【書評】『新モノづくり論』(仲暁子)

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 お薦めの本の紹介です。
 仲暁子さんの『ミレニアル起業家の 新モノづくり論』です。

 仲暁子(なか・あきこ)さんは、起業家・会社経営者です。
 2011年に、ウォンテッドリーを設立し、ビジネスSNS『Wantedly』を開発されます。
 シンガポールをはじめ、アジアにも事業展開されるなど、活躍の場を広げられています。

なぜ、日本から世界で活躍できる企業が減っているのか?


「なぜ、日本から世界で活躍できる企業が減っているのか」

 仲さんは、私たちに、そう問いかけます。

 私は大学卒業後、ゴールドマン・サックスとフェイスブックという米系の対照的な企業を経て起業し、今はウォンテッドリーという、人との出会いやつながりを促進する日本最大手のビジネスSNSを開発・運営している。2012年に公式リリース後、2017年6月現在においては月間150万ユーザー、そして2万社を超える企業にご利用いただき、売上も順調、100名ほどの仲間と一緒に働いている。
 事業を拡大していく中で、海外進出をしては見事に失敗する企業を多く目の当たりにしてきたし、私たち自身も海外進出の足がかりを得るまでに大変時間がかかった。そんな中で、「なぜこれほどまでに日本から世界を席巻する企業がここ数十年ほど生まれていないのか」をずっと考えてきたし、自分の事業でもそこを意識しながら進めてきた。
(中略)
 私は学者ではないので、インプットする情報は常にファクト(事実)を大事にしているものの、本書の全ての記述にデータをつけるといったことはしていない。あくまで、私という個人のフィルターを通じて、縦横無尽に日本の方向性について論じていることを前提としてご理解いただきたい。なので、世の中のファクトをまとめた解説本というよりは、仲暁子という一起業家、経営者のレンズを通して見える現代日本経済の解釈として楽しんでいただき、今後の日本の進むべき道を考える上でのきっかけとなれば嬉しい。

『新モノづくり論』 はじめに より 仲暁子:著 光文社:刊

 本書は、これからの時代を生き抜く20代、30代の働き方や日本の企業が進むべき方向性を、新時代の起業家の目線でまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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日本企業の低迷は、「ストーリーテリング能力の欠如」にある


 30年ほど前は、世界中を席巻していた「日本ブランド」。
 しかし、今では、すっかり影が薄くなってしまいました。

 技術力では勝てていても、消費者の心に訴えかける部分が足りていない。
 多くの日本企業が抱えている問題点です。

 消費者の心を掴み、高いブランド力を維持する。
 仲さんは、そのためには、ストーリーを乗っけて「体験」を売ることが重要だと述べています。

 もちろん、無印良品だったり資生堂だったり、ビジュアルやメッセージングで消費者の心を掴んでいる企業は多いが、他国のそういった企業と比較すると押されている感が否めない。技術力がものを言う領域では勝てていたが、その分「心を掴む」みたいなところが弱かった。が、もはや今、技術=スペックだけでは消費者の心は掴めない時代になってきている。
 ストーリーとは、要は「なりたい自分像」や「理想の世界の状態」のことを指す。それは例えば定量的な「体重がXkg」とかではなく、数値では表せない定性的なもの。だからストーリーと言われる。
 例えばiPhoneを買う消費者は、別にiPhoneのスペックを購入しているわけではなく「iPhoneを持っている、イノベーティブでスマートなイケてる自分像」を買っている。シェアハウスに住む若者は、単純にお金がないというだけでなく(昨今の人気のシェアハウスは一人暮らしよりも高かったりする)、「オープンに人と関わり合って進化していく自分像」を買っている。パタゴニアで人が働くのは、「品質の高いフリースをつくりたい」からではなく「自然への敬意・情熱・愛を持って生きている人たちと一緒に世界環境をよくしていく自分像」を実現するために働いている。安いとかバッテリーのもちがいいとか、給料が高い、だけじゃもう人は購入しないし働かない。
 ストーリーテリング能力とは、こういった背景の物語を組み立てて言語化し、発信できる力のことを指す。
 ストーリーはもの不足の時代からマーケティングでは必須だったが、ものが溢れる現代においては一層重要性が増している。
(中略)
 この「ストーリーを語る」というのは、言うは易しだ。誰だって考えていることは大体同じだし、人の思考はその時代の「普遍的善悪基準」からそんなにずれていることはない。最たる例が昔からある数々のことわざで、例えば一石二鳥、井の中の蛙、塞翁が馬など、多くのフレーズが現代でも使われている。どれも「確かに」というものが多い。問題はここからで、誰もが知っている「まぁそうだよね」という事象を、「刺さる」ように見せられるかどうかが全てだ。

『新モノづくり論』 第1章 より 仲暁子:著 光文社:刊

 数値で表せる「効果(エフェクト)」ではなく、数値で表せない「効用(ベネフィット)」。
 これからの時代、それがより重要となってくるということです。

「こうしたい」
「こうなりたい」

 消費者の潜在的ニーズを満足させる商品を、いかにつくることができるか。
 日本企業の底力が試されています。

自分なりの「美学を持つ」ということ


 仲さんは、この不透明な世の中を生き抜く上で、「美学を持つ」ということは何よりも大切だと指摘します。

 多くの人を動かすには、「何のために」が最も重要です。
 それを語るうえでなくてはならないのが、自分の中から血肉として滲み出る美学です。

 仲さんは、美学を磨く上で手っ取り早いのは、「認識の時空(時間軸と空間)を広げる」ことだと述べています。

時間軸を広げる

 過去から未来へと長期的な視点を養うのに打ってつけなのが読書だ。特に本屋の棚で定番の位置を占めている本(必ずしも古典とは限らない)は、それなりに多くの出版物の中でも競争をくぐり抜けてきているからそこそこ面白い。特に、「私はこう思った」というような主観の本ではなく、「過去にXが起きた」だったり「定量的なデータに基づくと」というような、ファクトに基づくものの方が価値があると思う。なぜなら前者はすでにある事象に対して人の判断が入ってしまっているが、後者は生のデータに関して自分なりの見方を展開できるし、自分の言葉に説得力を与える知識を得られる。だから私は、研究者が書いた本やファクトに基づいた伝記が好きだ。
 時間軸を広げると、「長期的視点」と「短期的視点」を行ったり来たりできるようになる。基本人間はポジショントークの生き物で、長期的と短期的で全く考えが違ったりする。それをきちんと認識すれば、何を議論するにしても前提となる言葉の定義から始められるし、着目点を変えるだけで今当たり前のことがそうではなくなることに気づく(国民国家も資本主義も概念の1つにすぎない)。

空間を広げる

 まずは半径を広げる。様々な国の空気を五感で味わうというのは若いときにやっておいて損はない。私は大学4年生のときにピースボートで世界一周をしたり、子供の頃は東南アジアを中心に多くの国を訪れたりした。当時は快適な日本の生活が好きだったからつらいことの方が多かったけれど、今思うと異文化体験は、普段の視点を相対化してくれるという意味でかなり役立つ。
 それから、高度も上げられる。最近面白かったのは、自家用飛行機に乗ったことだ。これまで一般の旅客機にしか乗ったことはなかった。個人の小型機に乗れば、どうやって飛行機は空を飛ぶのか真剣に考えるきっかけになるし、地上以外の空域というものへの関心も湧く。
 認識の時空を広げるというのは、「絶対なんてない」ということを感覚的に理解することも助けてくれる。自分が何が心地いいと感じて何を不快に感じるかということを把握すると同時に、世の中は多様性に溢れ、自分の意見なんて特定の立ち位置から見た1つの意見に過ぎないし、一個人がいかにちっぽけで取るに足らない存在なのかも自覚できる。
 人は皆、所詮群れる蟻の1匹。空間を縦横無尽に広げていこう。

『新モノづくり論』 第2章 より 仲暁子:著 光文社:刊

 認識の「時間軸」と「空間」を広げる。
 仲さんは、それによって、目の前の事象を長期的、広域的に捉えられるようになるし、多様な価値観の存在を知った上で自分のポジションを取れるようになると述べています。

 より深みのある、説得力のある人間になる。
 そのためにも、普段の生活から意識したいですね。

「ミレニアル世代」の8つの特徴


 今、世界の消費を引っ張っている世代が「ミレニアル世代」です。

 ミレニアルとは、2000年のことです。
 ミレニアル世代とは、1982年以降に生まれ、2000年頃にアメリカで大人とされる18歳になった人々のことを指します。
 日本の「ゆとり・さとり世代」といわれる世代と近いです。

 仲さんは、ミレニアル世代は、それまでの世代と行動様式が大きく異なるため、消費的観点だったり労働者としてマネージする観点まで、欧米諸国では幅広く注目されていると指摘します。

 簡単に特徴をあげてみよう。

  • 所有よりアクセス
  •  ミレニアル世代は何かを所有するよりもそのリソースにアクセスできることに価値を置いている(ゴールドマン・サックス・リサーチ調べ)。ウーバーやエアビーアンドビーが広まるのも納得できるし、シェアリングエコノミーを牽引しているのもミレニアル世代だ。日本でも、車を所有せずにレンタルしたりカーシェアリングで必要なときに利用するスタイルが急速に普及している。
  • コスパ重視
     ミレニアル世代の半分以上にあたる57%が、小売店舗にいるときにスマホでその商品の価格を調べるということだが、これは店の値段をそのまま受け入れていた前の世代と大きく異なる行動様式であるという(カナダのマーケティング会社AIMIA調べ)。実際に日本でもヤマダ電機などの小売店は展示場と化し、多くの消費者がそこで実物を確かめたあとに最安値でネット購入したりする。また同時に、食べログで店を選ぶ行為が「スマート」とさえ受け取られるような価値観になってきている。
  • 健康に気を使う
     18歳以上の人が1日1箱以上煙草を吸うことをよしとしない高校生の割合が、1998年に69%だったのに対し、2013年では83%だったという。また、ミレニアル世代は健康に気を使うので、炭水化物を避けたり自分の健康状態をアプリで監視・追跡したりする(若者の健康を調査しているアメリカの団体Monitoring The Future調べ)。
  • 貯金する
     上の世代ほどしっかり貯蓄をしているという先入観に対し、ミレニアル世代が他の世代よりも多く貯金をしているという調査結果が出ている。ジェネレーションX(1960年代初頭または半ばから1970年代に生まれた世代)やベビーブーマー世代(1946年から1964年頃までに生まれた世代)と比べて、ミレニアル世代は36%多く年間の収入を貯金しているという(Merrill Edge®調べ)。日本でも、長年にわたった不況の影響も大きいかもしれないが、図表22(下図を参照)のように若者の消費性向(所得のうち消費へ回す割合)は減少傾向にある。
  • LGBTが多い
     ミレニアル世代は歴史上どの世代に比べてもLGBTが多い。過去の世代(日本でいうベビーブーマーや団塊の世代など)に比べて、2倍もLGBTと自覚している人々が多い(米調査会社Gallup調べ)。セクシュアリティ的マイノリティがクールなことだとされ、俳優やポップスターでもカミングアウトしている人が多い。男らしい、女らしいみたいな性の境界も古臭いと感じられている。
  • ポリコレ
     ミレニアル世代はその上の世代に比べて、圧倒的にマイノリティグループを攻撃したり不快な気持ちにするような発言を慎む傾向があるという(米シンクタンクPew Research Center調べ)。これまでにないくらい、多様な社会に生まれてきたのだから、当たり前といえば当たり前かもしれない。
  • 「何のために」を気にする
     ほぼ50%のミレニアル世代が、自分が支援する社会活動や意義を唱えている企業からものを買う傾向が、そうでない企業から買うよりも強いという。また、37%のミレニアル世代が、自分が信じる社会的意義や活動を支援するためなら、多少高かったとしてもそれにまつわる商品を購入するという(米マーケティング会社Millennial Marketing調べ)。この「何のために」という行動様式は、消費だけでなく、生産活動、労働など多岐にわたってミレニアル世代を形づくる要素になっていると言っていい。
  • アーリーアダプターが2.5倍多い
     他の世代に比べて2.5倍ほどアーリーアダプターであることが多く、また、56%のミレニアル世代は新しいテクノロジーを使ってみたり、そういった消費グループに属しているという(Millennial Marketing調べ)。

    『新モノづくり論』 第3章 より 仲暁子:著 光文社:刊

図表22 30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出と消費性向 新モノづくり論 第3章
図表22.30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出と消費性向
(『新モノづくり論』 第3章 より抜粋)

 ミレニアル世代は、まさに、今の世の中のトレンドを創り出している世代だといえますね。
 彼ら彼女らの影響力は、これからますます強まっていくことでしょう。

 ミレニアル世代のハートを、いかに掴むか。
 それが、今後のビジネスの成功を占う、重要なカギとなりますね。

「0→1」は、ノリが大事!


 ミレニアル世代を代表する起業家である、仲さん。

 何もないところから、あるビジネスを創り出す段階。
 つまり、「0→1」の部分は、「ノリ」が大事だ、と述べています。

 0→1は誤解を恐れずに言えば「ノリ」だ。あんまり深く考えずに、面白そうだからまずやってみる。特に若いうちの起業はあんまり考え過ぎても意味がない。とにかくやってみる。それにはその場の空気や勢い、思い込みみたいなものが必要だ(大したことないのに「すごいアイディアを思いついてしまった」とか言っている状態がその典型)。
 振り返ってみると、フェイスブックもツイッターもインスタグラムも最初は大きな野望なんてもたずに、ノリで始まっている。フェイスブックは学内の好きな子に彼氏彼女がいないかを調べるのにもってこいだったし、最初から「世界をもっとオープンにし、つながりを強める」なんて言っていなかった。ツイッターやインスタグラムに至ってはそれぞれメインで作られていたサービスの中の一機能がスピンアウトした副産物だし、前述のスラックも新しいビジネスを始めるに当たって社内で開発されたコミュニケーションツールを社外公開したのが始まりだ。どれも世界をどう変えたいといった大志や理念などを掲げたりせず、半径2mの不満を解決する、みたいなところが出発点だ。
 この段階のスタートアップに、ビジョンとかミッション、バリューは不要で、そんなことを紙に書いたり議論している時間があればさっさとコードを書いた方がいい。そもそもサービスが公開にまで至らなかったり、公開しても誰も使わなかったりして終わるところが99%なのだから!

『新モノづくり論』 第4章 より 仲暁子:著 光文社:刊

 一昔前、「起業」といえば、一世一代の大勝負というイメージがありました。
 しかし、ほんの少しの間に、状況は大きく変わりましたね。

 インターネットやSNSの普及、クラウドファンディングなどのフィンテック(金融工学)の進化。
 それらにより、「ビジネスを興す」ためのハードルが下がったことも、大きな要因の一つです。

「ノリ」で会社を創り、社会のあり方を変える。
 そんなミレニアル世代の起業家が、日本でもこれから数多く誕生するでしょう。
 楽しみですね。

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 変化が激しく、不確実で、先が読みにくい。
 そんな今の社会の中で、事業や政策をつくっていく。

 仲さんは、そのためには、自分の信じる美学を拡張したビジョンやバリューのトライブ(商品であったり働く場)を提供していくことが重要だとおっしゃっています。

 自分のビジョンや理想をカタチにする。
 それを、考え方や感性が似ている人たちと共有する。

 そのための手段の一つとして、「起業」があるということですね。

 マーケティングにお金をかけなくても、いいものは、口コミだけで爆発的に広がる時代です。

 誰もが、夢を語り、世界を変える可能性を持つ。
 そのために必要なのは、熱い想いと大きな志、それらを共有する仲間だけ。

 私たちは、今、まさにそんな新しい時代の入り口に立っています。
 その先導者となるであろう、仲さんはじめ、ミレニアル起業家たちの活躍に期待したいですね。


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