【書評】『AI2045』(日本経済新聞社)

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 お薦めの本の紹介です。
 日本経済新聞社の『AI2045』です。

AIは人類が「使いこなさなければならない技術」


 自動運転やロボット、工場の生産現場。
 いたるところで人工知能(AI)が活躍し始めている、今の世の中。

「AIとどのように共存していけるか」

 私たちは、そのことを考えるべき時期に来ています。

 とはいえ、共存への道は、決して平坦ではないでしょう。

 成功事例は将棋の世界に見ることができます。トッププロが将棋ソフトに敗れるという現実は、多くの人にAIの脅威を印象づけました。このなかで、第一人者である羽生善治氏の対応ぶりが注目を集めています。人間では考えつかないような将棋ソフトの最先端の戦型を積極的に採用し、自分自身も進化し続けようとしています。毅然とした態度が多くの人の共感を呼んで、将棋の人気は衰える気配もありません。
 ビジネスの世界にも同様の動きが広がっています。AIやロボットよって、人間の仕事の半分が代替される――。こんな予測を聞くと私たちは不安になります。本当にそうなのでしょうか。
 人間はこれまで数多くの技術を開発してきました。石で道具を作り、機械を発明して生産性を飛躍的に高めました。電話の発明は遠距離の会話を可能にしました。インターネットの登場で、人々のコミュニケーションは格段に広がっています。
 これらの技術によって多くの仕事を人間は失いました。一方で経済は発展し、生活は便利になり、失ったよりも多くの新しい仕事が生み出されてきました。新技術を敵視し、受け入れを拒否していたら、今の繁栄はなかったはずです。
 AIはこれまでのどの技術よりも手ごわいかもしれませんが、人間が進化の次の段階へ移るために、使いこなさなければならない技術に違いありません。

『AI2045』 はじめに より 「AIと世界」取材班:著 日本経済新聞出版社:刊

 本書は、日本経済新聞の連載「AIと世界」を加筆、修正、改題し、書籍としてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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ノーベル賞が消える日


 AIは、多くの人の働き方を急速に変えつつあります。
 人間は、より人間らしい、人間でないとできない仕事を求められるようになるでしょう。

 しかし、著者は、「人間でないとできない」と言い切れる仕事が、今後も次第に減っていくことも間違いないと指摘します。

 宇宙は何からできているのか。哲学者のデモクリトスらが「原子論」を唱えた古代ギリシャ時代から人類は答えを追い求めてきた。最大のナゾにAIが迫ろうとしている。
 スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究機関(CERN)。AIを使って宇宙の3割を占めるとされる暗黒物質の検出を目指す。マウリツィオ・ピエリーニ研究員は「見つかればノーベル賞確実」と言う。一周27キロメートルの円形加速器で宇宙誕生の瞬間「ビッグバン」を再現し、AIが画像認識であぶり出す。

 だが、プロジェクトを率いるウラジミール・グリゴロフ氏はある心配が離れない。
「結果までの過程がわからないことに抵抗する人がいるだろう」。AIが導く結論は途中の計算が複雑過ぎて人が理由を後から明らかにするのが難しい。AIが生む「新たなブラックボックス」とも呼ばれる。
 ノーベル賞級の成果をあげても発明ストーリーを語れるのは人間ではなくAI。人知の最高峰であるノーベル賞でAIに主導権を握られたら、人間は研究に情熱を持ち続けられるのか。CERNで巻き起こる議論は、AIが進化した時代の人間の存在価値は何なのかという問題を突きつける。
 いっそAI自身にノーベル賞を受賞させようと動き出した人たちもいる。ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明社長が中心となり進める日米欧のプロジェクト。21世紀半ばまでの受賞が目標だ。
 北野氏に勝算はある。AIの強みは「大量に発表される論文を読み込み超高速で膨大な仮説を作成し、繰り返し検証を続けること」。ひらめきや偶然が生み出す人の大発見に対しAIは圧倒的なスピードと量で挑む。

『AI2045』 第1章 より 「AIと世界」取材班:著 日本経済新聞出版社:刊

 大量のデータを、複雑な演算で繰り返し処理し、共通の法則を見つけ出す。
 まさにAIの得意な分野といえますね。

 AIの能力は、これからさらに、急速に発達していくことでしょう。
 ノーベル賞どころか、人間が抱えているあらゆる問題を解決してしまう日が来るかもしれません。

「AIと人間の共存」は不可避


 今後、ますますAIは、私たちの生活に浸透していくことでしょう。

 AIと人間の共存は、避けられない命題です。
 あらゆる分野で、AIをどう使うかのルール作りが必要となります。

 AI自体は公平でも、人間の使い方次第では、不公平になります。

 著者は、AIでどんな社会を作るのか、問われているのは人間だと述べています。

 例えば、企業の人事に、AIが利用された場合、どうなるのでしょうか。

 もし上司がAIだったら――。公平に人事が決まり、好き嫌いや偏見、上司へのごますりはなくなるのだろうか? ネット広告のセプテーニ・ホールディングスは社員の実績や性格、相性などを数値化し、機械学習によって人材の採用や配置を決めている。人が機械に従うことに抵抗はないのか。先進企業の職場をのぞいた。
「最初は半信半疑だったが、退職率は目に見えて下がった」。第1コンサルティング部の本間崇司部長はこう話す。本間部長は半年に1回、AIが弾き出したデータを参考に人事を見直している。仕事への適性や社員同士の人間関係など、部のパフォーマンスを左右する目に見えない要素をAIが数値で示し、本間部長がそれを参考に人事を決めている。
 セプテーニは2015年秋、AIが分析したデータに基づく人事戦略を本格的に始めた。「攻め型」「守り型」といった性格診断や勤怠情報、上司と部下、同僚からの評価、仕事の成果などをすべて数値化する。1人当たりのデータ数は入社時で約180、入社10年目で800〜1000にのぼる。
 人事戦略のカギとなるのは、AIが示す全社員の「潜在退職率」ランキングだ。成果が低い人だけでなく、ランキング上位に挙がった人を、適性が高いと判断した部署に移動させる。退職者を減らし、戦力の底上げにつなげる。
 採用にもAIを活用する。学歴や性格診断、グループワークでの活躍度、面接での評価から、実際に入社する可能性のほか、3年後の業績と定着率を点数にした。AIが高得点をつけた学生は、役員面接でも95%が合格した。このため役員面接を不要にした。
 上野勇専務は「優秀な学生だけに内定を出しても他社に行ってしまう。入社してくれ、戦力になる人材を選び出す部分を機械化した」と説明する。
 AIが決めた人事に、社員は従うのか。入社1年目の松浦みづきさんは「採用時に説明があり、自分は『守り型』に分類された。配属前に同僚の性格もわかるので職場のストレスは少ない」と、納得している様子だ。
 データ分析による人材配置の火付け役は、米メジャーリーグとされる。オークランド・アスレチックスは2000年代初頭、過去の野球に関する膨大なデータを分析し、勝率を上げる要素を持つ選手だけを集めて編成。すると強豪チームに生まれ変わった。この話が「マネーボール」のタイトルで映画化されると、企業にも応用する動きが広がった。
 これまで日本企業は従業員同士を競わせ、幹部候補を育ててきた。労働人口が減り、採用が難しくなるなか、退職による減員を見込んだ大量採用モデルから、長く会社で活躍してもらう適材適所モデルへの転換を迫られている。あなたの職場の上司がAIになる日は、そう遠くないかもしれない。

『AI2045』 第3章 より 「AIと世界」取材班:著 日本経済新聞出版社:刊

 情にとらわれず、定量的かつ客観的に評価する。
 人事評価は、意外とAIが得意とする領域といえます。

 心理的な抵抗があるとしても、最初だけでしょう。
 これまで為されてきた、あらゆる機械化・コンピュータ化同様、世の中に受け入れられるはずです。
 そして、あっという間に、それが「当たり前」となるに違いありません。

「高度な専門領域」にも進出するAI


 飛躍的な進化を遂げつつあるAI。
 それは、法律や医療など高度な専門性を伴う分野でも、雇用を奪うリスクをはらみます。

 一方、AIは、人類の能力を広げ、生活水準や生産効率を向上させる可能性も秘めています。

 著者は、AI時代到来で不要になる能力が選別されていく脅威を乗り越え、どんな能力を磨くべきかが問われ始めていると指摘します。

「優秀の頭脳を持つ人」が集まる職場として、何をイメージするだろうか。司法や医療の世界を思い浮かべる人が少なからずいるはずだ。一部のエリートにしか手の届かない高度な専門職。その領域に、AIが足を踏み入れようとしている。
 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのニコラス・アレトラス博士が開発するのは「AI裁判官」。過去の裁判資料を使ってAIが妥当な判決を下せるかを試すと、実際の判決に照らした的中率は79%に達した。
 慶應大学は医師国家試験に回答するAIを開発中だ。過去の問題から学習する機能などによって正答率が上がり、合格間近に達している。これらの研究は法律家や医師の仕事を手助けすることを狙いとするが、AIが極めて高度な知力を手にしつつあることを示している。
 AIが学習する。膨大な資料やデータを読み込み、分析できる。複雑な計算も瞬く間にこなす。人にはできないこと、難しいことが得意な場合もある。それを「恐ろしい」と捉える人もいる。
「Humans Need Not Apply(人を採用する必要はない)」。動画共有サイト「ユーチューブ」に投稿された海外の動画が「リアルだ」と話題を呼んでいる。自動車の普及で人を乗せる機会が減り“失業”した馬と同じ道を人がたどると予測する。自動運転や自動翻訳の技術が本格的に導入されれば、通訳や翻訳、タクシーやバスの運転手といった仕事をAIが担う。「語学力や車を運転する能力はいらない」と考える人も出てくるだろう。
 動画では、司法や医療の分野にAIやロボットが進出する姿も描かれている。これまで機械やコンピューターは肉体労働や事務作業から人間を解放してきたが、AIが関わるのは頭脳の領域だ。エリートも無縁ではなくなる。

『AI2045』 第3章 より 「AIと世界」取材班:著 日本経済新聞出版社:刊

図1 高度な専門領域にもAIが進出していく AI2045 第3章
図1.高度な専門領域にもAIが進出していく
(『AI2045』 第3章 より抜粋)

 では、私たちは、AIが普及する時代の到来に向け、何を磨けばいいのでしょうか。

 著者は、以下のような項目を挙げています。
  • チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質
  • 企画発想力や創造性
  • コミュニケーション能力やコーチングなどの対人間関係能力
  • 情報収集・課題解決などの業務遂行能力
「記憶力」より「共感力」。
「理性」より「感性」や「感情」。

 これまでビジネスにおいて軽視されがちだった、「人ならではの強み」。
 それらが重要視されるようになるということです。

AI時代に必要な能力とは?


 AI時代に必要な能力とは、何か。
 先の見えない時代を生き抜いていく子どもを育てるには、どうしたらいいか。

 そんな問いに対して、全国屈指の進学校である開成中学・高等学校(東京・荒川)の柳沢幸雄校長は、以下のように述べています。

 ――AIなど機械化が進むなか、人間に求められる能力とは何か。
「この50年間で機械化が進み、なくなった職業はたくさんある。例えば和文タイピスト。昔は高い給与を得ていたが、今はない。ワープロやパソコンで誰もが漢字を打てるようになったからだ。切符を切る駅員や電話交換士もそう。技術や社会の変化に合わせて職業はこれからも変化するが、教育は変化するものではない。なぜなら子どもの成長段階は変わらないからだ」
「中等教育で身につけた技術は社会人になったときに陳腐化するものもある。例えば10年前はキーボードを見ずに打つブラインドタッチが必要だったが、音声入力に入れ替わるだろう。これからどんな技術が必要になるか予測できる人はいない。自信と自己肯定感を持たせることが最も大切だ。そうすれば自主性が芽生え、新しい技術が必要になったときでも自ら学んで身につけられるようになる。そのためには子どもを褒めて、成功体験を積ませることが重要だ」
 ――最近はプログラミング教育が盛んだ。
「開成でも高校の授業ではワードなどの汎用ソフトの使い方や平方根を計算するアルゴリズムを考え、プログラミングを教えている。目的はプログラミング言語を覚えることではなく、論理的に判断プロセスを構築できるようになること。プログラミングはフローチャートが書ければいい。プラスならこっち、マイナスならあっちの道に行くといった感じだ。それだけでは生徒が飽きてしまうので、プログラムも作っているが、プログラム言語は変化が激しいため、せっかく学んでも社会に出たときに役に立たないことがある」
 ――AIがあらゆるデータを解析して最適な答えを出す社会になれば、従来の知識詰め込み型の教育は不要になるのか。
「人間は判断だけでなく決断もできる。判断とは情報を集めて論理的に解析すること。論理解析ができる人なら同じ解になる。決断は未来に関することなので、論理的に解析しても1つの解にはならない。コンピューターが分析してもうまくいかないだろう。過去の蓄積からの判断であり、それが未来に当てはまるかわからないからだ」
 ――決断力を養うには知識量は必要ということか。
「知識について横軸が量、縦軸が質の右肩上がりのグラフで説明できる。量が増えれば質も変わる。例えば量が低い段階は教えてもらって理解しているうのみの状態。量が増えて自分の言葉で説明できるようになると知識は定着する。これで知識の活用ができる。多くの定着した知識がぶどうの房のようになり、あるときすっと掛け合う。これが創造だ。つまり十分な量の定着した知識がないと創造が生まれない」

『AI2045』 第4章 より 「AIと世界」取材班:著 日本経済新聞出版社:刊

 決められた作業をこなす。
 膨大なデータから必要な情報を抽出する。

 そんなタスクは、AIが得意とするところ。
 どんどん人間の手から離れていくでしょう。

 ただ、最後の「決断」「判断」は、人間が下さなければなりません。

 限られた情報をいかに手に入れるか、より、多すぎる情報から必要な知識をいかに引き出すか。

 これからの時代の教育は、根本から大きく変える必要があるということです。

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 2045年、AIは「シンギュラリティー(特異点)」を迎えるといわれています。

 シンギュラリティーとは、AIの知能が、全人類の知能の総量を超える、歴史的分岐点のことです。

 シンギュラリティーを超えると、人間はAIの思考についていけなくなります。

 AIが、自らAIを作り出す。
 AIが、世界中のあらゆるシステムを制御する。

 そんな夢物語が、現実になることでしょう。

 すべての労働やタスクが、AIに置き換わったとき。
 人間は、何に生きがいを求めればいいのでしょうか。

 人類の存在価値そのものを揺るがしかねない大問題です。
 私たちも、その本質をしっかり把握しておきたいですね。

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