【書評】『Think Simple』(ケン・シーガル)
お薦めの本の紹介です。
ケン・シーガルさんの『Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学』です。
ケン・シーガルさんは、クリエイティブ・ディレクターです。
アップルの生みの親で前CEOの故スティーブ・ジョブズと12年間ともに働き、アップルの数々のヒット作を世に送り出し続けました。
ジョブズの振るった〈シンプルの杖〉
ジョブズが、製品作りにおいて、とことんこだわり抜いたこと。
それは、「シンプルであること」でした。
iMac、iPod、iPhone・・・。
アップルが、次々と世に送り出してきた革命的な製品たち。
それらはすべて、ジョブズの振るう〈シンプルの杖〉の魔法により形づくられました。
アップルのシンプルさへの信仰。
それは製品、広告、社内の組織、直営店(アップルストア)など、すべてに存在します。
シーガルさんは、アップル社内では、シンプルであることは目標であり、仕事のやり方であり、物事を評価するものさし
だと指摘します。
「シンプルさは力」
この言葉は、世の中が複雑になればなるほど真価を発揮します。
本書は、アップルを成功に導いた〈シンプルについての熱狂的哲学〉を解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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容赦なく伝える
ジョブズは、普段の言動のすべてが率直で、頭に浮かんだことを口に出し、それを相手がどう思おうと気にしない
人でした。
明快さは組織を前進させる。たまに明快なのではなく、二十四時間いつでもどこでも明快でなければならない。ずうずうしく、あとのことなど気にしないような明快さだ。ほとんどの人は自分のいる組織に明快さが欠けていることに気づかないが、その行動の90パーセントはそうなのだ。ためしに、社内でやりとりされる電子メールを二つ三つ開けてみて、きびしい目で読んでみるといい。あいまいな表現がはびこっていることに気づくはずだ。もしも、人々が容赦のない正直さを見せて電子メールを書くならば、受信トレイのメールを読む時間は半分になるだろう。
スティーブは自分が実行している率直なコミュニケーションを他人にも求めた。もってまわった言い方をする人間にはがまんできなかった。要領を得ない話は中断させた。時間は貴重でムダになどできないというスタンスでビジネスを動かし、それはアップルの現実をよく反映していた。真剣に競争している会社ならばどこでも時間をムダにはできないはずだ。
おそらくこれは、もっとも実践しやすいシンプルさの一要素だろう。とにかく正直になり、出し渋らないことだ。一緒に働く人にも同じことを求めよう。あなたがそうすることで、落ちつかない気持ちになる人もいるだろうが、誰もが自分の立っている位置を知ることができるのだ。あなたのチームは100パーセントの力で前進することに集中できるようになる。そこでは人が言ったことの真意をあれこれと詮索する必要はない。『Think Simple』 第1章 より ケン・ シーガル:著 林信行:監 高橋則明:訳 NHK出版:刊
ジョブズの率直さが周りに受け入れられた理由。
それは、いつでも誰に対しても同様に率直だったからです。
大抵の人は、相手の感情に気を配ったり、その場の空気を壊すことを怖れます。
なので、状況によっては、正直でいることが苦痛になります。
しかしそんなことは、ジョブズにとってどうでもいいことだったのですね。
少人数で取り組む
ジョブズがアップルでMac部門を統括していたとき、「チームの人数を決して100人を超えないようにする」というルールを自らに課していました。
その理由は、全員の名前を覚えきれずに、組織構造を変える必要が生じるからです。
そうなると、今までどおりのやり方ができなくなりますね。
プロジェクトの成果の質は、そこにかかわる人間の多さに反比例する
言いかえれば、参加者が多ければ多いほど、そこからいいものが生みだされるチャンスは減るということだ。だが、人数を気にかけることが、グループを管理することのすべてではない。そのグループにある人間がかかわることが不可欠なのだ。これは独立した原則を持つほど重要だ。
プロジェクトの成果の質は、最終的な意思決定者がかかわる程度に比例する
最終的な意思決定者はCEOだけを意味するわけではない。意思決定の権限を持つ管理職であればいい。彼らがかかわることは、最初から決めておかなければならない。彼らのフィードバックを得るまでに、数週間も数カ月もかかるプロジェクトは非生産的だし、実行チームのフラストレーションもたまる。権限を持つ者は、ブリーフィングの段階から参加し、できるかぎり全プロセスにかかわるべきだ。
大企業のほとんどでは、CEOがマーケティングに深くかかわるなんて非現実的だと言われるだろう。スティーブのような非現実的な人間がいたのは私たちにとって幸運だった。彼は製品デザインの会議と同じくらい熱心に、マーケティングの会議に参加した。双方ともにアップルの成功には重要だとわかっていたからだ。自分がマーケティングのプロセスに参加し、有能な少人数のグループを指揮すれば、アップルは競争相手に勝ちつづけられると知っていた。『Think Simple』 第2章 より ケン・ シーガル:著 林信行:監 高橋則明:訳 NHK出版:刊
組織が大きくななるほど、実行チームと最終決定者の間に多くの中間決裁者が入るのが一般的です。
しかし、それではトップの意志が組織の中に迅速に十分伝わらない恐れがあります。
また、最終決裁までにいくつもの“関所”を通るので、とても非効率ですね。
アップルが、多くの魅力的な製品を、次から次へと世に送り出し続けている理由。
その一つには、こうした組織のシンプル化という原則を守り続けていることにあります。
「ミニマル」に徹する
アップルの製品には、余計なものがまったくついていません。
デザイン的にも、至ってシンプルです。
製品のラインナップも必要最小限なものに抑えています。
この「ミニマル化(最小化)」の戦略は、アップルの成長を大きく後押ししました。
彼はとても独創的にミニマル化できていることに満足していたのだ。
現在、アップルの製品はすべてシンプルさの具体例であり、それをまねたい人にとって見取り図でもある。だが、それを読み解けない者も多い。たとえば、iPadが披露されたときに、ライバル各社は特徴がないと批判した。そして、自分たちがタブレット端末を売りだすときには、接続端子の数やメモリーカード・スロットなど、iPadに「欠けている」ものをすべて足して、魅力的な機器にしようとした。ところが、そうした足し算では売れなかった。消費者にとって魅力的に映ったのは、アップルがデザイン段階でおこなう引き算だったのだ。
もしもあなたがiPodを美しいデザインだと思って買いたくなったり、iPadにタッチしたときの反応に魅せられてほしくなったり、友人の新しいiPhoneをいじっているうちに、自分の携帯電話が突然にみすぼらしく思えたりしたことがあるならば、あなたはすでにシンプルさの力を評価しているのだ。
あなたは、そうした感覚は自分のビジネスとは関係ないと思うかもしれない。だが、すべてのビジネスに関係することだ。
それは商売の基本原則のひとつと考えるべきだ――シンプルさは人を引きつける。『Think Simple』 第3章 より ケン・ シーガル:著 林信行:監 高橋則明:訳 NHK出版:刊
アップルは、シンプルで洗練されたデザインにこだわり続けています。
他の多くの企業は、機能性を追求するあまり、複雑でデザイン的にイマイチな製品を作り続けているのが実情です。
商売の基本原則としての、「シンプルさは人を引きつける」。
頭に刻みつけておきたい言葉ですね。
「フレーズ」を決める
iMac、iPhone、iPad・・・。
アップルの製品には、シンプルだけれど、誰の耳にもすぐに馴染む名前が付けられます。
商品名を決めるとき、多くの企業は、商品ネーミングを専門とする会社に依頼します。
しかし、アップルは、そのような決め方はせず、すべて自前で考えます。
自分たち以外に、自分たちのつくり出した製品を知り尽くしている人はいない。
彼らのそんな強いプライドを感じさせますね。
ジョブズが、ネーミングの際にシンプルさを求めるうえでこだわったこと。
それは、「常識」と「一貫性」です。
製品名を決めるときにアップルは〈常識〉を大いに活用する。それは劇的な名前にするためではない。iPhoneは人々を跳びあがらせる名前ではないが、信じられない量の感覚を生みだす。iMacやiPod, iPhotoなど「i」のつく製品のあとに作られたので、アップルの製品であることがすぐにわかる。そして、「Phone」はそれが革命を起こそうとするカテゴリを完璧に表しているのだ。
ネーミングについて、アップルは〈常識〉のほかに一貫性も守っている。コンピュータにはすべて「Mac」の名前を入れている――iMac, Mac Pro, MacBook Air, MacBook Pro。「i」はアップルの家庭用デバイスである印で、その製品や製品カテゴリを表す語の前につく。アップルの主要製品のネーミング構造は、現在の顧客と潜在顧客にわかりやすい簡単なものだ。そして、人々はアップルの製品名を言えばいつでも、それを作っているのがアップルだとわかるのだ。これは信じられないほど強力な概念で、究極のシンプルなやり方だ。しかし、製品名においてこれだけのブランドパワーを獲得した企業はほとんどない。『Think Simple』 第6章 より ケン・ シーガル:著 林信行:監 高橋則明:訳 NHK出版:刊
奇をてらった名前は、発売当初には話題になって、人気が出るかもしれません。
その代わり、ブームが去って忘れられるのも早いものです。
独創的で、しかも口に馴染む名前は、インパクトはありません。
しかし、その分徐々に浸透していき頭に残りやすいです。
商品の名前が、企業のブランドパワーを獲得するための最強の力になる。
アップルの例は、そのことを示してくれます。
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日本メーカーの旧来の携帯は、ガラケー(ガラパゴス化した携帯という意味から)と呼ばれます。
この例からもわかるように、日本の企業は物ごとを複雑化して考えがちです。
「複雑で他の人が理解できないこと、複雑で誰もマネのできない考え方がより良い」
そんな風潮さえあります。
世の中は、技術の進歩により複雑化していく一方です。
だからこそ、アップルの目指している「シンプルさ」は、より大きな存在感を発揮します。
ジョブズを見習い、「より簡潔に、よりシンプルに」という視点からの発想を大事にしたいですね。
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