本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『人を助けるすんごい仕組み』(西條剛央)

 お薦めの本の紹介です。
 西條剛央さんの『人を助けるすんごい仕組み――ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったのか』です。

 西條剛央(さいじょう・たけお)さん(@saijotakeo)は、心理学と哲学がご専門の、大学院(MBA課程)の専任講師です。

 2011年3月11日に起こった『東日本大震災』。
 この災害は、日本人がかつて体験したことのない未曾有の被害をもたらしました。
 被害の最も大きかった、宮城県・岩手県それに福島県などの東北各県には、たくさんのボランティアが集結。
 また、全国で多くのプロジェクトが立ち上がり、復興の大きな手助けとなりました。

 西條さんも、被災地でボランティア・プロジェクトを立ち上げた一人です。

 西條さんが立ち上げたのは、「行政を通さずに必要としている人に必要なものを必要な分だけダイレクトに届ける」ようにするプロジェクト(「ふんばろう東日本支援プロジェクト」)。

 短期間に多くの協力者を集め、多くの被災者に、必要なものが、必要なだけ全国から届く仕組みとして機能し、大きな話題になりました。

 今回、ボランティア・プロジェクトを立ち上げるうえで、西條さんが研究課題として取り組んでいる「構造構成主義」という理論が役に立ちました。

 構造構成主義とは、固定的な方法が役に立たないような、まったくの未知の状況、変化の激しい環境において、ゼロベースでその都度有効な方法を打ち出していくための考え方のことです。

 つまり、その場その場の状況に応じて、与えられた条件の中で最適な仕組みをゼロから作るための方法論です。
 今回の震災のような誰も経験したことのないような非常事態には打ってつけですね。

 被災地の、想像以上に悲惨な状況を目の当たりにした西條さん。
 まず、仙台の彼の実家からパソコンで、日本全国に南三陸の惨状をツイッターで発信し続けます。

 そのツイート(つぶやき)を見た多くの人が、西條さんのフォロワーとなり、ツイートをリツイート(彼の発信したツイートをコピーして自分のフォロワーに流して拡散する機能)することによって、更に広まります。

 中には、何十万人というフォロワーを持つ方もいます。
 そういう方を支援者として取り込めたのは大きかったです。
 
 西條さんは、さらに「ふんばろう南三陸町」というサイトを立ち上げて、支援システムの準備を整えます。
 西條さんの取った物資支援の方法は、極めてシンプルな方法でした。 

 ―ホームページに、聞き取ってきた必要な物資とその数を掲載し、それをツイッターにリンクして拡散し、全国から物資を直送してもらい、送ったという報告だけは受け取るようにして、必要な個数が送られたら、その物資に線を引いて消していくのだ―。
(中略)
 ツイッターの拡散力と、ホームページの制御力を組み合わせて、新たな支援の仕組みをつくったのである。

  「人を助ける すんごい仕組み」 第1章 より  西條剛央:著  ダイヤモンド社:刊

 この方法ならば、必要のないものが大量に送られてきたり、必要のない別の場所に送られることもありません。
 震災のような非常事態での支援活動で、最も重要なのは、この臨機応変な柔軟さです。

 協力者が増え、多くのグループが作られると、情報の伝達や共有などの組織マネジメントに、フェイスブックのグループ機能を使うようにします。

 あの短期間で、本当に素晴らしいですね。
 人間、追い込まれた状況の中、必死に考えるといいアイデアが必ず浮かぶものです。

 西條さんの協力者の一人に、コピーライターの糸井重里さんがいます。
 糸井さんは、多くのフォロワーを持つネット上でも大きな影響力を持つ一人です。

 西條さんと糸井さんの対談の中で、『5%ルール』という話が出てきます。

「ですから僕はいま、『5%は仕方ない』と決めてやっているんですね」と僕が言うと、糸井さんは、「5%・・・・?」と言って、不思議そうな顔をした。
「どんなことをしていても批判する人はいますし、失敗する可能性もある。だから、常に完璧を目指すのではなく、『5%は大目に見よう』と」
「なるほど」
「これを、ゼロに近づけようとすると、リスク管理に膨大なエネルギーを割くことになって、とたんにパフォーマンスが下がるんですよ」と僕。
「へぇー・・・・」
「だから、最後の5%にはこだわらず、あまり厳密に考えすぎずに、95%のところで、どんどん迅速にやっていくんです。何しろ、スピードが命ですから」
「その『5%』というのは、学問的な根拠があるんですか?」
「うーん、なんとなく、感覚ですね。『1割、失敗してもいい』というのはちょっと多いかなと。ただ、、心理学の統計の枠組みでは『5%水準』といって、『5%以下の過誤』なら確率論的によしとしましょう、というような考え方が、あるんですけれど」と僕。

  「人を助ける すんごい仕組み」 第5章 より  西條剛央:著  ダイヤモンド社:刊

 この割り切りが、今の公の機関に、最も足りない部分かもしれません。

 なんでもかんでも平等に、100%確実に。
 そういう仕事の仕方だと、動きが遅くなります。

 西條さんは、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」のスキームは、今後世界各地で起きる災害の支援モデルとして役立つポテンシャルを備えていると言えると述べています。

 それに留まらず、日本の危機管理システム全体に役立つものになるのは、間違いないです。
 ぜひ、各省庁の担当の方も参考にしてほしいです。

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 最後に、西條さんは以下のようにおっしゃって、不安の中、復興に立ち上がる日本に向けて、エールを送っています。

 大丈夫。
 日本は必ずこれを乗り越えてより成熟した社会になる。世界でも一段飛び抜けた国になれるはずだ。

 この凄惨な経験を肯定することは決してできないけども、近い将来に、そうした犠牲があったからこそ僕らはこういう社会になれた、と思うことはできる。

 それが僕らが目指すべき未来なのだ。

 自分の心に嘘をつかずに、できることをしていくだけで、僕らは前に進むことができる。
組織の一員として積極的に声をあげることのできない人も、ツイッターでそっとリツイートして背中を押す、それだけで、社会は変えられるのだ。

 特別なことは必要ない。
 本当に絶対よくないと思っていることはせず、こうすれば社会はよくなるのにと思っていることをするだけで、僕らは確実に幸せな社会に近づいていくことができる。

 いま、まさにそうしているように。

  「人を助ける すんごい仕組み」 第8章 より  西條剛央:著  ダイヤモンド社:刊

 西條さんのおっしゃるとおりです。
 特別なことは、必要ありません。

「少しでも変えよう」

 そう思う気持ちが、いずれ社会を大きく変えることになります。

 必要なのは、あきらめないで継続すること。
 本書が、社会の仕組みを変える、ロールモデルの一つとなることを願っています。

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