【書評】『テレビに映る中国の97%は嘘である』(小林史憲)

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 お薦めの本の紹介です。
 小林史憲さんの『テレビに映る中国の97%は嘘である』です。

 小林史憲(こばやし・ふみのり)さんは、テレビ東京のプロデューサーです。
 北京支局特派員として4年半、中国に滞在した経験をお持ちです。

「本音」と「建前」で生きる中国


 小林さんは、テレビ東京・報道局の特派員として中国に赴任していた4年半の間に、中国当局によって身柄を「拘束」された回数は21回にも及びました。

 中国では、違法行為をしなくても簡単に身柄を拘束されます。
 その意図は、中国政府にとって都合の悪い事柄を隠すため、「拘束」して取材対象から遠ざけようということにあります。
 滞在中、中国全土を駆け巡って取材にあたった小林さんは、自分の目に映った中国は、テレビに映し出される私たちが知っている中国とはまったく違う「嘘だらけ」の国だったと告白しています。

 中国の社会は、何よりも「メンツ」を重んじます。
 そのなかで人々は、「本音」と「建前」を使い分けながら暮らしています。

 共産党と民衆、中央と地方、都市と農村、社会主義と資本主義。
 さまざまな対立構造のなかで、たくさんの複雑な問題を内包しています。

 にもかかわらず、こうした問題が中国国内から自発的に発信されることはほとんどありません。
 中国政府が、事実を厚いカーテンの奥に秘めたまま、都合のいいことだけを発信しているからです。

 国そのものが、本音と建前を使い分けながら生きている国。
 それが、中国です。

 本書は、テレビのニュースや新聞からは知ることのできない、「本音の中国」をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「反日デモ」の実体


 日本と中国の間に政治的な緊張が高まるたび、繰り返される「反日デモ」。
 中国では、「愛国無罪」つまり、愛国的行為であれば法律に違反しても許される風潮があります。
 反日デモに乗じた破壊や略奪行為は、「愛国無罪」が良い口実になります。

 小林さんは、普段は言論の自由も、集会やデモ行進の自由も奪われている中国国民にとって、そうしたストレスを唯一発散できるチャンスが「愛国無罪」でもあると指摘しています。
 中国当局が参加者を動員してやらせる、いわゆる「官製デモ」のケースは多くありません。

 ほとんどは「デモを容認」ということである。デモが過激化すれば、破壊活動につながり、街は混乱する。社会の安定を第一とすれば、デモをさせないのが一番だ。
 しかし、デモの目的が「反日」という愛国的行為の場合、当局がそれを止めようとすれば、「日本の味方をするのか?」ということになり、怒りの矛先は日本から共産党政権に向かってしまう可能性がある。
 そもそも、貧富の格差など国内に不満が渦巻いている国である。いったん政権批判に火がつけば、天安門事件の二の舞いになりかねない。そのため、当局のコントロールが利く範囲で反日デモをやらせる。いわば「ガス抜き」をするわけだ。
 デモをやらせるルートは事前に決めて、要所要所に治安部隊を配置しているため、違うルートを取られると困る。不測の事態にも備えないればならないし、スローガンが途中から「民主」「人権」など、反政府につながるものに変化したら最悪だ。
 デモはやらせたくないが、やらざるをえない、しかも混乱しない程度に・・・・反日デモは、中国のジレンマを浮かび上がらせる。当局も大変なのである。

 『テレビに映る中国の97%は嘘である』 第一章 より 小林史憲:著 講談社:刊

 中国政府は昔から、不満や批判が政権に向かわないよう、「反日」は愛国的行為である、と国民を教育し続けてきました。
 貧富の格差が広がり、国民の不満がますます高まっている今、「反日教育」の負の側面が目立ってきたということです。

「いつ、国民が自分たちに牙を向けるかわからない」
 そう怯(おび)える当局の「反日デモ」の対応は神経質にならざるを得ません。

「尖閣」問題に対する中国の本音


 2010年9月11日、当時の日本の野田佳彦首相は尖閣(せんかく)諸島の国有化を宣言しました。
 日本の対応に当時の中国の指導者、胡錦濤(こきんとう)国家主席が激怒、日中間は一時、一触即発の事態に陥りました。
 いわゆる「尖閣問題」の勃発です。

 日中両国のメンツがかかっていますから、どちらも引くに引けない状況となります。
 そして、解決の糸口が見つからないまま、今日に至っています。

 小林さんは、あのタイミングで尖閣諸島を国有化することは、果たして、日本にとってメリットがあったのだろうかと当時の日本政府の対応に疑問符をつけています。

 日本政府は尖閣諸島を1885年に、「いずれの国にも属していないことを慎重に確認したうえで、閣議で決定し沖縄県に編入した」としている。この日本政府の公式見解は、国際法の先占の法理手順を満たしており、「この領域に領土問題は存在しない」というものだ。
 この見解は、法的にはまったくもって正しいのだが、若干の後ろめたさもある。宣言した1885年は清朝末期で、中国は混乱していた。さらに、この9年後に起きる日清戦争で日本が勝利したこともあり、こうした歴史のうねりに便乗して日本が占有したと見られがちだ。
 そもそも、あの時代、アジアで国際法を理解していたのは、欧米に追いつこうと近代化を成し遂げたばかりの日本だけだったのではないだろうか。
「どさくさに紛れて、島を奪われた」
 中国人のなかにはそういう思いがあるのは、感情として理解できるのだ。実際、そう主張する中国の宣伝効果もあって、この問題に関しては国際社会でも中国に同情する声がある。地図で尖閣諸島の場所を知れば、なおさらそう思うのだろう。
 日本がいくら国際法を持ち出して理屈で説明しようと、感情的な訴えのほうが理解されやすい。日本の主張の正しさとは別に、そうした現実は知っておくべきだろう。

 『テレビに映る中国の97%は嘘である』 第一章 より 小林史憲:著 講談社:刊

 もし、尖閣諸島を実効支配する日本が、気象観測所や船着場を作るなど実力行使に出たら、間違いなく日本と中国の間で戦争が起こります。
 そうなると、日本と安保条約を結んでいる同盟国、米国も参戦せざるを得ない状況になります。

 もちろん、中国もそのような事態を望んではいないでしょう。
 小林さんは、尖閣問題は中国にとっては、「棚上げ」が一番理想だと述べています。

 寝ていた子供を、わざわざ起こしてしまった日本。
 今後、この問題をどう対処していくのか。注目しましょう。

「チベット問題」の真実


 広大な国土に13億人を超える人口を有する中国は、いくつもの宗教的、民族的対立を抱えています。
 そのひとつが、「チベット問題」です。

 中国政府は、チベットの地に古くから伝わるチベット仏教を、共産党の指導に従わない「邪教」として弾圧し続けています。

 表向きは民族の自治が認められていますが、実態は中国政府による強圧的な支配が続いています。
 チベット仏教の指導者であり、チベット族の精神的支柱でもあるダライ・ラマ十四世は亡命を余儀なくされ、現在もチベットの地を踏むことが許されない状況です。

 小林さんは、青海(せいかい)省にある黄南(こうなん)チベット族自治州・同仁県に足を運び、そこの寺院の僧侶に話を聞き、チベットの現状についてインタビューをしています。

 私は、旅行で来た日本人だと伝え、雑談を始めた。中国人(漢族)だと、相手は警戒するからだ。
 私は過去に3回、チベット自治区を訪れたことがある。チベット自治区の中心都市・ラサや、チベット仏教にとっての聖地とされるカイラス山などを訪れたときの思い出話を僧侶に話した。チベットに対しての、興味や理解があることを伝えたかったからだ。
 実際、僧侶はとても嬉しそうに話に乗ってきた。チベット族にとって、やはり政治(彼らにとっては宗教)の中心地は、北京ではなく、ラサだ。ラサには、歴代のダライ・ラマが暮らしたポタラ宮殿がある。チベット自治区の外に暮らすチベット族にとっても憧れの地であることには代わりはない。カイラス山も、チベット族であれば、一生に一度は必ず訪れて礼拝しなければならないとされている場所である。
 だいぶ打ち解けてきたところで、本題に入った。
「チベット族と漢族の間に、対立はあるのですか?」
「普段はとても仲が良いよ。庶民の間では問題ない。漢族にもチベット仏教を信仰する人もいるしね。問題は共産党のリーダーだ。ああしろ、こうしろ、とうるさいから腹が立つ。彼らは我々、チベット族に自由を与えない。それが問題だ」
 中国ではここ数年、チベット自治区だけでなく、青海省や四川省などのチベット族の居住地域で、チベット族の自殺が相次いでいる。
 共産党による高圧的な支配に抗議し、海外に亡命しているダライ・ラマ十四世の帰還を求めるものだ。抗議の意志を示すため、大衆の目の前で焼身自殺をはかるケースが多い。特に多いのが、僧侶だ。
 そのことについて聞くと、僧侶はこう答えた。
「この同仁でも、今年に入ってすでに3人が自殺したよ。1人は僧侶で、2人は在家。そのときは警察がすごかった。暴動などに発展しないよう、街の周囲を封鎖した。私たちは、街から出ることもできなかったよ。今は落ち着きを取り戻したけどね」
「自殺をしてまで、抗議しなければいけないのですか?」
「やはりダライ・ラマの問題は大きいよ。我々は、みんな仏に触れたいんだ。ダライ・ラマが来てくれたら、駆け寄っていくさ。それで、みんな平和でいられる。国家は関係ない。中国に支配されていても構わないんだ」

 『テレビに映る中国の97%は嘘である』 第四章 より 小林史憲:著 講談社:刊

 宗教は、「心」の問題です。
 にもかかわらず、中国政府はそれを理解せずに、形で縛ることをやめません。

 小林さんは、それがかえってチベット族の反発を生む結果となっていると指摘します。

「毒ギョーザ事件」の真相


 2007年12月、中国製の冷凍ギョーザを食べた10人が中毒症状を訴えるという事件が起こりました。
 調査の結果、問題のギョーザにメタミドホスという農薬が混入されていることが判明。
 いわゆる、「毒ギョーザ事件」です。

 この事件の犯人として逮捕されたのは、呂月庭(ろげつてい)という当時36歳の男性でした。
 呂月庭が、ギョーザ製造工場の元従業員で、給料や待遇などへの不満から、報復と鬱憤(うっぷん)を晴らすためにギョーザに毒を盛った。
 これが、中国当局の見解です。

 小林さんは、事の真偽を確かめ、容疑者の人となりを調べるため、呂の実家にまで足を運びます。

 呂の実家があるのは、河北省の支沙口村という山奥の貧しい小さな集落。
 呂の両親へのインタビューは、その家の中で行われました。

「息子が現在、どこで何をして働いているか知りません。以前は確かに天洋食品の食堂で調理師として働いていました」
 インタビューを始めると、父親は言葉を選びながら話し始めた。
 父親によれば、呂月庭は中学を卒業してから、ずっと出稼ぎに出ていたという。最初は近くの街だったが、20歳頃に石家庄に行った。いくつかの調理場を転々としたあと、天洋食品で働き始めた。天洋食品では長い年月働き、同じ職場の女性と結婚して2児をもうけた。
 私たちが取材に訪れた日の1ヶ月前の春節(旧正月)には、妻と2人の子を連れてこの実家に戻り、3〜4日過ごしたという。だが、毎年、実家に戻るのは春節休みだけで、普段は姿を見せることはなかった。
「中毒か何かで工場が倒産したとは聞きました。でも毒ギョーザ事件というのは聞いたことがなかった・・・・」
 父親は、この日の昼間現れた日本の新聞記者から聞いて、初めて事件について知ったらしい。だが、まだ半信半疑といった様子だ。テレビもないし、父親は字が読めないため、新聞もとっていない。そもそも中国メディアは、この事件をほとんど報じていないが。
「確かに、去年の暮れに警察がこの村に来たそうです。でもこの家には来ませんでした。息子はとても優しくて、親孝行でした。息子がそんな事件を起こすなんて考えられない。出稼ぎ先のことだからよくわからないが・・・・」
 そう話すと、父親は涙を浮かべた。この父親は、何も知らなかった。父親の証言からは、事件の真相は聞き出せそうになかった。
 だが、呂月庭が生まれ育った、その実家の置かれている現状そのものが、多くのことを物語っているように思えた。事件の背景を描くためには、この村をもっと取材するべきだ。翌朝、明るくなったら再び来るしかない。

 『テレビに映る中国の97%は嘘である』 第五章 より 小林史憲:著 講談社:刊

 この事件は、中国政府のいうように、一人の男が単独でやった犯行として片付けてしまうには、あまりに重大で根が深いです。

 驚異的な発展を遂げ、「世界の工場」といわれるようになった中国。
 この「毒ギョーザ」事件の取材から、都市部の産業の発展は、地方からの出稼ぎしてきた労働者の過酷な勤務によって成り立っているという事実が浮かび上がります。
 また、自分たちに都合の悪い真実は、たとえ国民に対しても徹底して隠し通す中国政府の強い姿勢もうかがえます。

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 中国には、「上有政策、下有対策(上に政策あれば、下に対策あり)」という言葉があります。

 指導者が掲げるスローガンや表向きのルールは、現場に行けばひっくり返るという意味です。
 いかにも本音と建前の国、中国らしい発想ですね。

 発する言葉だけ聞いても、表面ヅラだけ見ても何もわからない国、それが中国です。
 彼らを理解するには、言葉や行動の一つひとつの裏にある「本音」を探り出す必要があります。


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