【書評】『リーダーの現場力』(迫俊介)

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 お薦めの本の紹介です。
 迫俊介さんの『やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力』です。

 迫俊介(さこ・しゅんすけ)さんは、会社経営者です。
 UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を卒業後、大手商社を経てベンチャー企業マザーハウスに入社、同社の創業期で大きな役割を果たされています。
 その後、2013年にミニット・アジア・パシフィックに入社、2014年からミスターミニットの代表取締役社長に就任されています。

会社を生まれ変わらせるのは「現場力」


 過去10年間にわたって、業績は右肩下がり。
 管理職は、次々と鬱(うつ)で休職、あるいは退職。
 ばかげた伝統やタブーによって、新サービスは40年間、成功ゼロ。

 迫さんは、そんな崖っぷち会社だった「ミスターミニット」を、わずか3年間で、生まれ変わらせることに成功します。

 僕たちは「業績は下がり続け、上向く気配すらない」「何が問題かは明らかなのに長年手つかず」「会社のために意見を出せば『上司に逆らうのか』と言いがかりをつけられる」という典型的なダメ会社だった。放っておけば10年以内に倒産する可能性すらあった。朽ち果てる寸前の、老木のようだった。
 そんな会社でも、生まれ変われた。ミスターミニットはいまや、新緑を芽吹かせ大きな花を咲かせる大木のように、エネルギーに充ち満ちている。
 この会社で、僕は社長として何をしたのか?
 革新的な戦略を打ち出した? カリスマ的なリーダーシップで会社を引っ張った? 外資系からエリートを大量に採用した? いや、どれも違う。
 僕はひたすら、会社のすべてに現場中心につくりなおしてきた。現場を徹底的に尊重し、「現場軽視」につながる施策はすべて廃止した。経営と現場の間にあった深い溝は、コミュニケーションによって地道に埋めていった。現場が持つ可能性を最大限に発揮できるための「仕組みづくり」もどんどん進めた。
 僕にもし他のリーダーと異なる点があるとすれば、現場を動かす力、つまりリーダーとしての「現場力」を人一倍重視したという一点に尽きるだろう。

 この会社が変われたのは、現場のおかげだ。
 そして、すべての会社は現場次第で変わることができると、僕は信じている。
(中略)
 ミスターミニットは、日々メディアに取り上げられるGoogleやユニクロといったエクセレントカンパニーでも、エネルギーのある若い人を中心に構成される「イケてるベンチャー企業」でもない。お世辞にもエクセレントとは言えない、むしろかなり「バッド寄り」のカンパニーだった。創業時の勢いなどとっくに失われ、社員は将来に漠然とした不安を抱えている、典型的な中年企業だった。きっと、世の中のほとんどの会社も多かれ少なかれ似た状況にあるだろう。
 先にも述べたように、僕にはベンチャー企業で働いていた経験もある。だから、日本でたくさんのベンチャー企業が興ること、たくさんの若者が立ち上がることが未来を変えていくという思いも持っている。
 しかし、新しいベンチャー企業が生まれることと同じくらい大切なのが、いまある「ふつうの会社」が生まれ変わり、光り輝くことなのだ。そのために必要なのは、カリスマ性や強烈なキャラクターによる新しいものを「つくる」リーダーシップではなく、現場に寄り添った、いまあるものを「つくり直す」リーダーシップだ。それをこの数年間で、骨身にしみて実感した。
 まだまだ道半ばの僕がこんなことを言うのはおこがましいが、本書が「ふつうの会社」で働くリーダーの参考になったり、少しでも元気や勇気の出るものになれば、それが僕なりの社会への貢献だ。

『リーダーの現場力』 はじめに より 迫俊介:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 今、日本の企業に必要な「つくり直す」リーダーシップとは、どんなものなのでしょうか。
 
 本書は、組織を生まれ変わらせる、これからの時代の「リーダーの現場力」をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「現場と経営の三角形」をひっくり返す


 経営者経験のない迫さんが、業績が下がり続けていた会社を、短期間で立て直せた。
 その理由は、「現場と経営の三角形をひっくり返したから」です(下の図2を参照)。

図2 現場と経営の三角形 をひっくり返す CHAP1P51
図2.「現場と経営の三角形」をひっくり返す
(『リーダーの現場力』 CHAPTER 1 より抜粋)

 迫さんは、自分が現場から情報を取り入れ、学び、一緒に戦略を考え、現場に任せてサポートするリーダーだったらうまくいったのではないか、と述べています。

 現場には会社が知りうるもっとも新しい情報が集まっていて、現場にいる彼らは、そうした最新の情報を皮膚感覚で取り入れている。現場は「末端」などではなく、組織の「最先端」なのだ。ただ、その皮膚感覚がうまく言語化され、整理されていないだけ。戦略や戦術を語るうえでのビジネス用語に落とし込めていないだけだ。
 僕は、営業本部長時代からできるだけ現場を回るようにしていた。社長になってからもあまりに外出ばかりしているから「社長が本社にいなさすぎる」と役員からクレームが入ったこともあるくらいだ。
 なぜそこまで現場にこだわったのか? 僕の仕事は、現場に散らばっている言語化されていない経営のヒントを集め、組み立て、戦略の形にすることだからだ。経営者である僕と現場は、それぞれの得意分野が違うにすぎない。
 現場に隠れている経営ヒントを無視して「有名なコンサルタントが言っているんだからこれが正しい。つべこべ言わずに実行しろ」と言うのは、ラクな仕事だ。でも、それでは100%失敗していただろう。

 ミスターミニットのようなBtoCの店舗ビジネスでは、分かりやすい「現場」がある。けれども、BtoBビジネスの場合は稼いでくる営業が「現場」だろうし、クリエイティブワークでも制作の「現場」がある。僕の知るかぎり、ほとんどの会社に「現場」と呼べる場は存在する。
 そんな自分の会社の「現場」を想像してみて、もし、いま彼らを少しでも下に見ていたり、現場を「使う」といった発想を持っていたり、最悪「駒」のように考えているリーダーがいるのであれば、一度立ち止まってみてほしい。そして、彼らのいない会社があり得るのか、考えてみてほしい。
 僕が初めての「経営者」というポジションで会社をいい方向に導けたのは、現場が導いてくれたからにほかならない。お客様の一言に隠された新規ビジネスの種、「それはいい」「それは違う」といった率直な意見、言語化できない経験と勘・・・・・。本社からでは見えないヒントを彼らが教えてくれなければ、僕はリーダーとしてビジョンや戦略を打ち出すことなど決してできなかった。現場は、経営の最高の師匠なのだった。

『リーダーの現場力』 CHAPTER 1 より 迫俊介:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 経営陣が「脳」であるなら、現場は「手」であり「足」です。
 それと同時に、「目」であり「耳」でもあります。

 脳と、それぞれの器官の情報のやり取りがうまくいかないと、身体全体の調子がおかしくなります。

 会社も同じで、経営陣と現場の間の意思の疎通がなくなるところから、衰退の道をたどります。

 迫さんは、滞っていた血流を良くすることで、身体全体を活性化させることに成功しました。

部下の短所は、直さず「補う」


 リーダーは、フォロワーがあってのリーダーです。
 ついてくる人がいなければ、たとえ肩書がそうでも、リーダーとはいえません。

 迫さんは、メンバーの実力を引き出せずにいる人、部下から信頼されない人は「自分の考えは正しい」という意識を持ちがちで、欠点ばかり目がいく人ではないかと指摘します。

 僕自身を振り返っても、学生時代から「お前のここがダメなんだ」とただ否定してくる人には反発しまくっていたけれど、自分の存在や長所を認めてくれる人の忠告なら素直に耳を傾けられた。それと同じで、相手が「自分は尊重されている」と感じる前に現状否定のアクションを取っても、誰もついてきてくれないだろう。
 そもそも、「こうあるべきなのにそうなっていない」の出どころは、「短所」の発想だ。
 もちろん、人や組織が持つ短所を目にすれば、当然直したくなるもの。しかし、短所を直しても「ふつう」に近づくだけで、じつはあまりインパクトはない。注目すべきは長所であり、個性だ。
 不滅のバスケットボールマンガ『スラムダンク』で言えば、赤髪のヤンキー主人公・桜木花道が品行方正なプレイを目指しても、おそらくいつまで経ってもスタメンには入れなかっただろう。覚えるべきプレイ(基本のレイアップシュートなど)は覚えつつ、さらに個性と長所を活かしたプレイ(リバウンド奪取)を極めたからこそチームに貢献できたのだ。
 花道のような個人と同じように、組織も短所に注目するより長所を伸ばしたほうがインパクトは大きい。たとえば、高校を卒業してそのままミスターミニットに入社して現場で働く社員たちの多くは、エクセルやパワーポイントが使えない。いわゆるロジカルシンキングや戦略的思考も身についていない。これは、昇格させてリーダーになったときの「短所」になりえるだろう。
 だからといって、「昇格させるためにはエクセルやパワーポイント、ロジカルシンキングや戦略的思考を身につけさせる必要がある。たくさんの研修を用意しなければ・・・・・」と考える必要はない。リーダー候補のエリアマネジャーには僕が逆立ちしても持ち得ない現場感覚があるし、新サービスを任せるような社員には並々ならぬサービス愛がある。すばらしい個性と長所があるわけだ。
 そんな彼らには、最低限のスキルを身につけてもらったら、あとはほかの得意な社員にやってもらったり、思い切って外部に委託したりすればいい。(中略)短所は、直すのではなくチームで補えばいいのだ。
 短所に注目するリーダーは、自分も周りも疲れていく。会社としても成長できないだろう。
 リーダーがすべきはあら探しではない。足りないものに目をやるのではなく、その人や組織のいちばん尖(とが)った部分をもっと尖らせることこそが、リーダーの仕事だ。

『リーダーの現場力』 CHAPTER 2 より 迫俊介:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 短所ではなく、長所に注目する。

 言葉で言うのは、簡単です。
 しかし、実行するのは、なかなか難しいです。

 部下の一人ひとりに、敬意を持って接する。
「上から目線」にならない。

 つねに謙虚な姿勢が、リーダーには、とくに求められますね。

抜擢後の活躍を支える「CARE」とは?


 目的を失っていた社員の、やる気と向上心を引き出す。
 迫さんは、そのために自ら率先し、「今まであり得なかった」抜擢人事を推奨する空気をつくっていきました。

 抜擢人事のいいところは、ついこの前まで同じ舞台で同じ役柄をもらっていた仲間がスターになって活躍することで、「自分もあの舞台に立ちたい!」「頑張れば自分もスターになれるかもしれない!」とみんなが期待し、全体が盛り上がるところだ。適切なチャンスは、組織を活性化する。いわば毎日がオーディションのようなものだから、張り切り甲斐(がい)だってある。
 スターを一人でも多く生みだすことが、リーダーの大切な仕事。そう、かつての僕のように、自分がスターになろうとする必要はまったくないのだ。
 ただし、忘れてはいけないことがある。それは、抜擢人事はリスクでもあるということだ。
「主演・演技初挑戦の新人俳優」のようなもので、ただ実力以上のポストに抜擢されても、そのままサポートされずに放置されればその多くは失敗してしまう。そうして失敗した人がたくさん生まれると、「ああはなりたくない」「抜擢されたくない」「オレを選ばないでくれ」と、先生と目が合わないようにみんながうつむく教室のような空気になってしまうだろう。
(中略)
 抜擢人事を成功させるうえでは、大切なことが4つある――。
 そう言ってファンドの経営のプロの方々が僕に教えてくださった概念が、その名も「CARE」だった。CAREはそれぞれ次の頭文字となっているが、目的もまさに言葉どおり、「社員のケア」となる。

 C=Capability(ケイパビリティ、能力)
 A=Authority(オーソリティ、権限)
 R=Responsibility(レスポンシビリティ、責任)
 E=Evaluation(エバリュエーション、評価)


「当人の能力に合わせてフォローアップし(Capability)、適切かつ思い切った権限委譲を行い(Authority)、その責任を明確にしたうえで(Responsibility)、納得いく評価とフィードバックが高頻度でなされる(Evaluation)こと」
 この4つが揃ったときに初めて「ケアができている」、すなわち抜擢人事が適切に機能する状態となる。この教えは、僕にとって大きな学びだった。ゴロも良くわかりやすいので、社内でもよく使わせていただいている。

『リーダーの現場力』 CHAPTER 3 より 迫俊介:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 抜擢人事は、公平な評価のもと、行われなければなりません。

「何であいつが?」

 周囲が、そういう不満を持ってしまったら、逆効果になります。

 また、 抜擢人事は、抜擢した後のアフターフォローが肝心です。
 抜擢された方も、期待の大きさが重圧になると、つぶされてしまいます。

「CARE」の法則、いろいろな場面で応用できそうですね。

ビジョンを浸透させる3つの方法


 迫さんは、ミスターミニットの経営ビジョンに「サービスのコンビニ」という言葉を掲げます。

 とはいっても、経営者がビジョンを掲げるだけでは、社員は動いてくれません。

 迫さんは、ビジョンを社員に浸透させるための方法を以下のように述べています。

「自分たちは最終的に何を目指しているのか?」というビジョンをみんなにしっかりと伝えることで、それぞれのリーダーが最適解を自分の頭で判断できるようになる。そんな組織にするために、僕は、次の3つの方法を採った。

①社員合宿の場でディスカッションする
 そもそもビジョンは、トップが一方的につくるものではない。ミスターミニットも、僕が考えていることをその都度伝え、ディスカッションしたりヒアリングしたりして、みんなで少しずつ考えを出し合ってビジョンを決めていった。決定のプロセスを共有し「自分たちで決めた」という感覚を持ってもらうことは、ビジョンを末永く意識してもらう意味でもとても大切だ。今回ビジョンを決めるにあたっては、各エリアを代表する社員たちを集めた社員合宿でもビジョンのすり合わせを行った。
(中略)
②念仏のように唱え続ける
 ビジョンが固まったとき、僕は「サービスのコンビニ」を社内のバズワード(流行り言葉)にしようと考えた。みんながつい「それって『サービスのコンビニ』っぽい!」と会話に出してしまうくらい、身近に感じてほしかったのだ。
 そのため、飲み会でも現場でもメディアでも「サービスのコンビニ」という言葉を意識して言いまくった。このビジョンによってどんな未来が開けるのか、どんな会社になるのか、何ができるようになるのかを伝えた。さながら念仏と説法のように、何度も繰り返した。
(中略)
③目指す姿の「リアルな絵」を見せる
 ビジョンを理解、浸透させるためにもっとも効果を挙げている施策が、ヨーロッパ研修だ。そのなかでも、ミスターミニットのビジョンを見つけるきっかけともなった、前述のイギリスで1200店舗を展開するサービスチェーンへの視察はとても有意義だった。僕たちは世界一の「サービスのコンビニ」を目指しているが、まだ第一歩を踏み出したばかり。まずは世界の「上」を知らなくてはならない。

 もともと僕が社長に就任した年から、その年のMVPを店舗から4名、エリアマネジャーの最優秀社員1名を連れてのヨーロッパ研修――イギリスとベルギーへの「ミスターミニットの聖地巡礼」を始めていた。引率者は、僕だ(2015年と2016年は一度に7名連れていき、なかなかハードな旅となった)。
 ヨーロッパに連れていく目的は、ふたつ。
 靴、そして靴修理の「聖地」で職人魂を刺激してもらうこと。
 そしてミスターミニットが目指すビジョンに近い姿を体現している会社の店舗を回り、現地社員ともコミュニケーションを取らせてもらうことで、実体験を通じて具体的なビジョンを共有してもらうことだ。

『リーダーの現場力』 CHAPTER 5 より 迫俊介:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 会社のビジョンに、魂が入るか、入らないか。
 それは、経営者がどれだけ真剣に取り組んでいるか、で決まります。

 人は、言葉ではなく、感情で動く生き物です。

 ただ伝えるだけでなく、自ら率先して、行動に移す。
 リーダーの本気の言動を肌で感じてこそ、組織は生まれ変わります。

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 迫さんは、「いい会社」とは、シンプルに「働いている人が『楽しい』と感じる会社」だとおっしゃっています。

 会社に明確なビジョンがあり、しっかりとした戦略に基づいて経営されている。
 社員がのびのびと、目標を定めて、向上心を持って働いている。

 そんな働きがいのある会社が、今の日本には、たくさん必要です。

 どんな落ち目の会社でも、やり方しだいで「いい会社」へと生まれ変わることができる。
 迫さんは、ミスターミニットの経営を通して、それを示してくれました。

 暗く、どんよりとした今の世の中に、希望の光を照らし出す。
 本書は、まさにそんな一冊です。

 経営者だけでなく、すべてのビジネスパーソンに読んで頂きたいです。

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