本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『本質を見抜く「考え方」』(中西輝政)

 お薦めの本の紹介です。
 中西輝政先生の『本質を見抜く「考え方」』です。

 中西輝政(なかにし・てるまさ)先生は、日本の歴史学者、国際政治学者です。
 専門は国際政治学、国際関係史、文明史です。

「考える」とは、対象と素直に向き合うこと

 中西先生は、考えるという作業は、まず対象と素直に向き合うこと、目の前の現象を歪(ゆが)みのない目で見ることから始まると述べています。

 国際政治の分野では、学術研究の世界だけでなく、現実の国際政治の生々しい現象に対する判断が求められます。
 いかに偏りなくフラットな視線で、「自分の頭で考える」ことができるかが勝負の世界です。

 中西先生が、そのために日々実践してきた方法。
 それは、身近な人生や人間、会社や社会について考えるときにも通用する普遍的なものです。

 本書は、国際政治学での手法から、一般にも通用する「ものごとの本質を見抜くための考え方」を抽出し、解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「敵」をはっきりさせる

「考える」という作業を始める。
 そのためには、まず「自分とは何か」を知ることが必要です。

 もっとも鮮明に、自分の像を映し出してくれるもの。
 それが、「自分の敵」です。

「敵」というのがどうしてもいやだ、というのなら、「他者」といってもよいかもしれませんが、それでは「無視すればよい」となりかねません。私がここで「敵」を知ることの大事さをことさら強調するのは、それに備えることを含めて、敵との対比で自分自身をよりよく知ることができるからです。
 敵を知ることは、そのまま自分を知ることにつながります。敵をはっきり意識することで、自分の弱さや欠けているもの、強い部分や優れていることもはっきりしてきます。
「和」と「やさしさ」の国だから敵をつくらないのではなく、「和」と「やさしさ」の国だからこそ、「敵」を知ってその脅威から、その美点を守ることを考えなければならないのです。
 脅威やリスクを見て見ぬふりをし、対立を避け、誰とでも仲よくしようとするのは、行きつくところ、「滅びの哲学」にほかなりません。

  『本質を見抜く「考え方」』 第1章 より  中西輝政:著  サンマーク出版:刊

 敵をつくらない。
 それは、誰に対してもいい顔をする「八方美人的なやさしさ」です。
 結局は、あちらを立てればこちらが立たず、になってしまいます。

「あいまいなやさしさ」という弱点が、東日本大震災への対応のまずさにもつながっています。

「敵はいるもの、リスクはあるもの」

 そういう視点から、危機管理を考えることを学ぶ必要がありますね。

おもしろいと「感じる」ほうを選ぶ

 人生は、さまざまな場面で選択の連続です。
 中西先生は、「迷ったら、自分が面白いと感じるほうを選ぶ」と断言しています。

 ここで重要なのは、「感じる」という部分です。

 理屈や条件をもとに、「おもしろい」と推測されるものを選ぶ。
 そうではなく、自分の感性に従うということ。

 人間が持っている感性の構造は、一人ひとり違います。誰かがこうしたとか、世の中の流れはこうだとかいうことよりも、自分自身への「目」というものを大切にしなければなりません。とくに21世紀の世界では、そうならざるをえないのです。
 ものを見るときに、自分なりに、自分の「内側」と、つまり自分の感性とつながるものの見方をすることができれば、「あの人がいっているから」とか、「これは権威のある議論だから」という見方に左右されることもなくなってきます。
 自分の肌身で感じた感覚でものをいえば、保証してくれるのは自分しかいません。これは、ある意味では責任の問われることであり、またある意味では不安なものです。「間違っていたかな」と、絶えず自己検証と反芻(はんすう)を繰り返すことになります。
 好きなもの、おもしろいと思ったものを選んだからこそ、自分の選んだ道をつねに反芻し、検証していく。それによって考えは深まり、より確かなものになっていくのです。

 『本質を見抜く「考え方」』 第2章 より 中西輝政:著 サンマーク出版:刊

 自分が、「おもしろい」と感じる通りに行動する。
 そうすると、すべての責任は、自分で負う必要があります。

 しかし、その選択を続けていく中でしか、確固たる「自分の考え」は育まれません。
 さまざまなプレッシャーを砥石にし、自分自身の感性を磨いていきたいですね。

効率を「量」ではなく「質」でとらえる

 日本は、地理的にも風土的にも、“世界に冠たる”特殊性を持っています。
 にもかかわらず、戦後の日本は、「世界と同じように」という考えのもと、進んできました。

 そして、元来タフであるはずの日本人の精神が疲弊(ひへい)し、民族全体に大きな「疲れが溜まっている」状態に陥りました。

 これからの時代、日本人はじっくりと「本物志向」になります。
 そして、「匠の技」など、ひたすら質を高める方向に向かいます。

 これからは、日本の歴史的な「質的効率」の時代です。「質的効率」という言葉自体、多くの方にまだなじみがないでしょう。企業でいうと、バランスシートを画期的に改善していくとか、自社にしかできない技術の高度化、つまり「差別化」を図るといったことです。
「もっと売れる物を」と躍起になるのではなく、売れる売れないというまえに、ともかく「他社が作っていない物を」と考えを切り換え、その「違い」や「差別化」を大切にする。それが「質的効率」です。
 それには、一見、非効率的に見える開発過程が必要ですが、いまだ「量的効率」にとらわれている古い世代の効率論には、そういう大きな視野が欠けているように思います。
 ひたすら質的効率を求め、数十年どっしりと腰を据えてやっていけば、そのうち景気が本格的に回復して、また日本は爆発的に発展するはずです。2030年ころ、次なる「大きな発展期」が来ると私は見ています。

  『本質を見抜く「考え方」』 第3章 より  中西輝政:著  サンマーク出版:刊

 これまでの日本を支えてきた「ものづくり」。
 それは、「安くて、高性能で、高品質な製品」を、大量に作り出すことで成り立ってきました。
 大手電機メーカーが立たされる、厳しい現状をみても、それではもう立ち行かないでしょう。

「今ある製品の性能をひたすら上げていく」ではなく、「これまで世の中になかった製品、コンセプト自体を作り出す」という発想。

 それが、ますます必要になります。
「ウオークマン」のような画期的な商品が、再び日本から生まれることを期待したいです。

「30年以上先」は、現在の延長で考えない

 未来を予測しようとするとき、それが的確にできるかどうか。
 それは、「時代の変化」に対して、どんな考え方をするかにかかっています。

 国は、何十年かに一度くらい、誰も予測できない「断層的に変化」を起こします。
 それが、それまでと180度違う方向に動き出す、「歴史的な転換点」になります。

 そういう意味でいえば、戦後の50年間、右肩上がりで進んできた日本の状態は、かなり例外的な時代だったといえます。その時代に働き盛りのときを過ごした団塊の世代は、いまのような社会を予想しませんでした。多額の年金と退職金で悠々(ゆうゆう)自適なバラ色の人生が待っていると信じて仕事に励んできたのです。
 しかし、それは「夢のまた夢」になりつつあります。いつの時代も、30年以上先を考えるとき、いまの社会が「このまま続く」という投影史観的な考え方に傾くと、国や企業、そして個人も大きなリスクを抱え込むことになるのです。
 大きな変化のない「奇跡の50年」を味わった日本は、変わらないことに慣れ、変わることを恐れています。しかし私は、2020年を迎えるころには、この国は、政治も経済も外交も、あるいは人間の価値観もガラリと変わっていると思っています。
 その予兆あるいは兆候がすでに現れている現在、これまで保たれていたバランスは大きく崩れ始めました。変化を嫌うあまり、これを座視していたら、日本は大きな「破局」を迎えることになります。

 『本質を見抜く「考え方」』 第6章 より 中西輝政:著 サンマーク出版:刊

 日本は、政治も経済も外交も価値観も、ガラリと変わる、歴史的転換点を迎えています。
 それは個人にもいえることですね。

 自分の中の価値観を、時代の流れに合わせて変化させることができるか。
 それが問われています。

 長期的な展望ほど、これまでの延長線上ではない、思い切った発想を意識したいですね。

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 本書が出版されてから、すでに5年以上経ちますが、内容はまったく色褪(あ)せません。
 むしろ、いろいろな問題が表面化した今だからこそ、多くの方に読んで頂きたい名著です。

 この5年間、日本は本質的な部分でまったく変わっていなかった。
 裏を返せば、その事実を突きつけられたともいえます。

 今後、日本が勇気を持って変わる決断をし、再生を果たすのか。
 このまま変われずに「破局」を迎えるのか。

 タイムリミットが近づいてきているのは確かです。

「変われないことが最大のリスク」

 自分の頭で考えて決断する習慣を身につけたいですね。

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