本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『意識力』(宮本慎也)

 お薦めの本の紹介です。
 宮本慎也さんの『意識力』です。

 宮本慎也(みやもと・しんや)さんは元プロ野球選手で、現在は解説者、評論家としてご活躍されています。
 94年に社会人野球を経て、ドラフト2位でヤクルトスワローズに入団され、巧打の2番打者として長くヤクルトの主軸としてご活躍されました。
 ゴールデングラブ賞を10回獲得するなど、「守備の名手」としても有名です。

「意識」を積み重ね、「無意識」を求める

 宮本さんが仕事として野球に取り組むなかでつねに心がけていたこと。
 それは、「意識」を高く持ち続けることです。

 練習でのちょっとした意識の差の積み重ねが、本番で大きな差となって表れます。
 日常生活のなかでの意識が、試合中のプレーに影響することもあります。

 その一方で、宮本さんは、「無意識」を求めている自分がいたと述べています。

 ボールを捕る瞬間、打つ瞬間はほとんど無意識での対応しなければなりません。
 しかし、その無意識の瞬間を決めるのは当然、それまでの意識の積み重ねです。
 つまり、意識を高くもって練習を積み重ねて体に沁み込ませるほど、無意識のうちにも素晴らしいプレーが飛び出すということです。

 宮本さんが、野球選手としての飛び抜けた能力がなかったにもかかわらず、19年間も第一線で活躍することができたのは、並外れて高い「意識力」を保つことを心がけたからです。

 本書は、意識を高く、無意識でプレーすることを目指した宮本さんの野球人生をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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自分を知る

 宮本さんが長いプロ野球人生の中で、最も影響を受けた指導者は野村克也さんです。
 野村さんは、宮本さんがヤクルトスワローズに入団した年から4年間、監督と選手として過ごし、プロで生きていく術を教えてくれた人です。

 野村監督の指導でまず驚いたのは、米国アリゾナ州ユマ市で行われた春季キャンプだった。練習が終わるとホテルの一室に集められ、毎日1時間のミーティングが行われた。野村監督はあの独特の低い声でぼそぼそと話しながら、横に用意されたホワイトボードにマジックで要点を書いていくのだが、あっという間に文字で埋め尽くされていった。そしてホワイトボードが一杯になると、すぐに裏返して裏面に書き始める。気を抜いている間がなかった。書き漏らさないようにと、ひたすらノートに書き写していった。
 ミーティングの内容は、まず「人とは何か」という人生哲学的なことから始まり、プロ野球における組織論、カウント別の打者心理などの各論へと移っていく。野村監督にはいろいろなことを教わったが、なかでも印象に残っているのが、この言葉だ。
「野球選手には、それぞれの役割がある。目立たない脇役でも、適材適所で仕事ができれば貴重な存在になる」
 プロ野球選手になれば、誰でも主役になりたいと考える。これまでの野球人生では各チームで四番であったり、エースだった選手の集まりだ。しかし、四番ばかりではチームは成り立たない。私のような派手さのない選手は、脇役こそが生きる道だと気づくことができたのである。
「脇役の一流になれ」
 これは私に向けられた言葉のように言われているが、実際は、ミーティングのなかで出た言葉だった。だが、当時の私は自分に向かって投げかけられた言葉だと思って聞いていた。野村監督と出会えていなければ、プロ野球選手として19年間も現役を続けることはできなかったと思っている。
 私自身、野村監督に「気づき」を与えてもらったことには間違いない。もちろん、気づくのは自分自身だ。しかし、自分自身の強みや弱みを冷静に分析することは難しい。誰だって自分が可愛いものだ。どうしても自分のことは過大評価してしまう。自分を知るためには、他者の眼を通さねばならない時がある。その眼力をもった人物が野村監督のような優れた指導者であれば、幸せなことだ。

 『意識力』 第一章 より 宮本慎也:著 PHP研究所:刊

『馬の耳に念仏』ということわざもあります。
 素晴らしい教えも、聞く方の意識が低ければ、右から左へ抜けていくだけです。

 優れた指導者との巡り合いを生かし、自らの「気づき」につなげた。
 そんな宮本さんの意識力の高さは、見習いたいですね。

イチロー選手のリーダーシップ

 宮本さんは、2006年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の一員に選ばれ、チームのまとめ役として日本の優勝に大きく貢献しています。

 日本を代表する選手がひしめき合うチームの中で、強烈なカリスマ性でリーダーとして存在感を示したのが、イチロー選手でした。
 宮本さんは、当時を振り返って以下のように述べています。

 一番驚いたのは、練習に取り組む姿勢だった。ウォーミングアップから、一切手を抜かないのである。キャッチボールひとつを取っても、気の抜けたプレーはひとつもない。結果だけでなく、やっぱり超一流の選手なんだと、すごみさえ感じさせるものだった。
「背中で見せる」と簡単に言うが、これほど難しいことはない。普通の実力で目一杯に動いても、意外と選手は見ていないものだ。背中で見せるには、背中で見せるだけの実力が必要なのだ。
 イチローは違った。日本の中でトップの実力を持つ選手が、身近にいる。周りの選手が「イチローさんってどうなんだろう」と注目しているなかで、あれだけ全力で動くと、周囲も「ようし、やろう」という気持ちになれる。
 正直、実力のすごい選手はいいな、と思いながら見ていた。チームをまとめていくために、どうすればいいかなんて考えなくてもいい。普段通りに目一杯練習するだけで、周りにはその姿を見てついていく。イチローはそれだけ歴史的な選手ということだろうが、キャプテンとして苦労してきた私にしてみれば、うらやましい限りだった。
 イチローは変わった――。喜怒哀楽を見せてチームを引っ張るイチローを多くのマスコミや評論家がそう表現したが、それだけWBCが彼の感情を出せる場だったということなのだろう。

 『意識力』 第二章 より 宮本慎也:著 PHP研究所:刊

 実力も実績も飛び抜けている選手が、誰よりも真剣に練習し、手を抜かない。
 イチロー選手から周りの選手が受けた刺激は、強烈だったに違いありません。

 日本が世界一の称号を手に入れられたのも、イチロー選手の背中を見た選手たちが一致団結したことが大きな要因ですね。

「指先の感覚」を磨く

 飛び抜けた能力がないと感じながら野球を続けてきた、という宮本さん。
 しかし、ひとつだけ他の選手よりも優れていると思えるものがありました。

 それは、「ボールを投げる感覚」です。

 ボールを投げる瞬間、このまま投げたらスライダーするなとか、シュートするなというのが感覚として分かる。それだけなら同じ感覚を持つ選手もいると思うが、そこから意識して修正するというのは、なかなかできるものではない。指先の感覚で修正する能力は、他の選手よりも優れていたと思っている。
 例えば、このまま投げたらスライダーしそうだなと思ったら、人差し指のほうにグッと力を入れて投げればいい。このままだと抜けるなと思ったら、指先で上から押さえつけるようにして投げる。今度は引っかかりそうだなと思ったら、わざと抜いて投げられるようにしていた。
 偉そうな言い方をすると、普通の人の感覚が分からないので、これぐらいは誰にでもできるものだと思っていた。ただ、19年間見てきたなかで、チームメートのなかで同じ感覚で投げているなと思ったのは、古田敦也さんぐらいだった。ヤクルトの森岡良介からは「慎也さん、どうしてツーシームの握りでも真っ直ぐに投げられるんですか?」と聞かれたこともあった。
 ここに分かれ道があると思う。最初は誰でもできないのである。例えばショートでゲッツーを狙う場面を思い浮かべてもらいたい。たとえ変な握りでボールを握ってしまったとしても、セカンドまではすぐそこだ。「その辺にはいくやろう」と思って、不格好でも投げてみればいい。
 ところが、最初からそれをやらない。だから、ずっとできなくなってしまう。握り直してから投げていたら、いつまで経っても難しい握りで投げることはできない。無意識で握り直す癖がついてしまえば、投げることすらできなくなってしまう。
 よく古田さんが言っていたことだが、キャッチャーがバチッとボールを握ることは少ない。ピッチャー投げたボールを捕球してから、すぐにボールを握るのである。ほとんどがきちんとは握れない。そういうなかで投げなければいけないのだから、「あかん、ボールが抜ける」と思ったら、ワンバウンドで投げていたという。いつも握り直してから投げていれば、そういう発想をすることもできない。

 『意識力』 第三章 より 宮本慎也:著 PHP研究所:刊

 宮本さんが身につけた「ボールを投げる感覚」は、練習の積み重ねでつかんだもの。
 まさに、意識力の高さの賜物(たまもの)ですね。

「練習のための練習」で身につけたスキルは、大事な場面で使いものになりません。 

 つねに本番を想定して練習に臨み、本番同様のプレーを心がけることが大切です。

「正しい努力」をすること

 守備には自信があった宮本さんですが、打撃に関しては、結果が出ずに悩んだ時期があります。
 それを救ったのが、秋季キャンプに臨時コーチとして招かれていた中西太さんの指導でした。

 宮本さんは、中西さんからの指導のおかげで、フォームの欠点に気づき、修正する決心します。
 そして、翌年のシーズンで二番に定着し、打率三割をマークすることができました。

「間違った努力」
 野村監督がよく言っていた言葉だが、それまでの私は間違った努力なんてないと思っていた。例えば、間違った方法で素振りをしても、数をこなすことで振る力は身につくはずだからだ。
 だが、間違った方法で努力を続けると、間違った技術がクセとして身についてしまう。それは場合によっては、努力をしないよりも悪い方向に導くことがある。正しい努力を積み重ねることが、技術の向上につながる。中西さんから指導を受けるなかで、間違った努力はあるのだと気づかされていった。
 これは守備についてもいえることだ。「ゴロの打球は、バウンドのどこで捕ったらいいか」と聞かれることが多いのだが、私は「ボールの上がり際」、つまりはショートバウンドで捕るのがいいとずっと教わってきた。バウンドの上がり際で捕るためにはその分、足を使って移動しなければいけない。上がり際はイレギュラーに対応しやすく、グラブを立たせて使うことができるし、目とボールの間にグラブが入るため、操作しやすい。
 ところが、最近の若い選手に聞いてみると「ボールの落ち際」と答える選手が想像以上に多くて驚いてしまった。落ち際ではボールを目で追って頭が上下してしまうし、グラブが横に寝てしまう。目とボールの間にグラブが入らないため、思わぬミスが多くなってしまう。それでは、いくら練習してもうまくならないはずである。
 間違った努力は、確かにある。正しい努力を積み重ねなければ、技術は身につかないのである。

 『意識力』 第四章 より 宮本慎也:著 PHP研究所:刊

「努力は裏切らない」
 よく聞く言葉ですが、それは「正しい努力」をした場合の話です。

 その方法は自分に向いているのか。
 努力した分の成果が表れているのか。

 節目節目で、自分の成長具合を客観的に見つめ直すことが重要です。
 効果がないのならその方法は諦め、他の方法を探す選択が必要となります。

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 毎年のドラフト会議を通ってプロ野球に入れる選手は、ごく一部のエリートだけです。

 小学生の頃からエースで四番、各球団のスカウトが注目するような存在。
 プロに入る前の宮本さんは、そのいずれでもない無名の存在でした。

 レベルの高い相手にどう立ち向かっていくか。
 冷静に自分を分析して、生き残りの術をつねに考え続けたという宮本さん。
 その野球に懸ける情熱が、他を圧倒する「意識力」を身につける原動力となったのでしょう。

 意識の違いが、成長のスピードの違いを生み出します。
 同じ時間の練習でも、密度の濃さが違ってきます。

 私たちも宮本さんを見習い、日ごろから高い「意識力」を持って過ごしたいですね。

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