【書評】『リブセンス』(上阪徹)

LINEで送る
Pocket

 お薦めの本の紹介です。
 上阪徹さんの『リブセンス<生きる意味> 25歳の最年少上場社長 村上太一の人を幸せにする仕事』です。

 上阪徹(うえさか・とおる)さんは、フリーランスのライターです。
 経営、経済、就職などをテーマに、幅広く執筆やインタビューを手掛けられています。

 村上太一(むらかみ・たいち)さんは、株式会社リブセンスの創業者であり、代表取締役社長です。
 早稲田大学一年の時に、リブセンスを設立。
 2011年12月には同社を史上最年少の二十五歳一ヶ月で東証マザーズに上場させています。

「ごく普通の二十五歳の青年」が上場社長になれた理由は?


 上阪さんは、これまで800人超の経営者のインタービュアーを務めてきました。
 その中には自ら会社を立ち上げ、成長させてきた起業家社長も多いです。
 彼らの多くは、ギラギラとした雰囲気のある人たち。
 社会に大きなインパクトを与えたいという強烈な意欲を抱いている人ばかりでした。

 村上さんは、そんな起業家のイメージとは遠くかけ離れた笑顔の持ち主でした。
 上阪さんは、インタービューで直接話を聞くと、彼はやはり「ごく普通の二十五歳の青年」であるということを確信します。

「リブセンス」の経営理念の言葉は、幸せから生まれる幸せです。
 人を幸せにすることによってこそ、自分たちも幸せになれる。
 村上さんは、単なる“きれいごと”ととられかねないこの理念を、真剣に追求し続けています。

 上阪さんは、この理念を追求しながら最年少上場を果たした村上さんに、これからの日本を考えていく上での大きなヒントがあると指摘しています。

 本書は、日本の若手起業家の旗手である村上さんが「リブセンス」を設立した目的や「生きる意味」についてをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

スポンサーリンク

若者の間で支持を集めた「採用祝い金」


 リブセンスの主力事業は、アルバイト情報サイト「ジョブセンス」の運営です。
 ジョブセンスは、いわゆる「成功報酬型」のシステムを導入して急成長しました。
 アルバイトを採用したい企業に「無料」で募集広告を出してもらう。
 そして、応募者を採用したときにはじめてお金を支払ってもらうという制度です。

 上阪さんは、若者の間でジョブセンスが口コミによって広まったのは、「採用祝い金」の存在が大きいと指摘します。
 この制度は、ジョブセンスのアルバイト募集サイトを見て、募集して採用になった人に最大2万円の祝い金がもらえるというもの。

 祝い金は、アルバイトを探す側にとってジョブセンスを利用するインセンティブになるのはもちろん、企業にとっても融通のきく仕組みなのだ。
 祝い金を払うのは、採用した企業ではなく、リブセンスである。アルバイト情報サイトを運営している企業が自分たちの利益を減らしてでも祝い金を払うような仕組みは、これまでなかった。
 言葉を換えれば、せっかく手にした利益を、すぐに顧客に還元してしまうような企業は、これまでになかったのである。
 もちろん、採用祝い金を導入することによる効果は、きちんと考えられている。求人サイトは山のようにあり、利用者にとっては、多くの選択肢がある。その中で、採用が決まれば祝い金がもらえるというのは、大きなアピールポイントだ。実際に祝い金をもらった人は、「こんなサイトがあるんだよ」と知り合いに話すだろう。
 こうしてジョブセンスの知名度は上がり、アルバイトを求める人がたくさんサイトに訪れることになる。
 企業側は、確実に採用ができることがわかると、さらにアルバイト広告を出す。求人が増えれば、利用者もまた増える。
 こうした良い循環が、事業の成長を後押ししたのである。

 『リブセンス』 第1章 より 上阪徹:著 日経BP社:刊

 アルバイトを募集する企業、アルバイトを探している人、そしてリブセンス自身。
 この三者がそれぞれ利益を得る。
 そんな画期的な仕組みを作れたからこそ、短期間で大きな成果をあげることができました。

 短期的には利益を削ってでも、口コミによってサイトのアクセス数を増やす。
 それが長期的な利益の確保につながる。
「採用祝い金」は、そんなインターネットに慣れ親しんだ世代らしい発想から生まれたビジネスモデルです。

“適度な劣等感”を持つこと


 村上さんは、高校卒業当時には、すでに起業という目標を明確に設定していました。
 そのため、受験は時間的余裕のある文系にシフトしました。

 村上は自分を冷静に見ていた。自信を持ちながらも、過剰にならなかった。
“適度な劣等感”を持ったことで、むしろ自分の強みを理解し、自信も手に入れたのだ。
「自分が完璧だと思っていると、挫折したときに相当なダメージを受けてしまうでしょう。負けるところは負ける、というふうに思っているんです。もちろん負けることがいいこととは思わない。でも、適度なあきらめは持っている」
 実際、どんなに勉強ができる人でも、何か別のところでコンプレックスを持っていたりもするものだ。ポイントごとに勝ち負けを気にするよりも、総合力で勝負しようと切り替えることに村上は成功したのである。
 高校時代までの話を聞けば、村上の持ち味として、コミュニケーションや段取りの良さ、人に信頼されるところ、決してあきらめない精神力が挙げられるだろう。
 それらが総合的に生かせるのが、実は会社の経営だったのだ。

 『リブセンス』 第2章 より 上阪徹:著 日経BP社:刊

 村上さんは、小さい頃からすでに起業への思いを持ち続けていました。
 自分の強みはなにか、弱みはなにか、足りないところはなにか。
 それをつねに考え続けていたのでしょう。
 その意識の高さが、常識破りのアルバイト情報サイト運営会社を作り出しました。

売上が伸びても自分たちはまだまだと思う


 村上さんがリブセンスを立ち上げたのは2006年2月8日。
 当時は大学生、まだ十九歳の若さでした。
 創業時の資本金は300万円、150万円を両親に借りて自身の負担分200万円を捻出しました。
 しばらくの間、給料もなし休みもなしで事業を軌道に乗せようと奮闘する日々。

 努力が実って、明らかな変化が現れてきたのは、一年後の2007年2月頃。
 一気に数字が上向き、その後は売り上げが倍々ゲームのように増えていきます。
 利益も膨れ上がってきました。
 しかし、村上さんはそのような状況にもまったく動じませんでした。

「たしかに月次決算が1000万円単位になっているのはわかっていました。でも、それが会社としてすごいという感覚はなかった。売り上げが数十億円、数百億円という規模の会社からしてみたら、まだまだ小さいからです」
 村上の考えていた基準はとても高かった。売り上げが伸びても、おごることなく、冷静に見ていたのだ。
「そんなことより、サイトを良くしていくのが楽しかったんです。どんどん利用者が増えて、広告も増えていった。たくさんの人が利用してくれていることのほうが、断然うれしかった。誰かに喜んでもらえることのために自分はやっているんだと実感しました」
 村上以外のメンバーも同じように感じていた。
「伸びていることはみんなわかっていました。でも、みんなお金に無頓着でしたね。それ以前に、お金が目的ではなく、ユーザーや広告が増えていくのが楽しくてやっていたんです」
 リブセンスは急成長したが、派手にメディアに取り上げられることはなく、事業に集中できた。ベンチャーブームの時期ではなかったことが幸いしたのかもしれない。
「この売上高の伸びはすごいなんて記事を書かれていたら、少しは変わっていたかもしれないです。でも、誰もそんなことはいってくれませんでしたから(笑)」
 村上には“虚栄心”というものがまるでなかった。取材に来てほしいとも思わなかったし、有名になりたいとも思わなかったという。

 『リブセンス』 第4章 より 上阪徹:著 日経BP社:刊

 周りの状況に左右されないマイペースさ。
 それが村上さんの大きな強みの一つです。
 私利私欲に走らず、「幸せから生まれる幸せ」というリブセンスの経営理念を広げていく。
 そのことに集中していたからこその成功だったといえますね。

流行に流されない「賢い二十代」の登場


 上阪さんは、インタビューを通じて感じたのは、明らかに上の世代とは感覚が異なるということだ。とりわけ、自分の欲求というものが、驚くほど希薄である印象を受けたと述べています。

 私たちの世代が高価なブランド品を買うときに、その品物の原価がいくらであるかということを考えることはまずない。ブランドの価値は、原価とは関係がないと思っている。だが、村上の世代はそうではない。
「私たちの世代は、基本的に、世の中を疑ってかかっているのかもしれません。ブランドがいいといわれても、本当にそれがいいのか自分で納得しないと、受け入れられない」
 もちろん、全員がそうではないだろう。だが、安易に人に流されない若者が増えていることは間違いない。だからこそ、「若者のビール離れ」や「若者のクルマ離れ」などと言われているのかもしれない。
 とはいえ、自分が試してみて良いと思ったものは流行に関係なく利用する。例えば、2011年11月に東京・代官山にできた「蔦屋書店」のラウンジがお気に入りで、終末の夜によく利用する。「雰囲気が良くて、仕事がはかどる」からだという。
 先入観を持って頑(かたく)なに流行りものを拒否するのではなく、柔軟に自分に合うものをチョイスする。自分にとって何に価値があるのかをしっかりと考えることができる若者が増えているのである。
 この世代に、誰かが価値観を押しつけようとするのは、難しいかもしれない。
 村上の世代は、物心ついたときから日本はそれなりに豊かであり、一方で経済は伸び悩んでいた。将来への不安が消えることがない状況の中を育ってきた彼らが、それに適応するために、自分の頭で考えるようになったのではないか。
 思えば、スポーツの世界でも、政治の世界でも、上の世代とはちょっと違う、ギラギラしていない、スマートな二十代が出てきている。

 『リブセンス』 第7章 より 上阪徹:著 日経BP社:刊

 流行やブランドイメージよりも実用性やコストパフォーマンスを重視する。
 今どきの二十代の若者らしい考え方ですね。
 出口の見えない厳しい不況と物心ついた頃から向き合ってきた彼ら。
 おとなしくて自己主張の少なく、”草食系“とも揶揄(やゆ)される世代でもあります。
 ただ、上の世代が考えている以上に自分の頭で考えてしたたかに生きているといえるかもしれません。

スポンサーリンク

☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 価値観が多様化した今の世の中、若者を中心にお金やモノにこだわらない生き方をする人が増えてきています。
 村上さんも、その中のお一人ですね。

「幸せから生まれる幸せ」

 相手を幸せにすることが自分の幸せになる、という確固たる信念を持ち続ける村上さん。
 村上さんの存在、それに「リブセンス」の成功は、“物質的な幸せ”から“精神的な幸せ”に重点を置く新しい時代の幕開けの象徴といえます。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 15

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA