本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『独裁力』(川淵三郎)

 お薦めの本の紹介です。
 川淵三郎さんの『独裁力』です。

 川淵三郎(かわぶち・さぶろう)さんは、日本バスケットボール協会エグゼクティブアドバイザーです。
 元サッカー日本代表選手で、Jリーグ初代チェアマン、日本サッカー協会の会長などを歴任されています。

日本バスケット界の改革は、いかにして成ったか?

 国際バスケットボール連盟(FIBA)からの要請で、日本バスケットボール協会(JBA)のチェアマンに就任した川淵さん。
 持ち前の“豪腕”で、次々としがらみを取り除きながら改革を断行します。
 そして、誰もなし得なかった「分裂している二つのリーグを統合する」という大事業を成し遂げました。

 振り返ってみると、幼いときかから仕切り屋ではあった。その反面、他人の気持ちを人一倍、気にする質でもある。
 Jリーグのときはその両面がうまく作用し、多くの理解者を得ながら理想を形にしてこれたと思う。ただ、Jリーグ創設は、学校体育と実業団を中心に発展してきた日本のスポーツを「地域」に移行させようという大改革だったので決して順風満帆ではなかった。
 メディアは、順調なときは持ち上げてくれるが、少し傾きかけると、こぞって批判に転じる。実際に、対立する人の意見だけを取り上げた批判記事や、事実無根の話を書かれたことは山ほどあった。
 だからといって信念が揺らぐことはなかった。理論武装をし、確信を持って、理念の前に立ちはだかる勢力や反対意見に、立ち向かっていった。
 元来の負けん気の強さに加え、歯に衣着せぬ物言いに、つくらなくてもいい敵をつくってきたところはある。Jリーグのチェアマンを経て、独断専行の傾向が強くなっていたことも確かだ。
 だがそれは、目指していることが世の中のためになるという確信があったからだ。特に70歳を過ぎてからはその意識が一層強くなってきたように思う。
 新しいことを始めるとき、あるいは組織を改革しようというときは、強力なリーダーシップが必要だ。スピードを要するのであればトップダウンの手法は欠かせない。抵抗勢力はどこにでもいる。リーダーはときには世間の批判に晒されることもある。しかし、自分には邪念や私欲がないという自信があれば、何も恐れることはない。

『独裁力』 まえがき より 川淵三郎:著 幻冬舎:刊

 本書は、Jリーグを先例にした日本バスケットボール界の改革の道程と、そこで培われたリーダー論についてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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リーグの運営は「不易実行」であれ

 蕉風俳諧の一つに「不易実行」という考え方があります。
 新しく変化していく流行性が実は不易の本質であり、不易と流行とは根元において結合すべきだとする考えのことです。

 川淵さんはつねに、不易実行に則った組織運営を志しています。

 理念を具現化する方法はその時代にマッチしたやり方があって然るべきで、一見、定説や慣習から外れたように思える奇抜なアイデアも、理念に基づいていれば道を逸れることはない。
「不易」とは決して揺らぐことないものを指す。
 Jリーグが開幕した1993年〜1995年は、僕らの予想を超えるほどの人気を博し、多くの人々がスタジアムに足を運んでくれた。しかし、開幕4年目から観客数は減り始め、やがて経営危機に直面した横浜フリューゲルスが横浜マリノスと合併する事態を招いた。
 そのとき、各クラブの代表者が集まる実行委員会で、チーム数を減らすべきだという意見が噴出した。それはJリーグが理念に掲げる「豊かなスボーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」、つまり、「地域に根ざしたスポーツクラブを日本全国に広げ、地域のスポーツ振興を図りながら有能な選手を育てていく」という目標に、真っ向から対立する考えだった。
 Jリーグにおける「不易」が、この理念だ。ここは決して譲れないところだった。
 もし、あのとき、チーム数を減らしていたら、今のようなJリーグの隆盛はなかっただろう。日本代表がワールドカップに出場し続けたり、多くの日本人選手がヨーロッパのトップリーグで活躍したりしている状況になっていたかどうかわからない。
 今のバスケットボールも「プレーヤーズ・ファースト」(選手第一主義)のもと、いかに夢のあるリーグをつくるかを第一義に考えれば、おのずと突破口は開けるのだ。
 その突破口を開く方法、それが不易実行の「流行」の部分になる。
 バスケットボールの場合、はじめから企業名を入れることを否定してしまうと、新リーグに参加するチームが少なくなるかもしれない。つまり、企業名を残すことが目標を達成するために必要だったというわけだ。
 ただし、企業名に関しては譲歩したが、チームの独立法人化は譲れない。必ず法人化し、バスケットボールのプロクラブとして、特定の地域をホームタウンとし、地域に根ざしたクラブとして活動してもらう。
 地元のファンを獲得する努力をしつつ、企業にスポンサーになってもらうなどしてマーケティング収入を増やしていくことだ。そうすることで、すべてがバスケットボール界全体の発展につながり、将来的には多くの選手を雇用でき、有能な人材を輩出できる組織になっていくのだ。

『独裁力』 第1章 より 川淵三郎:著 幻冬舎:刊

 時代は変われども、不変の価値を有するもの。
 組織の中心には、そんな揺らぐことのない理念が必要です。

 その理念を実現するための手段は、柔軟に変えていく必要があります。
 また、理念に反することは、些細なことでも排除する必要があります。

「変えるべきこと」と「変えてはいけないこと」。
 その見極めが、リーダーの重要な役割です。

理念なきクラブに存在価値はない

 理念は、組織の頂点から末端の隅々まで行き届かせないといけません。
 川淵さんは、バスケットボールの新リーグ発足において、すべての参加クラブに、理念を持つことを強制します。

 会議では最初に、チームが理念を持つべきだと説いた。
 理念や夢を持たないクラブには存在価値などない。もしも理念を持たないチームがあったとしたら、リーグの理念に沿った形でチームの理念をつくってもらう。少し調子が悪くなってくると「理念なんかじゃ食っていけない」と言い出す輩(やから)が必ず出てくる。しかし、その場しのぎに走って大切な理念を放棄してしまったら、その途端、市場における存在価値も消えてしまう。
 Jリーグの規約をつくる際は、1991年初頭から1993年春まで2年もの歳月を費やした。リーグにおける憲法とも言える「定款」、具体的な運営に役立てる「規約」、そしてそれを補完する「細則」。人任せにはできないし、これをしっかり確立させなくてはJリーグの基盤が築けない。
 最初に、国際サッカー連盟(以下、FIFA)の規約を取り寄せ、しっかり読み込んだ。その後、ドイツやイングランド、イタリアなど世界のトップリーグの規約も入手うして全訳してもらった。サッカー先進国のプロリーグがFIFAの規約に抵触しない形でどんなルールをつくっているかを調べるのは当然のことだ。
(中略)
 理念から始まり、基礎的な考え方を規約にまとめて示す。そういう部分をしっかりやらないと運営に齟齬を来してしまう。規約がしっかりしていなければ、問題が起きたときの処理に拠り所がないということになる。
 バスケットボールのリーグの規約も刷新する必要がある。なにせ日本のバスケットボール界には二つのリーグが存在し、その一つはFIBAの規約とは全く異なるルールでやってきたのだから、ここはFIBAの規約を理解した上で、日本のプロバスケットボールのリーグ規約を再構築しなければならない。
 ただ、いくら規約があっても、それをきちんと遵守しているかどうか確認しないと、ないのと同じだ。
 今までのバスケットボール界は、理念も規約もないのと同じだったと言える。規約を遵守しているかチェックする作業に人を割く余裕がなかったというよりも、むしろ何もしていなかった。FIBAから「ガバナンスが全くなっていない」と指摘されたのは当然のことだ。

『独裁力』 第2章 より 川淵三郎:著 幻冬舎:刊

 最初の一歩目が大事。
 それは、組織運営においてもいえることです。

 組織の理念を、すべての構成員が理解し、遵守すること。
 それを徹底することが、その組織の将来の行く末を決めるといっても過言ではないです。

「協会」を「企業」に変える

 Jリーグができて、日本サッカーのレベルは飛躍的に向上します。
 しかし、それを取り仕切る競技団体、日本サッカー協会は旧態依然としたままでした。

 2002年のワールドカップが終わった翌月の理事会で、僕はJFAの第10代会長に就いた。
 JFAの会長になったら協会をもっと企業的な組織に変えたいという強い思いがあった。
 そこで、会長職を非常勤ではなく常勤・有給とし、ずさんだった職員の給与形態もあらためて年棒制に変えた。
 ところで、僕がJFAの会長になってから初めて会長に給料が支払われるようになったと言われていて、しかも一部メディアには年間3000万円もの給与が支払われていたと書かれたことがある。しかし、それは違う。僕の在任時の6年間は、1800万円だ。また、それ以前の長沼健さん、岡野俊一郎さんにも非常勤役員として多少なりとも給与が支払われていた。特に2002年のワールドカップ招致のときは、長沼さんが中心となって招致活動をしていたこともあり、それなりの報酬が支払われている。
 仕事や責任に合った対価が発生するのは当然のことだ。むしろ、トップが非常勤で無報酬というのは、組織が日々どう動いているのかわからないし、基本的に無責任に通じる。改善策も示さず、責任も取らず、うやむやのうちに辞めてしまうのが関の山だ。
 それに、有能な人材を確保するためにも給料を支払うことは大切なことだ。登録料だけで細々とやっているような同好会的な組織ならそれは不可能だろうが、組織や競技そのものを大きく発展させようとしている競技団体は、トップがボランティアでは務まらない。競技面だけでなく、ビジネスとしてどうあるべきかという観点も必要になってくるからだ。ビジネス感覚を持つ有能なトップがいることで財源豊かな体質になっていくのだ。

『独裁力』 第3章 より 川淵三郎:著 幻冬舎:刊

 新リーグを発足し、選手やクラブをプロ化する。
 それだけでは不十分で、どこかで成長の限界がきます。

 リーグをより良くし、発展させるには、どうしたらいいか。
 長期の視点に立って、ビジョンを描く必要があります。

 川淵さんのJFAの組織改革なくして、現在の日本サッカーの隆盛はなかったでしょう。

リーダーには「理論武装」が必要

 リーダーは、自らの考えをきちんと説明し、納得してもらうための説得力を持たなければなりません。
 川淵さんは、そのために理論武装をしておくことが必要だと述べています。

 理論武装と言えば、読売新聞の渡邉社長(当時)との論争なくしては語れない。
 ヴェルディが全盛を誇っていた1994年、優勝祝賀会の席で渡邊さんが「企業がサポートしているからこそスポーツ界は成り立っているのであって、どこかの“独裁者”の“空疎な理念”ではスポーツは育たない」と発言した。
 渡邊さんと言えば、日本で最大の発行部数を誇る大新聞社のトップで、読売グループの総帥。その渡邉さんにしてみれば、こちらは若造に過ぎない。この巨大な論敵に怖気づかなかったと言えば嘘になる。しかし、僕は渡邊さんの攻撃に挑んだ。なぜなら揺るぎない信念があったからだ。
 その信念の源泉は自分自身の実体験にある。
 先にも述べたが、日本代表として行ったヨーロッパ遠征で初めて先進国のスポーツ文化を目の当たりにした。そこで、「スポーツが人々の生活の一部とならない限り、日本のスポーツが世界レベルに到達するのは不可能」という考えを持った。理想とするモデルを実際に体験したことで、Jリーグの目指す姿を説明するのに具体性と説得力を持たせることができたのだ。
 そして、渡邊さんがJリーグの考えを否定する度に、それに対する理論をしっかり固め、論戦に臨んだ。僕自身はその中でどんどん鍛えられていった。そして渡邊さんがJリーグを批判すればするほど、Jリーグの理念が世間にわかりやすく発信されていったのである。
 あの頃は、渡邊さんが僕を批判する度に「勘弁してくれよ」と恨めしく思ったが、今となっては、渡邊さんはJリーグにとって恩人だと心から感謝している。あれから十数年後、古希のお祝いの会に渡邊さんから色紙が送られてきた。そこには、「サッカーと野球で青少年の精神向上に頑張りましょう」と書かれていた。渡邊さんも、「地域密着」というJリーグの理念を理解してくれたのだと心から嬉しく思った。
 バスケットボールを改革する上でも「渡邊さんのような人がいたらもっと世間の関心を引くのだが」と思ったが、残念ながら、渡邊さんほどの存在感のある論敵は出てこなかった。

『独裁力』 第4章 より 川淵三郎:著 幻冬舎:刊

 どんなに立派な理念を掲げていても、それが伝わらなければ、「絵に描いた餅」です。
 高い志を持てば持つほど、周囲からの風当たりは強くなります。

 世論の風圧に耐えて、前進し続ける。
 そのためには、理念を正当化するための理論武装が必要となるのですね。

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「ワンマン」「強引」。
 そんなイメージの強い川淵さん。
 自らも、それを認めながら、悪びれることはありません。

 川淵さんは、強い組織をつくるには、私利私欲がなく、組織を、そして社会を良くしようという志と信念を持った「独裁者」が必要だと強調されています。
 サッカーやバスケットボールの組織改革で見せた鮮やかな手腕は、川淵さんの志と信念の賜物です。

 日本には、まだまだ古い体質の組織が幅を利かせています。
 それらを革新しない限り、日本の未来はありません。
 会社経営者、組織のトップが、川淵さんから学べることは多いです。

 80歳を過ぎて、ますます意気盛ん。
 川淵さんのこれからのご活躍を、願っています。

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