【書評】『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』(塚口直史)

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 お薦めの本の紹介です。
 塚口直史さんの『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』です。

 塚口直史(つかこし・ただし)さんは、ファンドマネージャーです。

「ストーリー」に、自分の時間とお金を投資する


 塚口さんは、外資系運用会社のヘッジファンドマネージャーとして、資産家から預かった大切な資金を運用する仕事をしています。
 変化の激しい国際金融市場で、1日のうちほとんどの時間を情報収集とその分析に費やし、投資を行っているそうです。

 しかし、このような日々の地道な作業が、直接運用パフォーマンスの向上につながるわけではありません。
 塚口さんは、大切なのは、このような地道な作業によって「将来を見通すストーリーを紡ぎ出すこと」が可能になっていくことにあると述べています。

 ストーリーを組み立てて、将来を見通すことができれば、運用パフォーマンスは自然と挙がります。「リターンを挙げる」という極めて高い付加価値を創り出すことで、私たちのファンドに投資してくださっているお客様とそのビジネスに、より付加価値の高い有用な国際情報を提供することができます。そうしてはじめて、引き続き資金を預けていただけるのです。お客様の大切な資金を増やし、より価値のあるものにするためにも、毎回が試練です。
(中略)
 私のお客様は、海外金融機関から国内上場企業のオーナー様まで多岐に亘ります。いわば、億万長者の方々です。常日頃から非常に広くアンテナを張り巡らせ、情報の感度を少しでも高くお持ちになろうと努力されています。
 億万長者は、運用利益云々といった目先の数字には興味を示しません。むしろ、「一体なぜこのような投資を行うのか」という、運用の背景にあるストーリーを多く入手しようとします。
 実際に海外投資、特に新興国投資を行う過程では、利益を出すこともあれば損失を出すこともあり、常に期待と恐怖が隣り合わせの状態です。そうして血と汗と涙でできあがった国際情報には、生々しいほどの鮮度と本質が詰まっています。億万長者は、そうしたストーリーにこそ興味を示します。そしてそれを自分自身で応用してビジネスに活かそうとする資質を、ほぼ100%の確率でお持ちです。
 億万長者になる秘訣は、単に資産を分散投資することではありません。
「将来こうなるのでは」と、ストーリーを組み立てて予測し、そこに向けて行動する。つまり、ストーリーに、自分の時間とお金を投資することにあります。
 こうした行動につながる思考を「シミュレーション思考」と位置づけます。

『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』 はじめに より 塚口直史:著 総合法令出版:刊

 本書は、ビジネスに成功するための秘訣、「シミュレーション思考」の方法についてわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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シミュレーション思考に欠かせない「3つの柱」


 シミュレーション思考には、欠かせない「3つの柱」があります。それが、

  • 世界に対する好奇心
  • 地政学
  • お金の歴史
 です。

 深く地政学の歴史を学び、広くお金の歴史を学び、できる限り世界に精通することで、幸せな未来を手にすることができると実感しています。
 図1(下図を参照)はそうしたシミュレーション思考における未来のイメージ図です。
 横軸(X軸)が世界への好奇心(国の数)です。そして縦軸(Y軸)が政治・軍事の歴史、つまり地政学です。奥行き(Z軸)がお金の歴史です。この縦軸、横軸、奥行きで構成される立方体が未来の社会を表しています。

 たとえばあなたが「日本」という国しか知らなかった場合、知っている国の数は1、つまりX軸は「1」になります。また、軍事・政治の歴史について全体の10%程度だけ知っている場合は「10」、お金の歴史について何も知らない場合、Z軸は「0」になります。
「ストーリー」を多く持つということは、X軸とY軸とZ軸の幅を多く持つということです。
 つまり、それぞれの軸について知っていれば知っているほど、XYZで作られるハコは大きくなり、未来について複数の選択肢を考えられるようになるのです。
 城に例えると、お金の歴史で堀ができ、地政学で石垣ができるイメージです。そして多くの国のお金の歴史と地政学を知れば、本丸、二の丸、三の丸と外郭が増えていく形で、その城がより強固になるというわけです。
 ストーリーを創る際には、たった一つしかない結果を予測するのではなく、複数のストーリーを創るようにすることが大切です。すると、どこかに未来が当てはまるようになります。そうなるためには、日頃から「客観的」に物事を観る目を養う必要があります。「客観的」というのは誰にも動かしようがない事実のことです。主観を排除して創るのが前提です(中略)。
 客観的で説得力のある未来予想は、人びとを動かす力を持ちます。提示された未来像が悲惨なものであれば、「そうはなりたくない」という気持ちを呼び起こし、人々を悲観的にさせ、予防行動を取らせるでしょう。
 一方、ワクワクする未来を提示できれば、それを聞いた人は安心してその方向に向かって努力を続けることができます。

『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』 第1章 より 塚口直史:著 総合法令出版:刊

図1 シミュレーション思考を形作る3つの軸 第1章P21
図1.シミュレーション思考を形作る3つの軸
(『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』 第1章 より抜粋)


 変化が激しく、先が見通せない今の時代。
 だからこそ、自分で学びながらストーリーを組み立てて、将来を予測する必要があります。

 経済のグローバル化は、今後も進んでいくことでしょう。
 シミュレーション思考は、現代社会を生き抜くうえで、ますます欠かせないツールになりますね。

「ゼロ金利政策」の意図とその影響


 2016年1月、日本銀行(日銀)は、民間銀行の日銀当座預金にある超過準備に対して-0.1%のマイナス金利を課すことを決めました。
 いわゆる、「マイナス金利」の導入です。

 金融機関は、預金を預金者に返済できるよう、ある程度の量を日銀の当座銀行に預金することが法律で義務づけられています。
 その銀行の持つ日銀への銀行預金金利をマイナスにすることで、銀行のお金を日本銀行への貸し出しではなく、企業への貸し出しや投資に回すよう促し、経済の活性化やデフレの脱却につなげようというねらいです。
(中略)
 今後、マイナス金利の世界で何が起きていくのでしょうか?
 ほぼ間違いなく、徐々に預金が減少していき、銀行の体力が徐々に蝕まれていくでしょう。そしてそこから生まれる利益の穴埋めに、無理な預金集めや無理な貸し出しを行っていくことに邦銀は傾斜していくでしょう。
(中略)
 ここでマイナス金利について、改めて考えてみたいと思います。マイナス金利が導入されるということは、預金に金利が付与されず、逆に元本が毀損(きそん)していくということです。
 これによってタンス預金が急増、理論的には、この10倍以上が、デジタルで保存されている銀行口座から現金化される可能性があります。そのため現在最も投資されている国債が銀行によって売却する恐れも出てきました。
 このことは、格付け会社からすでに指摘されていることでもあります。国債の価値の下落による、実質金利の上昇につながってしまうために、経済行動が落ち込み世間ではさらに物価下落が進む可能性すらあります。
 そもそも、金利はゼロが下限でマイナスにはならないというのが一般的な考え方でした。しかし、現実にはマイナス金利はこれまでも観察されています。
 2003年の6月、平成金融恐慌時のドル調達に伴うマイナス金利円貸し出しがそうでした。ドル調達側は、ドル利払いに加えて担保として差し入れた円にも利払いを迫られました。邦銀のデフォルトを恐れた外銀がドル貸し渋りに走り、対する邦銀は円を担保に巨額のドル調達を行ったため需給が急速に歪んでしまったのです。つまり、マイナス金利というのは非常時の異常事態と言っても過言ではありません。
 マイナス金利のもとでは、銀行はできる限り預金の受け入れを拒否するようになるでしょう。資金を受け入れても、お金を借りてくれる人も会社も、運用先もないからです。また、銀行支店維持のコストが銀行の収益を圧迫するため、支店のリストラが継続して実施されていくでしょう。
 実際に、マイナス金利が導入されたフランス、ドイツでは大手銀行の大規模リストラが相次いで行われています。預金者の方も預金の利子がほぼゼロで銀行の倒産リスクが高まるのであれば、預金を引き下ろしてタンス預金を増やす方向に動くことになります。その結果、マネーストックが大幅に縮小し、信用収縮が急速に進んできているのが現状の欧州の姿です。早晩、日本でもそういった姿が見られていくことになるはずです。

『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』 第2章 より 塚口直史:著 総合法令出版:刊

 1000兆円を超えるともいわれる多額の負債を抱える日本。
 それでも、経済的に持ちこたえているのは、日本という国に対する信頼が高いからです。
 日本の国債の金利の低さも、積み重ねてきた信頼感あってのことです。

 もし、それが崩れて、国債金利が上昇し始めたら・・・・・。
 想像するだけでも、恐ろしいです。

ギリシャをめぐるイギリスとロシアの歴史的攻防


 地政学では、以下の3つの定義が基本になります。

  1. 東欧※を押さえたものがハートランド(ユーラシア大陸、特に中央アジアやシベリア)を押さえる
    ※東欧はポーランド・ウクライナなどヨーロッパ東部の国々
  2. ハートランドを押さえたものがワールドアイランド(ユーラシア大陸+アフリカ大陸など世界の7割を占めるエリア)を押さえる
  3. ワールドアイランドを押さえたものが世界の覇権を握る
 中欧・東欧を押さえようとする勢力を「ランドパワー」(大陸勢力)と呼びます。
 ランドパワーの代表が、ロシアやドイツです。

 一方、これに対抗する、ハートランド周辺の国々を「シーパワー」(海洋勢力)を呼びます。
 シーパワーの代表が、日本・英国・米国・オーストラリア・カナダです。

図5 旧世界を牽制する米軍 新世界 の軍事戦略 第3章 P179
図5.旧世界を牽制する米軍 新世界 の軍事戦略
(『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』 第3章 より抜粋)


 歴史上の大きな事件や戦争は、ハートランドをめぐる、ランドパワーとシーパワーの勢力争いから起こる。
 そのような地政学の視点からみると、理解が深まります。

 たとえば、地中海に面した小国、ギリシャ。
 塚越さんは、この国の地政学上の重要性は、以下のように説明します。

 これまで見てきたように、地政学的に重要なハートランドであるその付け根にバルカン半島があります。したがってバルカン半島は、世界大戦を引き起こすほどの大きな可能性を感じさせながら、世界中の注目を集めています。
 さらに、そのバルカン半島の最端に、ギリシャが位置しています。オセロで言えば「端」の中でも更に重要な「角」にあたるようなもので、ここを押さえることがハートランド制覇のカギを握るとも言われてきました。
 実際、ロシアの黒海艦隊がトルコのボスポラス海峡を通過して直面する位置にギリシャが存在しています。ギリシャを手に入れると、国外への航行もスムーズになります。つまりギリシャは、ロシアからしてみれば、何が何でも手に入れたいと思う地理的な位置を有しているわけです。
 実はこのギリシャ、過去の歴史を見ても、何かと他国の注目を集める国でした。
 第一次世界大戦時、当時のオスマン帝国がギリシャを支配していたのを、戦後のイギリスが親英王政派を親補し、いち早くその勢力下に置きます。ロシアの南下政策を、ギリシャを最前線にすることで防ごうというわけです。
 第二次世界大戦時では、チャーチル英首相が、本土防衛部隊を引き抜いてギリシャに派遣するという苦渋の決断を下しました。ナチスドイツの英国本土侵攻作戦の危機があったにもかかわらず、です。ここから、いかにギリシャが地政学的に重要な拠点なのかが窺い知れます。
 結局、ドイツの電撃戦の前にイギリスは敗退・撤退していきましたが、戦後、再びギリシャ王政を親補し、ソ連の息がかかったギリシャ共産党を完全に排除します。戦前、戦後と時代は変わってもギリシャの位置は変わることなく、イギリスの国益・国策としての興味を引いてきたわけです。

『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』 第3章 より 塚口直史:著 総合法令出版:刊

 いつデフォルト(債務不履行)になってもおかしくないほどの深刻な財政問題を抱えるギリシャ。
 それでも、ドイツをはじめ、多くの国々が経済支援を行っています。

 もし、ギリシャという国家が破綻したら、そこにロシアが手を伸ばしてくるかもしれません。
 そうならないためにも、ギリシャをなんとか存続させ、自分たちの勢力下に置いておきたい。

 そんな西側諸国の思惑が見え隠れします。

「生産年齢人口の減少」は、日本に何をもたらすのか?


 日本では、「少子高齢化」が社会問題となっており、とくに深刻なのが、「生産年齢人口の減少」です。
 塚越さんは、2060年までに日本の生産年齢人口が3755万人も減少することの影響は甚大だと指摘します。

 生産年齢人口の減少が経済に与える大きな影響のひとつは、「労働力不足が成長を妨げること」です。

 2012年12月26日にスタートした第2次安倍内閣によるお上主導の経済対策で、景気は約3年間は回復に向かって行きました。
 具体的には、①異次元金融緩和、②機動的かつ大規模な財政出動、③TPP(環太平洋経済協定)推進に代表される規制緩和の、「3本の矢」と呼ばれるものです。
 この施策と、衆参ねじれ現象の解消を伴う、圧倒的な自民党の勝利による長期安定政権、そしてその経済対策への期待が、国内金融市場に大きなうねりをもたらしました。いわゆるアベノミクスです。
 2013年には、年間でドル円為替レートが85円から105円へと、約21%という過去2番目となる大幅な円安が示現したことや、日経平均株価指数が約56%も暴騰するという、戦後4番目となる記録的な円安・株高となるほどの期待と市場へのインパクトがありました。
 一方で、期待やコストカットだけではなく、新産業創出という形で生まれていく真の有効需要に基づいた、持続性のある付加価値の創造を求められているのが今年の日本の課題です。
 しかし、賃金のコストカットですら難しくなりつつある現場が浮き彫りになってきています。輸出数量が伸び悩み、明確な経済成長パスが描けない中で、労働力不足によって、労働賃金と物価において、下方硬直性が顕著になってきたためです。
 今の物価をベースに理論的な日銀の政策金利を算出して見ると、インフレ目標を2%とした場合、その理論値はマイナス金利どころではなく、2%を超えるものとなっており、途方もない数字になるほどです。これは、引き上げられた消費税の影響と労働環境のタイト化で、大幅に上昇基調になっているためです。
(中略)
 今でこそ、デフレ脱却がテーマになっているわけですが、人口動態の変化に基いて考えていくと、生産性の低下によって、国内はインフレになる可能性が高くなると思われます。
 そうした時に備えて今から色々対応を取る必要があるというアドバイスです。
 たとえば、住宅ローンは変動金利ではなく固定金利にするのも一つのインフレへの対応策となるでしょう。また、インフレ通貨は外貨対比で理論的には下落するのが常なので、海外への輸出ビジネスや外貨保有を拡大するなど、収入面での変化を生活に取り入れるのも一手です。

『情報を「お金」に換える シミュレーション思考』 第4章 より 塚口直史:著 総合法令出版:刊

 ほんとうに危険なのは、デフレではなく、水面下で進行しつつあるインフレです。
 動き出したら最後、破綻するまで止まらない恐れもあります。

 雇用を生み出す新産業の創出、それに、企業や個人の生産性の向上。

 このふたつは、インフレの表面化を抑えるためには、これからの日本に欠かせません。
 個人でできる対策は限られているとはいえ、できることはやっておきたいですね。

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 多くの人が「絶対的だ」と思っていた価値観が、次々と崩されている今の世の中。
 私たちにこれから求められるのは、「自ら考える」ことです。
 塚口さんはさらに、その考えたことを行動に素早く移す力が不可欠になっているとおっしゃっています。

 刻一刻と変わる世界の情勢から、ストーリーを組み立て、シミュレーションをする。
 そして、自分なりの結論を出して、すぐに実行してみる。
 そんな周到な戦略と機動性が求められるということです。

 厳しい時代を生き抜くためのサバイバルツールといえる「シミュレーション思考」。
 皆さんも、ぜひ参考にしてください。


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