【書評】『これからのお金持ちの教科書』(加谷珪一)
お薦めの本の紹介です。
加谷珪一さんの『これからのお金持ちの教科書』です。
加谷珪一(かや・けいいち)さんは、経営コンサルタント、個人投資家です。
「新しい資本主義の時代」が始まる!
加谷さんは、今、新しい資本主義の時代が始まろうとしている
と述べています。
私たちは、スマートフォンの普及により、誰もが場所と時間に関係なく、インターネットに接続できる環境を手にしました。
その結果、ビジネスのインフラに本質的な変化が訪れようとしている
からです。
これまでの時代には、お金持ちになれる人といえば、起業家か投資家と相場は決まっていた。資本主義の仕組み自体がそうなっていたからである。だが新しい時代には、事業者と消費者の区別は曖昧になる。インターネットを使って不特定多数の人が仕事を請け負えるようになるため、これまで「消費者」だった人が、いとも簡単に「提供者(起業家)」に変身することができる。
話はそれだけにとどまらない。
インターネットが本当の意味での社会インフラとなれば、すでにあるものを皆で共有する「シェアリングエコノミー」が発達する。既存のものを流用するだけで、たいていのことが実現できてしまう社会がやってくるのだ。そうなると、事業の立ち上げに必要な資金や手間が劇的に小さくなり、事業に対するイメージが根本的な変わってくるのである。
起業家になるためには、かなりの人脈や能力、そして体力が求められた。これまでの社会において、「資本」を持つ人のパワーは絶大だったのである。だが、新しい資本の時代には、事業の立ち上げに多額の資金を必要とせず、場所や時間の制約が今よりもずっと少なくなるだろう。
つまり、すべての人に、副業として起業できるチャンスが巡ってくるのである。
すでに自身のアイデアだけを武器に、大きな自己資金を投じることなく新しいビジネスを立ち上げ、あっという間に億単位のお金を作る人が続出している。10年後には、会社員、起業家、フリーランスの垣根は限りなく低くなるはずだ。もしかすると、すべてのビジネスパーソンが副業を持つ「プチ起業家」になっているかもしれない。これこそが新しい時代における、新しい稼ぎ方なのである。『これからのお金持ちの教科書』 はじめに より 加谷珪一:著 CCCメディアハウス:刊
加谷さんは、これから訪れる変化、もしかすると戦後最大級のものとなる
と指摘します。
本書は、10年後の未来を前提に、どうすれば「お金持ち」になれるのか、テーマごとにまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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自宅を“ホテル代わり”にして年収が2倍に
近年、ネットサービスの事業者は、無数の個人をネットワーク化し、その労働力を自社のビジネスに活用としています。
加谷さんは、個人がこれをうまく利用することによって、ちょっとした隙間に結構なお金を稼げる時代になっている
と指摘します。
一例として挙げているのは、米国のベンチャー企業が手がける、「Airbnb(エアビーアンドビー)」というサービスです。
宿泊したい人と、自宅を宿泊施設として提供したい人を、インターネットで仲介するというもので、2008年にアメリカでサービスを開始して以降、あっという間に世界に普及した。現在では192か国で80万件以上を仲介している。
このサービスを使って自宅、あるいは所有しているマンションなどをホテル代わりに貸し出したい人は、Airbnbのサイトに登録する。1泊いくらで部屋を提供するのか、場所はどこか、部屋にはどんな特徴があるかなど、各種情報をシステムに登録し、利用者が現れるのを待つのである。
部屋を使いたい人は、登録された部屋の中から希望のものを選択し、空いていれば、お金を払ってその部屋を利用する。Airbnb側は、利用者が支払った宿泊料の一定割合を仲介料として徴収する仕組みだ。
(中略)
これまでは、ネット事情に詳しい一部の人が、Airbnbに登録し、ひっそりと自宅を提供していただけだった。だが2014年、同社の日本法人が設立されてからは状況が一変した。自宅を民泊に提供する人が急増し、今では1万件以上の家が同社のサイトに登録されるという状況になった。価格帯も1泊数千円から数万円まで様々だ。
登録しているホストの中には、家族総出で本格的にサービスを展開している人や、Airbnb専用に投資用マンションを購入する人も現れている。今のところ外国人の利用が多いので、東京タワーや浅草など著名な観光地の近辺では、かなりの宿泊料を取ることができる。なかには、サラリーマンの収入をはるかに超える金額をAirbnbで稼ぐケースが出てきているという。
実は、こうした行為は日本の旅館業法に抵触する恐れがある。
対価を得て客を宿泊させるには、必要な装備を設置した上で自治体から営業許可を取る必要があるのだが、当然のことながら旅館業の登録をしているホストなどはほとんどいない。
一般家庭がプライベートな形で対価を得たとしても、それが継続的に繰り返されれば、旅館業と見なされる可能性は高いだろう。利用形態によっては不動産関連業法にも抵触するはずだ。
だが、外国人観光客が急増しているにもかかわらず、安価な宿泊先が少ないという現実的な課題が存在することや、こうしたサービスがグローバルスタンダードとなりつつあることから、法律の議論よりも普及が進んでしまっているのが現状である。
筆者は法律の枠組みを超えた、こうした新しいサービスについて一方的に是認するつもりはない。だがAirbnbのような新しいサービスは、これから次々と登場してくる可能性が高く、既存の法的枠組みや商習慣に固執していては、社会全体として時代に取り残されてしまうことは確実だろう。
こうしたネットを使った新しいサービスは、競合する既存企業にとっては脅威かもしれないが、一方で、ネットを活用できる個人にとっては、大きなビジネスチャンスとなる。『これからのお金持ちの教科書』 第1章 より 加谷珪一:著 CCCメディアハウス:刊
Airbnbのような取り組みは、多くの業界に広がりを見せつつあります。
タクシー配車サービスの「UBER(ウーバー)」などもその一つです。
共通点は、「安さ」と「手軽さ」が、利用者の心をつかんだことです。
既存の団体から大きな反発を受けながらも、急速に、その勢力を拡大しています。
今後、このようなサービスが、あらゆる分野で増えていくことでしょう。
「時間の使い方」は思考回路に影響する
時間と場所に関わりなくネットに接続できる。
そうなると、最初に有効活用されるのが、「隙間時間」です。
従来社会では、コマ切れの時間にほとんど価値はなかったので、誰もがまとまった時間を作ることに必死になっていました。
逆に言えば、従来社会では、適切に時間管理ができるかどうかが、その人の経済力を決定付けていた。1日は24時間しかなく、これはだれにとっても平等である。だが平等であるが故に、この有限な時間をどう活用するのかによって、稼ぐ力に差が付くのである。
会社のトップなど一定以上の立場にいる人は、この現実を痛いほど理解している。できるだけ自身の都合を優先してアポイントを設定し、さらには秘書が時間の最適化を行って、無駄な時間が生じないよう徹底的に管理している。
筆者は、これまで多くの成功者を見てきたが、彼らは総じて貪欲であり、無駄な時間を心底嫌う。このため自身の時間を有効活用することに全力を傾けることになる。
ある起業家は、アポイントの時間に無駄がなくなるよう、何度も相手にリスケジュールを要請していた。これが彼らの成功の秘訣でもあるわけだが、こうした姿勢は時に周囲との軋轢を生む。なかなか普通の人には実践できないことだろう。
ところがスマホの普及で状況は変わりつつある。
これまでは価値のなかった無駄な隙間時間もネットに接続できるということになると、多くの人は、その間にいろいろな作業をこなせるようになる。現実には、ほとんどがメールやSNSをチェックすることに費やされることになるのだが、それでも、その合間を縫って、ちょっとした仕事や、私生活での買い物、各種の予約を済ませてしまうという人も多いはずだ。
ニュースアプリを使って自分に必要なニュースをチェックすることもできるし、最近のスマホは、自然言語処理がかなりの水準になっているので、ひたすらスマホに話しかけてアイデアを口述することもできる。公共の場でそれをやるとかなり怪しいが、フリーハンドで次々にテキストを起こせるというのはちょっとした革命である。本気で取り組めば、知的生産活動の水準は飛躍的に向上するだろう。
これまで無駄な時間として死んでいた隙間時間が、ITツールによって、一気に生産的な時間に早変わりした。こうした環境の変化は、徐々にではあるが、しかし確実に人の思考回路も変化させる。人の思考回路の変化は、やがて製品やサービスまで変えていくことになる。
あらゆる変化の原動力となっているのが、こうしたネット環境の整備と、時間の使い方の変化なのである。『これからのお金持ちの教科書』 第2章 より 加谷珪一:著 CCCメディアハウス:刊
たった数分の空き時間でも、スマホさえあれば、時間を有効に活用できます。
メールを打つ、ニュースを読む、電子書籍を読む・・・・。
やるべきことを、あらかじめ用意しておくことで、無駄な時間はなくなります。
隙間時間をいかに有効に活用するか。
これからは、それがますます重要な時代になります。
「20年分の変化」が一気にやってくる
加谷さんは、これから姿を現そうとしている新しいITインフラは、パソコン時代までの変化とは断絶があり、不連続的変化となる
と指摘します。
場所を選ばないITデバイスをすべての人が持つことが前提ということは、仕事のやり方は、一気にパーソナルな方向に進む可能性が高い。
特に日本の職場は、全員が顔を突き合わせ、何となく周囲の様子をうかがいながら、あうんの呼吸で仕事を進めていくやり方が標準的であった。日本の会社には「根回し」という言葉があるが、これは、ある程度のコンセンサスが得られないとプロセスを進められないことと表裏一体になっている。これはパソコンがあってもなくてもまったく変わらない。
コンセンサスを得るための時間は、ほとんど生産性に寄与しないので、まさに無駄な時間ということになるのだが、全員が同じ環境下で同じ時間に勤務することで、この無駄を何とか減らしてきた、というのがニッポン株式会社の現実といってよいだろう。
ところが、場所にかかわらずネットにアクセスできるITツールを持つと、こうしたスタイルはあまり意味をなさなくなる。個人の中で仕事を完結させるほうが、効率が良くなってくるからだ。ネット上での各種サービスが豊富になっていることも、こうした状況を後押しすることになるだろう。
アメリカでは仕事の個人化が、かなり以前から進んでいる。
たとえば、ある製品のプロモーションを実施しようとした場合、従来の組織では、社内のいろいろな部署と調整を行い、全体の方向性を固めていく必要があった。社内にしかそれを実施するリソースがなかったからである。
だが、会社の外部にこうしたリソースがあり、安い金額でそのリソースを調達できるとなると、仕事のやり方は大きく変わってくる。
イベントの企画や開催はイベント関連の会社に、ネット上のマーケティングはそれを専門とする会社に、それぞれ発注すればよい。各関係者との連絡や調整といったプロジェクト管理の仕事は、プロジェクト・マネージャーを派遣する会社に依頼して人を出してもらう。社内の担当者は、アイデアの立案と、全体の進捗管理だけに集中できる。
アメリカでは90年代からこうしたアウトソーシングが積極的に行われてきたが、日本では社内リソースの活用が続いてきた。日本企業では雇用の維持が最優先であり、多少コストが高くても、社内のリソースを使うことが推奨されたからである。
だがネットインフラの整備によって、こうした外部リソースの利用が可能となり、しかも極めて安価に利用できるとしたら、果たしてどうなるだろうか? 効率の悪い社内リソースを活用するよりも、社外リソースをフル活用して、スピーディにプロジェクトを進めたほうがよいと考える企業は確実に増えてくるだろう。従来は存在していなかった、いわゆる文系ホワイトカラーの派遣ビジネスが国内でも動き始めている。
アメリカが20年かけて徐々に進めてきた変化が、日本の場合には一気に押し寄せることになるかもしれない。その意味で、まさに不連続的変化なのだ。『これからのお金持ちの教科書』 第3章 より 加谷珪一:著 CCCメディアハウス:刊
社員の雇用を守る。
それを口実に、働き方や組織の改革をせずにきた日本企業。
これから、そのツケが払わされるということでしょう。
20年分の変化が一気にやってくる。
“そのとき”が来ても困らないよう、今から備えておきたいですね。
情報をお金に換える鍵は「粒度」を揃えること
インターネットには、「知」の保管庫としての役割があります。
誰でも簡単に、ファクト(事実)を入手することができるようになったため、知っていることそのものの価値も大きく減少
しました。
基礎情報がネット上に分散し、いつでも参照できる。
そうなると、それらの基礎情報をどのように組み合わせ、知恵として活用するのかが問われます。
ネット上に分散する基礎情報を活用するにあたって、もっとも重要なのは、情報の「粒度」を揃えることです。
加谷さんは、情報の粒度を揃える作業は、これからの時代において「稼ぐ」ための必須のスキル
だと指摘します。
では具体的に、粒度を揃えるというのはどういうことなのだろうか。
ネット上で投資に関する情報を整理するケースを考えてみよう。
投資に関する情報といっても、対象範囲やレベルは様々である。たとえば、FXに関する情報ひとつとっても、「FXって何?」といったレベルのものから、通貨スワップの理論を解説したものまで様々である。株式投資も同様で、概要を説明したごく簡単なものから、高度な数学を駆使したものまで多種多様だ。
以前なら、自分が面白そうだと思った分野を適当に選択し、関連書籍で勉強して知識を深め、そして実践に入っていくというプロセスが標準的であった。複数の投資を同時並行でこなすことは現実的に難しく、結果的に多くの人が、単一の投資手段で投資を行っている。不動産投資を行いながらも株式も、という人は少数派なのである。
だが、これからの時代は、複数の投資手段を自由に使いこなす、マルチ投資家が増えてくるかもしれない。ネットにはあらゆる分野の情報がアップされている。それぞれの分野に垣根を作っているのは、私たちのマインドだけである。ネット上での知の組み合わせが当たり前になれば、投資のやり方も変わってくるかもしれないのだ。
新しい資本の時代においては、あえて分野を絞らないほうがよい。最初にすべての投資に関する概略情報を集め、おおよその感覚を理解してしまう。その中で自分の感覚に合っているものをいくつか選択し、口座を開いて同時並行的に投資を行ってみるのだ。
つまり、実践と情報収集、比較検討を同時に行うのである。
このような取り組み方を実現するためには、情報の集め方が非常に重要となる。もっと具体的に言うと、情報の大きさがポイントとなってくる。
たとえば、株式投資に関する初心者向けのネット情報と、プロ顔負けの不動産投資に関する情報を比較して、不動産投資に対して難解だという印象を持ってしまっては、不動産投資に対する間口を狭めてしまう。それぞれの投資がどのようなものなのか、比較検討するためには、レベル感を同じにしなければならない。
株式投資の基本を解説した株式投資情報と、銀行ローンをフル活用したアパート一棟モノの投資テクニックを解説した情報では、対象範囲やレベルが違いすぎて、比較対象としてはふさわしくない。ここでいう粒度というのは、そのような意味である。
最初にネットで情報を収集するときに、同じレベル感、同じ範囲の情報どうしを比較することができれば、適切に取捨選択ができるし、後になってから、やっぱり不動産投資をやっておけばよかったということもなくなる。
粒度をうまく揃えられるようになるには多少の経験が必要だが、常に情報のレベル感や範囲を意識してネットを使っていけば、こうしたテクニックは自然に身に付いてくるはずだ。『これからのお金持ちの教科書』 第5章 より 加谷珪一:著 CCCメディアハウス:刊
インターネットの情報は、それこそ玉石混交です。
単純に比較してはいけないということ。
どのような目的で書かれたものなのか。
どの程度信用できるものなのか。
読者のターゲットは誰なのか。
それらを見極めながら情報収集する必要があります。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
加谷さんは、新しい資本の時代は、知的資本の蓄積がモノを言う時代であり、経済規模の小ささはハンデにならない
とおっしゃっています。
これまで「資本」といえば、お金や株式、不動産といった資産のことを指すことが多かったです。
しかし、これからの時代は、アイデアや知恵、ノウハウといった知的資本の役割が、より大きくなっています。
それらを生かすためのインフラの整備が進んできたおかげでしょう。
社会は、かつてないほどの大きな転換点にいます。
社会の価値観、ルールが大きく変わるこの10年は、“持たざる者”が躍進する大きなチャンスです。
確実にものにして、一発逆転を狙いたいですね。
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