【書評】『無印良品は、仕組みが9割』(松井忠三)
お薦めの本の紹介です。
松井忠三さんの『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』です。
松井忠三(まつい・ただみつ)さんは、「無印良品」ブランドで有名な良品計画の会長を務められています。
2001年に同社の社長に就任、組織の風土を改革して業績のV字回復を成し遂げた名経営者です。
『マニュアル』に無印良品のすべてが詰まっている!
無印良品は一時、「もう終わりじゃないか」と囁かれるほど、業績が悪化しました。
そのどん底の時期を乗り切るために、松井さんが最初に取り組んだこと。
それは賃金カットやリストラではなく、「仕組みづくり」です。
- 努力を成果に結びつける仕組み
- 経験と勘を蓄積する仕組み
- 無駄を徹底的に省く仕組み
これら三つの仕組みが無印良品の復活の原動力になりました。
無印良品の仕組みの象徴であり、松井さんが『“無印良品のすべて”が詰まったもの』呼んでいるものが「マニュアル」です。
マニュアルと聞くと「無機質で、冷たい印象がするもの」をイメージします。
無印良品のマニュアルは決して無味乾燥なものではなく、むしろ、日々の仕事に生き生きと取り組みながら成果を出していくことができる、最強の“ツール”です。
本書は、無印良品の“心臓部”であるマニュアルの一部を公開しながら「仕組みを大切にする働き方」を紹介した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「こうしたほうが、いいのに」を集める
無印良品の基準化、マニュアル化は徹底しています。
「それぐらい、口でいえばわかるのでは?」
そう思われるような簡単で分かりきったことでも明文化します。
『“仕事の細部”こそ、マニュアルすべきだ』という考えからです。
無印良品では、お客様がどの店舗に行っても、同じような雰囲気の中で、同じサービスを受けられることを目指しています。店の雰囲気は、店内のレイアウトや商品の並べ方、スタッフの身だしなみ、掃除の仕方・・・・といった“細部”の積み重ねでつくられますが、このような“細部”は往々にして、個人個人で判断してやってしまいがちです。だから、社内で統一することが難しい。マニュアルにする必要がある所以(ゆえん)です。
「細かいことまで決められていて、ちょっとめんどくさいな」「仕事がルーティンだらけになりそうだ」と思われる方もいるかもしれません。
それは逆です。マニュアルは、仕事に潤いさえ与えてくれます。
無印良品のマニュアルは、現場で働くスタッフたちが「こうしたほうが、いいのに」と感じたことを、積み重ねることで生まれた知恵です。
また、現場では毎日のように問題点や改善点が発見され、マニュアルは毎月、更新されていくのです。仕事の進め方がどんどんブラッシュアップされるし、自然と、改善点がないかを探しながら働けるようにもなります。
このように、仕事が停滞せず、常に“動いている”様子を、私は「血が通う」と表現します。そして、MUJIGRAMや業務基準書は、無印良品にとっての血管です。
血管が詰まれば、組織も人も動脈硬化を起こします。常に成長し続けないと、あっという間に衰退するのが、企業という生き物です。“現状維持”はありえません。
反対に、マニュアルが更新され続ける限り、成長は止まりません。仕事のマニュアルは、成長を測るバロメーターでもあるのです。『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』 序章 より 松井忠三:著 角川書店:刊
無印良品のマニュアルは一方通行のものではありません。
現場のスタッフからの問題点や改善点も吸い上げ、日々ブラッシュアップされます。
まさに、「無印良品の血管」と呼ぶにふさわしいシステムですね。
「育てる仕組み」をつくる
超優秀でスター性のある社員は、組織のカンフル剤になりえます。
その反面、その社員に依存し過ぎてしてしまうという危険性もあります。
松井さんは、そのような状況を回避するために、「優秀な人材はどこから引っ張ってくるのではなく、組織の中で地道に育て上げる仕組みをつくるべきだ」と指摘します。
優秀な人を採用するためにコストをかけるのではなく、優秀な人材を育てるべく社内に人材育成の仕組みをつくるほうが、時間はかかっても組織の骨格を丈夫にします。
無印良品では、「人材委員会」「人材育成委員会」という二つの機関をつくっています。詳細は省きますが、人材委員会は異動や配置を検討し、人材育成委員会は研修などを計画します。
このような仕組みをつくったのは、人材は適材適所で育つからです。
営業が向いていない社員に対して、何年も営業を経験させていては、いたずらに消耗させてしまうようなものでしょう。人には得手不得手があるのですから、すぐれたパフォーマンスを引き出せる部署に配置するのも、リーダーの役割です。
人の適性を見極めるときにも、個人的な感情には頼らないのが基本です。
無印良品では「キャリパー」という性格判断のツールを使って、社員一人ひとりの適性を判断しています。
妙にシステマティックに思えるかもしれませんが、直属の上司だけの判断に任せていたら、好き嫌いの感情が入ってしまい、冷静な判断ができなくなるでしょう。
また、店舗のスタッフも、アルバイトから正社員へとステップアップできる制度があります。なかには、18歳でアルバイトから始めて22歳で正社員になり、23歳で店長を務め、25歳でマーチャンダイザー(仕入れ担当者、以降MD)になったケースもあります。実力がある人にはチャンスがある、という仕組みを整備しているのです。
もちろん、人材育成はそれぞれの組織に合った方法があると思います。
いずれにしても重要なのは「組織の理念や仕組みを身体にしみこませた人材」を育てることです。
一般的な「できる社員」を育てても、自社に貢献するわけではないと考えておくべきです。『無印良品は、仕組みが9割』 1章 より 松井忠三:著 角川書店:刊
人材育成そのものを個人に頼らない「仕組み」化する。
そうすることで、その会社の理念に沿った優秀な人材を自前で確保できます。
人材育成のような部門は短期的には売り上げや利益に寄与しません。
しかし、長期的にみるとそのような部門の仕組みづくりににどれだけ注力しているか、その会社の将来を大きく左右します。
あなたの仕事のやり方、”最新版”になっていますか?
マニュアルというものは、つくるのにも相当労力がかかるものです。
つい、それを“守る”意識が強くなりがちです。
問題点が報告されても、改良に数年もかかることが往々にしてありますね。
しかし、マニュアルに完成はなく、リアルタイムで改善し続けることが重要です。
一年に一回まとめて改善点を報告し、検討しているようでは対応が後手後手に回ってしまいます。目の前にある問題点には、今対処する。その意識を持ってもらうためにも、マニュアルは毎月更新していくのがよいのです。
無印良品ではマニュアルを統括する部門をつくっているので随時対応できますが、部署レベルでも、リーダーあるいは担当の社員を決めて意見が集まるようにすれば、対応できるのではないでしょうか。
これを繰り返すうちに、マニュアルはより効率のよい仕事の方法の結集となります。
一人ひとりが仕事のやり方を常に見直すためにも、毎月チェックして改善点を洗い出すべきです。マニュアルは使うものではなく、つくるもの。そういう意識が生まれれば、一人ひとりの社員の仕事の取り組み方が変わってくるでしょう。
さらにいうなら、常に改善していると、世の中の流れに連動することができます。
お客様の要望は、年ごとに少しずつ変わっていくものです。細身の服が人気だと思っていたら、体型が隠れるようなデザインの服に世の中の関心はシフトしている、といったニーズの変化はよくあります。
市場で勝ち続けるには、マーケットの変化の半歩先を行くぐらいの商品やサービスを提供するのが鉄則です。先走りすぎてもいけないし、変化に遅れたらもっと売れません。
その微妙な頃合いを図るためにも、お客様の声は重要な情報源になります。そのお客様の声に合わせてマニュアルを変え続けていると、世の中の流れと連動した仕組みになっていきます。
マニュアルの更新は、仕事の仕組みを常に“最新版”にするためにも不可欠なのです。『無印良品は、仕組みが9割』 2章 より 松井忠三:著 角川書店:刊
マニュアルは、自分の作業をつねにより良く、効率的にしていくためにあります。
コンピューターの基本ソフト(OS)が、日々ヴァージョンアップして進化していく。
そんなイメージに近いですね。
成長度合いが、自分たちでも実感できることも、やる気が上がる大きな要因になります。
部下のモチベーションを上げる方法
松井さんは、モチベーションを維持するポイントとして「コミュニケーション」を挙げます。
とにかく、伝達経路をシンプルにし、社員の意見や行動に対してしっかりフィードバックすることがカギ
とのこと。
無印良品には、そのための仕組みとして「朝礼システム」というものがあります。
毎朝、店に社員が出勤してきてパソコンを立ち上げると、画面にその日にやるべき業務や予算目標、伝達事項が自動的に表示される仕組みです。
これを導入した理由は、店舗ごとに朝礼を任せると、店長によって伝える内容にバラつきが出てしまい、情報格差が生まれるからです。後になって重要な情報を知らされると、上司や組織に対して不満を感じてしまうものです。
そのようなことが起こらないように、朝礼をシステム化して、情報伝達をシンプルにしているのです。
無印良品の場合、会社組織という規模でコミュニケーションを徹底するためにシステム化していますが、部署レベルならメーリングリストで一括して伝達事項を伝える方法で充分かもしれません。
また、無印良品では、「生産性を二倍に、またはムダを半分に」というWH運動(W=ダブル、H=ハーフ)を行っています。これもボトムアップの仕組みづくりの一環なのですが、各部門に改善のテーマを決めてもらい、成果を出せた部門には「松井賞」「ホームラン賞」といった賞で表彰します。わずかではありますが、金一封も渡します。
このように、「あなたの働きを認めています」というフィードバックもコミュニケーションの一つです。賞を与えるところまではしないにしても、部下の仕事を評価するよう心がけるだけでコミュニケーションは円滑になります。そして、部下のモチベーションも保てるようになるでしょう。『無印良品は、仕組みが9割』 4章 より 松井忠三:著 角川書店:刊
コミュニケーションや情報伝達も、仕組み化で大きく改善される分野です。
すべての社員が、同じ情報を共有すること。
上から下だけではなく、下から上への意見や提案が吸い上げられること。
今では、社内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を採用する会社も増えています。
情報伝達のシステム化は、組織がシンプルで効率的な業務を行なううえで、避けては通れません。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
誰がやっても同じ作業ができるようにする。
マニュアルや作業基準書は、そのために欠かせない便利なものです。
一方、それを守る意識が強いと融通の効かない非効率な作業を強いる危険性もあります。
組織を活性化するためには、仕組みつくりはとても大切です。
ただ、どんな機械でもメンテナンスしないと動かなくなります。
仕組みも、作りっぱなしで何もせずに放っておくと機能しなくなります。
作り上げた仕組みを最大限に活用する。
そのためには、仕組みを日々改善し、“血を通わす”ことがもっとも大事。
本書はそのことを改めて教えてくれます。
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