【書評】『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか?』(中村由美)
お薦めの本の紹介です。
中村由美さんの『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか?』です。
中村由美(なかむら・ゆみ)さんは、プロの社長秘書です。
日本秘書協会が毎年選出する「ベストセクレタリー」に選ばれたご経験もお持ちです。
秘書の本質は、上司の働きやすい環境づくり
上司のスケジュール管理や接待業務、上司の仕事の事務的なサポート、電話対応など。
具体的な秘書業務は、普通のビジネスパーソンなら誰もが日常的に行なうことが主です。
秘書の本質は、上司が働きやすい環境作りのために動くこと
です。
言われた雑用を淡々とこなすだけでは、十分とはいえません。
「言われる前に動く」
「細かく言われなくても伝わる」
そういった“気遣い”が大事です。
「かゆいところに手が届く」気遣いができる秘書が、上司にとっての良い秘書「=プロ秘書」です。
秘書だけでなく、すべてのビジネスパーソンにも求められるものですね。
本書は、秘書としての経験から得た、誰からも求められる気遣いと仕事術をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「ニコ・キビ・ハキ」をモットーとする
秘書は、応対するお客さまに不快な印象を与えてはいけません。
中村さんは、常に「ニコ・キビ・ハキ」を実践できるのが、プロの秘書だと述べています。
「ニコ・キビ・ハキ」はシンプルな言葉です。仕事のみならず、人間関係やコミュニケーションの基本ともいえるでしょう。しかし、どんなコンディションでもこれを貫くのは、簡単なことではありません。仕事が立て込んでいたり、少しでも気分が乗らなかったりすると、必ずどれかが欠落してしまいます。
たとえば「ニコニコ」。仕事に追われていると笑顔が消え、ふと気がつくと眉間にしわを寄せていることもあるでしょう。しかし、不機嫌そうな顔をした人が1人でもいると、すぐにその緊張感が伝わり、嫌な雰囲気になってしまうのが職場です。自分がその負の連鎖の源になってはいけません。
寝不足などでコンディションが優れないと、「キビキビ」動くことはできません。つい作業が遅くなったり、ダラダラと動いてしまったりすることもあるのではないでしょうか。しかし、たった一度の手抜きが命取りになるのが仕事です。せっかく長年積み重ねてきた信頼を損なわないためにも、常に誠実な働きをする心がけが必要でしょう。
また、仕事への理解が足りなかったり、進め方に不安が残っていたりすると、「ハキハキ」した応対はできないはず。質問に対して言いよどんだり、「少々お待ちください」という言葉が口をついて出たりするのではないでしょうか。
私の場合、せっかちな上司でしたから「少々お待ちください」はほぼ禁句だと考えているところがあります。
「あの件は?」と聞かれれば、すぐに答えて、資料を出す。電話がかかってきたら、すぐに対応して次の行動に移す。
慣れないうちこそ大変でしたが、できないことではありません。「大変だ」と愚痴を言うよりも、「必要なこと」と前向きに態勢を整える努力をしたほうが、自分にとってもプラスになります。『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか?』 chapter1 より 中村由美:著 プレジデント社:刊
この「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ」は、壱番屋の社是です。
何事もスピーディに、テンポよく。
決してお客様をお待たせしない。
これらはサービス業では基本となる接客姿勢ですが、どんな仕事でも通じますね。
「悪口大会」に参加しない
秘書の仕事は、「信用」が第一です。
よく職場の仲間と愚痴を言い合ったり、上司の悪口を言ったりしている人がいますね。
しかし、それを秘書がやることはご法度です。
秘書が上司の悪口を言うと、重要な情報を外部に漏らすことにもなりかねません。
中村さんは、プロの秘書であれば、決して悪口大会には参加しないこと
だと述べています。
悪口を言っている集団は、雰囲気でわかるものです。また、愚痴はすぐに誰かの悪口へと変化するものなので、「◯◯がイヤだ」「ウチの会社の××が気に入らない」など、マイナスな言葉が飛び交う場所にも身を置かないようにしましょう。リフレッシュルームや食堂などでマイナスの空気を察知したら、サッとその場を立ち去ること。タイミングを外して席を立てなくなってしまっても、絶対に同調してはいけません。完全に聞き役に徹して、ひと言も口をきかず、頷(うなず)きもしないことです。「それでは場から浮いてしまう・・・・」と心配になるかもしれませんが、この場合はあえて“浮く”ことがポイントなのです。悪口を言う集団は「共感」を求めているので、そういう態度を貫くことができれば、次からは悪口大会の席に呼ばれなくなります。そんな集団からは嫌われてもいいと割りきってください。
しかし、うっかり長居してしまい、不本意ながらも頷(うなず)いたりすれば、それは悪口を言ったも同じこと。「◯◯さんも『わかる』って言ってたよ」と言われる程度で済めばいいほうで、尾ひれがついてひどい悪態をついたことになっていたとしても、文句は言えません。また、悪口大会には裏切り者が混じっているものです。誰が誰に対して、どんな悪口を言っていたのか、必ず外に漏れる仕組みになっています。
悪口大会がいけないのは、他人を貶(おとし)めて共感するだけの無意味な場だからです。『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか?』 chapter3 より 中村由美:著 プレジデント社:刊
「朱に染まれば赤くなる」ということわざもあります。
悪口ばかりいう集団の中にいると、自分も誰かの悪口を言ってしまいます。
まずは、自分が「悪口大会」の場に加わらないこと。
それが自分自身の信用を守る最高の防御ですね。
「6W3H」で仕事を効率化する
中村さんは、仕事を進める際には、「6W3H」を意識すると効率よく行うことができると述べています。
これは、文章を書くときにいわれる「5W1H」「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」と基本的には同じこと。それに、経費や数量、関係者など、ビジネスパーソンならではの項目が加わります。
なぜ(Why) 仕事の目的、方針、理由など、「なぜ」行うのか把握する
何を(What) 仕事の内容、関係先など、「何を」行うのか把握する
誰が(Who) 担当者、対象者は「誰なのか」を把握する
誰と・誰に(with Whom) 「誰と」「誰に」行うのかを把握する
いつ(When) 仕事の納期や締め切りなど、期限は「いつなのか」を把握する
どこで(Where) 仕事を行う場所は「どこなのか」を把握する
どのように(How) 方法、手順を「どのように」進めるのかを把握する
いくら(How much) 経費、費用は「いくら」かかるのかを把握する
どれだけ(How Many) 数量は「どれだけか」を把握する「6W3H」を毎回書きだして確認する必要はありませんが、これらすべての解を把握できていれば、仕事に漏れがないことがわかります。また、「期日が早いからAの仕事から進めておこう」「上司に提出するものだから、余裕を持ってとりかかろう」「この作業は時間がかかるから・・・・」など、優先順位を決める際にも有効です。「6W3H」をはっきりさせれば、作業の全体像が見えてきます。そのため、あれこれ中途半端に手を付けて、どれも期日に間に合わない・・・・という最悪のケースを免れることができます。
『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか?』 chapter4 より 中村由美:著 プレジデント社:刊
「6W3H」は、仕事を進めるうえでの基本になるものです。
慣れてきたときほど、ミスは起こりやすいもの。
やり慣れた作業でも「6W3H」を頭の中に入れて確認しながら行ないたいものです。
相手と同じペースで話す
コミュニケーションの基本は、「相手に合わせること」です。
中村さんは、プロの秘書は、相手の話し方や話すペース、声のトーンに合わせること
を意識すると述べています。
これは、心理学的には「ペーシング」といわれるもの。同じスピードで話をすることで、相手は「自分が肯定されている」と感じ、こちらをすんなり受け入れてくれるのです。たとえば、相手が早口なら自分も話すスピードを上げ、のんびり話すならスピードを緩める。相手が元気よく話すならこちらも元気よく、落ち着いた話し方をするならこちらも落ち着いた話し方を・・・・と、要は相手の話し方に合わせるのです。初対面のときや、相手が抵抗感を抱きそうな内容の話をするときに使うと効果的でしょう。
心理学的な観点からいえば、行動を真似る「ミラーリング」をプラスすることをおすすめします。たとえば、相手がお茶を飲めば、自分もお茶を飲む。足を組み替えたら、自分も足を組み替える。今度は、相手の仕草や行動を真似るのです。この行為もやはり、共通項をつくることで相手を安心させる効果があります。ペーシングと同時に行うことで、よりいっそう相手の心を開くことができるでしょう。
しかし、逆に相手のペースに合わせないことがポイントとなる場面もあります。それは、プロのクレーマーに対応するときです。クレームを言ってくる相手は大抵の場合ヒートアップしていますから、まくし立てるような早口で、それこそ矢継ぎ早に言葉を投げかけてくることが多いものです。人はテンションの高い相手からの影響を受けやすいので、同じようにヒートアップして、早口で話そうとするかもしれませんが、ここはグッと我慢。ペースに飲まれてはいけないのです。相手の気持ちを鎮めたい場合は、早口は厳禁です。一定の速度を保ち、落ち着いたトーンで話して、相手を落ち着いたペースに戻すのです。
一方、相手が腹を立ててクレームの電話をかけてきた「お客様」であれば、あまりに落ち着き払った態度で話していると、「バカにしているのか!」とさらに激高させてしまう可能性があります。この場合は、すこし高めの声で「左様でございますか」「申し訳ございません!」と必死な思いで謝っていることが伝わるように話してください。決して威圧的にならないよう、下手に出て丁寧に話すことが肝心でしょう。『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか?』 chapter5 より 中村由美:著 プレジデント社:刊
相手に合わせる場合と、合わせない場合を使い分けた方がいいとのこと。
相手のそのときの感情やペースを見きわめて会話を上手にコントロールする。
それが、コミュニケーションの秘訣です。
意識して身につけたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
どんな仕事でも、自分ひとりで行うものではありません。
お客さまも含めた、周りの人の協力があって、はじめて成り立ちます。
中村さんは、仕事は必ず誰かのためになるということ、誰かのためにするもの
だということを忘れてはいけないとおっしゃっています。
気遣いのプロである秘書の流儀を見習い、自分も周りも働きやすい環境をつくっていきたいですね。
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