【書評】『「超」入門 失敗と本質』(鈴木博毅)

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 お薦めの本の紹介です。
 鈴木博毅さんの『「超」入門 失敗の本質』です。

 鈴木博毅(すずき・ひろき)さんは、ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタントです。
 大学卒業後、貿易商社に入社。その後国内のコンサルティング会社に勤務され、2001年に独立されています。

70年変わることがなかった「失敗の本質」


『失敗の本質』は、約70年前に日本が経験した大東亜戦争の、日本軍の組織論を分析した本です。

 第二次世界大戦において、なぜ日本が負けたのか。
 そのことについて、国力の差ではなく、作戦や組織による「戦い方」の視点から解説している不朽の名著です。

 1984年に初版が発売されましたが、今、再び脚光を浴びています。
 きっかけは「3.11」の東日本大震災です。

 この大震災は、幕末の開国と太平洋戦争(大東亜戦争)での敗戦に続く「第三の敗戦」とも言われます。

 その大きな理由の一つとして、水面下で抱えてきた多くの社会問題や経済の課題、国民生活や政治組織の問題が一気に噴出し、これまでの日本の価値観や組織論をがことごとく通用しないことが明白となったことが挙げられます。

 大東亜戦争での、日本軍の敗戦に至る原因。
 その多くが、今回の大震災にも当てはまることが、識者たちによって指摘されています。

 日本軍が抱えていた、多くの問題や組織の病根。
 それらは、70年経った現代の日本に引き継がれているということが明らかになりました。

 鈴木さんは、『失敗の本質』には現代日本の危機への弱さを予言するかのような鋭い記述があるとして、実例を挙げて説明します。

 しかし、将来、危機的状況に迫られた場合、日本軍に集中的に表現された組織原理によって生き残ることができるかどうかは、多いに疑問となるところであろう。日本軍の組織原理を無批判に導入した現代の日本組織が、平時的状況のもとでは有効かつ順調に機能したとしても、危機が生じたときは、大東亜戦争で日本軍が露呈した組織的欠陥を再び表面化させないという保証はない」『失敗の本質』序章より)

 想定外の変化、突然の危機的状況への日本組織の脆弱さをズバリ指摘する言葉です。
残念なことに私たちは、先の指摘をまさに連想させるような日本企業の失敗を新聞や経済誌で幾度も目にしている現状を認めざるを得ません。
 最前線が抱える問題の深刻さを中央本部が正しく認識できず、「上から」の権威を振り回し最善策を検討しない。部署間の利害関係や責任問題の誤魔化しが優先され、変革を行うリーダーが不在。『失敗の本質』で描かれた日本組織の病根は、いまだ完治していないと皆さんも感じないでしょうか。

 『「超」入門 失敗の本質』  序章より  鈴木博毅:著  ダイヤモンド社:刊

『失敗の本質』が出版されてから、30年近く経ちます。
 しかし、今書かれた言われても、全く違和感がない内容に驚かされます。

 逆にいうと、この30年、考え方の根本に進歩がなかったということを示しています。

 本書は、古典的名著『失敗の本質』のエッセンスを取り出し、ビジネスや日々の仕事で活かせるよう整理してまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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戦略上のミスは戦術でカバーできない


 鈴木さんは、「日本軍の戦略があまりにも曖昧だった」ことを指摘します。

 日本軍は、太平洋戦争の初期において、比較的多くの戦闘で勝利を得ます。
 さらに、太平洋の南洋諸島を委任統治領としたことで、多数の基地を建設します。

 しかし、実際に日本軍が駐留していた25の島のうち、米軍が上陸占拠したのは、たった8島に過ぎませんでした。

 米国は、「他の17島に米国は戦略上大きな意味を持たない」と判断したからです。
 つまり、日本軍の努力の70%が「目標達成につながらない勝利」に費やされたといえます。

 鈴木さんは、この事実から得られる教訓として、以下のように述べています。

 いかに優れた戦術で勝利を生み出しても、最終目標を達成することに結びつかなければ意味はありません。戦略のミスは戦術でカバーすることはできない、とよく指摘されることですが、目標達成につながらない勝利のために、戦術をどれほど洗練させても、最終的な目標を達成することはできないのです。

「ガラパゴス化」という言葉は、孤立する日本製品の独自の進化を指す時によく使われてきましたが、いくら高度な機能を備えていても、標準規格を海外企業に独占されてしまい、最終的にシェア競いで敗れてしまえば、最終的な勝利につながらないことを意味しています。ビジネスにおいても、戦略のミスはやはり戦術ではカバーできないのです。

 『「超」入門 失敗の本質』  第1章より   鈴木博毅:著   ダイヤモンド社:刊

 日本のメーカーは、とかく、戦略より戦術重視に走りがちです。

「便利な機能を多く取り込めば、お客は買ってくれる」

 そんな昔からの固定観念から抜け出せず、多様化する消費者のニーズに応えられなくなった。
 その結果が、「ガラパゴス化」です。

「どのような客層に、どのようなコンセプトの商品を売りたいか」

 その大元の戦略なくして、「どんな機能を取り入れた製品を作るか」という個々の戦術は意味がない。

 それを理解することが大事です。

リスクを考慮しないと最終目標をまでたどり着けない


『失敗の本質』では、「コンティンジェンシー・プラン」(万一を想定した計画)という概念が示されています。

「コンティンジェンシー・プランの欠如」という、日本軍の思想と行動の弱点。
 それが、現代の日本にも、そのまま受け継がれています。

 鈴木さんは、日本人はリスク管理において、あのときから何も変わっていないと厳しく指摘します。

 リスク管理において、日本人が陥りやすい考え方を、以下のように説明しています。

 コンティンジェンシー・プランの概念において、「最終目標までたどり着けるかどうか」という判断基準は、極めて重要な意味を持つと思われます。
 自動車を運転する人であれば、間違いなく任意保険に加入しているはずです。なぜなら、万一人身事故を起こした場合、賠償金が数千万円以上になることもあるからです。
 20代から「自動車を運転しながら保険がない」状態で運転を継続したと仮定します。今年無事故であったことは「リスクをかわす」ことができたということです。
 しかし、残りの人生で40年程度運転を続ける場合、いつ事故が起こるかわかりません。「幸せかつ平和な人生を引退までまっとうする」ことを目標とした場合、無保険での自動車運転は恐ろしく脆弱性が高い状態です。一度大事故を起こせば、最悪で一家離散の状態に追い込まれれることもあるからです。極めて勘違いされがちな点ですが、

  ①安全運転に努めること
  ②保険をかけること


 この二つの行動は、意味がまったく異なります。
「保険をかけること」は、万一人身事故を事故が起こっても、あなたの人生が破綻することを避ける状態をつくり上げていますが「安全運転に努める」行動には、その効果はありません。二つの対応は似た印象を受けますが、事故発生後の結果は完全に違います。

 『「超」入門 失敗の本質』 第7章より  鈴木博毅:著  ダイヤモンド社:刊

 福島第一原発での放射能漏れも、「日本の原子力発電所は絶対大事故を起こさない」という“安全神話”のもと、万一を想定した計画を立てることを怠った結果、起こった事故です。

 原発に限らず、品質を高めることにかけては、世界でもトップクラスの日本の製造業。
 その実力を過信し過ぎて、万が一、品質トラブルが発生した時のリスク管理がおざなりになる傾向があることは否めません。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 この70年で、「太平洋戦争」「東日本大震災」と、二つの大きな悲劇を経験した日本。

 過去に学ぶ知恵がもう少しあったなら、失わずにすんだ尊い命がいくつもあったし、もっと暮らしやすい国になっていたことでしょう。

 今こそ、過去の教訓を活かす時かもしれません。
 それがこの震災で亡くなられた犠牲者への弔いになります。

 問題点の解決は、「現状を知ること」から始まります。

「失敗の本質」を直視することなしに、何も変わることはない。
 そう改めて思わせてくれる一冊です。

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