【書評】『座らない!』(トム・ラス)
お薦めの本の紹介です。
トム・ラスさんの『座らない!: 成果を出し続ける人の健康習慣』です。
トム・ラス(Tom Rath)さんは、ビジネス・健康・経済の分野で活躍する人間行動学の専門家です。
「食べる・動く・眠る」の方程式
16歳のとき、「フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL病)」という難病にかかったラスさん。
懸命の治療により、VHL病を克服しましたが、それをきっかけに「長く生きるために何をしたらいいのか」を徹底的に学びます。
過去10年にわたって、まるで情報洪水の中に飛び込むようにして、医学・心理学分野の学会誌や学術書をはじめ、学術研究関連の文献を広範囲に読破
したとのこと。
自分の健康を決めるのは、日々の「選択」です。
その中でも、「食べる・動く・眠る」の3要素について、何を取り入れて何を避けるのかは重要です。
健康的な朝食で1日のスタートを切ります。すると、それから何時間も活動的でいられます。何時間も活動的でいると、今度は1日中健康的に食べられます。1日中健康的に食べて活動的にしていれば、夜になってぐっすり眠れるはずです。1晩ぐっすり眠ると、翌日にはもっと容易に、健康的に食べて活動的でいられることでしょう。
対照的に、1日でもちゃんと眠れないと、食事と運動に直ちに影響します。朝起きて健康的な朝食を取れず、それから何時間も活動的にはなれません。最悪の場合、食べる・動く・眠るの3要素がそろって逆回転します。いわば「負のスパイラル」が始まり、日ごとに状況が悪化していきます。だからこそ本書は皆さんに対して、3要素すべて同時並行で取り組むよう提案しているのです。
これは最新の研究結果に裏付けされたやり方でもあります。3要素に同時並行で取り組むと成功する確率を高められるのです。食生活だけ改めたり、運動メニューだけと取り組んだりしても、3要素同時にやるのと比べれば効果は限られます。さらに注目すべきなのは、3要素同時であると3要素それぞれの実践が容易になる点です。食べる・動く・眠るの3要素が相互にプラスに影響し合うからです。つまり3要素同時であると、日ごとに状況が改善していく「正のスパイラル」が生まれるのです。
きょう健康的に食べて、活動的に過ごして、ぐっすり眠れば、あすにはよりエネルギッシュになれます。そうなると、友人に対しても家族に対しても思いやりを持てるし優しくなれます。同時に仕事の効率や地域コミュニティーへの貢献も高められるでしょう。
すべては「今日どんな選択をするか」が出発点です。それで明日が決まるからです。『座らない!』 はじめに より トム・ラス:著 牧野洋:訳 新潮社:刊
本書は、ラスさんが拾い集めた膨大な知識の中から、より健康的な生活を送るうえで役立つアイデアをよりすぐった一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「座る」のは喫煙より体に悪い
ラスさんは、座るという行為は、現代社会で最も見過ごされがちな健康リスク
だと述べています。
世界的に見ると、運動不足で死ぬ人は喫煙で死ぬ人よりも多い
とのこと。
1日6時間以上座ると、早死するリスクが大きく高まります。どんなに運動しても、どんなに健康的に食べても、どんなに禁煙しても、過剰に座る習慣を改めない限りは健康問題を誘発します。車を運転しているとき、テレビを見ているとき、会議に参加しているとき、パソコン画面を見ているとき――座らなければならない状況はいくらでもあります。1時間座るたびに活力を失い、健康を害しているのです。
座ってばかりいると太り過ぎにもなります。過去20年間を調べると、アメリカでは運動する人の割合は変わらないのに、人々が座っている時間は増え、肥満症の人の割合は2倍になっています。糖尿病研究の第一人者によれば、長時間座り続けると知らぬ間に健康を損ないます。日常的にたばこを吸ったり直射日光を浴びたりするのと同様のリスクにさらされます。常に直射日光を浴びる生活を送っていれば、専門家から皮膚がんのリスクを指摘されますね。常に座る生活を送っている人も同じです。大きな健康リスクと隣り合わせだと考えるべきです。
いわば「座り病」です。人々は座るたびに健康を害しているです。座った途端、まず足の筋肉で電気的活動がストップします。同時に消費カロリーは1分当たり1キロカロリーへ低下し、脂肪燃焼を促(うなが)す酵素の生産は90%減少します。
2時間座ると、善玉コレステロールが20%減ります。だからでしょうか、デスクワーク中心の人は心臓病を患いやすいのです。立ち仕事の人と比べて、心血管疾患の発生リスクは2倍になります。たとえ2時間運動したとしても、22時間座り続けることに伴うマイナスを相殺できない、と指摘する糖尿病の権威もいます。
しかし多くの人にとって、1日何時間も座るのは避けられないことです。どうしたらいいのでしょうか? 時々立ち上がってストレッチするなど、できる限り体を動かす。職場では電話に頼らずに同僚の部屋まで歩き、家では動きながらテレビ鑑賞する。
決まった場所に立っているだけでも効果的です。それだけでも座っているよりは活力の点で勝ります。歩けばもっと効果的で、活力は150%増大します。エレベーターの代わりに階段を使えば、200%以上増大します。「長い距離を歩くほどの時間的余裕はない」などと考えると判断を誤ります。より健康になるために身体活動を行なう絶好のチャンス――こう考えるいいでしょう。『座らない!』 Chapter 02 より トム・ラス:著 牧野洋:訳 新潮社:刊
パソコンなどの普及で、デスクワークが主流になった現代社会。
車を使って通勤している人は、1日にほとんど歩かないという場合も多いでしょう。
多くの人にとって長時間座るのは、避けられないこと。
それでも、少しでも「座り病」による健康リスクを低減できるように、生活のなかで工夫していきたいですね。
「早食い」で肥満リスクは2倍
普段の食事で気をつけるべきことは、「ゆっくり食べること」です。
早食いすると、消化器官が脳に向けて「もうおなかがいっぱいだよ」という信号を送るタイミングを失ってしまいます。結果としてどんどん食べ続け、食べ過ぎます。最初の何口かはともかく、余計な量をおなかに入れても料理は味わえません。要するに、急いで食べると食べ過ぎるばかりか、食事そのものを楽しめなくなるのです。
早食いすると大食いになるうえ、肥満症リスクがほぼ2倍に、2型糖尿病リスクが2.5倍に高まります。対照的に、ゆっくり時間をかけて食べて、一口一口の味わいを楽しめば、食べる量をぐんと減らせます。そのため、肥満症リスクや糖尿病リスクの上昇も防げます。
早食いすると食後に不快感を覚えます。一気に飲食すると消化管に過剰な空気が取り込まれるため、胃袋が膨張して胃酸過多になります。これが胸焼けです。医学的には胃食道逆流症(GERD)として知られています。5分で食事を平らげる人がGERDにかかるリスクは、食事に30分以上かける人と比べて50%高いという研究結果もあります。
しっかりかんで食べれば、1回の食事を終えるのに最低でも20分かかるとみる専門家もいます。食べるスピードを落とすことで、自分の脳と胃に時間的余裕を与え、「もうおなかいっぱいだよ」と認識させることができるのです。
テイクアウトで食べざるを得ない場合でも、ゆっくり食べるためにできることがあります。一口食べるごとに①食べ物を皿に戻す②腕を下げる③フォークやスプーンを置く――などです。こうすれば、飲み込むように食べ続けることはできません。最初の何口かをじっくり味わうのも手です。健康的に食べるプロセスを楽しめるようにするのです。『座らない!』 Chapter 08 より トム・ラス:著 牧野洋:訳 新潮社:刊
早食いは、大食いになるだけでなく、肥満や糖尿病のリスクを増大させます。
「百害あって一利なし」ですね。
目の前に食べ物を、一口一口味わいながら食べる。
そんな余裕のある食事を心がけたいです。
「タンパク質」に優先順を付ける
食べ物を選ぶ際に気をつけるべきは、「炭水化物の摂り過ぎ」です。
それを防ぐための簡単な方法が、「炭水化物・タンパク質比率」です。
炭水化物・タンパク質比率は、炭水化物含有量とタンパク質含有量で割って算出した値。
具体的には、1グラムのタンパク質に対して1グラムの炭水化物を目安
にすればよいとのこと。
ただ、摂取すべきタンパク質にも、良質のものと、そうでないものがあります。
どのような種類のタンパク質を積極的に食べればいいのでしょうか。
タンパク源を厳選すれば、栄養面での心配は無用です。タンパク質補給のために、わざわざ不健康なホットドッグやハンバーガー、パストラミサンドイッチを食べる必要はありません。たまに食肉を食べるのは構いませんが、植物性食品から必要なタンパク質はすべて摂取できます。
果物や野菜、ナッツ、魚などからタンパク質を摂取するように心掛けてください。そうすると、現代人に不足している「オメガ3」の摂取量も平行して増やせます。オメガ3とは、一部のがん、認知機能低下、黄斑変性、心臓病などの予防に有効な脂肪酸のことです。抑うつ症を軽減し、気分を向上させる効果も備えています。
さらには、オメガ3には不安を和らげ、炎症を抑える効果もあります。オメガ3を摂取する被験者と摂取しない被験者に分け、影響を調べた実験があります。それによると、オメガ3摂取グループの不安症状は非摂取グループと比べ20%改善したほか、炎症症状も大幅に和らぎました。2012年の研究はオメガ3と知的能力の関係も調べています。オメガ3不足の被験者を対象にMRI(磁気共鳴画像)装置で脳スキャンを実施したところ、オメガ3が不足すると脳のサイズが小さくなることが分かりました。この研究はまた、オメガ3不足の被験者が基本的な知能テストで高得点を出せないことも明らかにしています。オメガ3摂取に適している食べ物は魚、ナッツ、シーズ(種)です。なかでもサーモン、クルミ、アマニ(亜麻仁)が理想的です。
食事の際は、植物性食品と海産物を中心にして、タンパク質豊富な料理を用意しましょう。海産物については水銀含有量が最小の食材を選びます。オメガ3含有量が高い植物性食品と海産物をしっかり食べ、これだけでタンパク質の大半を摂取できるのが理想的です。そうなったら、日々の気分にも違いを感じるようになるでしょう。これらの食べ物をうまく組み合わせて摂取すれば、気分の向上と同時に長期的な健康の促進も期待できます。『座らない!』 Chapter 10 より トム・ラス:著 牧野洋:訳 新潮社:刊
上質なタンパク質を摂取するために、毎日食べるべきは、「果物、野菜、ナッツ、魚」です。
その中でも、オメガ3も一緒に摂取できるのが、「サーモン、クルミ、亜麻仁」。
それらの食材は積極的に取り入れたいですね。
「加熱法」が食べ物の良しあしを決める
食べ物の選択と同様に重要なのが、「調理方法」です。
食べ物をグリルしたり、油で揚げたり、オーブンで焼いたりすると、高熱と焦げ目によって「終末糖化産物(AGE)」という毒素が生まれます。
AGEは、炎症や糖尿病、肥満症、アルツハイマー病などの病気の原因になる
といわれています。
著名な医学研究者の一人は「揚げ物や焼き物を大量に食べると、体がもともと備えている機能を使ってもAGEを処理し切れなくなる」と指摘しています。そのうえで「こうなるとAGEは徐々に体内組織に蓄積し、生体防御システムを乗っ取る。やがて体内に炎症を引き起こし、病気を誘発したり老化を加速したりする」と警告しています。
とても厄介なのは、AGEがおいしそうな香りや味わいを作り出す点です。たとえば焼き肉の焦げ目。おいしいかもしれませんが、最も不健康な部分でもあります。焼き肉のほか揚げ物などのかりかりした表面は、往々にしてAGEを含んでいます。AGEは、心血管疾患で見られるプラーク(血管沈着物)形成と関連付けられています。血管以外の体内組織にも蓄積され、長期的に健康を害する原因になります。
焼いたり揚げたりする調理法のマイナス面についての研究はまだ初期段階にあります。しかし、別の研究でははっきりしている事実もあります。生で食べるか、蒸して食べるかすると、1回の食事で多くの栄養素を摂取できるのです。調理法で選択の余地があるなら、蒸すか煮るかするのがベストです。調理せずに生のまま食べるのもいい。油で揚げたり、グリルやオーブンで焼いたりするのはできるだけ避ける。とりわけ揚げ物には要注意です。手早く食生活を変えたいのならば、揚げ物を避けるのが最も効果的です。
選ぶべき調理法は、水分を熱の媒体として利用するいわゆる「湿式加熱」です。蒸す・煮る・ゆでるなどの調理法であり、揚げる・焼く・炒めるなどの「乾式加熱」よりも健康的です。野菜はゆで過ぎないこと。たとえばブロッコリーを柔らかくなるまでゆでると、栄養素を急減させてしまいます。栄養素を残すには、ざくさくとした歯応えが残る程度にとどめる。ゆでる代わりに数分間だけ軽く蒸すのもOK。もちろん生のまま食べる手もあります。このような工夫で、栄養素を最大限摂取できます。『座らない!』 Chapter 20 より トム・ラス:著 牧野洋:訳 新潮社:刊
「健康によい」といわれている食材でも、調理方法によっては、毒にもなるということです。
食べ物を焼く場合は、焦げ目をなるべくつけないこと
焼き物や揚げ物よりも、蒸し物や煮物を選ぶこと。
普段の食事から、少しずつ意識を変えていきたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「正しく食べて、もっと動き、ぐっすり眠る」
ラスさんは、これら3要素を組み合わせるとき、大きな効果を得られ
ると、繰り返し強調されています。
それだけ、普段の生活における習慣が、健康にもたらす影響が大きいということですね。
これまでのライフスタイルにほんの少し、体にいいことを取り入れてみる。
その繰り返しが、「正のスパイラル」を生み、小さな違いがやがて大きな差となって現れます。
本書に書かれている内容は、どれも簡単で、誰でもすぐに実行できるものばかりです。
多くの科学的根拠に裏付けされていることも、心強いです。
明日の健康のために、今日やるべきこと。
できることから、始めたいですね。
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