【書評】『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』(ポール・R・ウィルソン他)

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 お薦めの本の紹介です。
 ポール・R・ドーアティさんとH・ジェームズ・ウィルソンさんの『HUMAN+MACHINE 人間+マシン: AI時代の8つの融合スキル』です。

 ポール・R・ドーアティ(Paul R.Daugherty)さんは、アクセンチュアの最高技術責任者(CTO)兼最高イノベーション責任者(CIO)です。
 AI関連の研究の第一人者で、オンラインメディア「Computerworld」が選ぶ、「2017年テクノロジー・リーダー100人」の1人にも選出されています。

 H・ジェームズ・ウィルソン(H.James Wilson)さんは、アクセンチュア・リサーチのマネジング・ディレクターです。

「ミッシング・ミドル」がAI時代のキーワード

 AI(人工知能)が持つ「ビジネスを変革する力」は、かつてないほど大きくなっています。

 AIを上手に活用する企業と、そうでない企業。
 両者には、天と地ほどの開きがあり、その差は今後ますます広がっていくと予想されます。

 AI技術の潜在的な可能性を活用する。
 そのためには、業務プロセスをより流動的で適応力のあるものとして捉える必要があります。

 著者は、固定化された組立ラインのような組織から、人間と高度なAIシステムがパートナーになるという、オーガニック(有機的)なチームへと移行しつつあると指摘します。

 人間とマシンの「共存関係」は、著者が「ビジネス変革の第3の波」と呼ぶものへの扉を開きます。

図表Ⅰ 1 ミッシング ミドル 人間+マシン イントロ
図表Ⅰ-1.ミッシング・ミドル
(『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 イントロダクション より抜粋)

 本書で見ていくように、第3の波は新たな世界への扉を開いてくれる。そこでは人間とマシンが協力して、ビジネスにおけるパフォーマンスを桁違いに改善する。私たちはこの世界を、「ミッシング・ミドル(失われた中間領域)」と呼んでいる。「失われた」という言葉を使っているのは、誰もそれについて語ってこなかったからだ。そしてこの重要な隙間を埋めようとしている企業は、ごくわずかしか存在しない(図表Ⅰ-1)。
 ミッシング・ミドルでは、人間とマシンが協力して作業し、お互いが得意とする領域を担当する。たとえば人間は、さまざまなAIアプリケーションの開発、トレーニング、管理を担当する。そうすることで、AIシステムは真のパートナーとして機能することができる。そしてマシンは人々に、無数のソースから大量のデータを取得しリアルタイムで処理・分析するなど、人間の能力を超えたスーパーパワーを与える。マシンが人間の能力を拡張するのだ。
 ミッシング・ミドルでは、人間とマシンは仕事をめぐって争う敵同士ではない。彼らは共生するパートナーであり、より高いレベルのパフォーマンスを達成するために助け合う。さらにミッシング・ミドルでは、企業は業務プロセスを見直し、人間とマシンが共に働くチームを活用することができる。
 ミッシング・ミドルの恩恵を受けられるのは、デジタル企業だけではない。グローバルな鉱業コングロマリットのRio Tinto(リオ・ティント)も、そうした企業のひとつだ。同社はAIを使い、中央管理施設から膨大な数のマシン(自動で動くドリルや掘削機、ブルドーザーなど)を管理している。これにより、人間の作業者が鉱山の危険な環境で働く必要がなくなった。またリオ・ティントのデータ分析チームは、センサーから得られた情報を分析して、マシンたちをより効率的で安全に運用するのに役立つ知見を得られるようになった。

 前述のように、適応力のあるプロセスの時代には、組織運営に関する基本的なルールが毎日のように書き換えられている。あらゆる種類の企業のリーダーとマネージャーが業務プロセスの再検討を始め、従業員とマシンの基本的な関係を再検討するようになっている以上、そうしたルールを理解して、実行しなければならない。それこそ本書が書かれた理由だ。自分たちの組織やチーム、あるいはキャリアについて考えている人々に、AIの新時代において勝者と敗者を分ける知識を提供するのが、本書の目的である。

『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 イントロダクション より ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン:著 東洋経済新報社:刊

 本書は、AI時代を生き抜くキーワード「ミッシング・ミドル」を軸に、効果的なAIの活用方法を具体的にまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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農業の進化におけるAI技術

 AI技術は、すでに多くの産業分野に大きな影響を及ぼしています。

 従来、人の手に頼りがちだった食糧生産においても、重要な役割を果たすようになっています。

 歴史的に見て、農業において新鮮な水と耕地を確保・維持することは困難だった。しかしAIと作物に関するデータを活用する精密農業は、収穫量を大幅に増やし、水や肥料といった資源の無駄遣いを減らし、全体の効率性を高めることを約束してくれる。
 効率性を実現するために、精密農業ではさまざまなIoTセンサーを使ってネットワークをつくり、詳細なデータを集めることが要求される。そうした情報には、衛星やドローンによって集められた衛星写真や航空写真(作物に関する問題を目に見える形になる前に検知する)、耕地に設置された環境センサーから集められたデータ(土壌の化学組成など)、農機具に埋め込まれたセンサーから集められたデータ、天気予報、土壌データベースなどが含まれる。
 こうした各種データストリームを理解するため、アクセンチュアはAIを活用して害虫駆除や肥料使用などに関するより良い意思決定を可能にするサービス「精密農業サービス(Precision Agriculture Service)」を開発した。これは機械学習エンジンでIoTセンサーデータを処理し、2つの形で利用できるフィードバックを提供するというものだ。ひとつはフィードバックを農家に直接提供し、農家自身がそれを参考に問題の対応に当たること。もうひとつは農場のデジタル作業管理システムにフィードバックを連携し、そこでアドバイスを自動生成させることだ。
 このシステムは、最新のセンサーデータとリアルタイム分析が組み込まれたフィードバックループによって、一種の「自己修復型農場」と呼べるものを実現する。農家はアドバイスされた事項を承認する役割を果たすことで、そのループの一部となる。時間とともにシステムの信頼性が高まるにつれ、自動化の難しいほかのタスクに労力を割くことができるようになる。
 またAIは、まったく新しい農業のモデルも可能にしている。たとえば「垂直農法」は、倉庫など都市部の建物の中で、トレイを約9メートル近い高さにまで積み上げてそこで作物を育てるというものである。AeroFarms(エアロファーム)がそうした施設をニュージャージー州ニューアークに設置しているのだが、そこでは温度、湿度、二酸化炭素レベル、その他多くの要素に関するデータが常に収集され、機械学習アルゴリズムがそれをリアルタイムで分析し、可能な限り効率的な形で作物(ケールやルッコラ、水菜など)を栽培している。
 同社によると、このニューアークの施設では、伝統的な農法に比べて水を95%、肥料を50%減らせると期待している。さらに、作物が屋内で育つため、農薬は必要ない。エアロファームでは、マンハッタンから約24キロメートルほどしか離れていないこの施設で、年間約907トンの農作物を生産できると予測している。

『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 第1章 より ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン:著 東洋経済新報社:刊

 発展途上国を中心に、爆発的に増え続ける世界人口。
 食糧不足も、より深刻になると予想され、今後50年間で過去1万年間に生産された量よりも多くの食糧が必要となるそうです。

 AI技術は、そんな人類を滅ぼしかねない大問題を解決する切り札になるかもしれませんね。

AIは、研究者の力を拡張する

 AIの力が、最も発揮される分野のひとつが、「科学」です。

 科学では、毎年、星の数のような論文が発表され、増え続ける一方です。
 論文以外にも、多種多様なデータが生み出され続けています。

 それらを有機的に結び付け、新たに発見に結びつける。
 そんなタスクは、AIの得意分野です。

 人間の研究者は創造的な洞察を行うことに長けている一方で、データの整理や提示といった点では(特にそのデータが人間には扱えないほどの大きさになっている場合)、マシンの方が有利なのは明白だ。
 Quid(クイド)という会社は、AIを使って研究プロセスにおける「探索と発見」の部分を再構築した。クイドのプラットフォームは自然言語処理を使い、膨大なテキストデータ(特許に関する文書からニュース記事までさまざまだ)のビジュアル化を行う。そうすることで、テキストをアイデアのネットワークに変えるのである。タッチスクリーン用に最適化された同社のインターフェースは、隠れていたコンセプトやクラスター、類似性、そしてアイデア間のつながりを明らかにしてくれる。
 ブルームバーグ・ベータの投資家シボン・ジリスは、自身の仕事のさまざまな場面でクイドを活用している。たとえば彼女は、次の技術トレンドを考えたり、新しい投資機会を発見したり、投資している企業を支援したりといった活動を行う。クイドのようなツールがなかったら、ジリスはさまざまなやり方を寄せ集めてこれに対応しなければならなかっただろう。いくつもの検索ワードを使ってグーグル検索したり、限られたニュースソースから記事を読んだりといった具合である。
 しかしクイドを使えば、より多くのニュースソースを分析してトレンドの全体像を把握し、それをビジュアル化することができる。また他の方法ではなかなか気づくことのできない、テクノロジーの間のつながりを把握することができる。さらにジリスの持つ優れた直感が拡張され、ビジュアル化された「アイデアのネットワーク」をズームインしたりアウトしたりすることで、より多くの質問を思いつくことができる。
 つまりクイドが投資家に与えてくれるのは、次世代の観察を可能にするプラットフォーム(そこではより繊細で鋭い質問をより短時間で考えることができる)であり、それは予期せぬ質問への扉を開き、より賢明な仮説を立てることを可能にするのである。

『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 第3章 より ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン:著 東洋経済新報社:刊

 人間か、AIか。
 そういう二者択一に捉えられがちな問題ですが、実際には、両者の長所を活かして協力するのが、あるべき姿です。

「ミッシング・ミドル」を埋めることの重要性がよくわかります。

「ボット」がもたらす奇妙な現象

「アレクサ」は、アマゾンが開発した、パーソナルアシスタントボットです。
 アレクサは、すでにアマゾンの利用者に広く認知され、アマゾン・ブランドの顔となっています。

 このようなAIをベースとしたブランドの擬人化は、私たち消費者に何をもたらすのでしょうか。

 シリやワトソン、コルタナ、そしてアレクサなど、AIプラットフォームを通じてソリューションを提供する企業が増えていることで、奇妙な現象が起きている。それは「ブランドの中抜き」と呼ばれるものだ。
 1994年以来、アマゾンは顧客の「目」を通じて彼らとつながってきた。使いやすいウェブサイトとモバイルアプリによって、顧客は必要なものを(あるいは必要だと気づいていなかったものを)見つけて購入することができたのである。そして2014年、アマゾンは顧客サービスに新たなモードを追加した。AIをベースとした、音声で操作できる無線接続型家庭用スピーカー「エコー」である。
 こうしてアマゾンは、突如として「耳」を持つようになり、アマゾンの顧客は、同社に直接話しかけることが可能になった。ペーパータオルを注文したり、音楽をかけたり、キンドルの電子ブックを読んだりするようアレクサに頼めるようになったのである。
 テクノロジーが進化するにつれ、アレクサはアマゾン以外の企業の代理としても機能するようになった。ドミノ・ピザにピザを頼んだり、キャピタル・ワンの口座の残高を確認したり、デルタ航空のフライト状況を確認したりできるようになったのである。
 これまでドミノ・ピザやキャピタル・ワン、デルタ航空のような企業は、自社の顧客体験の全体に責任を持っていた。しかしアレクサが登場したことで、アマゾンが情報交換の一部や、企業と顧客の基本的なインターフェースを担うようになったのだ。また得られたデータを使って、サービスを改善できるようになった。こうしてブランドの「中抜き」が生まれたのである。
 ブランドの中抜きは、他の場面でも生まれている。たとえばフェイスブックはコンテンツを制作しないが、数十億人のユーザーと数千のメディアマーケットに向けて、コンテンツの仲介者として機能している。ウーバーはほとんど自動車を所有していないが、世界最大のタクシーサービスを展開している。
 携帯電話、スピーカー、サーモスタット、そして運動着までがつながる超ネットワーク社会においては、ブランドはお互いに上手く協力し合う方法を学ばねばならず、さもなければ最も支持されるインターフェースを所有する企業に、コントロールする力を譲らなければならない。良くも悪くも、今や力は「ポータル」が持っているのだ。
 その一方でアマゾンでは、AIが大きな変革をもたらしている。2016年の終わりまでに、このオンライン業界の巨人はエコーの端末を500万台以上販売した。Eコマースはクリックから会話の時代に入ったのである。「ゼロクリックコマース」の時代と呼ぶべきだろうか。

『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 第4章 より ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン:著 東洋経済新報社:刊

 私たちは、店舗でもネット上でも、いろいろ比較しながら買うことが多いですね。
 そのとき、大きな影響力を受けるのが、企業や製品のブランド力です。

 しかし、アレクサなどのAIアシスタントを使うと、それらがすべて無効となってしまいます。

 ブランドの「中抜き」は、あらゆる業界の構造を一変する破壊力を持っています。

人間に必要とされる「新しいタイプの仕事」とは?

 これまでの生産設備は、コンピューターの仕組みに人間が合わせることがほとんどでした。
 しかし、これからはAIシステムの方が、私たちに合わせてくれるようになります。

 AIシステムは、大掛かりなトレーニングが必要です。
 それにともない、人間側にも、これまでなかった新しいタイプの仕事が発生します(下の図表5−1を参照)。

図表5−1 ミッシング ミドルの左側 人間+マシン 第5章
図表5−1.ミッシング・ミドルの左側
(『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 第5章 より抜粋)

 たとえば製造業では、人間と一緒に作業することが可能な、軽量で柔軟性の高い新しいロボットシステムが登場している。このシステムに何らかのタスクを任せるためには、プログラミングとトレーニングが必要になる。その際、従業員は適切なスキルを持っていければならない。
 自動車メーカーでは、高度に自動化された工場が実現されているが、そこで設備に故障が起きると、巨大な金銭的コストが発生してしまう。5万ドルの自動車を1分間に1台製造できる生産ラインで、予期せぬ操業停止が6時間起きたとすると、機会損失額は1800万ドルに達する。
 それこそ業界をリードするロボットメーカーであるファナックが、過去10年間、4万7000人の従業員をトレーニングし、彼らが設備を使いこなせるようにしてきた理由のひとつだ。こうした取り組みが行われているにもかかわらず、製造業関連の仕事では、今後200万人の従業員が不足するだろうと予想されている。
 トレーニングを必要とするAIシステムは、物理的なロボットだけではない。AIソフトも同様で、そこではマシンを人間らしくするためのトレーニングが重要になる。トレーニングには多くの役割と作業が求められる。たとえば簡単な例として、あるトレーナーは自然言語処理アルゴリズムと翻訳アルゴリズムのエラーを減少させる手伝いをしている。もう少し複雑な例だと、人間の行動を真似るようAIアルゴリズムのトレーニングが行われる。
 顧客サービスを行うチャットボットは、人間のコミュニケーションが持つ複雑さと微妙さを理解するよう調整される必要がある。ヤフーでは、人間のトレーナーが同社の言語処理システムをトレーニングして、人間の言葉は文字通りのことを意味するとは限らないと教えようとしている。これまでのところ、ソーシャルメディアやウェブサイト上において、人間が書き込んだ皮肉を少なくとも80%の精度で検知できるレベルに達している。
 AIがさまざまな業界に導入されるようになれば、より多くの企業が自社のロボットやソフトウェアを訓練するのにトレーナーを必要とするようになるだろう。

『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 第5章 より ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン:著 東洋経済新報社:刊

図表5−2 トレーナーの仕事 人間+マシン 第5章
図表5−2.トレーナーの仕事
(『HUMAN+MACHINE 人間+マシン』 第5章 より抜粋)

 AIと人間の棲み分けが進むと、当然、数多くの仕事は淘汰されていきます。
 一方、これまでには想像もできなかった、新しい仕事が発生します。

 私たちは、「第四次産業革命」ともいわれる、大改革の真っただ中を生きています。
 時代に取り残されないよう、適応していきたいですね。

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 AIは人間の能力を超え、人間に取って代わる存在。

 これまで、多くの人はそう考え、恐れてきました。
 しかし、実際には、そうではなく、人間とAIは補完し合うことで、最高のコンビを組めることがわかってきました。

 著者は、この新しい時代は、人間とマシンに対して新しい種類のコラボレーションによる新たな役割を演じ、密接に協力することでミッシング・ミドルを埋めるよう求めているとおっしゃっています。

 私たちがすべきは、AIと競うことではありません。
 AIをツールとして使いこなし、AIにより自らの能力を拡張することです。

「人間+マシン(AI)」が切り開く、新しい時代。
 それはもう始まって、今後ますます深化していくことは間違いありません。

 私たちも、自分たちの価値を高めるため、人間ならではの武器を磨いていきたいですね。

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