本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『アイデアの接着剤』(水野学)

 お薦めの本の紹介です。
 水野学さんの『アイデアの接着剤』です。

 水野学(みずの・まなぶ)さんは、クリエイティブディレクターです。
 熊本県公式キャラクター「くまモン」など、これまで数々のブランドづくりなどを手がけられています。

アイデアのかけら同士をくっつける「接着剤」

 これまで、数々のアイデアを形にし、ヒット作を作り出してきた水野さん。
 それでも、一度たりとも「アイデアを生み出した」ことはないと言い切っています。

 水野さんは、自分の仕事は、世界に無数に転がっている、アイデアのかけらとかけらを拾い集め、ぴったり合うものを、くっつけることだと述べています。

 アイデアのかけらは、たいていちっぽけで、ごく平凡です。
 古いものだったり、汚れていたり、ちょっと欠けていたりします。転がっているときは、まったく目立たないことが多いのです。
 アイデアのかけらは、ありふれた情報だったり、ガラクタのごとき雑多な知識だったり。
 だから「役に立つわけがない」と決めつけ、拾おうとしない人が、ほとんどかもしれません。
 実のところ、そこら中に転がっているアイデアのかけらに、目をとめることすらなく通り過ぎる人は、とても多いようです。
 それは多くの人が、「アイデアを生む」「発想する」というプロセスを、特別な魔法か天啓のように見なしているためでしょう。
 無から有を生み出す奇跡、それが「創造」だと決め込んでいるから、「何の材料もなしに、まっさらな自分の頭にだけ頼るのが尊い」と思い込んでしまいます。
 しかし、まっさらな人間の頭とは、それほどすばらしいものでしょうか?
 僕の頭は当然のこと、失礼を承知で言えばあなたの頭だって、この世界に比べれば、はるかにちっぽけです。個人の頭の中、たった一人の思考は、決して無限の宇宙なんかじゃないと僕は思っています。
 古代から今この一瞬に至るまでの、あらゆる人の、あらゆる「アイデアのかけら」が混沌として存在しているこの世界のほうが、僕たちの頭の中より、はるかに広大である、僕はそう感じているのです。
 小さな思考の枠に閉じこもって一人でうなっているより、世界に出かけていったほうが、はるかに確実に、ゴールに近づくことができます。
 だからこそ、アイデアを生む宝探しをしたほうが、よりすばらしいものが出来上がると、僕は信じています。

 『アイデアの接着剤』 第一章 より 水野学:著 朝日新聞出版:刊

 アイデアのかけら同士を組み合わせるためには、それらを固く結びつけるもの、いわば、「接着剤」が必要となります。
 水野さんは、結局のところ、上質な「アイデアの接着剤」があれば、どれほど異質な素材であろうと、くっつけられると強調します。

 本書は、アイデアのかけらを拾い集め、選び取り、組み合わせて、新しいアイデアをつくる方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「51:49」で物事を見る

 デザインは、「個人の感性の表現」と思われていますが、そうではありません。
 水野さんは、主観性と客観性のバランスが取れたとき、デザインは初めて仕事として成立すると述べています。

「自分の判断や、自分が絶対だと思うことなんて、せいぜい51%くらいしか当たっていない。あとの49%は間違っていたり、思いもしない別のことだったりする」
 これは自分自身に言い聞かせ、社員にもつねづね話していることです。
 逆に言えば、どんなに権威がある人の意見でも、優れている人の話でも、的を得ている部分は51%だけかもしれません。すべての物事を絶対視せず、「51:49」という前提で考えて、判断していく。こうすると、2つのメリットがあります。
 1つ目のメリットは、柔軟に人とかかわり、楽しく仕事ができるということ。
 炭酸飲料の新パッケージの相談をしていて、クライアントが「ボトルを一升瓶にしたらどうだろう? 量がたっぷりあって、お客さまも喜ぶよ」と言い出したとします。
 予算や客層、自販機の流通が主という制約、炭酸飲料を一升飲むのはしんどいことなどを思えば、51%は「明らかに的外れ」の意見です。しかし、49%には何かの可能性があり、また、その人は悪意で一升瓶にしようと言い出したわけではないのです。
 そこで「一升瓶、新しいですね」といったん受け入れ、「でも、新しすぎるかもしれない」と返す。「51:49」という前提があれば、人が「明らかに違う」という意見を言ったときも、決して全否定せずにいられます。和やかな関係のまま仕事ができるのです。
 2つ目のメリットは、予想外の発想が出てくること。
 かつて多くの人が「地球は一枚の板のようなもので、地の果ては断崖絶壁になっている」と思っていましたが、アリストテレス、ガリレオ、コペルニクスらはそれを間違っているかもしれないと考え、地球が丸いという説を唱えました。
 51%とは、現在の事実や常識だったり、過去から来た定説だったりするわけです。
 49%とは、不確かだけれども、未来であり、可能性です。ここに目を向けることで、次のステージが生まれるのではないかと思います。
 51%の人は地球が平らだと考えているとき、49%になって「そうではない」と考えてみる。この思考法を鍛えていけば、アイデアのかけらをつなぐ接着剤となります。

 『アイデアの接着剤』 第一章 より 水野学:著 朝日新聞出版:刊

 どんなアイデアも、「不可能だ」と頭から否定してしまうと、何も生み出しません。
 いったん受け入れたうえで、様々な角度から検証することで、新たな可能性が見つかることもあります。

「51:49」で物事を見ること。
 つねに意識していたいですね。

「井の中の蛙」の罪は、海に行こうとしなかったこと

「井の中の蛙 大海を知らず」ということわざがあります。
 水野さんは、この蛙の悪いところは、井戸に住んでいることではなく、大海を知ろうとしなかったことだと指摘しています。

 仮に、蛙が旅に出て、七つの海を渡ってあれこれ経験したうえで、「やっぱり、俺がすむなら井戸がベストだよな〜」と、故郷に帰ってゆったりと暮らしたのなら、井戸の中は最高の場所だと思います。最初から井戸の中に閉じこもったこと、それこそ井の中の蛙が「ダメな蛙」である理由だということです。

 自分の世界を広げられない要因は、3つあります。
 第1の要因は、一步を踏み出す勇気がないこと。
 外の世界に出て行くのは、当然ながら勇気がいります。勇気とは、言葉を変えれば恐ろしさを克服することです。たとえば、自分の企画を提案するときには「認められなかったら、どうしよう?」という恐怖心があります。「すばらしいと思われたい」という虚栄心や「自分はすごいんだ」という“根拠のない自信”が過剰にあると、よけいに怖くなるのでしょう。自己有能感というのは、自信の源でもありますが、かなり強い毒性もあります。
 実際、企画が通らないと「これまで私が一生懸命にやってきたことが認めてもらえず、否定されたようで、とても悲しいです」などと言う人もいます。
 しかし、自分がこれまでやってきたことを否定されずにいられるような人が、そんなに多くいるものだろうか、と僕は不思議です。少なくとも自分は、「時に否定もされるくらいのことしか、やれていないだろう」と思っています。こうして腹をくくると、否定されたくらいで折れない強さと、いつだって外の世界に行ける強さが備わると思います。
 第2の要因は、面倒くさがること。
 人は慣れてしまうと、「別にもう、このままでいい」と思う性質があります。しばらく仕事を続けてキャリアを積み、肩書がついたりするとなおさらです。「忙しくて時間がない」というのも、自分の世界を広げない便利な言い訳です。
 第3の要因は、決めつけること。
 何も疑わずに決めつけてしまうと、世界は広がりません。たとえば、「なぜ、水野さんはそんなに自信があるんですか?」と言われることがありますが、この問いは「水野=自信があるやつ」という決めつけで成り立っています。「なぜ、僕のことがわかるんですか?」と不思議になります。「わかったつもりなんだから、説明もいらないな」と感じます。
 もしこれが、「水野さんは自信があるように見えますが、なぜですか?」という問いなら、僕は喜んでしゃべります。「自信があるように見えるようにがんばって努力しているからですよ。滑舌をよくしたり、話し方に気をつけたり、知識を貯えて話をふくらませたりね」と。
 かように「決めつける」とは、自分で自分の枠をつくってしまう行為。相手から情報を引き出すこともできないし、何か教わることもできません。
 この「世界を広げない三大要因」は、恐ろしいものです。できるだけ多くの人が、そんな毒をきれいさっぱりと排除できるように、30秒のキャンペーンCMをつくってYoutubeで流したいくらいだと、僕は思っています。

 『アイデアの接着剤』 第一章 より 水野学:著 朝日新聞出版:刊

 人間には、今の状態をキープしようとする機能が備わっています。
 そのため、今いる場所に安住してしまいかちです。

 “井の中の蛙”にならないために、自分の知らない世界にあえて飛び出す。
 そのための好奇心や勇気、謙虚さを忘れないようにしたいですね。

「ヴィジュアル」で思考し、「言葉」でテーマを育てる

 水野さんは、アイデアのかけらを拾い集める際には、ヴィジュアルは用いず、ほとんどの場合、言葉を手がかりにしています。
 その理由は、言葉というのは、「余白があってゆるい」という特徴を持つからです。

 言葉でテーマをつくって、しばらくの間、自分の中に置いておく。
 ヴィジュアルで思考する人間だからなおのこと、僕にはこの過程が必要なのかもしれません。
 テーマはざっくりと、3つか4つ、頭の中に置いておくようにします。
 わかりやすいように、ペプシコーラの仕事を頼まれたと仮定しましょう。言葉でつくるテーマは次のようになります。
「若い、コーラよりちょっと甘い、ポップ、アメリカ」
 このテーマを心のどこかに置いておくと、仕事場まで歩いているとき、スケボーをしている少年たちを見ただけで、「横ノリ感、ゆるいファッション」というアイデアのかけらを拾えます。普段なら何も感じなくても、目に留まるのです。
 僕はお酒が好きで、人と飲むのが楽しみの一つですが、たまたまミュージシャンの友人と飲んでいて「舞台で歌っているときって、客席は見えているんですか?」と聞いたとします。テーマのことなどコロリと忘れてわいわいやっているのですが、「客席って、ライトが強いと全然見えないんだよ」と友人が答えたとたん、あるシーンが浮かんできます。
 ――人気のポップミュージシャンが、ステージに立っている。どうもノリが悪く、盛り上がっていないと気づくが、ライトがまぶしくて客席はまったく見えない。カメラが切り替わって客席が映ると、みなステージを見るのも忘れて、夢中でペプシを飲んでいる・・・・。
 しかしこれは、あくまでアイデアのかけらです。コースターに絵を描くのではなく、携帯電話を使って、「観客がペプシを飲んでいる。ミュージシャンたけそれに気づかない」と言葉でメモします。なぜなら、小さなステージの絵を描けば、イメージは「ライブハウス」に固定され、「観客が座っているなどあり得ない」と限定されてしまうのです。
 こうした携帯メモは、どんどん収集し、育てていきます。たとえば2日後に見返したら、本屋さんに行って、「ミュージシャン? ああ、音楽雑誌を見てみるか」という具合です。
 できるだけテーマの幅を広げ、より多くのアイデアのかけらを集めていく。そのうちに、いくつかのかけらがゆるやかに連動し、やがてつながっていく。それを接着してアイデアとする。シンプルだけれど、役に立つ方法です。どんな仕事においても役立つのではないでしょうか。

 『アイデアの接着剤』 第二章 より 水野学:著 朝日新聞出版:刊

 ヴィジュアルは、見る人に与える印象が強くて正確な分、イメージが固定化されます。
 一方、言葉は、相手に与える印象があいまいなため、発想が広がる余地が大きいです。

 アイデアのかけらを組み合わせる段階では、“余白”のある言葉を用いる。
 色々な場面で、応用できる考え方ですね。

商品力 + シズルの演出 × 時代性 = ヒットの公式

 多くの消費者に支持される商品、いわゆる「ヒット」は、どのようにして生まれるのでしょうか。

 水野さんは、そこには、ある「公式」が存在すると述べています。

 商品力とは、「本体+コンセプト+ブランド力」でできています。
 サントリーのウーロン茶であれば、本体は烏龍茶。品質や味も、ここに含まれます。そこに「食事をおいしくするお茶」というコンセプトと、サントリーのブランド力が加わり、商品力となります。
 新商品をヒットさせようというとき、大切なのはこの商品力です。しかし、よい商品であることは当たり前で、それだけで売れることはありません。
 良い商品が、よい商品であると伝えること。「ほしい、買いたい」という本能をかき立てること。それが「シズル」の演出であり、僕たちアートディレクターの仕事です。
 たとえば「中国福建省公認の名誉茶師が選び抜いた茶葉、中国っぼいパッケージ、健康によい」といったイメージを伝えるデザインをアートディレクションし、購買に結びつけるのが、シズルの演出です。
 シズルとは、sizzleという英語がもとで、肉が焼けるときの「じゅうじゅう」という音をさします。
 ここから転じて、「よさそう、おいしそう、楽しそう、面白そう、ほしい!」といった商品を買いたくなる気持ちを表す言葉として、広告業界で使われるようになりました。
 商品力とシズルの演出は、ヒットを目指して走る車の両輪です。僕はシズル部隊の隊長として全力で戦いますが、時には商品部隊であるクライアント側に立ち、「こんなものをつくったら面白いんじゃないですか?」などと提案するといった、連携プレイもします。
 シズルの演出と商品力が合体したら、「どのくらいの期間、売りたいのか?」という時代性を振りかけて仕上げます。1年から長くてせいぜい5年売りたいのなら、「今」を感じさせる時代性をパラパラッと。最低5年、できれば20年売りたいのなら、「普遍性」という時代性をパラパラッとトッピングします。
 商品力+シズルの演出×時代性。この公式がすべてうまくいったとき、その商品はヒットというゴールにたどり着くのです。
 時代性のトッピングもまた、僕の仕事の一部ですが、やはり一番力を入れるのはシズルの演出。シズルとは奥が深く、幅広いものです。ビールを売るときには、缶のデザインや清涼感を演出するポスター、CMに登場するタレントだけでなく、泡も枝豆もプロ野球も夏という季節も、すべてシズルだと考えねばなりません。

 『アイデアの接着剤』 第三章 より 水野学:著 朝日新聞出版:刊

 良い商品だからといって、必ず売れるとは限りません。
 お客様に「買いたい」と思わせて、初めて売れるということ。

 商品の良さを伝えるための「シズルの演出」。
 ヒットの裏には、そのような陰の努力が隠されているのですね。

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「アイデアは、ゼロからイチを創りだすもの」

 そう考えている人は、多いかもしれません。
 しかし、実際には、そのようにして生まれたアイデアというものはほとんどありません。
 もともとあったアイデアとアイデアが結びついて、新しいアイデアとなったものがほとんどです。

 アイデアとアイデアをいかに結びつけるか。
 それが発想力を豊かにするためのすべて、といっても過言ではありません。

 発想力は、「スキル」です。誰でも、鍛えれば鍛えるほど上達していくものです。
 私たちも、上質な“アイデアの接着剤”を手に入れて、周りを「あっ」と驚かす、アイデア・パーソンを目指したいですね。

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