本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『日本人と韓国人 「タテマエ」と「ホンネ」』(朴一)

 お薦めの本の紹介です。
 朴一さんの『日本人と韓国人 「タテマエ」と「ホンネ」 -「韓流知日」を阻むもの-』です。

 朴一(パク・イル)さんは、在日韓国人三世です。
 以前より、在日問題や日韓、日朝経済について『在日』としての独自の視点から提言をされています。

気になる隣国・韓国人の「ホンネ」と「タテマエ」とは?

 お隣同士の国であり、経済的にも人的にも切っても切れない間柄にも関わらず、過去の歴史の経緯などもあって揉めごとが絶えない日本と韓国。

 本書は、日本と韓国それぞれの事情に通じている朴さんが、日韓両国が直面するさまざまな問題について、日本の読者が抱いている韓国人への素朴な疑問に答えるという形で分かりやすくまとめた一冊です。
 ここでその中から一部をご紹介します。

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「竹島(独島)問題」の経緯

 両国のナショナリズムの高まりから、険悪なムードが拡がりつつあります。
 最近、とくにクローズアップされているのが領土問題、すなわち「竹島(独島)問題」です。

 竹島(独島)は、女島(東島)と男島(西島)と呼ばれる2つの小島とその周辺の総計36の岩礁からなります。
 総面積は約0.2平方キロメートル、東京ドーム5つ分ほどの広さしかありません。

 もちろん、人が居住できるような場所ではないです。
 しかし、この島の周辺の海域は、ズワイガニをはじめ豊穣な海の幸の宝庫。

 竹島問題は、周辺海域の漁業権を巡る、日本と韓国の縄張り争いといえます。

 竹島(独島)が日韓の間で問題になるきっかけ。
 それは、1952年1月に韓国の初代大統領・李承晩(イ・スンマン)が海洋主権宣言を発し、日本海及び東シナ海の公海上に軍事境界線を設定したところまで遡ります。

 この海洋主権宣言とは、朝鮮半島周辺で最大200海里(約370キロメートル)の水域に存在する全ての天然資源を利用する主張したものです。ですから、この水域では韓国籍以外の漁船は漁をすることはもちろん、立ち入ることすら禁じられました。
 日本政府はこの宣言を認めず竹島(独島)の領有権を主張します。日本の漁船もラインを無視して操業を行ったため、当然、トラブルに発展します。韓国側は軍事境界線という認識ですから、このラインを越えて来る日本の漁船を武力によって取り締まりました。のちに日韓漁業協定が結ばれ、李承晩ラインが廃止されるまでの約13年間で、韓国に拿捕(だほ)された日本の漁船は328隻、抑留された日本人3929人、死傷者44人を数えました。
 しかし韓国は54年に警備隊を常駐させて竹島(独島)を占拠。以来、現在に至るまで武力による実行支配が続いています。

 『日本人と韓国人 「タテマエ」と「ホンネ」』  Ⅰ より  朴一:著  講談社:刊

 以降、日韓政府それぞれが領有権を主張し、お互いに「竹島(独島)はわが国の領土であるのは明らか」と譲らない状況が続いています。

なんで韓国の大統領は、いきなり竹島に行ったのか?

 世界がオリンピックで盛り上がっていた2012年8月。
 日韓関係を揺るがす事件が起こります。

 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が、現職大統領として初めて、竹島(独島)に上陸しました。

 李大統領は、「知日派」として知られていて、比較的日本の立場に理解のある大統領でした。
 その李大統領が、なぜこのような反日姿勢に転じたのでしょうか。

 日本では、支持率を失って死に体状態になった李大統領が「反日」的姿勢を打ち出すことで、権力基盤の挽回を図ったという説が有力でした。
 しかし、朴さんは、それは一面に過ぎず、本当の理由は別のところにあったと述べています。

 李大統領が上陸を強行するちょうど1年前の11年8月、韓国の憲法裁判所で画期的な憲法判断が出ました。日本の植民地時代に旧日本軍の従軍慰安婦にされた韓国人女性について、韓国政府が具体的な措置を講じなかったのは行政権力の不作為であり違憲であるとの判断を初めて下したのです。つまり慰安婦問題の解決に政府は何の汗も流していない。知らぬ顔の半兵衛を決め込むのは憲法に違反していると、いわば「レッドカード」を示したのです。

 『日本人と韓国人 「タテマエ」と「ホンネ」』  Ⅰ より  朴一:著  講談社:刊

 国にとって、憲法違反を突きつけられるというのは、やはり尋常ならざる事態です。
 この判決で、韓国民の「反日」感情の矛先が、韓国政府にも向けられるようになり、李大統領に大きな圧力を掛けることになったと想像するに難くありません。

 煮え切らない日本政府に愛想を尽かせた李大統領が、「これ以上埒があかない」として竹島上陸を強行した、というのが真相です。
 日本政府が問題を先送りにしたツケが、こんなところにも表れてしまいましたね。

 いずれにしても、両国がしっかり腰を据えて話し合わなければ解決できない、根深い問題だということです。

韓国には日本のような「日流ブーム」はないのか

 ここ数年、日本では、韓国の芸能人や映画、ドラマが大流行し、「韓流ブーム」ともてはやされています。
 逆に、韓国では「日流ブーム」ともいうべき社会現象はあるのでしょうか。

 韓流が、『冬のソナタ』ブームをキッカケに激流のように日本を襲った一大事件とすれば、日流は知らず知らずのうちに入り込んだ「日常の一部」でした。1970~80年代の学生らは当時禁止されていたマルクス主義などの思想書を、日本語の書物で読みました。漫画はそれ以前から海賊版として拡がり、「闇レンタル屋」も繁盛していました。
 そして今はネットの時代。日本で放映されたテレビドラマやアニメが、翌日にはネット上にアップされることもあります。しかも字幕付きで。熱狂的なファンが我先にと競いながら夜を徹して翻訳しているのです。
 日本の文化に背を向けていた時代には考えられなかったことです。これほど違和感なく日本の大衆文化が受け入れられたことにいちばん驚いているのは、もしかしたら韓国人自身かもしれません。

『日本人と韓国人 「タテマエ」と「ホンネ」』  Ⅲ より  朴一:著  講談社:刊

 やはり、政治的に冷えきった両国間の架け橋となるのは、文化面を含めた人的な交流です。

「韓流」を単なるブームで終わらせずに、韓国文化をより深く理解する足掛かりにしてよりよい関係を築く。
 それができれば、両国にとって大きなメリットになります。

 まずはお互いの立場、歴史的背景、民族的な個性を知ることが大切ですね。

韓国の「新しい大統領」について

 2012年12月に韓国では大統領選が行われ、新政権が誕生します。新しい大統領が誰になるかは、日韓関係にも大きな影響を及ぼすでしょう。

 大統領候補の中でも最も有力視されているのは、朴槿恵(パク・クネ)氏です。
 史上初の女性大統領の期待を背負う彼女が、与党セヌリ党の公認候補に選出され、同党の公認候補選で84パーセントもの支持を獲得して、人気の高さを示しています。

 彼女の父親は朴正煕・元大統領です。
 朴元大統領は、61年に軍事クーデターにより政権を奪取すると、日本からの経済支援を受け入れて、韓国の高度経済成長を実現させた実績を残しています。

 その一方、反体制派への弾圧を繰り返し、民主主義を形骸化させた独裁者として「負の一面」も持ちます。
 さらには、植民地時代に日本の陸軍士官学校を卒業して、旧日本軍の中尉として第二次世界大戦を戦った「親日派(チニルパ)」の朴元大統領の経歴も大統領選に黒い影を落としてます。

 父、朴正煕元大統領は、日本との間で竹島(独島)の領土紛争を事実上棚上げするという「竹島密約」を結んだ張本人。これにより国交を正常化させた日韓両国は、その後も領土問題を紛争化させないという、この「密約」を継承してきました。
 韓国は竹島(独島)を実行支配しながらも「大統領の上陸」までには踏み出さない。その代わり日本も、島の領有権問題を「国際司法裁判所に訴えない」という暗黙の了解で、衝突を避けてきたのです。
 ところが李大統領の上陸で、こうした日韓関係の微妙な均衡は崩れてしまいました。
 竹島問題でこじれた対日政策のみならず、李大統領の後を受けて新たに就任する新大統領が島を訪問するかどうかまでが、大統領選の争点となっているのです。

 新政権の大統領が再び上陸すれば、日韓関係はさらに冷え込み、両国の経済協力関係にも悪影響を与えるでしょう。そうなれば、父親が基礎を築いた日韓の経済協力という貴重な財産を失いかねません。朴槿恵氏がその身にまとわり付く「親日派」という韓国における汚名を晴らそうとすればするほど、領土問題と日韓関係とのジレンマに陥ることになるのです。

 『日本人と韓国人 「タテマエ」と「ホンネ」』  Ⅳ より  朴一:著  講談社:刊

 朴氏の対立候補の支持率が急伸し、大統領選の行方は予断を許さない状況となっています。
 いずれにしても、新大統領が日本政府に「正しい歴史認識」を持つことを要求するほど、日本側の反発は強まります。

 従軍慰安婦問題も、交渉の進展はみられていないのが実際のところです。
 新政権は、これらの問題でも日本に対して、容易に譲歩が許されない状況であることには変わりありません。

 ほぼ時を同じくして、日本でも新政権が誕生しますが、日本政府の対応にも注目が集まりますね。

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 中国からの圧力への対応や北朝鮮問題など、国防や外交課題に共通するものも多い日本と韓国。

 日韓が手をつないでそれらの課題に協力して対処できるかどうか。
 それは、両国の将来に大きく影響します。

 朴さんも冷え切った日韓関係の今だからこそ、両国の関係を成熟させる好機だとおっしゃっています。

 さまざまな両国間の問題から目を反らさないこと。
 過去にしっかりケジメをつけて、新たな「日韓関係」を作り上げていきたいですね。

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