぜんどう)がうながされることで、便通が改善されやすくなります。
 また、食物繊維は同じ多糖類の仲間ですが、こちらは3000〜50万個もの糖が結合しているため、そもそもほとんど消化ができません。でんぷんは唾液に含まれるアミラーゼという酵素によって分解されますが、食物繊維は消化されず、腸内にとどまって蠕動をうながすため、お通じがよくなります。
「消化に悪い」と言うと、あまりよくないイメージがありますが、糖に関してはすぐに消化されてしまう単糖類のほうが体には負担をかけます。ゆっくり消化される糖(でんぷん)、あるいはほとんど消化されない糖(オリゴ糖、食物繊維)のほうが腸内フローラの改善に貢献してくれるのです。

 『腸を鍛える』 第3章 より 光岡知足:著 祥伝社:刊

 普通の砂糖と違い、簡単に分解・吸収されないため、ビフィズス菌の「エサ」になります。
 オリゴ糖や食物繊維のように、①小腸で分解・吸収されない、②大腸に共生するビフィズス菌の増殖をうながす食品のことを「プレバイオティクス(Prebiotics)」といいます。
 ビフィズス菌と一緒に取り込むことで、効率的な腸内改善を目指したいですね。

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 腸内では、働きや性質の似た菌が集まってコロニー(集落)を形成しています。
「腸内フローラ(腸内細菌叢)」は、これらのコロニーが結びつき、腸内全体でひとつの生態系を形づくったものを指します。

 腸内フローラのバランスを整えることが、健康的な生活の第一歩。
 とはいっても、すべての腸内細菌を入れ替える必要はありません。
 全体の2割を、善玉菌(=ビフィズス菌)にすればいいわけですね。

 腸を鍛えることは、日々の習慣から始まります。
 まずは、普段の食生活から改善し、いつまでも若々しく健康でいたいものです。


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