【書評】『はじめてのリーダー論』(小倉広)
お薦めの本の紹介です。
小倉広さんの『はじめてのリーダー論 ―部下と上手につきあう31のコツ』です。
小倉広(おぐら・ひろし)さん(@ogurahiroshi)は、経営コンサルタントやビジネス書作家です。
自ら「人間塾」を主宰し、東洋哲学を用いた人間力向上の啓蒙活動も行なっていらっしゃいます。
リーダーの役割は、「馬の喉を渇かせる」こと
「喉の乾いていない馬にむりやり水を飲ませることはできない」
小倉さんが座右の銘にしている西洋のことわざです。
馬に水を飲ませるたった一つの方法は、馬の喉を渇かせる。つまり、馬自身が「水が飲みたい!」と思うようにさせること
。
リーダーの、部下に対する役割も同じです。
小倉さんは、動かない部下をどうにかして動かす。それこそがリーダーの役割である、と気づいたところから、リーダーはようやく始まる
と強調します。
本書は、小倉さん自らが体験を元に、新米リーダーの指針となるテーマについてまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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リーダーとしての役割
プレイヤーとは「自分で結果を出す人」であり、リーダーとは「他人を通じて結果を出す」人
。
リーダーは、あくまでも、「人を動かして」結果を出すのが仕事です。
おそらくチームリーダーであるあなたは、一人だけでは決して達成できないような高い目標やビジョンを持っているはず。その際にあなたは自分個人に割り振られた目標だけを達成するのではなく、自分以外の全メンバー分の目標をも達成させるのが仕事となります。
では、どうすれば人が動いてくれるのでしょうか? ほとんどのリーダーはここでつまずきます。
なぜならば、次のように大いなる誤解をしているリーダーがほとんどだからです。すなわち、
「やるべきことを伝えればメンバーは動く」
「伝えても動かないのはメンバーの責任であり仕方ない」この二つの考え方は明らかに間違っています。正しくはこう考えるべき。
「やるべきことを伝えてもメンバーは決して動かない」
「伝えても動かないのはあたりまえであり、リーダーの創意工夫と情熱により、何とか動いてもらうように汗をかかなくてはならない」これが現実であり、正解なのです。メンバーは「やるべき(MUST)」だとわかっていても動かないし動けない。そうではなく「やりたい(WILL)」と思い、「やり方(CAN)」を手にして初めて、ようやく少しずつ動き始める。そしてやっと動き始めたと思ったら、またもやすぐに止まる、後戻りする。
それほど、大変に手のかかるメンバーを、なんとかその気にさせて動かしていく・・・・。
この壮大な仕事がリーダーとしてのあなたの役割なのです。
まずはあなたの意識と行動を変えていきましょう。そこからチームが動き始めるのですから。『はじめてのリーダー論』 Chapter 1 より 小倉広:著 ゴマブックス:刊
自分が動いて結果を出していた人が、リーダーになって部下を持つ。
とたんに、他の人に仕事をしてもらって、結果を出さなければならなくなります。
その切替がうまくいかない人は多いです。
仕事ができた人ほど、自分でやってしまいたい衝動に駆られるからでしょう。
「人に動いてもらう」ことを全力を尽くすよう、意識と行動を切り替えること。
最初は面倒でも、まずはそれが重要です。
他人のせいにして思考を放棄しない
仕事柄、人材育成に関する取材をよく受ける小倉さん。
「どうすれば人を育てることができるのか」
この質問に対する小倉さんの答えは、問題を相手のせいにさせないこと。他責の考えを改めさせること
です。
私たちには目標がたくさんあります。その目標は例えば学生の頃の目標と違い、達成が困難なものばかり。あるべき姿たる目標と現状との間にギャップが生じると、人は不快な心象を持つものです。これを認知的不協和と呼びます。
そして認知的不協和が起きると人はそれを解消しようと試みます。その場合の手段は大きく分けて二つ。つまり、他責と自責。問題の原因を他人のせいにする(他責)のか、それとも自分に原因を求めるのか(自責)の違いです。
他責の人は、目標達成できない現状を上司や会社のせいにする。「所詮(しょせん)無茶な目標だったんだよ」、「上司は現場が見えていない」と。そしてガード下の居酒屋で上司の悪口を肴(さかな)に酒を飲み、自ら努力を放棄するのです。これでは決して成長することはありません。
自責の人は、目標達成できない原因を自分の中に求めます。「自分の努力が足りない。能力が足りない」と考え、人一倍努力し勉強する。そしてメキメキと成長していくのです。
愚痴をこぼすだけの人生を選ぶのか。努力し勉強する人生を選ぶのか。答えは簡単。後者を選べばいいのです。ただし、厄介なのはこれから。つまり他責の人は、自分が他責であることに気づかないから。自分は自責の人間だ、とうそぶきながら夜ごと上司の悪口を言って溜飲(るいん)を下げるのです。
成長したいのなら、徹底的に自責になること。自分一人では手に負えないような大きな事柄だとしても、それを上司のせいにしないことが大切です。自分ができる小さなことに集中すること。そうすることでリーダーとしてのあなたも、大きく成長するでしょう。
『はじめてのリーダー論』 Chapter 2 より 小倉広:著 ゴマブックス:刊
自分のやったことがうまくいかなかった。
その場合、程度の差こそあれ、自分自身にも非があるのは間違いありません。
実際に、誰に一番の責任があるのかは、この際どうでもいいこと。
自分の中の失敗した原因をとことん追求することが、成長するためには重要です。
自分にも、部下にも、自責の人でいることを求めること。
リーダーとしての大きな資質のひとつですね。
人が育つサイクル
小倉さんは、「約束を守る」と人は成長
すると述べています。
約束を守るとは、言葉を換えれは「目標を達成する」ことです。
目標を立て、それを達成することを通じて人は成長します。だからこそ、人は約束をし、それを守ることで成長していくのです。
そう考えれば、人材育成のメカニズムが見えてきます。「理念」など高いレベルの約束を作り、それを守るように「自責」へと導いてあげる。そのために約束の策定プロセスを参加型にし、コミットメント=約束しやすい環境を整えてあげること、すなわち、「他責」へと易きに流れぬようくさびを打ってあげることが大切なのです。
約束とは、「理念」だけではありません。例えば評価、報酬制度などからなる人事制度も約束の一つ。「部長」としてこれだけの責任と使命を果たしてください、というオーダーが経営から与えられる。
それに基づき、自分で果たしたい職務や責務を自己申告し経営とすりあわせ目標を設定する。これこそ、まさに「コミットメント=約束」です。
そしてそれを守る、つまり目標達成した時に、約束どおりの報酬やステータスを手にすることができるのです。これぞまさに、人が育つサイクルです。つまり人が育つ組織とは、たくさんの約束=目標を作り出し、その約束=目標を他責にせず自責と捉える組織である、ということになります。
『はじめてのリーダー論』 Chapter 3 より 小倉広:著 ゴマブックス:刊
達成することに価値のある目標を部下に与えること。
それも、リーダーの大きな役割のひとつですね。
価値のある目標とは、本人の成長につながることであることであることはもちろん、組織の利益につながることでなければなりません。
目標を達成することで、利益をあげて組織に貢献できたこと。
それが自信ややる気につながるということです。
植木に水をあげるのは・・・・
小倉さんは、日課として、毎朝欠かさずに家の植木の水やりをしています。
玄関の靴をきれいに揃える習慣も徹底して行なっています。
このような小さなことに気を配るのは、物事は「一事が万事」と考えているからです。
ものごとは、すべて「一事が万事」。そう思って、日頃の生活を改めていくことこそが、一見遠回りのように見えて、良い仕事をする近道なのではなかろうか、と最近よく思います。
「挨拶をきちんとしなさい!」
「背骨をきちんと伸ばしなさい!」
「靴を脱いだら片付ける!」ガミガミと子供の私を叱ってくれた、生前の母。子供だった私は、その真意をわからずに「うるせぇな・・・・。そんな細かいことはどうでもいいだろう。古くさい・・・・」。そんな風に思っていたものです。
しかし、その大切さが最近になって、ようやくわかってきました。「植木に水をやること」も「靴を揃えてしまうこと」も「背骨を伸ばして座ること」も。すべては「一時が万事」なのです。
リーダーシップとは生き様そのものです。よきリーダーになる、ということは、よき人生を送ることと限りなく等しい。常日頃、私が考えていることです。
明日も私は植木に水をあげるでしょう。自分がおいしい朝食をいただく前に。気持ちがさっぱりとするお風呂に入る前に。まずは植木を優先するでしょう。自分が後。その考え方を身につけるために。そんな鍛錬を少しずつ続けていきたいと思う。
『はじめてのリーダー論』 Chapter 4 より 小倉広:著 ゴマブックス:刊
普段の心構えは、日々の言動に現れます。
忙しくて、目の前のことに集中できずに、「心ここにあらず」の状態。
そうなると、周囲への気配りどころではなくなります。
心を落ち着けて、問題に冷静に対処する。
そのためには、まずは身の回りのことに心を込めてこなすことが先だということです。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
どんな組織であれ、リーダーは大変な役割です。
その組織の責任を一身に背負う、孤独な立場。
上司と部下の板挟みにあうことも多いでしょう。
そんな厳しい立場にあえて身を置くことを敬遠したいと考えている人も、最近は多いです。
しかし、会社員の場合、そんなことも言ってはいられません。
遅かれ早かれ、責任のある立場に立つときがきます。
そのときに、急に慌てないように事前に準備をしておく必要がありますね。
リーダーという経験は、誰でもできるものではないし、貴重なものです。
大変な役割だからこそ、やりがいがあるし、自分自身の成長にもつながります。
どうせやらなければならないのならば、積極的な姿勢でチャレンジしていきたいですね。
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