【書評】『《80后・90后》中国ネット世代の実態』(Tokyo Panda)
お薦めの本の紹介です。
Tokyo Pandaさんの『《80后・90后》中国ネット世代の実態』です。
Tokyo Panda(とうきょう・ぱんだ)さんは、ファッションブロガーです。
ご自身が経営するネットショップは、中国最大のネットショッピングサイト淘宝(タオバオ)で絶大な人気を誇ります。
インターネットが映し出す「リアル中国」
Pandaさんは、中国のネットの世界で、「カリスマブロガー」と呼ばれています。
その立ち位置から、日中のコミュニケーションについて日々考え続けてきました。
中国は、その体制の成り立ち上、日本とは異なった仕組みが様々な場所で見え隠れします。
インターネットは、それらを映し出す鏡となります。
今の中国を支える若い世代は、インターネット上の様々なツールや情報を駆使する世代です。
Pandaさんは、「彼らや彼女らと接することなく、本当の中国を理解したことにならないのでは」と指摘します。
中国の若者たちは、今、何を考えていてどこに向かおうとしているのか?
本書は、中国で生活するPandaさんから見た「リアル中国」を、様々な角度から伝える一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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実は高い中国人の「ネットリテラシー」
日本では、さまざまな情報技術(IT)の最先端ツールが導入されていますね。
なので、中国よりも、日本の方が「ネット先進国」だととらえている人も多いと思います。
Pandaさんによると、実際には、中国人のネットリテラシー(情報ネットワークを正しく利用することができる能力のこと)は非常に高いそうです。
生活に直結している点で、むしろ、中国人のネット親和性は、日本人より高いとのこと。
中国人のネット親和性が高い理由は、「即時性と情報入手の簡便さ」にあります。
テレビでや新聞では規制されている情報でも、インターネットでは自由に入手することが可能です。伝統メディアは、中国共産党宣伝部の管轄下にありますが、中国のインターネットは、大手プロバイダーも民間会社であり、その点でも国有の伝統メディアとは自由度が大きく違います。また、ブログやBBSで自由に発言ができ、更にはそれによって社会に影響をおよぼすことができるようになったことも大きなポイントだと思います。政府からFacebookやTwitterが規制されても、それに代わる中国独自のSNSサービスが登場し、自由にこれらを使えるところも伝統メディアとは異なるところです。今では、汚職や企業の不正などがネットによって暴かれるという場面もしばしば見られるようになっています。実際、ネット上の声を政府も気にしているようです。それは単なる規制ではなく、ネット情報やネット世論というものを政府側も意識しているということなのです。ネットの不正情報から実際の調査に結びつき、クロならそのまま刑務所行きというケースもありました。ネットの世界は、現代中国人と大変相性のいいものであると共に、政治の側面でも、もはや切り捨てられない存在となっているのです。
『《80后・90后》中国ネット世代の実態』 第1章 より Tokyo Panda:著 角川SSC新書:刊
中国のインターネット利用者は、5.6億人(2012年12月時点)。
また、中国版ツイッター「微博(ウエイボー)」の利用者は、3億人を超えています。
Pandaさんも利用する「淘宝網(タオバオモール)」の利用人口も、1億人を優に超えています。
それだけ、中国人にとって、ネットを通じたコミュニケーションは、生活になくてはならない重要なツールです。
中国人の仕事へのモチベーションを理解せよ
日本と中国は、隣国で、古来から交流もあり、文化的、歴史的に近い関係です。
その一方、日本人とは明らかに違う、「中国人独自の気質(きしつ)」が存在します。
中国人は、あるラインまでは戦略を駆使し、ビジネスライクにしのぎを削り合います。
反面、そのラインを超えると、一気に親密になります。
彼らの特徴は、ビジネス上での可と不可の区切りが明確で、ハッキリ主張し曲げることがない
こと。
中国の人たちの考え方を代弁させてもらえば、彼らは契約の範疇(はんちゅう)であれば一切手を抜きません。特に自分の面子(めんつ)に関わる部分では、完成度を妥協しないのです。
中国の人は、自分の仕事の領域を守る人が多いのです。そのあり方も様々で、他人に仕事をとられないために必死に自分の領域を守る人もいれば、明確にプロ意識を持ち、自己主張をすることで自分のポジションを確固たるものに築き上げていく人もいます。そして、給与額と仕事量を比較して、その範囲を出る仕事をキッパリと拒否する人もいます。
いずれにしても、多くの日本人は中国人のこのような部分にぶつかると「中国人だからいうことをきいてくれない」とあきらめてしまいます。しかしこれはあくまでもお互いが打ち解ける前の話であって、親睦が深まってからはうって変って親身になってくれます。この線引きは中国人はとって普通のことですが、日本の人は面食らうことが少なからずあるでしょう。中国ではまず、相手にこちらを認めてもらい、その上でさらなる交流を深めていくことが大事なのです。『《80后・90后》中国ネット世代の実態』 第2章 より Tokyo Panda:著 角川SSC新書:刊
中国では人とのつながり、いわゆる「コネ」がものをいいます。
いかに相手の懐に飛び込んで、気に入ってもらえるか。
それがビジネスをする上でのポイントです。
中国人とのコミュニケーションには、「食事」が欠かせません。
一緒に食事をすることで、どれだけ親睦を深められるか。
Pandaさんは、ビジネスでないところでどれだけ相手と仲良くなることができるかが大事
だと指摘します。
「80后」「90后」・・・中国の若者たちの特徴について
中国では、世代間において、意識やライフスタイルに、大きな特徴や違いがあります。
これらは各世代が育ってきた環境や、歴史的な背景が大きく影響しています。
最近、よく使われる言葉に、「80后」「90后」があります。
それぞれ、「1980年代生まれの若者」、「1990年代生まれの若者」という意味です。
「80后」「90后」世代は、物心ついたときには、様々な物資に取り囲まれており、インターネットにも早い時期から接触している世代です。ネットリテラシーが高く、情報収集能力も長けているといえるでしょう。
ちなみに、一世代上の「70后」生まれの人たちは、幼い時には文革の影響もあり、物資の少なさや画一的な情報などの記憶を持っています。中国の経済成長とともに大人になったため、出世欲や成功意識が強く、責任感も強いといわれています。
しかし、「80后」の世代はこれに比べると打たれ弱い面があり、「90后」となると今までの中国人の常識とは全く別の世代と捉えられます。中国の「80后」「90后」世代は、人口で約4.5億人、今の日本の若者たちとかなり近い消費感覚やライフスタイルを身につけている世代といえます。個性を追求し、消費欲が強くわがままで自由。ステイタスとしてブランド信仰もあるようです。
とはいえ、当の「90后」の中には、「90后は〇〇だ」と決め付けられてしまうことに抵抗を感じる人も少なくありません。日本でいうところの「ゆとり世代」のように、あるイメージが固定化されることに似ているのです。『《80后・90后》中国ネット世代の実態』 第3章 より Tokyo Panda:著 角川SSC新書:刊
短期間に急激な変化を遂げた、中国の世代間のギャップ。
日本のそれとは、比べものにならないほど大きなものです。
ただ、「80后」「90后」世代の特徴は、日本の同世代の人々の特徴とも似ています。
インターネットなどを通じた、グローバル化の影響もあるのかもしれません。
日中間の「小さな架け橋」になること
Pandaさんは、長く中国に暮らしビジネスを手がけていくうちに「個人的な友好活動の延長線上で見聞きした双方の希望を、日中友好親善大使として伝えていきたい」と、自然と思うようになりました。
Pandaさんは、2011年4月、藩陽で当時の駐中国大使と話をする機会を得ました。
私は簡単な自己紹介と共に、Tokyo Pandaとして日々体験している等身大の異文化交流として、中国の女の子たちと、お互いに小さな橋を架け合っていることをお話したのです。
「どうしたらもっと日本と中国が仲良くなると思いますか?」
そう大使に意見を求められたので、偉そうですが素直に答えました。「一般の人たちは私が考える限りでは仲がいいと思います。報道されているように日本人だからと反日意識をむき出しで何かを言われることもないし。とくに趣味でつながっている私たちは、同じ世代の女の子として面白いと思ったことをシェアしていますから、私の周辺では今でもじゅうぶん仲がいいですよ」
私が実体験を伝えると大使は、
「そうですよね」
と言って頷(うなず)いていらっしゃいました。その表情が「ブログという繋(つな)がり方もあるんだね」という雰囲気だったのを覚えています。
個人と個人が直(じか)に接して自分の言葉で気持ちを伝えることで、私たちは毎日、互いに小さな橋を架け合っています。ネットを通じて幅広い中国女子たちの魅力を知ることができた私たちにとっては、彼女たちが中国の私的大使なのです。『《80后・90后》中国ネット世代の実態』 第5章 より Tokyo Panda:著 角川SSC新書:刊
国と国の仲を良くするためには、代表者同士の話し合いでは限界があります。
Pandaさんのような、両国での生活経験があり、両国の文化に詳しい人たち。
彼ら彼女らが、「架け橋」となり、相互理解を深めることで、改善される部分は大きいです。
インターネットという武器を駆使し、世界を舞台に活躍する、若い世代には期待したいです。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
先入観をもってものごとを見ると、本質を見誤る危険が大きいです。
近くて遠い隣国である中国についても、同じことが言えます。
多くの日本人は、中国に行ったこともなく中国人と話したこともありません。
それなのに、テレビや新聞などでのマスコミの報道だけを鵜呑(うの)みにしています。
そのため、あやまったイメージを持ち過ぎてしているのかもしれません。
相手と関係を改善したいのならば、まずは、相手に関心をもつことからです。
それは、国同士でも同じことです。
違いを理解し、それを受け入れる。
そんなグローバル化時代にふさわしい寛容さを身につけたいですね。
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