本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『AIとBIはいかに人間を変えるのか』(波頭亮)

 お薦めの本の紹介です。
 波頭亮さんの『AIとBIはいかに人間を変えるのか』です。

 波頭亮(はとう・りょう)さんは、経営戦略コンサルタントです。

「AI」と「BI」が、世の中を根底から覆す!

「AI」と「BI」。
 近年、あちこちで見聞きするようになった、大きな2つのテーマです。

 AIとは、「人工知能」のこと。
 BIとは、「ベーシック・インカム」のことで、国民全員に生活できるだけの現金を無条件で給付する制度のこと。

 波頭さんは、AIとBIはどちらも現状の世の中を根底から覆してしまう可能性を持っていると指摘します。

 AIもBIも、ウォークマンやスマートフォンの発明で人々の生活が便利になったり、生活保護の制度によって貧困や格差の問題が緩和したりするのとはケタ違いのマグニチュードで社会に大きなインパクトを与える可能性を持っているのだ。今の時点でのAIは、まだ我々の生活や社会の仕組みに対して大きなインパクトをもたらすほどのレベルにはなっていないが、AIが全ての知的活動において人間を凌駕(りょうが)するシンギュラリティの到来までわずか30年ほどだという予測もある。またBIについても、フィンランドだけでなくオランダやカナダでも社会実験の取り組みがなされているように、本格的な検討の動きが世界の国々に広がりを見せている。場合によってはシンギュラリティの到来よりもずっと早い時点で、多くの国でBIが採用されるようになっているかもしれない。
 そしてAIが高度に発達した場合にも、BIが実現した場合にも、産業革命の時以上の大きな変化が、経済活動だけでなく社会構造や人々のライフスタイルにももたらされることになる。
 約1000年続いた中世においては、正しきことや善きことは全て神が決め、人々の生活と日常は神の思し召しに従うのが当然のことであった。しかし、ルネサンスによってわずか100年ほどの間に、人間の感情と理性が善きこと・正しきことを決め、感情と理性に従って生きることが真っ当な人生だとみなされるようになるという大転換が起きた。AIとBIはそれまでの社会のあり方を何から何まで覆してしまったルネサンスに匹敵するほどのインパクトをもたらす可能性があるのだ。
 AIとBIのことを多少なりとも知った上で、近未来がどのような世の中になるのかを想像してみると、単に明るい姿だけでなく何となく空恐ろしいような、得体の知れないほどの大変化を予感する人も少なくないだろう。大きな変化はまだ今のところは目に見える形では生じていないが、少なからぬ人々が何となくAIとBIに感じている得体の知れないことの重大さが、近年AIとBIが世の中のあちらこちらで語られるようになってきている本当の理由だと考える。
 ニュースとして取り上げられたきっかけは囲碁でAIが人間に勝ったとか、北欧の一国でBIの導入実験が始まったという小さな出来事であったにもかかわらず、池に落ちた小石の波紋が消えることなく徐々に大きく広がっていくように、AIとBIが日毎に多くの人々の間で語られるようになってきているのは、やがて起きるであろう大インパクトのプレリュードと見なしても良いかもしれない。

『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 まえがき より 波頭亮:著 幻冬舎:刊

 本書は、「AIとBIは世の中をどう変えるか」について分析し、予測される事実をわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

スポンサーリンク
[ad#kiji-naka-1]

「AIに代替される仕事」は?

 現時点でのAIは、最新のものでも、特定の能力に特化して高い性能を誇る「特化型AI」と呼ばれるものです。

 一方、最終的に実現が期待されているのは、「汎用型AI」です。

 汎用型AIは、一つの能力に特化されておらず、様々な場面に臨機応変に対応できるような能力を備えているのが最大の特徴です。

 汎用型AIが実現すれば、1台のコンピュータが人類の知性の総和を上回る。
 いわゆる「シンギュラリティ(技術的特異点)」が起こるのではないかと想定されています。

 ただ、汎用型AIが登場するのは、まだ少し先の話です。
 波頭さんは、当面は特化型AIによって仕事の代替が進んでいくことになると述べています。

 特化型AIは現在人間が担っている定型的情報加工と論理的判断型の仕事を根こそぎ代替してしまう可能性が高い。かつての産業革命で、何トンもある重い荷物を運んだり、岸壁を採掘してトンネルを掘ったりするといった莫大なパワーを要する仕事がほとんど機械によって行われるようになったのと同様である。
 経理作業や単純なプログラミング作業といった比較的定型的な情報処理業務がAIによって代替されるというのは、反論の余地が無いであろう。これに加えて、ある程度高度な判断が求められるデータ分析、金融トレードといったものまで含む多くの知的労働が、今後AIによって代替されていくと言われている。
 すでにAIが取り入れられ始めている例としては、パラリーガル(弁護士助手)の判例・文献検索や、人材採用担当の応募者のレジュメスクリーニング等がある。また、実際に米国の会計士・税理士の需要がこの数年で約8万人減少したり、ゴールドマン・サックス本社のトレーダーがAIの導入によって600人から2人に削減されたりするという事態もすでに起きている。こうした流れが今後ますます加速化していくことは、間違いないと思われる。
 弁護士や金融トレーダーといった高度なインテリジェンスが必要とされるホワイトカラー職の知的労働は、これまでは能力が高い一部の人しか担えないことから常に需要に対して供給が少なく、それ故に高額の報酬と高い社会的評価を得てきた。しかしAIは、そのような仕事で必要とされている大量の専門的知識の学習、知識やインプットデータを基にした分析・推論といった能力を強みとして持っており、その水準は人間の比ではない。
 つまり、単純で多くの人員を必要とする経理作業やプログラミング作業は、作業効率が圧倒的に高いという理由からAIに取って代わられる一方で、高レベルの知的プロフェッショナル職はその報酬額が極めて高いことから、AIを導入したほうがコスト的に安くつくのでリプレイスされるのである。
 このように、単純な情報処理作業と、高額な報酬を得ている知的プロフェッショナル職の両面から、多くの知的労働がAIに代替されていくというのが必然の流れであろう。かつて機械がブルーカラー職の労働をリプレイスしていったように、AIがホワイトカラー職の知的労働を確実に奪っていき、仕事の「AI化」が第四次産業革命を引き起こすことになるのである。

『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 第Ⅰ章 より 波頭亮:著 幻冬舎:刊

図1 AIの発展によって起こる労働市場の変化 AIとBI 第Ⅰ章
図1.AIの発展によって起こる労働市場の変化
(『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 第Ⅰ章 より抜粋)

 記憶力や頭の回転の速さ、検索力、数学的思考能力。

 これら「頭がいい」ことの象徴とされてきた要素は、実はAIが得意とする分野です。

 AIの普及は、それをすべて変えてしまいます。
 まさに、私たちの価値観を根底からひっくり返す大革命ですね。

BIは、企業・産業界も活性化させる

 BIの特徴は、以下の4つです。

  1. 無条件給付である(受給のための条件や、年齢・性別・疾病の有無・就業状況等の制約が無い)
  2. 全国民に一律で給付される
  3. 最低限の生活を営むに足る額の現金給付である
  4. 受給期間に制限が無く永続的である

 BIは、社会的弱者を支援する社会保障制度として優れているだけではありません。

 波頭さんは、国民経済を活性化させる機能も持つと指摘します。

 BIを導入することのメリットの一つ。
 それは、これまで企業や産業界が担っていた従業員に対するセーフティネットを、BIという国の制度によって代替・補完できることです。

 日本企業は社会保険料の負担だけでなく、従業員に一生雇用を保証する終身雇用や、家族にお金がかかるようになるのに合わせて給料が上がっていく年功序列制度、更に社宅や持家支援制度といった様々な福利厚生によって、日本人の生活の安心と安定を担ってきた。高度経済成長期にあっては、企業の売上高も利益も右肩上がりで成長していたため、こうした従業員に対する手厚い処遇は要員確保のためにも合理的であった。
 しかし高度経済成長期が終わり、経済が停滞するとともに激烈な競争が始まると、手厚い処遇や解雇規制は日本企業の環境変化への対応やコスト削減の足かせとなってきた。
 事業環境の変化に対応して、旧来の事業をたたんで新しい成長分野へ進出しようとしても、従業員の解雇が法律で厳しく制限されていたために実行することが難しかった。かといって旧来の事業に携わっていた従業員を新しい分野で活用しようとしても、現実問題としてそれも難しい。それまで繊維業の工場で働いていた従業員にシステムインテグレーションの業務を担ってもらおうとしても、それまで鋳物工場で職人をやっていた人に画像解析の研究をやってもらおうとしても、必要なスキルが全く違い、転用が難しいためである。このように従業員解雇の自由を認められていなかったことが、日本企業のダイナミックな戦略展開を阻む一因となっていたのだ。
 しかしBIが導入されれば、仮に職を失ったとしても、企業の従業員のみならず、解雇された人の家族まで最低限度の生活が守られることになる。つまり国民生活の安心と安全を支えるための負担を、企業が負わなくて良くなるのである。解雇規制が外されれば、環境変化に対応して迅速・大胆にリストラを実行することができるようになるし、手厚い福利厚生も軽減することができるので、固定費のコストダウンにもなる。その結果、企業は市場主義的な、自由で柔軟な経営戦略をとれるようになるのである。
 このようにBIは、企業にとっても、市場に対応するために必要な戦略の自由度とコストダウンという大きなメリットをもたらしてくれるのである。そして市場の変化にマッチした経営戦略が可能になれば、日本の産業競争力が上がり、日本経済にとってもプラスとなる。日本経済の成長にも貢献し得るのだ。

『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 第Ⅱ章 より 波頭亮:著 幻冬舎:刊

 日本の会社では、労働組合の力も強く、労働者が簡単に解雇されることはありません。

 労働者の権利が守られているという意味では、素晴らしいです。
 ただ、「雇用の流動性」や「産業構造の改革」という点では、大きなマイナスです。

 BIは、低迷する日本経済の起爆剤となる破壊力を秘めています。

格差解消に不可欠な「資産課税」

 BI導入のために解決すべき課題のひとつが、「財源をどうするのか?」です。

 その解決策となり得るのが、資産税、相続税、所得税における累進課税です。

 BIによって解決すべき最大の問題は、「経済格差」です。
 経済格差は、所得格差より資産格差によるところが大きいです。

 波頭さんは、格差の解消のためには、まず資産に対して課税を行うことが必要だと指摘します。

 実は日本は、欧米諸国と比較して資産5000万ドル以上の超富裕層に属する人は少ない。その一方で、資産100万ドル以上の富裕層は約430万人のアメリカ人に次いで約245万人もおり、世界で第2位である。しかも、国の総人口に占める保有資産100万ドル以上の富裕層の比率では、アメリカを上回って世界第1位なのである。このように、日本は大金持ちは多くないものの、そこそこのお金持ちが多数存在している、富裕層が多い国と言えるのである。
 現行の資産に対する課税としては、土地などの固定資産に対しては標準で1.4%の税率が定められているものの、金融資産に対しては全く課税されていない。金融資産の格差こそ現在の格差問題の最大の原因であることを考えると、これは合理的な税体系とは言えない。
 家計の金融資産残高は年々伸び続けており、2017年6月末時点で1832兆円と過去最高額である。これに対して固定資産と同様の1.4%の課税を行うようにすれば25.6兆円の税収増になるし、企業の金融資産に1166兆円にも同様に課税すれば16.3兆円の税収増になる。家計と企業の金融資産に対して固定資産と同じように1.4%課税することで、計41.9兆円もの税収が見込めるのである。
 ただし、土地は供給が限られている特別な資産だからこそ固定資産税を課しているのであって、金融資産は土地と比べて供給の制限性や希少性が低いので同等の税率を課すのは妥当ではないと考える向きもあるかもしれない。そうであれば、税率を土地と同じ1.4%ではなく1.0%とするのでも良いだろう。その場合の金融資産税の歳入額は29.9兆円になる。
 いずれにせよ、格差を解消するための再分配策として富裕層から低所得層への富を移転するという基本スタンスは外すべきではない。そして現在の深刻な格差を生んでいる根源的要因は資産格差であり、資産格差の主たる部分を成しているのが金融資産なのであるから、金融資産課税を避けるべきではない。金融資産課税は規模の観点から見ても有力な財源であり、格差解消の方法としても最も有効なのである。

『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 第Ⅱ章 より 波頭亮:著 幻冬舎:刊

図2 運用資産100万ドル以上保有者の国際比較 2014年 AIとBI 第Ⅱ章
図2.運用資産100万ドル以上保有者の国際比較(2014年)
(『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 第Ⅱ章 より抜粋)

 所有している貯金や株式に、税金がかかる。
 そう考えると、資産税に反対する人は、多いかもしれません。

 ただ、「多くの金融資産を持っている人が多くの税金を払う」というのは、かなり公平な制度です。

 また、BIによって、日々の生活の不安が解消されれば、もしものときの備えは少なくて済みます。

 BIと資産課税のセット導入は、可能性のある現実的な制度ではないでしょうか。

“新しいステージ”の3つの歴史的成果

 大きな技術発明は、社会形態や社会規範の刷新を引き起こします。
 波頭さんは、AIとBIによって我々人類はこれから歴史的に“新しいステージ”に立つことになると指摘します。

 “新しいステージ”の社会基盤を成す価値観。
 それは、「働かなくても、食って良し」という理念です。

 そしてこの理念によって支えられる、人類にとって“新しいステージ”の社会とはどのような特徴を持つのかについて整理してみよう。
 人類にとって歴史的成果とも言えるほどの重要な特徴は3つある。
 まず第一の特徴は、繰り返し指摘してきたことではあるが、AIを活用することで実現する圧倒的な生産性向上によって、第一次・第二次産業革命以上のインパクトで経済的産出量が拡大することである。つまり、誰もが生きていくための必需には何ら不自由しないで済むだけの財貨が極めて効率的に生み出されるようになる。
 第二の特徴は、これからAIとBIによってもたらされるであろう“新しいステージ”の社会は、民主主義が名実ともに完成された社会であるということである。20世紀中盤くらいまでに貧富、男女の別なく普通選挙の権利が与えられ、民主主義の必要条件とも言える政治的な平等は実現したが、格差と貧困問題によって現実的な平等は達成されないままであった。これに対し、BIを導入することによって国民全員に生活/就労における現実的な選択肢が与えられることになり、民主主義社会の十分条件とも言える経済的な機会の平等も整えられることになる。人類が18世紀、19世紀の市民革命以来ずっと追求してきた自由と平等を是とする民主主義社会が、BIによって十全な形で完成することになるのである。
 そして第三の特徴は、AIとBIによって人間が生きるために働くことから解放されて、生きるための労働以外の活動を行うために生きる社会になるということである。この第三の特徴こそが、これから到来する社会が歴史的に“新しいステージ”であることの核心である。
 これまでの人類の歴史では、一部の貴族や聖職者、地主や資本家の中には、食うための労働、生きるための仕事に携わらないで済んだ者も存在したが、そうした条件にある者はごくわずかであった。そして、農民、労働者等、社会を構成する大多数の庶民は生まれてから死ぬまで食うための労働、生きるための仕事に縛りつけられて人生を送った。21世気に入った現代においても、余暇を楽しむ時間の余裕は得られたものの、やはり多くの人は食うため、生きるための労働に携わっている。
 こうした歴史に対し、これからAIが発達し広く活用されるようになると、人間が食うため、生きるための労働はほとんど全てAIが担うようになる。そういう状況においては、人間は生きるための労働ではなく純粋に豊かさを求める活動に従事することができるようになる。これは人類の生き方として、歴史的大転換であると言えよう。
 以上、3つの特徴を持った新しいステージの社会が近未来に到来する。

『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 第Ⅲ章 より 波頭亮:著 幻冬舎:刊

図3 新しいステージ の3つの特徴 AIとBI 第Ⅲ章 jpg
図3.“新しいステージ”の3つの特徴
(『AIとBIはいかに人間を変えるのか』 第Ⅲ章 より抜粋)

 AIがもたらしてくれる圧倒的に高い生産力により、必要とする財貨が十分に産出される。
 BIのシステムにより、それらが全国民に行き渡り、最低限の生活が保証される。

「働かざるもの食うべからず」

 古今東西で信じられてきた信念が、技術の進歩によって崩される日が来るのですね。

 波頭さんは、一人一人の自由と平等が担保されている社会が30年〜50年先には実現する可能性が、現実的に今あると述べています。

スポンサーリンク
[ad#kiji-shita-1]
☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 AIとBIが生きるための糧を保証し、“新しいステージ”が到来したとき。
 私たちには、どのような能力が必要とされるのでしょうか。

 波頭さんは、人が豊かな生活と充実した人生を手に入れるために必要な資質は「やりたいことを見出す能力」だとおっしゃっています。

 生活の不安がなくなった。
 やりたくない仕事をしなくてよくなった。

 それだけでは、人は幸せを感じることはできません。

 金銭的にも、時間的にも、今までと比較にならない余裕ができる。
 だからこそ、「生きがい」や「充実感」といったものが、より大切になってくるということですね。

 AIとBIが切り開く、近未来の日本社会。
 ぜひ、皆さんも、本書を片手に覗いてみてはいかがでしょうか。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ(←気に入ってもらえたら、左のボタンを押して頂けると嬉しいです)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です