本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『勝負に強くなる「脳」のバイブル』(林成之)

 お薦めの本の紹介です。
 林成之先生の『勝負に強くなる「脳」のバイブル』です。

 林成之(はやし・なりゆき)先生は、脳神経外科がご専門の医師です。
 長年、救急患者の治療に取り組まれ、「脳低温療法」などの画期的な治療法を開発されています。

「脳の仕組み」を理解するだけで、誰もが勝負に強くなれる!

 2012年に開催されたロンドン五輪。
 日本選手団は、五輪史上最多38個のメダルを獲得するなど、大活躍しました。

 この日本人選手たちの大活躍の裏には、ある秘策がありました。
 それは、トレーニングに「脳科学」を導入したことです。

 選手たちが脳の仕組みを理解し、「勝負脳」を鍛えることを日々のトレーニングに実践しました。
 それが、ロンドン五輪での大成果を後押したのです。

「勝負脳」とは、林先生の造語で、「人間の能力を最高に発揮するための脳」、あるいは「勝負になったら必ず目的を達成する脳」を指します。

 本書は、林先生の提唱する「勝負脳」のエッセンスを、ビジネスシーンや教育現場など、様々な場面で応用できるように解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「ダイナミック・センターコア」が勝負脳を作る

 林先生は、脳の仕組みについて、以下のように説明しています。

 目から入った情報は①「大脳皮質(だいのうひしつ)神経細胞」が認識し、②「A10神経群」と呼ばれる部分に到達します。「A10神経群」は、危機感を司る「扁桃核(へんとうかく)」、好き嫌いを司る「側坐核(そくざかく)」、言語や表情を司る「尾状核」、意欲や自律神経を司る「視床下部(ししょうかぶ)」などが集まった部分です。A10神経群は、いわば感情を作る中枢で、五感から入った情報に「好きだ」「嫌いだ」などという感情のレッテルを貼ります。そのため、A10神経群が壊れてしまうと「気持ち」を生むことができなくなるのです。
 レッテルを貼られた情報は、次に③「前頭前野(ぜんとうぜんや)」に入ります。ここで情報を「理解・判断」し、自分にとってプラスの情報と判断すると、その情報は④「自己報酬神経群」に持ち込まれ、さらに価値のあるものにするために「線条体(せんじょうたい)―基底核(きていかく)―視床」、⑤「リンビックシステム・海馬回(かいばかい)」に持ち込まれます。このような流れを作りながら、脳は考える仕組みを生み出しているのです。
 つまり、大脳皮質神経細胞が認知した情報について、脳は「A10神経群」「前頭前野」「自己神経報酬群」「視床」、記憶を司る「リンビックシステム・海馬回」を総動員して取り組み、思考するのです。その際②〜⑤までの神経群がひとつの連合体として機能しているので、これらの神経群を僕は「ダイナミック・センターコア」と名づけました。

 『勝負に強くなる「脳」のバイブル』 第1章 より 林成之:著 創英社:刊

 以上の脳の働きを模式的にまとめたのが、下図です。

脳の仕組みP27
図.脳の仕組み(『勝負に強くなる「脳」のバイブル』 P25 より抜粋)

 ダイナミック・センターコアの神経回路は、情報処理を繰り返す無限のループ回路です。
 この回路を繰り返し使用すると、「気持ち」→「思い」→「こころ」が階層的に深まります。

 考えを繰り返すことで、「統一・一貫性」のある常識的な考え方が少しずつブラッシュアップされ、やがて常識を超えた新しい発想を生み出します。

「超一流」の鍛え方で調整し、勝負に挑む

 スポーツだけでなく様々な分野において、一流・二流という概念ではくくりきれない「超一流」という人たちが存在します。

 たとえば、一年後に人生をかけた大きな試合があるとします。二流の選手は、スタートから「無理かも知れない」と考え足踏みする。しかし練習の成果が途中で実を結び、そのあと急速に伸びるものの、結果的には目標に遠く及ばなかった。
 一方一流選手は、目標、計画がしっかり組まれているため漸次(ぜんじ)的に伸びていく。しかし、試合の直前になってあれやこれやと考えるため、焦りやプレッシャーが加わって足踏み状態になり、目標に間に合わなかったという現象が起きる。
 それに対して超一流は、初めから期限つきで全力投球し、途中でその結果を徹底的に分析する。自分の欠点、足りない部分を事細かに洗い出し、その部分を埋める練習を繰り返すのです。その間、パフォーマンスが上がらず、一流選手の後塵(こうじん)を拝することも甘んじることもいとわない。加えて、本番のときに何が起きるかも想定して練習するから、本番直前になって一気に駆け上がることができるのです。この一気に駆け上がれるかどうかが「超一流」と「一流」の差。
 一歩ずつ着実に、という概念は日本人には美徳のように捉えられていますが、伸びるときに一気に駆け上がらないと、超一流にはなれない。これは個人プレイであれ、相手と戦うプレイであれ、チームプレイであれ全く同じことです。ただこの方法を使うには、常に損得抜きで全力投球するという習慣を持っていないとできない芸当です。

 『勝負に強くなる「脳」のバイブル』 第1章 より 林成之:著 創英社:刊

 練習のときから、つねに本番を想定して、全力投球すること。
 それが「超一流」になるための秘訣です。

 周囲の雑音や批判、賞賛にいちいち気をとられているうちは、まだまだです。

「常に損得抜きで全力投球するという習慣」

 ぜひ、身につけたいですね。

「コーピング」を利用し自分を変える

 林先生は、以前、ライバルを意識し過ぎて結果が出ずに悩んでいた女子マラソンの選手にあるアドバイスをしました。
 それが、「コーピング」と呼ばれる概念です。

 コーピングは、「ストレス要因や、それがもたらす感情に働きかけて、ストレスを軽減する方法」のことです。

 自分を追い込み続けると疲れてしまうので、今までの考えを捨て、ライバルの力を利用するように思考の転換を求めたのです。
 強いライバルの後ろにぴたりつけ、その人をペースメーカーにして、最後は私があなたの力を継いであげる、という考え方。つまり、相手の長所を利用するのです。
 先頭を走っているわけじゃないから、気分的にも体力的にも楽だし、相手のペースに難なくついていける。しかし終盤、相手に疲れが見えてきたところでスパートをかけるときに、あとは私があなたの分を引き継いでゴールすると考えれば、ライバルに同期発火したことになるので脳は疲れないし、ライバルの分も頑張っていこうとモチベーションも生まれます。
 ライバルにぴったりついていき、最後に勝負を賭けると考えると、どうしても勝ち負けという概念が出てきて、勝ち負けを考えると負けたらどうしようとなり、力が出せなくなってしまうものです。だから、あなたの足が止まっても、私がそのあとを引き継ぐという考えを持てば、「共に生きる」という本能に火がつくことになり、思わぬ力が出せることがあります。ライバルというより、同じ競技を戦っているチームメートと考えると、より力が発揮できます。

 『勝負に強くなる「脳」のバイブル』 第3章 より 林成之:著 創英社:刊

「相手に勝とう」と意識するのではなく、自分自身の能力を出しきることに意識を集中する。
 その方がいい結果に結びつきやすいです。

 一流プロゴルファーには、他のプレーヤーが打ったパットに「入れ!」と声に出す人もいます。
 飛び抜けた結果を残すためには、ライバルや対戦相手は「自分が力を出しきるための協力者である」と発想の転換が必要です。

指導者は「否定語」を絶対に使ってはいけない

 選手の能力を伸ばすには、指導者の役割がとても重要になります。

 林先生は、「指導者が選手に言葉をかけるときには否定語は絶対に使ってはいけない」と強調します。

 監督によっては、間違いを指摘するとき「このプレイはダメだな。でもクリアすればもっと上手くなる」と最後にフォローすれば万全と思っている人もいますが、あとにも先にも否定語は絶対に使ってはいけません。ダメ出しをされると選手はあとでフォローされても、立ち直れない。そうではなく、「お前のここは凄いよな。ここをこうするともっと良くなる。明日はまた一歩進化したお前を見たい、ここからはおまえの時代だ」と言うように、前を向かせ続けることです。
 だから、昔の自慢話を選手の前でとうとうと話す指導者は何をか言わんや、です。もし、かつてのことで参考にすべき点を伝える必要があれば「お前たちは、昔の栄光を超える軍団だ」と一言添えてから、話すと効果はあるかもしれません。
 そして、これも繰り返しになりますが、指導者は選手と共に成長するという原点を、頭の前に常においておくべきです。その心根にあるのは、選手を尊敬する気持ち。何をするにも「これは全部僕の責任。でも、信頼しているから、これはやってくれよ」という会話を持ち込まないと、共に成長はできません。

 『勝負に強くなる「脳」のバイブル』 第4章 より 林成之:著 創英社:刊

 指導で最も大事なことは、「選手をいかにその気にさせるか」ということです。

「この練習をやり続ければ、必ず、結果に結びつく」
「自分たちのしていることは間違っていない」

 選手がそう確信し続けることが、大きく成長するための条件になります。
 そういう意味でも、選手にマイナスイメージを植えつける否定語は絶対にNGですね。

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 結果の出る人と出ない人。
 その差は、「脳」自体の使い方にあります。

 どの分野でも、最高峰といわれる人たちは、すべての練習やトレーニングが「勝負脳」を鍛えるために行なっています。

「勝負脳」がトレーニングによって鍛えられるもの。
 ならば、脳の仕組みを理解して、それに沿った練習をすれば、誰でも成長し続けることができます。
 自分の能力を最大限に発揮できるようにもなるということですね。

 脳の使い方は、日々の習慣に左右される部分が大きいです。
 意識しない部分は使わないということ。

 普段の生活から、意識して「勝負脳」を鍛える習慣を身につけていきたいですね。

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One thought on “【書評】『勝負に強くなる「脳」のバイブル』(林成之)
  • 我無駄無 より:

    いろいろと思うところがあって、自分もこの本を購入して読みました。
    林成之氏のいわば、「勝負脳シリーズ」は「勝負脳の鍛え方」も読んでいて、「A10神経群を中心とするブロックを「勝負脳」として位置付け、それを鍛えることで、結果を出せる状態を作っていく」というコンセプトに感心したものです。

    今回では、その勝負脳をより具体的に「ダイナミックセンターコア」という形で、捉えているわけですね。
    そして、特徴的なのは、この「ダイナミック~の無限ループ構造の繰り返しによって、深まっていく」という考察でしょう。

    昔から、「継続は力なり」、「反復学習が効果がある」と言われる根拠が、ここにあると。

    その一方で、「否定語を使うな」という見解には、異論があります。
    ていうか、「だめだ」とか「むりだ」とか言うだけで終わってしまうようなら、そういう人はその時点で先が無いでしょう。

    むしろ、「駄目だとか無理だと思った瞬間がスタートラインである」そう思う人物が大化けすると思います。

    また、「あきらめたらそれで試合終了」とも言われますが、そういう人も、その時点で積んでいる。そう考えるべきでしょうね。
    むしろ「人生終わりはない、諦めようがどうしようがやれることはやれ」そう考えて、ただひたすら継続のできる人物は、やがて世界をも変えると思います。

    数千回の失敗ののち、電球を完成させて、世界を変えたエジソンのように。

    彼は、「あきらめなかったから成功した」のではなく「あきらめても絶望しても継続したから成功した」そういうことでしょう。
    そういう意味で、彼は、「勝負脳」を究めていたと思います。

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