【書評】『勝つための確率思考』(木原直哉)

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 お薦めの本の紹介です。
 木原直哉さんの『東大卒ポーカー王者が教える勝つための確率思考』です。

 木原直哉(きはら・なおや)さんは、プロのポーカープレーヤーです。
 2012年の世界ポーカー選手権(WSOP)で、日本人として初めて優勝を果たされました。

ポーカーは「ギャンブル」ではなく「ビジネス」である


 日本では、ポーカーはマイナーなカードゲームであり、ギャンブルの一種として捉えられています。
 しかし、本場の米国では、ポーカーは知的スポーツ、“頭脳の格闘技”として受け止められています。

 日本の囲碁や将棋の何倍もの人気があり、大きな大会はテレビ中継もされています。
 どちらかというと、プロスポーツのカテゴリーに近い感じとのこと。

 世界ポーカー選手権(WSOP)は、決して賭場ではありません。
 木原さん自身も、ギャンブラーという自覚は一切ないと述べています。

 ポーカーがギャンブルではない理由は、「期待値に従ってプレーしているから」です。
 期待値とは、あることを試行したとき、その結果として得られる数値の平均値のこと。

 例えば、サイコロのある目の出る期待値は、1/6です。
 ポーカーでは、掛け金に対して戻ってくる「見込みの額」を表したものをいいます。

 プロは、基本的に勝てそうにない勝負はしません。
リスクが大きすぎる割に、期待できるリターンが少なければ長期的に必ず損をするからです。

 どんな状況でも冷静に、最善の判断を下すことができるか。
 それが勝負の分かれ目になります。

 感情に流されず、常に最も確率の高い判断を下し続けることが成功への道である。
 これは、ポーカーに限らず、通常のビジネスにも通用する考え方ですね。

 本書は、プロポーカープレイヤーとしてのものの見方や考え方を、ビジネスや普段の生活でも使えるようにテーマごとにまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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リスクマネジメントは「どう生きるか」とほぼ同じ


 世の中の事象は、「じゃんけん」などと違い、複雑で期待値が見えにくいです。

 そのなかで、リスクやリターンを合理的に考えて行動するには、どうしたらいいのか。
 木原さんは、それを「東京から大阪に自腹で移動する手段」を例に挙げて説明しています。

 新幹線と高速バスのどちらかを選択する場合、多くの人は、時間とお金、快適さなどのバランスで両者を判断するのが一般的です。

 木原さんは、新幹線ではなく高速バスに乗る人は、その段階で「リスクをとっている」と指摘しています。
 新幹線は50年近い歴史の中で一度も乗客の事故死がありません。 

 それに対して、高速バスは他の自動車とともに道路を走ります。
 ですから、交通事故死のリスク(2012年実績で約4400人/年)が存在します。

 自分の行動に付随しているリスクとリターンを把握し、自らマネジメントしているかどうかが問題となります。

 問題は、どのくらいのリスクを負って何をとりにいくかを明確にすること。それが、自分の考えるリスクマネジメントです。
 もっと皆さんにも身近な例を告白しますと、自分は海外に遠征に出掛けた際、基本的には空港からはタクシーを頼んでホテルに直行し、会場のホテルにできる限り泊まり、食事や買い物など、滞在中に必要となる用事はできる限りホテルの中で済ませ、帰るときはホテルから空港に直行して帰国します。ちょっと気晴らしに散歩したりとか、観光しに出掛けたりといったことは、基本的にしません。
 というのも、もともと観光が個人的に好きではないこともありますが、あくまで自分はその場所にポーカーをプレーしに来ているからです。プレーに何のリターンももたらさない、つまりまったく不要なリスクを、観光のためにとる合理性はないと考えているからです。
(中略)
 できるだけリスクはとらないに越したことはありませんが、一方でリスクをまったくとらずに生きることも不可能です。たとえ日本のようによく知っている街を必要に応じて歩いていても、ごく小さな確率とはいえ、何の落ち度もなく犯罪に巻き込まれたり、クルマに轢(ひ)かれたりするリスクを負っています。生まれた以上、病気になるリスクは常にあるし、そもそも人間はいつかは必ず死んでしまう。すべてのリスクを拒絶することなど誰にもできません。
 どのくらいのリスクをとり、どの程度のリターンを期待するかは、その人次第です。繰り返しますが、問題は、「そこにリスクとリターンが存在していることを知っていて、自分で管理しているかどうか」なのです。
 そして、それはほとんど「どう生きるか」と同じなのです。

 『勝つための確率思考』 第1章 より 木原直哉:著 中経出版:刊

「新幹線」と「高速バス」。
 どちらに乗っても、一回だけでは、命を危険にさらす事故に巻き込まれないでしょう。
 ただ、何十回、何百回と繰り返された場合、両者のリスクの差はどんどん広がります。

 乗り物の選択だけでなく、日常のすべてのことは同様に考えられます。

「命を危険にさらすリスクをいかに減らすか」
 その視点で、食事や仕事、趣味などを判断すると、今までと違う選択になりますね。

お金を現在の水準だけで考えない


 お金の使い方にも、「リスク」は存在します。
「その人にとってのお金の価値は、年齢によっても変わってくる」からです。

 つまり、小さいころの1000円、1万円の価値は、いまの自分にとっての1000円、1万円とは大きく異なっているということ。

 それを踏まえて、木原さんは、以下のようなアドバイスを述べています。

 お金の価値は、現在の水準だけで考えないようにすべきということです。やりたいことがある、チャレンジしてみたいことがあるならば、将来の自分の価値が今より向上することを目指す行為であり、それがうまくいけば、いま貯めているお金の価値は確実に下がっていきます。
 つまり将来成長した後の1万円の価値は、いまの自分にとっての5000円くらいになるかもしれませんし、1000円になってしまうかもしれないのです。
 逆のアプローチもできます。お金の節約そのものが趣味で楽しいのなら話は別ですが、ただ将来の漠然とした不安のためにお金を貯める行為は、少し厳しい言い方をすると、自分自身の価値が将来向上することを信じ切れていないということでもあります。
 なぜなら、現在の1万円の価値が将来も同じか、それ以上になっているという見通しにとらわれ、あるいは恐怖感にとらわれ、現在の1万円を使うことができないと考えられるからです。そのために、もしかしたら将来何倍にもなるかもしれない自分の価値を、自ら見放してしまっているということはないでしょうか?
 何をするかはもちろんその人次第ですが、自分は、将来の自分が感じるだろうお金の価値が、いまよりも減っているほうが基本的には幸せだと考えます。いまのお金の価値が高いと考えているのなら、むしろ将来のために、価値が高いうちに、興味の向くこと、好きなことに使ってしまったほうがいいと思います。
 もし節約するために頭を働かせているのなら、二重にもったいないことです。その思考能力とお金の両方を、将来の自分の価値を向上させる方向に振り向けたほうが、きっと楽しい、幸福な人生が開けるようにするのです。

 『勝つための確率思考』 第3章 より 木原直哉:著 中経出版:刊

 収入や持っている資産の額が大きくなればなるほど、同じ金額の価値が相対的に小さく感じます。
 経済的に厳しい状況では、1万円の出費は大きく感じます。

 ただ、そのときに考えるべきことは、1万円を「使わないリスク」
 経験は、お金で買えない貴重なものです。

 今、1万円を払うことで得られるであろう経験。
 将来、それ以上の価値となる「期待値」。

 両者をしっかり秤にかけてから決断した方がいいということですね。

「楽しい努力」こそが正しい


「努力すること」にも、もちろんリスクはあります。
 必死に頑張った分の見返りが得られない、努力の結果が現れないというリスクです。

 木原さんは、「辛い努力」などしないほうがいいと考えています。
 楽しい努力ほどリスクが少なく、苦しい努力、辛い努力ほどリスクが大きくなるからです。

(前略)努力は楽しくあるべきですし、人から努力と見られるようなことが楽しいと感じられるのなら、自分に向いている、あるいは自分にはその才能があると判断できるひとつの材料になるのではないでしょうか。辛いと思っている以上おそらく向いておらず、幸せに思っているときほど実力も伸びません。
 一流のスポーツ選手はスポーツが楽しく、一流の学者は学問が楽しい。バッターが体だけで反応してホームランを放つ瞬間、あるいは数学者が誰も解いたことのない問題のヒントをつかんだ瞬間は、快感とか快楽に近く、そのときの興奮や陶酔を忘れられないからこそ、もっと気持ちいい方向に向かおうとする自分を止められないのです。
 そのために、1000回バットを振るかもしれませんし、暗闇の中でヒントを思いつけずに悩むかもしれません。その姿が、人の目には苦しい努力の日々に見えてしまう。しかし本人は、何ものにも代えられない快楽が待っているからこそ、実は楽しいはずなのです。だから自分も、ポーカーと、その実力向上のためにしているあらゆることが楽しいと思えているうちは大丈夫ですし、苦しいと思えばそれまでです。
 努力が楽しければそれでよく、また楽しい努力こそが正しいのです。

 『勝つための確率思考』 第4章 より 木原直哉:著 中経出版:刊

 やりたいこと、楽しいことをする努力のほうが、そうでない努力よりも実力がつきやすいです。
 そのため、結果に結びつきやすいのは間違いありません。
 つまり、「期待値が高い」ということですね。

「楽しい努力」は、それ自体が大きな“リターン”となります。
 たとえ見込んだ結果に到達できなくても、それなりの満足感、充実感が得られると想定できます。
 これも、大きなリスク回避ですね。

つねに「合理的思考」で判断する


 自分がどんな才能を持って生まれるかは、“運”以外の何ものでもありません。
 そんな不公平な世の中で生き残っていくための秘訣はあるのでしょうか。

 木原さんにとっての成功への「不変の哲学」はリスクに見合う範囲で期待値が最大になる行動を常にとることです。

 非合理的なこだわりを持っているとして、それを非合理的だと分かった上でこだわるなら良いのですが、もしそうでないのなら、そのこだわりを一度じっくり考え直してみるのが良いでしょう。
 合理的ではない発想で自分を縛りつけたり、人目を気にしてやせ我慢をしたりしているのは、ほとんど最悪に近いと思います。
 学校や会社を辞めるべきか?
 好きなことを仕事にして続けるべきか?
 それは趣味にして普通に就職するべきか?
 これらは客観的に見ると、お金がなければ継続できない人生というゲームをプレーし続ける人が、どうすればもっとも効率よくそのゲームをできるか、ということです。
 日本では、最初に入った会社に忠誠を尽くし、定年まで勤め上げるのが良いことであるという文化が長く続いていました。いまでもそのことにこだわるのは良いですが、無思考でそれが良いことと思い込むのはいかがなものでしょうか。
 会社を辞めたければ辞めればいいのです。ただその行動が、長期的に自分の幸福を最大化できるかどうかを考えればいいだけなのです。就職しないなんて真っ当な人生ではない、という発想に縛られることもないし、他の目標のために好きでもない仕事をしている自分を恥じる必要もありません。
 そして、ゲームの局面どころか、ルールでさえ、時々変化を見せます。何をすればもっとも期待値が高くなるのかが変わってしまったのなら、プレーも変えてしまって全然問題ありません(年功序列から実力制へ移行したことで転職するなど)し、むしろそういうことを視野に入れてしっかり考えるほうがいいのです。

 『勝つための確率思考』 第5章 より 木原直哉:著 中経出版:刊

 私たちの判断を鈍らせる、最も大きな要因のひとつが「不安」の感情です。

 今の人生と理想の人生を不安というバイアスを取り除いて将来を見通す。
 そのとき、どちらの人生が「期待値」が高いのかをしっかり考え直すこと。

 一度きりの人生です。
 後悔しないためにも、感情に左右されず、冷静な決断を下したいですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 木原さんのもっとも好きな言葉は、「人事を尽くして天命を待つ」です。

 努力が必ずしも、結果に結びつくこととは言い切れない現実はあります。
 だからこそ、自分のできる、コントロールが可能なことは、すべて出し尽くすことが重要です。
 それが「期待値」の一番高い方法、確率的に成功へ最短ルートになります。

 何かを選択したり、判断を下すときには「うまくいかないリスク」は必ず存在します。
 だからといって、選択すること、判断すること自体から逃げては何も得られません。

「何もしないことが最大のリスクである」

 勝負の結果は、運・不運で決まります。

 私たちにできることは、「期待値」をできるだけ高めること。
 そして、チャレンジの回数を増やすこと。

 どんなときにも、冷静に、その瞬間にできることにベストを尽くしたいですね。

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