【書評】『師弟』(野村克也、宮本慎也)

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 お薦めの本の紹介です。
 野村克也さんと宮本慎也さんの『師弟』です。

 野村克也(のむら・かつや)さんは、元プロ野球の選手、監督です。

 宮本慎也(みやもと・しんや)さんは、元プロ野球の選手で、現在は解説者としてご活躍中です。

最強の師弟コンビが野球と人生について語る


 90年代にリーグ優勝4回、日本一に3回輝くなど、黄金時代を築き上げたヤクルトスワローズ。
 野村さんは監督、宮本さんは選手として、それぞれチームの中心として大きな役割を果たしました。

 宮本さんは、プロ入りしたときの監督であり、師匠でもある野村さんに、「ID野球」を徹底的に叩き込ました。
 自らの野球人生に受けた影響は計り知れず、野村監督には感謝しても感謝しきれませんと述べています。

 僕もいつかは「監督をやってくれないか」と言われるようになりたい、という夢があります。
 もし、僕が監督になったとして、野村監督の野球を継承していきたいと言うつもりはありません。というのも、あえて言わずとも、自然と似たような野球になるだろうなと思うからです。それぐらい野村監督の野球は、僕の中に染みついているものです。
(中略)
 入団当初は何かについて怒られていたので、「早く辞めないかな」と思っていましたが、野村監督の野球を理解するに従い、「監督はどうして欲しいのか」を考えるようになりました。それが僕のプレーヤーとしてのレベルを引き上げてくれました。しかし、今思えばまだまだ足りませんでした。
 僕は結局、4年間しか野村監督と時間をともにすることができなかったのですが、今思うと、もう少し長く一緒に野球をしたかった。野球選手として、もう一歩のところまで来ていたのではないかという思いがあるからです。
 野村監督がいなくなってから、足りなかった部分をどれだけ埋めることができたかはわかりませんが、今回は野村監督に「野村メモ」の核となる八つの項目を立てていただき、それに対し、はなはだ僭越(せんえつ)ながら僕なりの解釈を試みようと思っています。

 『師弟』 はじめに より 野村克也、宮本慎也:著 講談社:刊

 本書は、野球や人生についての重要なテーマについて、野村さんと宮本さんの持論をぶつけあった一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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ミーティングは「勝負」


「野村野球」とは、“プロセス重視”の野球です。
 野村さんは、プロセスを大事にするということは、すなわち戦いの場に立つ前に心をつくるということだと強調します。

 野村さんが、選手たちの心をつくるために、もっとも重視したのが「ミーティング」です。

 2003年から05年まで、私は社会人野球のシダックスの監督を務めていた。あの経験は本当に貴重だった。プロとアマチュアの根本的な違いがわかった。プロ野球選手は個人事業主の集まりである。第一に個人の成績があり、その結果としてチームが勝てばいいというのが基本的な考えだ。それに対し、アマチュア野球の選手たちは、まったく逆だった。お金がからんでいないので、こちらが何も言わなくても、個人の成績そっちのけで、みんなが勝利に向かって一つになる。なんてやりやすいのだと思った。アマチュア野球は負けたら終わりのトーナメント野球が主だから、なおさらだ。これが野球の、集団スポーツの原点だと思った。
 プロ野球もチームプレー第一だが、それを強制することはできない。プロである以上、いい成績を残し、年俸を上げたいという欲求を完全に否定することはできないからだ。したがって、プロ野球の監督は一見、矛盾する「個人成績」と「チームの勝利」を言葉によって、いかに結びつけるかが、一つの大きな仕事になる。
 その心をつくるのに、私がもっとも重視したのはミーティングだ。ミーティングとは選手の信頼を勝ち取るための勝負でもある。舞台として最適なのは、春の1ヶ月にわたるキャンプだ。選手の頭の中は、真っ白。選手の信頼を得るのに、こんな絶好の機会はない。「一年の計は元旦にあり」と言われるが、プロ野球の選手の場合、一年の計はキャンプにあるといっても過言ではない。
 キャンプを終え、充実した気分で満たされているシーズンは、だいたいいい結果が出た。逆にしっくりいかなかったシーズンはダメだった。物事は最初が肝心であるというのは真理だ。うまくいかなかったとき、まずは出発点に立ち返るのがもっとも手っ取り早い。試合で言えば初回、イニングで言えば先頭打者だ。だいたいそこに原因がある。
(中略)
 神が人間に耳を二つ、口を一つ創られたのは、話す倍だけ人の話を聞けという啓示ではないか。実際に、人間は普段の生活で情報のインプットとアウトプットを行うとき、「聞く50%」「話す30%」「読む15%」「書く5%」程度が標準だという。つまり、心をつくるには、誰から何を聞くかが大事なのだ。
 気力、知力、体力の三つの中で、野球選手にもっとも不足しているのは知力だ。だから、そこを補う必要がある。何かを学ぼうと思ったら、読むか、聞くしかないが、本を読めと言っても選手は読まないだろう。だったら話して聞かせるしかない。私が言葉を持たない人は監督になる資格がないと言う理由もそこにある。

 『師弟』 第一章 より 野村克也、宮本慎也:著 講談社:刊

 結果には、必ず、それに至るまでのプロセスがある。
 プロセスを改善していけば、必然的にいい結果もついてきます。

 1プレーごとに、「なぜ、そうするのか?」を頭で理解する。
 それを徹底的に突き詰めるのが、「野村ID野球」の真髄です。

プロセスなき成功は、失敗より恐ろしい


 野村さんの、何よりも「心をつくること」を重視する野球は、愛弟子である宮本さんに受け継がれています。
 宮本さんは、丈夫で、大きな心の器が出来上がっていないと、いずれ壊れたり、あふれ出たりしてしまうものだと述べています。

 野村メモにはこんな言葉があります。

〈失敗してだめになった人より、成功してだめになった人の方が多い〉
〈失敗する恐ろしさよりも、いい加減にやって成功することの方が、もっと恐ろしいのだ〉


 いずれの言葉も示唆に富んでいます。
 スポーツの世界では、ときに「勝っちゃった」という状況が起こります。大舞台でアドレナリンが大量に噴出し、普段の力以上のものが出てしまうことがあるのです。それをたまたまだと冷静に分析できればいいのですが、自分の実力だと勘違いしてしまうと、そこから不幸が始まります。永遠に埋まらないギャップに悩み続けることになるのです。
 成功が人をつくることもありますが、やはり、まずは結果にふさわしい人間になる、結果が出て当然と思える取り組みをすることが先決だと思います。
 チームが連敗しているとき、僕は勝つのにふさわしいチームになるよう心がけました。当たり前のことを、当たり前にさせるのです。打ったとき一塁へ全力疾走するのはもちろん、カバーリングを怠らない、サインミスをしない、攻守交代を素早くする、声を出すなどして元気を出す、塁に出たらリードを取るなどです。まるで高校野球のようですが、負けているときは得てして小さなことを疎(おろそ)かにしているものです。そして、不思議と小さなことを丁寧にやっていると、他のプレーにも波及し、いい流れになってくるのです。
 うまくいかないときは大きく変えるのではなく、小さなことを変え、それを続けていくことが大事です。たとえば、部署の業績が上がらずに悩んでいるサラリーマンの方は、基本である朝のあいさつを徹底することから始めてみてはいかがでしょうか。それだけでも気持ちが前向きになり、いいアイデアが出てくるようになるとと思います。
(中略)
 野村監督は「結果主義の人」「過程主義の人」という分け方をしていましたが、前者は失敗したら何も残らないという極端な勝利至上主義に陥り、生活がギスギスしてきます。逆に後者は結果が伴わなくても、生き甲斐を感じながら生き生きとしています。
 長いスパンで見れば、やはり過程主義者の方が、強く安定した力を得ることができるし、その人の人生も豊かになる気がします。
 プロ野球だから勝てばいいという意見もあるかもしれませんが、プロ野球は勝つことを目指すのは当たり前で、さらにその一つ上をいかなければなりません。ファンから愛されるチームになるべきなのです。強いだけでは、いつかはそっぽを向かれ、やはりいつかまた力を失ってしまうと思います。

 『師弟』 第一章 より 野村克也、宮本慎也:著 講談社:刊

 昔から「急がば回れ」といいます。
 目先の結果だけにこだわるより、地に足をつけて目標に向かって一歩ずつ前に進む。
 その方が、結局は得るものは大きいということです。

 1年ごとに結果を出し続けなければならないプロ野球選手。
 彼らでさえ、それが当てはまるのですから、私たちはなおさらですね。

「変わる勇気」なくして成長なし


 今までやってきたことを変える。
 それは、多くの人にとって大変な勇気がいるものです。
 ましてや、プロ野球の選手は、それぞれにプライドやこだわりが強いので、「変わる」ことへの不安は、並大抵ではありません。
 しかし、野村さんは、それを取っ払わないと進歩はないと強調します。

 通常、変えようと思うと、まずは恐怖感に苛(さいな)まれる。今まで2割5分打っていたのに、さらに打てなくなるのではないかとマイナス思考になる。
 ところが、こうすれば必ずよくなるとわかっていても変化を恐れるのが人間という生き物のようだ。それを心理学用語で「ヨナ・コンプレックス」と呼ぶ。手を伸ばせば夢に届くのに、変わることに不安を覚え、躊躇(ちゅうちょ)してしまう。結婚前の女性が陥る「マリッジブルー」なども、そのうちの一つなのかもしれない。
 人間の遺伝子の中には、冒険者や革命家は早死にし、自分の生活を変えなかった人たちの方が長生きしてきたという記憶が埋め込まれているせいだという説がある。
 しかし、それとは反対に、成長欲求を持っているのも人間の本質である。変わりたくないけど、変わりたい。つくづく人間とは厄介な生き物だ。
 ヨナ・コンプレックスを乗り越え、成長欲求を満たすのに最善の方法。それは「スモールステップ」だ。恐怖心を覚えないよう、少しずつ変えるのだ。
 急激にダイエットをするとリバウンドするのは、あれは一種の防衛本能だからである。体が栄養補給が途絶えたことに危機感を覚え、飢餓状態を引き起こすのだ。したがって、大丈夫だよ、体に無理のない範囲でダイエットするんだよ、と言い聞かせるように、少しずつ食生活を変えた方がいいのだ。
 私がよく選手に試させたのは道具を替えることだ。道具を替えれば、否応なく、変化を少しずつ意識的に働きかけ続けることができる。
 南海時代、藤原満という三塁手がいたのだが、彼は近畿大学時代、三番打者だった。しかし私は、プロでは長距離打者としては通用しないと判断し、「ホームランを1本打つよりも、ヒットを10本打て」と、用具メーカーに規則の範囲内でもっともグリップの太い「すりこぎバット」と呼ばれるバットをつくってもらい、彼に与えた。ヘッドは利かせにくいが、そのぶん、バットコントロールは巧みになる。そして「これを使うのならスタメンで使ってやる」と言った。彼は最終的に南海ひと筋で14年間プレーし、二度の最多安打のタイトルを獲得するほどの「安打製造機」に生まれ変わった。
 ヤクルト時代は飯田哲也や宮本、阪神時代も赤星憲広などにすりこぎバットに替えさせて、彼らは自分たちの居場所を手に入れた。

 『師弟』 第四章 より 野村克也、宮本慎也:著 講談社:刊

 その人の真価が問われるのは、試練にぶち当たったときです。
 今までと同じことをしていたら、乗り越えることはできないでしょう。

 これまでに経験したことがない壁が目の前にある。
 そのときに、違うアプローチを思いつくか。
 そして、それを実行する勇気を持てるか。

 それが、つねに成長し続け、一流になるための条件です。

「変化」は「勝負」


「野村イズム」の継承者である宮本さんも、「変わること」の重要性を理解し、実践したひとりです。

 野村監督はよく「変化」という言葉を使っていらっしゃいました。変化しなければ進歩はない、と。ミーティングで〈変化論〉というテーマがあり、僕のノートには、

〈変化することの恐れを捨てよ〉
〈変化こそ生命の本質なり〉


 と書いてあります。
 外国人選手などもそうです。積極的にコミュニケーションを取り、日本の野球を研究して変わろうとする選手は結果も出やすい。逆に俺はメジャーでやってきたのだと、これまでのスタイルに固執する選手はすぐに帰国してしまいます。
 確かに、生物学上、人間は変わることを怖れる生き物なのでしょう。野村監督は、人間の意識のうち顕在意識はわずか10%しかなく、潜在意識が90%を占めるのだという話もしていました。
 つまり、顕在意識で変わろうと思っても、潜在意識は変化を拒否していたら、そちらの方がはるかに力は強いので、結局、引っ張られてしまうわけです。ダイエットや英会話の勉強でも、やろうと思っても続かないのは、要は潜在意識まで響いていないからなのです。
(中略)
 潜在意識に訴えるには、覚悟を決めて、とにかくコツコツとやるしかありません。

 〈習慣は才能より強し〉

 これは野村監督の教えですが、まさにこれです。変化を習慣にしてしまえばいいのです。
 僕はプロ入り後、変わることには抵抗はありませんでした。今のままではレギュラーになれないとと思っていたので、丁か半か、みたいな心境でした。変化して百になるのか、それともゼロになるのか。ちまちまやって終わるのだったら、勝負をかけて終わるほうが後悔はないと思ったのです。だから僕の中で「変化」とは「勝負」というイメージなんです。
 もう一つ言えば、「変化」とは「破壊」です。打ち方を変え、1週間ぐらいで元に戻してしまう選手もよく見かけますが、そういうタイプは見込みがないと思います。そういう選手は決心が潜在意識まで届いていません。変えたつもりになっているだけです。
 本気で変えようと思ったら、自分を壊すぐらいの覚悟で、最低でも1ヶ月から2ヶ月は継続しなければ意味がありません。

 『師弟』 第四章 より 野村克也、宮本慎也:著 講談社:刊

 人間は、「習慣」の生き物です。
 日常の作業の多くは、とくに意識することなく実行しています。
 潜在意識の力は、私たちが想像しているより強いということ。

 本気で変えようと思ったら、自分を壊すくらいの覚悟で。
 潜在意識に刷り込む。
 つまり、習慣化されるまで、徹底的に粘り強く続けることが必要だということですね。

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 一流は、一流を知る。
 野村さんと宮本さんは、お互いがお互いを認めあい、尊敬しあう、そんな関係です。
 ある意味、師弟の関係を超えた深い信頼関係で結ばれているといってもいいでしょう。

 同じ哲学で貫かれた者同士が、同じテーマについて論じあう。
 2つの視点から語られる分だけ、説得力に深みも重みも増します。

 読めば読むほど、味わい深い、スルメのような「野村イズム」。
 皆さんも、ぜひ、一度召し上がってみてはいがでしょうか?


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