【書評】『一瞬で判断する力』(若田光一)

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 お薦めの本の紹介です。
 若田光一さんの『一瞬で判断する力 私が宇宙飛行士として磨いた7つのスキル』です。

 若田光一(わかた・こういち)さんは、宇宙飛行士です。
 現在は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の有人宇宙技術センター長、国際宇宙ステーション(ISS)プログラムマネジャーを務められています。

人生は、小さなことの積み重ね


「特殊な職業」と思われている、宇宙飛行士。
 しかし、そこで直面する問題は、どこの会社のどの管理職でも抱えるようなことと、根本的な部分は変わらないものです。

 振り返れば、航空会社の機体整備エンジニアから宇宙飛行士という仕事に転職したのは24年前。その間、宇宙飛行士という職業を、私は常に試行錯誤しながら全力投球で務めてきた。
 24年前に宇宙飛行士候補として選抜された直後から、NASDA(宇宙開発事業団/JAXAの前身)、そしてJAXAの宇宙飛行士として、ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターの宇宙飛行士室に勤務してきた。
 ふだんのNASA宇宙飛行士室での勤務は、朝7時半くらいに出勤し、日中はNASAのヒューストン事務所でつくば宇宙センターの関係部署との電話やビデオ会議などを行なう。それが終わって帰宅する、というのが典型的なワークスタイルだ。
 しかし、いったん宇宙飛行士にアサイン(任命)されると、訓練業務に専念することになる。訓練自体もヒューストンだけではなく、日本のつくば、ロシアのモスクワ、ドイツのケルン、カナダのモントリオールなどのISS参加国の訓練施設への出張も頻繁にある。それゆえ、長期出張で家族と離れて生活する時間もかなり増える。
 ISS長期滞在飛行に向けた訓練は、宇宙で起こり得るさまざまなケースに対応すべく行なわれる。宇宙船や宇宙ステーションの各システムの運用操作、船外活動、ロボットアームの操作訓練、さらに宇宙でのさまざまな実験や観測などの宇宙利用ミッションの訓練も含めて、ロケット打ち上げの約2年半前から膨大な時間をかける。
 また、宇宙飛行士の資質維持の向上を目的とした、高性能小型T–38ジェット練習機による航空機操縦訓練、山や雪原、砂漠や洞窟、海上、さらには海底基地をも活用した、サバイバルやリーダーシップ能力を習得するための野外訓練も行なわれる。
 宇宙飛行士の仕事は、まさに訓練に明け暮れる日々と言えよう。宇宙飛行士の仕事場は、さまざまなリスクが潜む宇宙という過酷な環境である。そこで力を発揮するための支えとなるのが、地上での地道な訓練だ。

 『一瞬で判断する力』 まえがき より 若田光一:著 日本実業出版社:刊

 若田さんの宇宙飛行士としての人生を支えてきたもの。
 それは、そのときどきで、できる小さなことを一歩一歩積み重ねてきたことです。

 本書は、宇宙飛行士の仕事を通して得た教訓や知恵の中で、日常の仕事や生活に役立つものを取り出してまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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本番で100パーセントの力を発揮するためには?


 宇宙飛行士は、本番での失敗が許されない職業です。
 宇宙では、ちょっとしたミスや事故が、死に直結するからです。

 宇宙飛行という数少ない本番で、100パーセントの力を発揮する。
 そのために重要なのは、訓練を訓練と思って受けないということです。

 有人宇宙飛行には、どこまでいってもリスクがともなう。重大なシステム異常やミスオペレーションが搭乗員のケガや死亡に直結する可能性が常に潜んでいる現場でもある。
 しかも、それは宇宙飛行中のみにおける話だけでなく、雪山、海底、洞窟などでのサバイバルや集団行動リーダーシップ訓練、水中や真空チャンバー(減圧訓練装置)での船外活動訓練、T-38ジェット練習機などによる航空機操縦訓練をはじめ、地上での訓練においても命の危険をともなうものは少なくない。
 だからこそ宇宙飛行士にとっては、地上での訓練と宇宙での本番を分けることなく、緊張感を維持して同様の心構えで臨むことが不可欠と言える。
 私がNASA宇宙飛行士室のISS運用ブランチのチーフとして、地上の訓練やISSに滞在中の宇宙飛行士たちのマネジメント業務をしていたとき、所属する仲間の宇宙飛行士に対して一番留意していたのは、「死ぬな」「仲間を殺すな」ということだ。すなわち、宇宙飛行、訓練を問わず、「宇宙飛行士の安全」が常に最優先となる。
 宇宙飛行士は自分の判断ミスや操作ミスで、自分や仲間を死なせる可能性は常にある。安全は水や空気のようにあって当然なものかもしれないが、常日頃から安全を維持するためにたゆまぬ努力を必要とするものである。
(中略)
 どんな仕事でも、本番に向けた練習期間や準備期間があったりする。そのとき、自分の取り組み方しだいで、本番と同様の緊張感や経験を持って臨むことはできる。自分に与えられた訓練の機会の1つひとつをどれだけ大切にとらえ、どれだけ真剣にこなしたかによって、本番においてもたらされる結果も大きく変わってくる。
 そうすることで、知識、技量、心理的にも、訓練の機会を最大限に生かした成果が本番に期待できるのではないだろうか。また、その積み重ねが場数となって、本番に向けての自信につながってくるはずだ。
もちろん、訓練の最初の段階では失敗することはあるし、逆に失敗したほうが、より強い教訓として、訓練の最終試験や本番の宇宙飛行に生かされることのほうが多い。失敗することで何を学んだかが重要なのだ。
 本番で失敗しない人間に共通する点は、「失敗した訓練の次の訓練では、必ず問題点を改善してくる」ということだ。訓練をただの訓練ではなく、本番への場数として真剣に考えている証拠だと言える。

 『一瞬で判断する力』 第1章 より 若田光一:著 日本実業出版社:刊

「訓練」だと思ってやる訓練と、「本番」だと思ってやる訓練。
 真剣さに雲泥の差が生まれるのは、当然です。

 本番でモノを言うのは、どれだけ同じような経験を積めたか。
 訓練を本番への場数として真剣に考える。
 本番を、訓練の延長と思えるくらいの意識で臨みたいですね。

繰り返さなければ、失敗は失敗でなくなる


 宇宙船のコマンダー(船長、司令官)には、状況判断の早さや正確さが求められます。
 とはいえ、初めて遭遇する事態においては、作業指示で失敗することはあり得ることです。

 若田さんは、それを認識したうえで、この仕事をプロとしてやっている以上、同じ失敗を繰り返さないことを誓っています。

 失敗の経験は確実に次に生かしていくことが重要だ。これはどのような仕事でも同じだろう。1回目の失敗は、ときには寛容に受け入れてもらっても、2回目に同じ失敗をすると信頼は失墜する。自分が犯した失敗を真摯に受け止め、その理由をきちんと分析し、とるべき最善の対応策を検討して習得することを怠らなければ、今後、類似した状況で同じような失敗を繰り返す可能性は少なくなる。
(中略)
 一般的に気づきにくいかもしれないが、失敗を教訓として学び、二度と繰り返すまいと努力している時は、じつは自分の能力が大きく向上しているときとも言える。失敗した直後は気が動転したり落ち込んだりして、なかなか前向きに考えることが難しい場合もあるかもしれないが、自分が失敗を乗り越えてさらに成長できる好機ととらえ、謙虚に失敗を受け入れ、そこに至った敬意を分析することが肝要だ。
 失敗を乗り越えようと試行錯誤しながら苦労して体得したものは、また今後、別の問題にぶちあたったときも必ず有効な対処法になる。宇宙開発の仕事自体も、数々の失敗をしながらノウハウを生み出してきた歴史がある。それと同じく、失敗を恐れず、失敗をしてもそれを教訓として次のステップに生かす姿勢が大切なのだと思う。
 何より怖いのは、自分の失敗に気づいていないことだ。失敗を受け入れるには、失敗したことにまず気づき、受け止めなければならない。
 自分の非を認めたくないばかりに、そこから目を背けて見て見ぬふりをしたり、何かのせいにしたいときもあろう。けれども、正しく完了できなかったことを真摯に受け入れて教訓とするように努めないと、結局同じ失敗を繰り返す。それは、失敗から学ぶ機会を失い、自分の資質を向上させるうえでも余計に遠回りすることになる。
 自ら失敗に気づき、受けとめ、二度と同じ過ちを犯さないよう努めることで、失敗は大切な「教科書」になる。

 『一瞬で判断する力』 第2章 より 若田光一:著 日本実業出版社:刊

 どんなに優秀な人でも、失敗することはあります。
 大事なのは、その失敗を次に生かせるかどうか。

 自分の非を認めて、振り返ることはつらいことです。
 しかし、それをすることで、自分の実力も上がるし、周囲の信頼も得られます。

優先順位を決める3つのポイント


 ものごとの的確な優先順位を決めていくためには、正しい「状況判断能力」が必要となります。
 NASAでは、その能力を磨くための方法として、T-38ジェット練習機の操縦訓練が重視されます。

「宇宙に行くのに、なぜ航空機の操縦が必要なのか?」と思われるかもしれない。それは、常に刻々と変化する航空機システムや天候の状況を見極め、安全を確保しながら臨機応変に対処する、的確な状況判断能力が要求されるのみ、航空機の操縦も宇宙での仕事も同様だからだ。
 この資質を向上させるために、判断や操作を1つ誤れば重大事故にも直結する高性能ジェット機の操縦は、格好の訓練環境を提供する。航空機の操縦において、パイロットは次のような作業の優先順位を常に認識していなければならない。

 ①「aviate 操縦」
 ②「navigate 航法」
 ③「communicate 交信」


 この3つの順序が作業の優先度になる。
「active」は、まさに空を飛ぶ、航空機をコントロールするということ。
「navigate」は、ナビゲーション、要するに今自分がどこの位置にいて、どこに向かって飛んでいるのかを知るということ。
「communicate」は、航空交通管制官との交信である。
 簡単な3つの言葉の並びであるが、これは航空機が危機的状況に陥ったときを含めて航空機の運用で優先すべき作業の順序で、パイロットの仕事における鉄則だ。
 航空機がまさに墜落してしまいそうなときに、自分の航路上の位置を確認しようとしたり、「メーデー、メーデー」と交信していては航空機を安全に飛行させることは不可能で墜落に至ってしまう。この場合、まず優先すべきは機体の姿勢を立て直し、失速を避ける対気速度に戻すことだ。つまりは、「aviate」だ。
 機体が安定したら次にすべきことは、機体の高度、位置、進行方向を把握する「navigate」。そして、「aviate」と「navigate」ができて、初めて航空交通管制官と連絡をとり情報を共有する「communicate」というわけだ。
 言い換えれば、「目の前に起こっているトラブルを安全な状態に立て直す」「状況を把握する」「周囲とコミュニケーションをして状況を共有する」という順番になる。
「そんなこと、言われなくてもわかっている」と思われるかもしれないが、人間は実際にトラブルが発生したとき、冷静な状況判断ができず、その状況にふさわしい優先度を考慮した行動ができていないことが多い。
 この話は、あくまでも航空機を操縦する際のフィロソフィー的な基本作業の優先度を示すものだ。だが、このように作業の優先度を常に意識することは、どんな仕事にも必要なものではないだろうか。

 『一瞬で判断する力』 第3章 より 若田光一:著 日本実業出版社:刊

 トラブルに遭遇したとき、心の安定を保つのは難しいことです。
 気が動転してしまい、冷静な判断を下せなくなることも考えられます。

 そんなときに、あらかじめ決めた優先順位があれば、心強いです。
 また、平常時でも、効率的な作業をするうえで役立ちますね。

あえて「安定」を避けてみる


 どんな仕事でもモチベーションは大切です。
 しかし、それを維持するのは難しいものです。

 若田さんは、モチベーションを維持するために、できる限りメリハリをつけるよう工夫しています。
 具体的には、安定した精神状態から、あえて自分が不均衡な状態になるよう意図的に仕向けてみるやり方です。

 これは地上の訓練でもよくやった。ロボットアームの操縦訓練でも、ある程度慣れてきて自分の技量レベルが安定したと感じたら、あえて教官に頼んでさらに難しいシミュレーションに設定して挑戦させてもらったりした。
 また、先述したT-38ジェット練習機による航空機操縦訓練でも、与えられた環境・条件での自分の操縦スキルが安定してきたと感じたら、たとえば、航空機の姿勢情報などを表示するメインの飛行ディスプレイが故障したケースを模擬して、バックアップのディスプレイのみを使用した操縦を行なった。ほかにも、飛行中にエンジン停止、発電機故障などのトラブルを教官に模擬してもらい、緊急事態対処の手順を実際に行なうなど、あえて難易度のより高い環境で操縦して、さらなる技量アップに努めるようにした。
 また、航空機が雲のなかを飛行する場合、視界が確保できないため、外の景色を見ながら機体の姿勢がどうなっているのかを判断できないことがある。そのときはコックピット内の機体姿勢を表示する計器のみを頼りにして操縦する「計器飛行」をすることになる。その場面をあえて模擬するため、教官に頼んでコックピットの風防を内側からすべて塞(ふさ)ぐ訓練も頻繁に行なった。
 この「計器飛行」の技量は航空機操縦だけに必要なわけではない。宇宙においても、宇宙船のドッキング、着陸時の操縦、またロボットアームの操縦では、計器類の情報に基づいてシステム操作を行なう「計器飛行」をする能力が重宝する場面がある。そのような点でも、航空機による多種多様な訓練は宇宙における資質向上に大いに役立つわけだ。
 宇宙であっても、上空であっても、地上であっても安全かつ確実なシステム運用のためには、慣れによる「自己満足」は禁物で、常に適切な資質維持が不可欠なのだ。
(中略)
 この「あえて不均衡な状態を作り出す」というイメージは、日本の芸道における師弟関係の在り方述べた「守破離(しゅはり)」という言葉の意味合いに少し近い部分があるかもしれない。
「守破離」とは、まずは師匠から教わる、守るべき基本や既存の型を守ることから始まる。その後、基本をもとに自分なりの応用を作り上げることで既存の型を破る。さらに、最終的には師匠の型、自ら作り上げた型からも離れ自由自在になる、というような意味である。
 この「守破離」という言葉を、私なりに解釈すれば「守」の状態を十分にマスターしたら、次は「破」「離」は常に新しい挑戦課題を自分に突きつけ続けるということである。
 何でも慣れてくるとスムーズにものごとが運ぶようになり、いい結果も出ることが多いが、それで安定してしまうとそこに甘んじてしまいがちだ。しかし、人は初めての経験で失敗をしながらも乗り越えていく過程で多くを学ぶ。または、難関にぶち当たってそれを解決しようと四苦八苦する環境のなかで、より成長していくものだ。
 慣れや単調さを感じたときには、自分をあえて不均衡な状態に置いてみることも、己のさらなる資質向上のための1つの方法だと思う。どれほど単調そうに見える仕事でも、常に同じことを繰り返すのではなく、自分の工夫しだいでそこからさらに向上の余地を見つけて、自分を磨いていけるものだ。

 『一瞬で判断する力』 第4章 より 若田光一:著 日本実業出版社:刊

 ミスを防ぐうえで、最も注意しなければならないのが「慣れ」です。
 事故や災害の多くは、慣れからくる不注意や慢心が根本にあります。

 難易度を上げて、あえて自分の頭に負荷をかける。
 そうすることで、作業への緊張感や集中力は高まります。
 また、スキルの向上にもつながりますね。

 どんな仕事でも、工夫次第で、難易度を上げることはできます。
 挑戦する気持ちを忘れず、向上心を持って取り組みたいですね。

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「夢・探究心・思いやり」

 若田さんが、サインをされるときに、いつも書かれている言葉です。
 死と隣り合わせの、閉じられた過酷な環境。
 そのなかで、宇宙飛行士として与えられた役割に全力を尽くす。
 その熱い思いが、この言葉には込められています。

 一瞬の判断の遅れが自分の、仲間の命取りとなる。
 それが身に沁みているから、決して気を抜かず、つねに100%の力で目の前のことに取り組む。

 今、この瞬間に全力を尽くす。
 それは、人生を真剣に生きることと同じ。
 私たちも、若田さんから学べることは多いです。


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