【書評】『 勝負脳の磨き方』(舞の海秀平)

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 お薦めの本の紹介です。
 舞の海秀平さんの『小よく大を制す! 勝負脳の磨き方』です。

 舞の海秀平(まいのうみ・しゅうへい)さんは、元大相撲の力士です。
 引退後は、相撲解説者のほか、テレビやラジオ、新聞のコラム、講演会など幅広くご活躍中です。

「小よく大を制す」ための“勝負脳”とは?


 舞の海さんは、現役時代には、「平成の牛若丸」「技のデパート」などのニックネームで呼ばれた人気力士でした。
 身長169センチ、体重は100キロに満たない小さな体で、さまざまな戦術を駆使し、居並ぶ大男たちと互角に渡り合う姿を記憶している人も多いでしょう。

 舞の海さんが、体格差という大きなハンデを背負いながら、10年間も現役生活を続けることができた理由。
 それは、「勝負脳」を磨き続けたからです。

 体格で大きく劣る相手に、真っ向勝負では太刀打ちできません。
 勝つためには、小兵には小兵なりの戦略が必要となりますね。

 舞の海さんは、つねに、自分の強いところをいかに相手の弱いところにぶつけていくかということを考えながら相撲をとってきたと述べています。

 本書は、相撲を通じて培った、「小よく大を制する勝負脳」のノウハウをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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問題が起こったら、その“一手前”を検証する


 相撲は個人競技のスポーツ。結果はすべて自分に跳ね返ってきます。
 取組に負けた理由を何かのせいにするのは簡単ですが、それでは進歩も成長もありません。

 負けた原因はどこにあったのか、自分で反省して改善点を見つけることが生き残りのカギになります。

 ビジネスでも、「仕事がうまくいかないのは置かれた環境や上司、部下のせいだ」といってもきりがないのではないでしょうか。家庭でもそうでしょう。妻や夫に不幸の原因を求めてもしかたがないのです。
 何かのせいにしているうちは、逆境をはね返したり、ハンディを克服して障害を乗り越えたりすることは絶対にできません。
 また見逃されがちなのが、問題の一つ前、二つ前の工程の検証です。
 相撲でいえば、負けた瞬間の動作から敗因を探そうとばかりする人がいます。しかし、大事なのは負ける一つ前、二つ前の動きの検証なのです。投げられた瞬間ではなく、投げられるような不用意な体勢をつくったところ、または立ち合いの当たり方に問題があるケースも多いのです。そこを検証し、解決策を考えないと、いつまでも同じ負け方を繰り返してしまうでしょう。
 正確に問題を把握し、解決策を考えられなければ、自分の引き出しは作れません。
 自分がこう動けば、相手はきっとこうなると、常に、起こりうる状況を想定し、シミュレーションしておくことが大切だと思います。
 私の場合、どうすれば体格で大きく上回る相手に勝てるのか、寝ても覚めても、すてきな女性とデートしていようとも、相撲のことが頭を離れませんでした。自分に欠けているものは何か、それを補うために稽古で何をすればいいのか。
 毎朝の稽古は親方を納得させるためのものではありません。自らが本場所の土俵で勝つためにあるのです。
 たとえ勝ったとしても、引き技や注文相撲であればほめられないのがこの世界ですが、私は本場所が近づけば、迷わず立ち合いで変化する動きを確認しました。立ち合いで変化する動きを確認しようとする力士など、普通の親方なら怒鳴りつけられてもおかしくありませんが、私の親方は私の考えを理解してくれ、何も言わずに見守ってくれました。
 勝たなければ意味がないのです。

 『勝負脳の磨き方』 第1章 より  舞の海秀平:著  育鵬社:刊

 敗因を徹底的に追求し、相手の攻め手を上回るような作戦を四六時中考えていた舞の海さん。
「技のデパート」と呼ばれる引き出しの多さは、日々の努力の積み重ねで磨かれたものです。

心にも、たくさんの「引き出し」を作る


 体が大きいほど有利な相撲ですが、どんな力士にも強みもあれば、弱みはあります。
 相手の強みを出させず、弱みを突けば、戦い方次第で自分より大きい相手を倒すことができます。

 自分の強いところをいかに相手の弱点にぶつけるかということを考えることが、大切なことです。
 また、作戦上の駆け引きは土俵に上がる前から始まっています。対曙対策として考えた策であれば、曙の前で手の内を絶対に見せないのは当然。
 だから稽古場や地方巡業の稽古などは、心理的な駆け引きが応酬しているのです。
 何も考えずにがむしゃらに稽古するだけでは成長はありません。
 相手が自分に対して繰り出してきた戦法だけではありません。自分の体格に近い他の力士に対してどう攻めているか。立ち合いで仕切る位置に癖はないか、一瞬の攻防の中にどんな狙いが秘められているか。
 何も考えていないふりをしながら、土俵下から凝視し、その力士の意図を読み合うのです。
 逆に自分の作戦は決して読まれないようにします。姑息(こそく)といわれるかもしれませんが、わざと偽の弱点を見せたこともありました。そうすると、本場所の土俵で相手がそこを突いてくる可能性が高まります。
 出稽古に行って、狙っている技をかけるなんてことはまずしません。うまく決まってしまえば、相手に対処する好機を与えるだけになってしまうからです。
 稽古場で強かろうと、地方巡業で活躍しようと、はっきり言ってしまえば「意味がない」のです。力士の本分は、本場所の土俵に命を懸けることです。
 そのために何をするべきか、何ができるか。
 使えるものは遠慮せず何でも使わなければなりません。勝利するために何が必要か。土俵でぶつかるさまざまな相手に対応した作戦を考えます。そうすることで突発的な事態にも対処できるようになり、冷静さを保つこともできます。
 技だけでなく、心にもたくさんの引き出しを作らなければいけないのです。

 『勝負脳の磨き方』 第2章 より  舞の海秀平:著  育鵬社:刊

 相撲の勝負の行方は、一瞬で決まってしまうことが多いです。
 しかし、その一瞬の勝利をつかむためには、入念な準備が必要です。

 普段の稽古、巡業から勝負の駆け引きは始まっているということ。
 多くの人の印象に残る舞の海さんの奇襲攻撃は、綿密に練り上げられた作戦だったのですね。

「考えること」をやめない


 現在は、相撲解説だけではなく、ニュースなどの情報番組に出演することも多い舞の海さん。
 コメントを求められても困らないように、日々のニュースただ頭にいれるだけでなく、「自分なりにかみ砕いてみる」ことを大切にしているとのこと。

 たとえば、「体罰」について。
 舞の海さんは、社会的に「体罰は悪である」と決めつける風潮に違和感を感じる、と述べています。

 ある漁師からこんな話を聞いたことがあります。海に出たばかりの見習いの若い漁師に仕事を教えるとき、「誤った手順で船のロープに指がかかれば、海に投げ出されて命を失ってしまうことがあるから、けっ飛ばすこともある。遠慮などしていられない」と。
 極端な例を挙げれば、座禅の際に警策で修行者の肩や背中を打つことさえ、体罰ということになってしまうのでしょうか。
 体罰が問題になると、いつも教師が処分されますが、教師を罰して終わるのではなく、なぜ手を上げたか、あるいはなぜ手を上げさせるようなことをしたのか、個別の事案ごとに粘り強く議論することが重要ではないでしょうか。全面的に禁止するか、それとも容認するのか、どちらか一方向に突き進むと、必ず弊害が出てきます。
 原発の問題も同じように思えます。完全になくしてしまえば、代替エネルギーはどのように確保するのでしょうか。現行の電気料金を維持できるのか、日本のものづくりにどういった影響を与えるか――などを議論する必要があります。
 結論を急ぎ、一方的に決めつけてしまうことで何も言えなくなってしまい、人間はものを考えなくなります。
 体罰問題が表面化して、過去の事案が新聞やテレビで一斉に報じられることも奇妙です。当時は問題にされなかったのに手のひら返しのように批判されているケースもあるのではないでしょうか。
 これまで体罰を加えた経験のある教師を一斉に処分することにでもなれば、全国の学校はたち行かなくなってしまう可能性すらあります
 体罰のない学校教育やスポーツ指導は理想であることは間違いありません。ただ、理想通りいかないのが現実で、そこに指導者の苦悩があります。
 それは子供たちが大人になって仕事をするようになれば、直面する社会の現実でもあります。
 体罰に関して言えば、悪意を持って百発たたき続けるのも、相手の痛みを思って涙を流しながら一発たたくのも、十把一絡(じゅっぱひとから)げにして結論づけるのは果たして正しいのでしょうか。
 あいまいな決着が必要な問題もあります。罰に対する罪はどうなのか、議論を続けていくべきでしょう。考えて悩み続けることを忘れてはいけません。

 『勝負脳の磨き方』 第3章 より  舞の海秀平:著  育鵬社:刊

 善か悪か、白か黒か、はっきり決着をつけないと気がすまないのは、日本人の習性です。
 世の中はどんどん複雑になり、白でも黒でもないグレーな結論を求められることも多いです。

 問題の表面部分だけではなく、その原因の奥深くまで踏み込んで理解してから答えを探すこと。
 これからの時代に求められる問題解決のスキルですね。

師匠が新弟子検査で根回ししなかった理由


 舞の海さんは、新弟子検査で身長が明らかに足りなかったため、一度不合格とされています。
 それでも角界入りを諦めきれずに、頭にシリコンを埋め込んで再受験し、見事合格します。

 舞の海さんはあるとき、師匠の出羽海親方(元横綱佐田の山)に、一回目の新弟子検査のときに、担当親方に根回しをしてくれなかった理由を訊ねました。
 そのときの出羽海親方の答えは、明快なものでした。

(前略)一言根回しをしてくれていればこんな苦労をしなくてもよかった・・・・。どうして挑戦する思いを受け止めてくれないのか・・・・。二ヶ月遅れで入門しなければいけなかったことやシリコン注入の激痛もあって、不満の矛先を師匠に向けてしまったのです。
 答えはあまりにも明快でした。
「お前は大学四年のときに教員として就職が決まっていた。それにこの世界で生きていくためにはあまりにも小さすぎる。だから、余計な苦労をするよりおとなしく就職した方がお前の人生のためになると思ったんだよ」
 一度落としたらあきらめると思っていたそうですが、シリコンを埋め込んで現れたから驚いたといいます。やる気が伝わったのでしょう。
 相撲部屋にとっては力士が一人でも多い方が懐は温かくなります。力士の数によって、日本相撲協会から各部屋に養成費が支給されるからです。そうした部屋の経営うんぬんよりも、当人にとって何が一番幸せになるのかということを師匠は真摯(しんし)に考えてくれていたのでした。
 自分の考えが浅はかで筋違いだったことを痛感させられました。
 ある兄弟子には、「あの小さな体で本当にやる気があるのなら、一度落とされても必ず戻ってくるはず。これであきらめるんだったら、それまでの男だ」と話していたともいいます。
 たしかに合格を報告に行ったときは、「そうか、これからだぞ」と満面の笑みで喜んでくれました。
 真意がどちらにあるにせよ、言えることは、師匠は何でもかんでも若者の希望を叶えるだけではなく、それぞれに合った生き方を考えてくれるのです。物事を深く考える人だと思いました。だからこそ、新弟子検査の担当親方に根回しなどしなかったのです。
 とはいえ、普段はまともに話ができないほど、師匠は威厳がありました。
 毎朝稽古場に下りてきて、上がり座敷に腰を下ろすと雰囲気ががらっと変わります。稽古場ではほとんど言葉を発することはありませんが、ただそこにいるだけで空気が張り詰めるのです。
 そして、ときおり含蓄(がんちく)のある言葉を残します。ある力士が土俵上で体勢の悪いまま寄っていくと、「おい、そういうのを負け急ぎっていうんだ」「土俵は丸いんだ。ちゃんと使えばいくらでも使えるぞ」など。一言一言に深みや重みがあり、私の現役人生で大いに生かされました。

 『勝負脳の磨き方』 第4章 より  舞の海秀平:著  育鵬社:刊

 出羽海親方の、厳しいながらも温かい人柄がよく伝わってくるエピソードです。
 舞の海さんの大活躍は、自身の努力はもちろん、よい師匠に恵まれたことも大きいですね。

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 現役時代から「大柄な力士をいかに負かすか」と、頭を働かせていた舞の海さん。
 引退してからも、その経験が生きているとおっしゃっています。

 親方ではないにもかかわらず、NHKの大相撲中継の解説を長く担当し、キャスターやタレントとしても活躍の場を広げ続けています。

「視聴者が知りたいこと、聞きたいことは何か」
「どうすれば視聴者に楽しんでもらえるか」

 土俵を降りてからも、「相手の立場を考える習慣」は変わらないそうです。
 舞の海さんには、これからも、現役時代の技同様、切れ味鋭いトークを期待したいですね。

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