本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『メディアの仕組み』(池上彰、津田大介)

 お薦めの本の紹介です。
 池上彰さんと津田大介さんの『メディアの仕組み』です。

 池上彰(いけがみ・あきら)さんは、フリーのジャーナリストです。
 NHKに入局し、32年間報道記者としてさまざまな事件、災害、社会問題などを担当されます。
 1994年から11年間は「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、時事の話題を丁寧に噛み砕いた説明は「分かりやすい」と大評判になりましたね。

 津田大介(つだ・だいすけ)さん(@tsuda)は、主にインターネット上を活動の場にしているジャーナリスト、メディア・アクティビスト(メディアを活性化する人という意味)です。
 インターネットやソーシャルメディアと社会の関わりについての記事や著書も多数書かれています。

「未来のメディアの形」はどうなる?

 池上さんは、新聞やテレビなど、「既存メディア」のメインストリートを歩き続けています。

 一方、津田さんは、組織に属さず、独自のジャーナリズムを追求しています。
 津田さんの武器はツイッター、ニコニコ動画などの「新しいネットメディア」です。

 以前は、「既存メディア」と「新しいメディア」はそれぞれ独立し、両者の間には“見えない壁”がありました。
 しかし、IT技術の進歩、スマートフォンやインターネット環境の整備など、メディアを取り巻く状況はここ数年、急激に変わりつつあります。
 
 本書は、テレビ、新聞、ネットを題材とした「これからの時代のメディア論」を対話形式でまとめた一冊です。

 活躍するフィールドも情報発信のスタイルも、まったく対照的な両者が見据える「未来のメディアの形」とはどのようなものなのか。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「3・11」を境にマスメディアの意識が変わった!

 津田さんは、「3・11」がマスコミの意識を変えたと指摘します。

 東日本大震災発生直後の混乱の中、貴重な情報源として、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが大きな存在感を示しました。

「3.11」を境に、NHKや朝日新聞社などの大手マスメディアが、ソーシャルメディアを積極的に取り込んでいく姿勢を示すようになりました。
 新聞社所属記者のツイッター解禁などはその表れです。

池上 昔は、「NHKと朝日新聞がニュースとして取り上げたら、その流行はもう賞味期限が切れているんだ」と言われたものですが(笑)。実は私も一人の記者として、記者がソーシャルメディアを使う意味についてずっと考えてきたんです。結局、津田さんも雑誌や本に書いているけれど、工夫次第で「新しい情報」を集めることができるということですよね。

津田 そうですね。ソーシャルメディア上にある発言を「ネタ元」として使うということです。

池上 旧来型の記者であれば、「ツイッターで集めるなんてとんでもない。記者は自分の足を使って情報を取ってくるもんだ」と考えてしまうところです。もちろん、「現場に足を運ぶ」というのは間違いなく重要なことですが、現場にいる人がツイッターやフェイスブックに何かを書き込んでいるのであれば、それは十分にネタ元になる。というより積極的に拾っていかなければならないネタだということでしょう。そのことに、3・11を通じて、マスメディアもやっと気づいた、ということですね。

 『メディアの仕組み』 第一章 より 池上彰、津田大介:著 夜間飛行:刊

 ツイッターなどのソーシャルメディアは、誰でも気軽に発信できます。
 しかし、情報の信頼度という点で既存のメディアにかなわない部分もあります。

 ただ、投稿した記事がすぐに他の人の目に触れる、スピード感は魅力です。
 これからの時代、個人レベルでも、情報源としての両者の使い分けが重要になりますね。

新聞の未来のかたち

 津田さんが、「ここに新聞の未来のかたちがあるのかもしれない」と注目しているのが、読売新聞の「ヨミダス文書館」です。

「ヨミダス文書館」は、月額1575円を払うと、1986年から今現在までの読売新聞の過去記事などを全文検索できるサービスです。

津田(前略)
僕はこのサービスは、単なる過去記事販売サービスで終わるものではないと思っているんです。むしろ「これからの新聞のかたち」があるとすら思っています。つまり、これからの新聞はすべて、データベースとして販売すればいいのではないかということですね。
 紙の新聞であれ、電子の新聞であれ、従来のように「新聞のレイアウト」に押し込めて、ある種の「読み物」として売るのではなくて、徹底的にデータベースとして売る。サイトのデザインにヘタに凝る必要もない。シンプルに月500円を支払ってもらえれば、全文を検索できて、該当記事を読むことができるというサービスを提供すれば、十分にペイする気がします。500円しか払っていない人は「検索は月50回まで」と制限をかけて、月に1500円払えば、何回でも検索できるといった階段状の価格設定にしてもよいかもしれません。
 これは新聞社にしか作れない価値あるデータベースだと思います。データベースなんて作らなくても、グーグルで検索をすればいいじゃないか、という人もいるかもしれません。でも実は、データベース検索として最近のグーグルはあまり使い勝手の良いものでは無くなってきているんです。昔のグーグルは、時間の経過についてはあまり考慮せずに、「良い情報は検索の上位に来る」というアルゴリズムを追求していました。たとえそれが、五年前にアップされた情報であっても、昨日アップされた情報よりも情報として優れていると認識されれば、上位に来た。でも、今はそうではないんです。とにかく新しい情報やブログ、ソーシャルメディアの情報しか上位に来ない。

 『メディアの仕組み』 第二章 より 池上彰、津田大介:著 夜間飛行:刊

 情報の量、そして質においても、新聞ほど役に立つデータベースはありません。

 新聞は、今後、過去に蓄えた膨大な情報を提供する「ストック型」のメディアとしての価値を高めていくのでしょう。

勝手に「入っていくる情報」が大事

 情報とうまく付き合える力を身に付けるには、自分が調べたいことだけを能動的に調べていくだけでなく、「勝手に入ってくる情報=ノイズ」が重要です。

池上 私が新聞を今でも薦めている理由は、実はここにあるんです。新聞のレイアウトだと、自分が読みたい記事を探しているうちに、その横に、全然違う話がどうしても目に入ってくる。それが面白い。自分の知りたかった情報とは別に「へえ、そんなことがあるのか」と学べる確率が高いからこそ、私は新聞を毎日開くことにしているんです。

津田 それは、すべてネットで買える時代になっているのに、わざわざ本屋へ行くのも同じですよね。目的の本の隣に、面白そうな本を見つけて、つい一緒に買ってしまう。そして目的の本よりも、その偶然買った本から重要な情報を得たりする。つまり、僕らはつい分かったつもりになって「この情報を得るためには、ここにアクセスすればいい」とか語ってしまうわけですが、それは間違いなんですよね。

池上 そうです。「これが正しい情報だ」なんてすぐにわかる人なんていないんです。「正しい情報」と「間違った情報」を瞬時に切り分ける能力ではなくて、「実は分かっていないんじゃないか」という恐れを持つこと。それが、メディア・リテラシーなんだと思います。

 『メディアの仕組み』 第三章 より 池上彰、津田大介:著 夜間飛行:刊

 インターネットは、自分の知りたい情報を自ら探すには、とても便利な道具です。
 裏を返せば、自分が興味や関心のないことをシャットアウトしてしまいます。

「分かったつもり」になってしまう危険性があるということ。
「実は分かっていないんじゃないか」という恐れをもつこと。

 情報があふれている現代だからこそ、忘れないようにしたいですね。

「わかりやすい説明法」の秘訣は?

 これまでも多くのメディアで、世の中の幅広いテーマを取り上げてきた池上さん。
 これからも「今の世の中のこと」を一人でも多くの人に分かりやすく伝えていきたいとのこと。

池上(前略)「今の世の中はどうなっているのか?」を読み解くために、政治の仕組みを解説することもあれば、経済の仕組みを解説することもある。あるいは「現代史」という言い方で括ることもできるかもしれません。「今の世の中」の仕組みを知るのにとても効果的なのは、少し前の時代のことを知ることです。
 例えば、2008年のリーマン・ショックが起きた時に、「100年に一度の世界の大危機」と言われました。その時に、「まさに約100年前にも『世界恐慌』と呼ばれることが起きたんだよ。1929年の10月28日、通称『ブラックマンデー』にニューヨーク市場で株が暴落した。それが世界的な恐慌にまで広がって、最終的には戦争にまで発展していった」ということを解説するわけです。そして、「恐慌というのはどこかで株が暴落したからといって、すぐに世界的な不況になるわけではない。1929年のときも、ニューヨーク市場での株の暴落を受けて、その後の対応に誤りがあったからこそ、取り返しがつかない状況にまで追い込まれた。当時、どのような失敗をしたのかを学べば、現代における恐慌を切り抜けるヒントがあるかもしれない」といった話をする。
 私自身がついつい、そういうふうに物事を考えてしまうんです。そして、それが「わかりやすい説明法」にもつながって、一つの仕事として成立してきたのかなと思っています。

 『メディアの仕組み』 第四章 より 池上彰、津田大介:著 夜間飛行:刊

 私たちは問題の背景を知ろうとせずに、表面的に解釈する傾向があります。

 今起きている事象の根本の原因まで遡(さかのぼ)り、とことん突き詰めて理解すること。
 池上さんのわかりやすい説明は、そんな飽くなき探究心から生まれています。

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 本書からは、「メディアの力で社会を良くしていきたい」という、お二人の強い意欲を感じました。

 専門用語や分かりにくい単語の注釈が多くつけられています。
 それらを読めば、誰でも内容を理解できる親切な作りになっているのがうれしいですね。

 注釈を巻末ではなく各章の最後に載せているのも、「読みやすさ」を追求してのことでしょう。
「明日のメディア」だけでなく、お二人の情報を伝えることへの飽くなき情熱がひしひしと伝わってくる一冊です。

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