【書評】『決定力!』(チップ・ハース、ダン・ハース)

LINEで送る
Pocket

 お薦めの本の紹介です。
 チップ・ハースさんとダン・ハースさんの『決定力! :正解を導く4つのプロセス』です。

 チップ・ハースさんは、スタンフォード大学ビジネススクールの教授です。
 ご専門は組織行動論です。

 ダン・ハースさんは、ビジネスコンサルタントです。
 デューク大学社会企業アドバンスアドバンスマネジメント・センターのシニア・フェローです。

人生の決断を助ける「WRAPプロセス」とは?


 人生には、決断を求められることが数多くあります。
 ところが、至るところに潜むさまざまな“罠”が、的確な決断を阻害します。

 著者は、人間が決断を下すまでの過程を4つに分けています。
 そして、それぞれの過程についての問題点を以下のようにまとめています。

1. 選択に直面する。でも「視野の狭窄」によって選択肢を見逃してしまう。よって、

 →(W)選択肢を広げる(Widen Your Options)。どうすれば選択肢の幅を広げられるのか? 本書では、新しい選択肢を見つけ出すプロたちの習慣を調べていく。たとえば、大学選びのアドバイザー、不況を乗り越えて会社を繁栄させた経営者たち、ブラックベリーやペンティアムといった世界の一流ブランドを名づけてきた広告会社など。

2.選択肢を分析する。でも「確証バイアス」によって都合の良い情報ばかり集めてしまう。よって、

 →(R)仮説の現実性を確かめる(Reality−Test Your Assunptions)。頭を冷やして、信頼できる情報を集めるには? 意地の悪い質問をする方法、ケンカ腰の会議を30秒で生産性のある会議に変える方法、疑わしい専門家の助言を見分ける方法について学んでいく。

3.選択する。でも「一時的な感情」によって間違った選択をしがちになる。よって、

 →(A)決断の前に距離を置く(Attain Distance Before Deciding)。一時的な感情や葛藤に打ち勝ち、最善の選択をするには? 言葉巧みな自動車セールスマンに負けない方法、50ドル儲かったときのうれしさよりも50ドル失ったときの悲しさの方が大きい理由、単純な質問で苦渋の決断をとてもラクにする方法について学んでいく。

4.選択の結果を受け入れる。でも未来の出来事について「自信過剰」に陥りやすい。よって、

 →(P)誤りに備える(Prepare To Be Wrong)。不確実な未来の計画を立て、成功のチャンスを最大限に高めるには? 頭の中で前もって会議のシミュレーションを行なって昇給を勝ち取った女性、パートナーの突拍子もないビジネス・アイデアに待ったをかける方法、新入社員に仕事のつまらなさを忠告するのが効果的なワケを紹介していく。

 『決定力!』 第1章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏夫:訳 早川書房:刊

 より賢明な選択をするための4つのステップは、それぞれの4つの動詞の頭文字をつなげ、「WRAP」プロセスと呼びます。

 本書は、「WRAP」プロセスを用いて選択の精度を高め、目的地に辿り着く確率を高める方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

スポンサーリンク
[ad#kiji-naka-1]

「OR」ではなく、「AND」という発想で!


 WRAPプロセスの1つ目は、「選択肢を広げる」こと。
 選択の際の可能性を高めるための手段として「マルチトラッキング」があります。

 マルチトラッキングとは、いくつかの選択肢を並行して考えることです。
 つまり、『「OR」ではなく、「AND」で考える』という発想を持つこと。

 悪い結果を避けようとする「予防焦点」
 良い結果を追求しようとする「促進焦点」

 この対照的な二つのマインドセットを組み合わせると、最善の意思決定につながります。

 著者は、これを4700社が三回の世界的不況をどう乗り切ったのかを調べた研究結果をもとに、以下のように説明しています。

 研究者の報告によれば、予防焦点の企業は、コスト・カットを重視するあまりに”強迫観念”に陥る傾向があった。こうなると、「悲観主義が社内に広がり、集権化、厳しい管理、継続的なコスト削減の要求によって、一種の無力感が生まれる。個人にとっても組織にとっても、生き残るだけが目的となる」と彼らは記している。
 一方、促進焦点の企業は、おおむね能天気で反応が遅かった。研究者によれば、そういう企業は「楽観主義の社風を築き、ずっと危機の重大性を否定しつづける」のだという。
 いちばん成功したのは、促進焦点と予防焦点のいいとこ取りをし、マルチトラッキングのような行動を取った企業だった。たとえば、ステイプルズ社は2000年の不況時に、業績不振の店舗を閉鎖し、営業費を抑えた一方で、労働者を10パーセント多く雇い、高所得者向けの新しいサービスを開始した。一方、ステイプルズの最大のライバル、オフィス・デポは、予防焦点のアプローチを取った。従業員を6パーセント削減したが、その穴埋めとして新事業に投資したりはしなかった。このアプローチの違いは、両社の利益にくっきりと表われた。不況が去って3年後、ステイプルズはオフィス・デポより約30パーセントも多く利益を上げていた。
 ステイプルズのような優秀なマルチトラッキング企業は、従業員を解雇するのではなく経営を効率化してコストを削減し、R&D(研究開発)や新しいビジネス・チャンスに投資しつづける。慎重であると同時に意欲的なのだ。この両刀戦略が成功の確率を押し上げた。研究者たちは、成功を評価するために、不況後に堅調に回復し、売上成長と利益成長の両方で競合企業を10パーセント以上も上回った企業を探した。その結果、マルチトラッキング企業は、堅調に回復する確率が促進焦点のみの企業よりも42パーセント高く、予防焦点のみの企業よりも76パーセント高かった。「ORではなくAND」で考えるのは、企業戦略としても有効なのだ。

 『決定力!』 第3章 より チップ・ハース&ダン・ハース:著 千葉敏夫:訳 早川書房:刊

 最善の選択には、あらゆる可能性を排除しないことが重要となります。

 自分では選択しているつもりでも、現実的な選択肢は一つしかなかった。
 そういうことも往々にしてあり得ます。

『「OR」ではなく、「AND」で考える』

 先入観を持たずに、いろいろな角度から考えたいですね。

「核心を突く質問」と「オープンエンドな質問」


 WRAPプロセスの2つ目は「仮説の現実性を確かめる」こと。
 著者は、相手から問題点などを聞き出したい場合、質問する側と答える側の力関係(情報量の差の有無など)によって、質問の方法を変えるべきだ、と指摘しています。

 核心を突く質問をするという方法は、あなたを煙に巻くことで得をする人々から、情報を引き出したいときに役立つ。たとえば、セールスマン、採用担当者、思惑を持つ従業員などだ。一方、医者と患者のように、明らかな力関係がある状況では、かえって裏目に出ることもある。その理由はこうだ。iPodの交渉で核心を突く質問が効果的だったのは、聞き手の自信や経験が伝わるからだ。ところが、医者と患者における医者のように、聞き手が、“専門家”とわかりきっている場合、積極的な質問をしても、医者の優位を強めるだけだ。患者は貝のように口を閉ざすか、医者の指示があまり効果的でなくても、それを忠実に守ろうとするだろう。
 したがって、医者が患者から信頼できる情報を集めるには、オープンエンドな(自由回答形式の)質問を丹念にしなければならない。iPodの「商品について質問してもらえますか?」という漠然とした質問の方が効果的だ。この種の質問はiPodの事例では効果がなかったが、患者には効果てきめんなのだ。
(中略)
 核心を突く質問とオープンエンドな質問はどう使い分ければいいのか? 鉄則はこうだ。「この状況で正確な情報を得られないとしたら、もっとも考えられる原因は何か?」と自問するのだ。ふつうは、その答えは明らかだろう。たとえば、中古車を買おうとしている場合、失敗する原因としていちばん考えられるのは、クルマの欠陥を見逃すことだ。副社長が工場労働者からフィードバックを求めているなら、失敗する原因としていちばん考えられるのは、労働者に本音を言ってもらえないことだ。それさえわかれば、状況に応じて質問を変えられる。中古車の交渉ではより積極的な質問をし、工場労働者にはよりオープンエンドな質問をするのがいいだろう。

 『決定力!』 第5章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏夫:訳 早川書房:刊

 相手から正確な情報を聞き出す。
 そのためには、聞き出す内容と相手により、質問の方法を変える必要があります。

「この状況で正確な情報を得られないとしたら、もっとも考えられる原因は何か?」

 質問するときは、つねに意識しておきたいですね。

「やめること」リストをつくる


 WRAPプロセスの3つ目は、「選択する」こと。
 選択するための最も有効な手段は、「核となる優先事項を定めて明文化する」ことです。

 多くの人は、必要に迫られるまで優先事項を定めないか、優先事項を定めてもそれを守ることが難しいのが現実です。

 本当にやるべきことを見つけて実行する方法のひとつが、『「やめること」リストの作成』です。

 カレンダーは、いわば私たちの優先事項の究極の採点表だ。システム・アナリストがあなたの過去半年のカレンダー、メール記録、閲覧履歴を押収したら、あなたの核となる優先事項は何であると結論づけるだろう?(筆者の場合、コーヒーを飲むことと、モバイルゲームの『アングリーバード』をプレイすることと、1時間おきに迷惑メールをこまめに削除することかもしれない)。
 核となる優先事項にかける時間を増やすということは(それが私たちの目標だ!)、必然的にほかの物事にかける時間が減るということだ。そこで、『ビジョナリー・カンパニー②』の著者のジム・コリンズは、「やめること」リストの作成を勧めている。彼がそう考えたきっかけは、恩師からの問いかけだった。今、人生を変える二本の電話がかかってきたらどうする? 一本目の電話は、無条件で2000万ドルの遺産を受け取ったという知らせ。二本目の電話は、とても珍しい難病により、あと10年しか生きられないという知らせだ。
「君なら生き方をどう変える? 何をやめるだろう?」と恩師はコリンズに訊ねた。それ以来、コリンズは毎年「やめること」リストを作っているという。
 マルチタスクや効率化でいくらでも時間が作れるという考えは、聞こえはいいが短絡的でもある。現実的に考えて、スケジュールにそんな余裕はない。ある物事に1時間を費やすということは、別の物事にかける時間が1時間減るということだ。子どもと過ごす時間、大学の授業を受ける時間、運動する時間を増やすと決めるなら、その分やめることも決めなければならない。具体的に言おう。ここ一週間のスケジュールを振り返って、こう自問してみてほしい。
「具体的に何をあきらめれば、あと3時間、4時間、5時間を捻出できただろう?」

 『決定力!』 第9章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏夫:訳 早川書房:刊

 やりたいことをやるには、やらなくていいことをやめなければいけない。
 当たり前のことですが、ついおろそかになってしまいます。
 そうならないためにも、「やめたいこと」リストを是非活用したですね。

意思決定に「アラーム」を組み込む


 WRAPプロセスの4つ目は、「選択の結果を受け入れる」こと。
 さまざまな情報を集めて最善の決定を下しても、うまくいかない場合があります。

 誤った決断を下すリスクに備えるために、『意思決定に「アラーム」を組み込む』ことが必要です。
 アラームの目的は、私たちを無意識の日課から叩き起こし、選択の存在に気づかせることです。

 境界を決めることは必要だ。私たちは自分の下した選択にどんどんのめりこんでいく傾向があるからだ。たとえば、アーケード・ゲームをしている子どもを考えてみよう。ゾンビをやっつけるミッションの真っ最中だ。ところが、ミスをして主人公が死んでしまった。プレイを続けるにはあと何クレジットか必要だ。ここまで来てあきらめるのはもったいない。もう何ドルも費やしているし、ここまで来るの20分もかかった。ここでやめればみんなパーになる。あと何クレジットかやっても損はないだろう。
 これは意識的な決断であって、“自動操縦”の選択ではない。でも、ここには罠がある。このサイクルをどこかで断ち切らないかぎり、別のゲームを一回もやらないまま、軍資金を使い果たすはめになるからだ(そして、それは幸せのレシピとはいえない)。
 代わりに、三枚の磁気カードを用意してゲーム・センターに行ったとしよう(古いゲーム・センターなら、コインの山でもいい)。そして、「この一枚はゾンビ・ゲームに当てる」と心の中で決める。これこそアラームだ。つまり、のめりこみを断ち切るわけだ。一枚目の磁気カードを使いきったら、「やめないと」というプレッシャーを感じるだろう。そして、二枚目のカードを使うと決めたら、少し“痛み”を感じるはずだ。心の中の予算を破っているいると感じるからだ。
 このような予算づけのメカニズムは、もちろんもっと重大な意思決定にも存在する。恋愛関係や事業投資を考えてみてほしい(「せっかくここまで投資してきたのだから、もう少し投資してみよう」)。交際相手がなかなか真剣に交際してくれないなら、アラームを三ヶ月後にセットして、進展があるかどうか確かめてみてはどうだろう? プロジェクトが行き詰まっているなら、予算の上限を5万ドルと決めて、プロジェクトに活を入れてみてはどうだろう?
 アラームをうまく活用すれば、お金(と時間)をどぶに捨てずにすむのだ。

 『決定力!』 第11章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏夫:訳 早川書房:刊

 誰でも、「自分の決断したことが誤っていた」と認めることは難しいものです。
 だからこそ、再び選択する必要があることを知らせてくれる「アラーム」を必ず組み込む必要があるということですね。

 感情に流されず、選択の誤りによるダメージを最小限に食い止める。
 そのためにも、忘れずにセットしておきたいです。

スポンサーリンク
[ad#kiji-shita-1]
☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 私たちの生活は「習慣」によって成り立っています。
 そして、そのほとんどが“自動操縦”で無意識に流れてしまっています。

 仕事でも私生活でも、決断を下す場面は、必ず一日のうちに何度かあります。
 一回一回は大したことがなくても、その後の人生への影響は大きなものです。

 人生はある意味、「決断の積み重ね」であるといえます。

 日々の小さな決断の繰り返しが、やがて大きな決断を呼び込みます。
 確かな「選択する力」を身につけ、よりよい人生を目指していきたいですね。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 15

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。