本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『人に強くなる極意』(佐藤優)

 お薦めの本の紹介です。
 佐藤優さんの『人に強くなる極意』です。

 佐藤優(さとう・まさる)さんは、作家です。
 大学卒業後、外務省に入省し、在ロシア日本国大使館に勤務、その後、本省の国際情報局で、主任分析官として対ロシア外交の最前線でご活躍されます。
 2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴(09年に有罪確定)されるというご経験をお持ちです。

世の中の大きな変化に対応できる「人間力」を身につける

 現在大きく変化しつつある世界には「二つの異なったベクトル」が存在します。

 一つ目は、ヒト、モノ、カネが国境を越えて行き来するようになる「グローバリゼーションの本格化」です。
 日本がデフレに苦しめられている根本の原因もこのグローバリゼーションであり、かつてのような高度経済成長の時代が再びやってくることはないとのこと。

 二つ目は、「国家機能の強化」です。
 ロシアや韓国が日本の領土を追加的に奪取する危険はありません。
 しかし、中国が尖閣諸島を武力を用いてでも奪取する危険性は現実に存在するとのこと。

 中国は潜在的脅威ではなく、すでに顕在化した現実的な脅威です。
 しっかりした対応をとるためには、必要かつ十分な防衛費を確保することが重要です。

 佐藤さんは、こういう大きな時代状況の変化について、「私とは関係ないことだ」と思ってはならない、と指摘しています。
 大きな時代の変化は、一人ひとりの日常生活に必ず影響を与えます。

 正社員の大幅削減、増える非正規雇用の労働者、海外勤務者の増加、給料の減額など。
 佐藤さんは、これからの時代は誰もが、このような状況に対応できる人間力を強化することが必要だと強調します。

 本書は、日本が大きな変化に巻き込まれることを想定し、その中で私たちが生き残るためのノウハウを具体的にまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「よく怒鳴る上司」の本当の狙い

 どの会社や組織にも、年中、周りに対して怒鳴り散らしている上司はいるものです。

「触らぬ神に祟(たた)りなし」
 大体の人は、そのような上司のことを避けようとするのではないでしょうか。

 佐藤さんは、上司が怒っている場合、どの怒りなのかをまず冷静に判断しなければならない、と指摘しています。

 神がかり的な怒りなのか、あるいはフリーズさせるための怒りなのか、はたまた戦略的でお芝居的な怒りなのか――
 その分析もしないで、ただ怒っている上司は面倒だとか、嫌だとかと決めつけるのはあまりにも短絡的で幼い。まず怒っている相手をよく見て、どの種類の怒りなのかを判断することが肝要です。
 実は私が外務省にいたころの主席事務官(外務省独自の役職で他の中央省庁では筆頭課長補佐にあたる)に、まさに瞬間湯沸かし器のような人がいました。とにかくよく怒鳴る。外務省に研修生として働きだしたばかりのころですから怖かった。研修生だけじゃなく、部下のほとんどが彼のことを蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っていたのです。
 ところがある時気づいたんです。その上司の怒りにはある一定の法則がある。主席事務官が鬼のように怒鳴る時は、たいていその上の課長が課員に対して何か不満を持っている時なのです。あるいは課員がミスをした時。課長が怒る前にその主席事務官が怒鳴る。その勢いが激しいものだから、課長は「まぁまぁ」となる。
 結局、蛇蝎のごとく嫌われていたその主席事務官のおかげで、課員は課長から直接怒られたり咎(とが)められたりすることはほとんどなかったし、課長の方も課員にきつく当たる必要がなかった。自ら悪役になって、課の防波堤になっていたわけです。
 そのカラクリ、戦略が見えてきたからには、その主席事務官が瞬間湯沸かし器的に怒鳴ろうが僕は少しも怖くなかった。むしろ親近感を覚えました。

 『人に強くなる極意』 第1章 より 佐藤優:著 青春出版社:刊

 目の前の人が怒っている。
 たとえ自分には理解できなくても、その人なりの理由があります。

「怒っている」という表面的な部分だけで判断してはいけません。

 表情の裏に隠された動機までしっかり汲み取る。
 それが人付き合いがうまくなる秘訣ですね。

人間はよくわからないもの、不可解なものに対してびびる 

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざがあります。
 よくわからない相手に対して、私たちはさまざまな想像を働かせ、怖がってしまうものです。

 びびらないためには相手や対象を知り、相手の本質や意図を見極めることが重要です。
 外交の世界では、「相手の内在的論理を知る」という表現をします。

 相手の価値観はどのようなもので、どんな意図と論理で行動しているのか。
 それがわかれば、相手が何をいおうが、どんな威圧をしてこようが、冷静に対処できるというわけです。

 ですから、もし皆さんの周りにびびってしまう相手がいたら、そんな時ほど相手をよく見ることです。怖がって目をそらしたり無視することが一番いけない。そうすると相手が見えなくなり、見えなくなるからこそますます恐怖感が大きくなる。
 実はたんなる枯れ尾花なのに、幽霊だとかモンスターにまで妄想が広がっていくこともあるのです。
 拘置所で体験した検察の取り調べなんて、まさに相手をびびらせるノウハウのオンパレード。彼らはまさにそういう意味でのプロですから、当然といえば当然です。
 特に特捜の常識として「官僚、商社マン、銀行員、大企業社員といったエリートは徹底的に怒鳴りつけ、プライドを傷つけると供述をとりやすい」というのがあるそうです。
 エリートほど落とすのは簡単だと。「お前は社会のクズだ!」「犯罪者だ!」となじられると、彼らはこれまでそんな体験はないですから、一気にそれまでの自信を失って検事のいいなりになるそうです。特捜ではこれを「相手を自動販売機にする」と表現します。一度プライドをズタズタにされ存在の危機に陥ったエリートは、以降どんな虚構でも検察の都合のいい供述をするようになる。

 『人に強くなる極意』 第2章 より 佐藤優:著 青春出版社:刊

 検察の取り調べほど徹底することはないにしろ、会社などでも「周りはみんな敵」の完全アウェイの立場に立たされる状況は誰にでも起こり得ることです。
 そのような時に、ビビって言いなりになってしまうと、相手の思うつぼ。

 佐藤さんのように、自分に非がないときには、絶対に自分から折れない。
 とことんまで闘い抜くことが自分を守ることになります。

 どんなときも冷静に、相手の出方を探って、裏にある隠された意図を見極める。
 それが重要となりますね。

シンプルさを追求すると、仕事も人間関係も楽になる

「飾らない関係」というのは、必ずしも親しい関係とか親密な関係とイコールではありません。
 親しくなくても、お互いが相手を認めて尊重し合えれば、それは飾らない関係であるといえます。

 無駄なコミュニケーションがなく、深いところでお互いを認め合い確認し合う。とてもシンプルですが深い。そういう関係ってビジネスにもあるんじゃないでしょうか。
 仕事でお互いが認め合う関係になれば、余計な約束事やルールをつくらなくても上手く仕事が形になる。いまの私の場合でいうと、信頼している編集者や担当者との関係がそう。彼らとの仕事には心地よいリズム感が生まれますが、それは必要最小限のやりとりで仕事ができるから。つまりすべてがシンプルなんです。
 こういう関係をつくるのは、実はそんなに難しいことではありません。とにかく仕事と仕事をする相手に対して真摯(しんし)に向き合って、嘘や偽りを排除していけばいい。自分を飾らず等身大で仕事をしていれば、同じような仕事の形で返してくれる人は自然に増えるはずです。僕の感覚では、ビジネス上のそのような飾らない関係は、通常の業務なら40歳前後のベテランになれば社内外に20人〜30人くらいはできると思います。
 多くを語らずとも、お互いのリズムで仕事がこなせる。そんな関係が増えれば自ずと仕事もこなせるようになるし、黙っていても信頼されて一目置かれるようになるはずです。
 仕事ができない人や実力のない人に限って、物事を複雑に考える。自分を大きく見せようと飾り立てたり嘘をつく。するとますます状況が複雑になっていく。そういう人は結局信頼を失い、仕事も人も失っていきます。
 約束事やルールを少なくすること、シンプルに仕事をすること。ビジネスにおいてはそれが自分を飾らず、嘘をつかず、心地よいリズムで仕事をするための必要条件です。

 『人に強くなる極意』 第3章 より 佐藤優:著 青春出版社:刊

 飾らない関係は、とにかく信頼関係をつくることが大事です。

 嘘偽りなく、素のままの自分で勝負すること。
「シンプル・イズ・ベスト」ですね。

自分の中の「侮り」に気づくには?

 佐藤さんは、「侮(あなど)り」って人生の罠のようなものだと述べています。

 侮りは、得意絶頂の時、ツイている時、そっと心の中に忍び寄るものです。

 怖いのは、自分自身はなかなか気付けないこと。
 何かトラブルやつまずきが起きて、ようやく「自分はあの時侮っていたな」と気がつきます。

 事前に自分の中にある侮りに気がつく方法として「内省ノート」があります。
 人から忠告や批判を受けた時、その瞬間は感情的になって受け入ることが難しいです。

 しかし、家に帰って一人になった時、ノートに相手の言葉を書き出してみると、客観的にとらえることができます。

 なぜ相手がそのような言動をとったのか、自分なりに分析して書き出してみましょう。すると自分に対しての嫉妬からなのか、それとも誤解に基づいた発言なのか。そのいずれでもないとしたら、これはしっかり受け止める必要があります。
 ある程度の年になると、人から注意されたり忠告されるということが少なくなります。あえてそれをしてくれる友人の場合、嫉妬や誤解からというよりも、本当に自分に好意を持っていて、何とかしたいと考えるからこその言葉が多いはずです。
 そのせっかくの好意に対して、たんに表面的に批判さたとか忠告されたとかいう感情的なレベルでの反応に留まっては、相手にも悪いし自分にとっても損ですよね。
「そうか、さっきは腹が立ったけど、もしかしたらあいつのいうことは当たっているかもしれないぞ」と少し考えてみる。「たしかに俺の中に慢心や驕(おご)りがあるとしたら・・・・・」などと冷静に自分を分析できれば上等です。
 そして自分に侮りがあるとしたら、たとえばこういう部分かもしれないということを箇条書きにしてみる。ここまでできれば、もはや「侮る」ことはなくなるはずですし、これを習慣化することで、心の中の慢心に素早く気づけるかもしれません。

 『人に強くなる極意』 第4章 より 佐藤優:著 青春出版社:刊

 自分にとって、聞きたくないような耳の痛い話をしてくれる人。
 彼らは、本当に自分のことを思ってくれる人です。
 そういう人は、大切にしたいですね。

「後悔先に立たず」ということわざもあります。
 忠言やアドバイスにしっかり耳を傾ける謙虚さは、つねに持ちあわせるようにしたいものです。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 国同士が腹を探りあいながらも、表向き友好関係を結んでいる外交の舞台。

 佐藤さんは、ひとつの失策が国益を損なう、そんな緊張感のある立場を長年経験されてきました。
 また、500日以上にわたり、拘置所で特捜の取り調べを受け続ける厳しい体験もされています。

 本書には、そんな佐藤さんだからこそ書ける、逆境に立たされた時に本当に役に立つ実践的な考え方や心構えが詰め込まれています。

 結局、「自分を守ることができるのは自分」です。

 苦しい時に、最後の最後で踏ん張る。
 そのために、今からできることはしっかり備えておきたいですね。

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One thought on “【書評】『人に強くなる極意』(佐藤優)

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