本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『勝つ人のメンタル』(大儀見浩介)

 お薦めの本の紹介です。
 大儀見浩介さんの『勝つ人のメンタル』です。

 大儀見浩介(おおぎみ・こうすけ)さんは、メンタルトレーナーです。
 現在は、自ら会社を立ち上げ、スポーツ、ビジネス、教育など、様々な分野においてご活躍中です。

本当に「勝つ人」のトレーニングとは?

 本番で実力をフルに発揮する。
 そのためには、メンタルのコンディションを整えることがとても重要です。

 世界のトップアスリートたちは、「メンタルトレーニング」を取り入れています。
 メンタルトレーニングは、スポーツ心理学をもとにした科学的な心のトレーニングプログラムです。

 勝つ人は、やみくもに「勝ち」を求めません。
 勝つことだけを目的にしていないから、結果として勝利を手にすることができるからです。

 トップアスリートたちが大舞台で素晴らしいパフォーマンスを見せることができるのは、その競技が楽しいからであり、厳しい競い合いの中で自分が成長することに喜びを感じているから。
 そのメンタリティは、ビジネスをはじめ、あらゆる分野で必要とされ、実際に日々の生活のなかでも応用できます。

 本書は、メンタルトレーニングを日々の生活にとり入れ、「勝つ人」になるための方法を解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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目標は現状の「一割増し」がいい

「アメとムチ」のような外発的動機付けでは、人間的な成長を促すことはできません。
 トップアスリートは、内発的動機付け、つまり、内側から湧き起こるやる気が高いことがわかっています。

 内発的なやる気が高まってくると、興味や関心がどんどん煽(あお)られます。
 そして、「もっと高みを追求してみたい」という考えを持つようになります。

 大儀見さんは、本当のやる気とは、目標設定とそのプランニングによって自ら育てていくものだと述べています。

 目標を決める際に大切なことは、『目標設定を「半歩先」に置く』ことです。

 2015年正月に行われた箱根駅伝で、青山学院大学が初優勝を遂げました。10時間49分27秒は大会新記録、2位の駒澤大学に10分以上の大差をつけての優勝です。多くの方は、五区の箱根の山越えで区間新記録の快走を見せて「新山の神」と賞賛された神野大地選手の印象が強いのではないでしょうか。
 この驚異的な強さの裏側にあったのも、やはり確かな目標設定でした。青学の原晋監督は、インタビューの中で「半歩先の目標を追いかける」ことの重要性を述べています。
 具体的には、選手全員に「目標管理シート」を書かせました。A4用紙に、1年間の目標と1ヶ月の目標、さらに具体的な個人の目標を書きます。
「大事なのは自分で目標を決め、自分の言葉で具体的に書き込ませることです。これが選手の自立につながるのです」と原監督は述べています。
 さらに、目標は具体的な数字で掲げ、実現不可能な目標設定はダメだと言います。新山の神の神野選手は、「五区を78分30秒で上がれるように練習を積む」と目標を立てていました。結果的に、彼は76分15秒という大記録を打ち立てるわけですが、もし最初から76分台を目標に掲げていたら、「練習の段階でオーバーペースになってくじけていたでしょう」と原監督は言います。
 重要なのは、がんばれば手の届きそうな半歩先の目標を積み重ねていくこと。それを続けることによって、確かな成長を遂げることができるのです。
 この目標管理シートには目標達成を成功させるためのポイントが詰まっています。
 では、適正な目標水準はどれくらいがいいのでしょうか。そのことを確かめた、ある実験があります。同じ試験を受ける人たちを五つのグループに分け、目標の高さを変えて勉強するとどうなるかいう実験です(図表4、下図を参照)。
 一つのグループは130%の目標設定、以下110%、100%、目標を立てなかったグループに分け、どのグループがもっともいい成績をあげるか確かめてみました。その結果、もっともいい成績をあげたのは、目標を110%に設定したグループでした。つまり、ちょっとがんばれば手が届きそうな位置に目標を持ってきたグループが、一番いい成績をあげたということです。
 わかりやすく例をあげると、中間試験で50点だったとします。「期末試験で100点をとれ」と言われても、いきなりそんな高い目標では、「どうせ無理だよ」と最初からあきらめの気持ちがわいて、勉強する意欲を失ってしまいます。
 しかし、目標を中間試験の110%、55点にすると、「え、あと5点? 55点ならなんとかいけそうだ」と感じ、がんばって勉強に取り組みます。
 要するに、「どうせ無理だよ」という気持ちで机に向かうのと、「よし、いけそうだ」という気持ちで机に向かうのでは、勉強の質がまったく違ってくるのです。
「いけそうだな」「できそうだな」という気持ちを持つというのは、先ほど述べた内発的動機を高めるということですから、テストの点数が良ければ、「よっしゃ、次もこの調子でいこう」となります。でも、もしテストの点数が悪くても、「よし、次こそは」と思い、いっそう身を入れて勉強に取り組みます。自分で「いけそうだ」と思ってやった結果なので、悪かった場合も次につながりやすくなります。
 キーワードは「半歩先」なのです。

 『勝つ人のメンタル』 第1章 より 大儀見浩介:著 日本経済新聞出版社:刊

最適な目標水準とは 第1章P68
 図表4.最適な目標水準とは? (『勝つ人のメンタル』 第1章 より抜粋)


 多くの人は、大き過ぎる目標を立てて続けることができずに挫折してしまいます。

 目標は、つねに「半歩先」に置くこと。
 覚えておきたいですね。

理想的な心理状態「ゾーン・フロー」

 どうも気分が乗らない、注意力が散漫になる、すぐにあきらめてしまう。
 イライラして人にあたってしまう。
 焦って何をしていいかわからない。

 これらは、「心が正常な状態ではない」ときの心理です。

 では、「理想的な心理状態」とは、どのようなものなのでしょうか。

 図表7(下図を参照)をご覧ください。横軸は、緊張と興奮のレベルを表しています。右に行くほど、緊張・興奮のレベルが高くなり、左に行くほどリラックスレベルが高くなります。縦軸はパフォーマンスレベルを示しています。
 リラックスしすぎると、気分が乗らなかったり、注意力が散漫になったり、すぐに萎縮してしまいます。逆に、緊張・興奮レベルが高すぎると、イライラしたり、焦ったり、頭が真っ白になってしまいます。いずれも、高いパフォーマンスを発揮できる状態ではありません。
 心が正常な状態ではない時に、何かをやろうとしても、なかなかうまくいきません。
 気持ちが「リラックス」と「緊張」のちょうど中間にある時を、「ゾーン・フロー」と言います。自分の持つ力を最大限に発揮できる理想的な心理状態です。
 おそらく読者のみなさんも、一心不乱に集中したり、意識がいやにはっきりして何でも見通せそうな気がしたり、何かいいことがおこりそうなワクワク感を感じたりしたことがあると思います。それがゾーン・フローの心理状態です。緊張とリラックスがほどよくミックスされ、もっとも高いパフォーマンスを発揮できる状態なのです。
 たとえていうなら、音楽のボリューム調整のようなものでしょうか。どんなに素晴らしいオーケストラのCDを聞いても、ボリュームが小さすぎると聞こえませんし、大きすぎれば爆音で耳に痛い。ほどよくボリューム調整してこそ、演奏のよさがわかります。それと同じことで、心理状態も緊張とリラックスをほどよく調整することによって、ベストな状態を作り上げることができるのです。
 緊張かリラックスか、普段どちらが強く出るかは人によって異なります。商談やプレゼンの席などで緊張感が強く出る人は、リラックスするためのセルフコントロールをします。逆に、緊張レベルが低すぎる人は、気分を高めるセルフコントロールで心理状態をゾーンにもっていきます。

 『勝つ人のメンタル』 第2章 より 大儀見浩介:著 日本経済新聞出版社:刊

理想的な心理状態 第2章P79
 図表7.理想的な心理状態 (『勝つ人のメンタル』 第2章 より抜粋)


 理想的な心理状態(ゾーン・フロー)を知る。
 そのためには、自分が普段、緊張かリラックス、どちらの状態であることが多いかを把握することが重要です。

「過ぎたるは及ばざるがごとし」
 何ごとも中庸を保つことが大切だということですね。

超一流アスリートが実践する”儀式”

 仕事でも、勉強でも、持てる能力を最大限発揮するために必要な「集中力」
 集中するためには、トレーニングが不可欠です。

 トップアスリートたちの多くは、集中力を高めるために、さまざまな工夫をしています。

 イチロー選手が打席に立つ時の儀式のように、毎回行う同じ動作を「パフォーマンス・ルーティン」と言います。イチロー選手に限らず多くのアスリートが、集中力を高めるためにパフォーマンス・ルーティンを取り入れています。
 かつて強い横綱として角界に君臨した朝青龍関は、時間いっぱいになると塩をパッと土俵にまき、左手でパンパンと強くまわしをはたいて、立ち合いに向かいました。その表情は鬼のように厳しく、勝負に集中している様が見る者にも伝わってきました。
 世界最速の男ウサイン・ボルト選手は、レース後のやり投げのようなポーズが有名ですが、スタートラインにつく前にも毎回同じ動作を実践しています。右手で左肩、右肩、額、胸に触って十字を切り、最後に顎(あご)に触れて、天を見上げる。これが、ボルトにとってのパフォーマンス・ルーティンなのです。
 多くのテニス選手は、サーブを打つ前に数回ボールをバウンドさせます。その回数やボールがはねる強さにも、選手それぞれのルーティンがあり、アスリートによって千差万別ですが、共通しているのは必ず同じタイミングで同じ動作を行うこと。途中で邪魔が入って動作の中断を余儀なくされたら、また一から同じ動作を繰り返します。そして、その動作を習慣化することによって、集中するためのスイッチにしているのてす。
 この手法は、スボーツばかりでなくビジネスの現場にも応用できます。たとえば、仕事にとりかかる時、デスク周りを整頓し、目をつぶって深呼吸を2、3回繰り返す。そして、心の中で「さあ、これから集中してやるぞ」とつぶやく。こんなことを習慣化していくのも一つの方法です。
 あるいは、大きな契約をとったり、上司からほめられた日を思い出してください。その朝、どんなことをしたでしょうか。トイレに入って手を洗う時、鏡に映った自分を見て「よし、やるぞ」と声をかけた。コーヒーを一口飲んでから、しばらく腕組みをして瞑想した。そのときの成功体験を呼び覚ますものであれば、何でもかまいません。そのとき行った動作をパフォーマンス・ルーティンとして取り入れるのも効果的です。
 いずれにせよ、重要なのは、その動作を毎日やり続けること。習慣化して、このパフォーマンス・ルーティンを行えば集中できると、潜在意識にしっかりとインプットしておくことです。

 『勝つ人のメンタル』 第3章 より 大儀見浩介:著 日本経済新聞出版社:刊

「パフォーマンス・ルーティン」を取り入れると、余計な神経を使わずに、素早く本番の集中状態に入ることができます。
 そのぶん、成功したときのイメージや相手や周囲の状況把握に意識を向けられるということ。
 ぜひ、“集中のスイッチ”として、パフォーマンス・ルーティンを活用したいですね。

ネガティブワードを打ち消す「なんちゃって」

 独り言や自己会話のことを「セルフトーク」といいます。

 ある調査によると、日常生活におけるセルフトークの7割は、ネガティブな内容だ言われています。
 私たちは、自分でも気づかないうちに、マイナスの自己暗示をかけているということ。

 セルフトークからすべてのネガティブワードを消すのは不可能です。
 しかし、少しずつ減らしていくことは大切です。

 大儀見さんは、その努力が心をコントロールするメンタルトレーニングとなると述べています。

 では、無意識のうちにネガティブワードをつぶやいてしまった時はどうすればいいのか? 仕事が溜まっていて、やってもやっても終わりがみえない時、つい「疲れたあ」と言ってしまいますよね。思い通りに事が運ばない時も、「なんでだよ」とつぶやいてしまいます。窮地に追い込まれたら、「やばい、どうしよう」が口をついて出てきます。無意識に出てしまったものですから、止めることはできません。
 そんなときは、言ってしまった後で「なんちゃって」と言ってみます。なんちゃって――、いま言った言葉はほんの冗談、本気じゃないよと自分自身にアピールするのです。
 私もサッカーの現役選手時代、よく使っていました。味方と意思疎通がうまくとれなくて、思ったように動いてもらえない。私のパスの意図を受け手が理解してくれない。そんなとき、思わず、「なんで動かないんだよ」と声を荒らげてしまうこともしばしばです。
 しかし、メンタルトレーニングを学んで心をコントロールすることの重要性を認識してからは、極力ネガティブワードを口にしないように努力してきました。でも、いくら注意していても思わず、「なんで、わからないんだよ」と言ってしまうことはあります。
 言ってしまってから、ハッとします。そこで、すかさず「なんちゃって」と付け加えます。
「何やってんだよ・・・・なんちゃって」
「そうじゃないだろ!・・・・なんちゃって」
「わかってないなあ・・・・なんちゃって」
 こんな風に「なんちゃって」をつけて、前言を打ち消します。ネガティブワードが心の中に刷り込まれるのを少しでも阻止したい。そんなときに使います。この言葉は自分に対して前言撤回を宣言すると同時に、周りの雰囲気を和やかにするという効果があります。
 かつて私が教員をしていた頃、言うことを聞かないパソコンに悪態をつく同僚がいました。
「なんだよ、このパソコン。どうなってるんだ、動けよ」
 機械を叩いて当たり散らします。周囲の人間は、「そんなことを言っても、何もならないのに」と思っていますが、彼の剣幕に押されて何も言えません。彼のネガティブな言葉と行為のために、その場の雰囲気も悪くなり、ネガティブな感情が周りの人々に伝染します。
 そんなとき、もし彼が、「バカ、動けよ、このパソコン・・・・なんちゃって」と言ったとしたらどうでしょう。思わず、プッと吹き出してしまいませんか? ちょっとコミカルで、かわいらしくも感じ、ニヤリとしてしまう。場の雰囲気も和やかなものになっていくでしょう。「なんちゃって」には、そんな効果もあるのです。
 もし、ネガティブワードをつぶやいてしまったら、すかさず「なんちゃって」と付け加えてみましょう。それで、自分も周囲も思わずプッとなったらしめたもの。ネガティブワードはもうどこかに消えています。

 『勝つ人のメンタル』 第6章 より 大儀見浩介:著 日本経済新聞出版社:刊

 否定的なセルフトークは、「百害あって一利なし」です。
 なるべく言わない努力をするのはもちろん、言ってしまったらすぐに否定することが大事です。

「・・・なんちゃって」
 覚えておいて損はありませんね。

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 昔から、「日本人はメンタルが弱い」と言われています。
 オリンピックなどの国際的な大舞台では、普段の実力をまったく発揮できない人も多いです。
 その原因の一つは、結果だけを追い求めてしまう「生真面目さ」にあります。

 結果だけを追い求めると、競技自体を純粋に楽しむことを忘れ、心に“遊び”がなくなりがちです。
 固いものほど、強い衝撃で折れたり壊れてしまうものです。

 私たちのような一般人は、彼らほどシビアに結果を求められません。
 しかし、同じような状況に陥る危険性はあります。

「勝つ人」ほど、勝つことだけを求めない。
 どんなときにも心に余裕をもって、プレッシャーを受け流す「したたかさ」を身につける。

 メンタルトレーニングを日々の生活に取り入れて、「勝つ人」の人生を歩んでいきたいですね。

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