【書評】『逃げる勇気』(崇史)

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 お薦めの本の紹介です。
 崇史さんの『逃げる勇気: 「できる人」は九割を捨て、たった一割で勝負する』です。

 崇史(そう・ちかし)さんは、経営コンサルタントです。
 これまで1万人以上のビジネスパーソンへのコーチングとコンサルティング実績をお持ちです。

なぜ、うまく逃げられないのか?


 パソコンやスマホの普及などもあり、仕事の業務は一昔前よりも格段に増えています。
 一方、不景気などの影響で合理化が進み、働く人の数は減り続けています。
 今後ますますその傾向が強まるでしょう。

 このような過酷な状況下で、仕事を楽しく、充実したものにするためには?
 崇さんは、この問いに対して、〈逃げる〉というコンセプトを提案しています。

〈逃げる〉というと、問題を先送りし、根本的な原因に向き合わず、小手先でごまかしてしまうような、あるいは与えられた責任を放棄してしまうような、そんな消極的で無責任な響きがあるかもしれません。
 しかし、この本で紹介する〈逃げる〉の意味はまったく違います。詳しくは本編でご説明しますが、簡単に言うと、次の三つの行動に集約されます。

  • 「自分の才能」の発揮のために、自分にとって優先順位の高い仕事に集中する
  • 才能の発揮を邪魔するものから遠ざけて距離を取り、悪い影響を排除する
  • 仕事を削り、人に仕事を任させて、「自分の才能」を伸ばすための投資をする
 これが、私が皆さんにご提案する正しい〈逃げる〉の意味なのです。

 実際に〈逃げる〉ことは、口で言うほど簡単なことではありません。ある意味、会社の中で自己主張しなくてはいけませんから、とても「勇気」がいります。そう、うまく逃げるには「逃げる勇気」が必要なのです。

 『逃げる勇気』 プロローグ より 崇史:著 新潮社:刊

 本書は、「逃げる勇気」を手に入れて自分の才能を開花し、自信を持って働くための方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「優先順位をつけられない」から抜け出すには?


 うまく〈逃げる〉には、仕事の優先順位をつけることが必要になります。
 そのためには、会社の中での自分の本来の役割と上司の期待を理解することが大切です。

 会社の中で自分がやると決められていること、上司から依頼されたことや他部署から依頼されたこと、それが仕事だと思っていたら、表面上は正解に見えますが、本質的には不正解です。
 なぜなら、「言われたからやる」がやる理由で、「言われたこと」をそのままやることになっているなら、それは「仕事」ではなく、ただの「作業」だからです。
 次の六つのことを理解して実践できれば、「作業」は「仕事」になります。

「目的」=何のために、誰のためにやることなのか、が分かっている
「理由」=どうして自分がそれをやるのか、が分かっている
「品質」=どのレベルまでやれば完成なのか、分かっている
「納期」=いつまでにやればいいのか、が分かっている
「起点」=どうなると始められるのか、が分かっている
「終点」=どうなると終わりと認められるのか、が分かっている


 小さな仕事でも、大きな仕事でも、繰り返し発生するルーチンの仕事でも、新しいプロジェクトの仕事でも、この「目的」「理由」「品質」「納期」「起点」「終点」は存在します。
 それが分かっていなければ、「仕事」をしていることにはならず、いつまでたってもうまく逃げられるようになりません。

「目的」は仕事の「意味」です。どんな仕事でも存在している限り、意味のない仕事はありません。
「理由」は会社という組織の中で自分に与えられている「役割」です。他の誰でもないあなたにその仕事は割り当てられ、そこに明確な役割が発生しているのです。
「品質」と「納期」は、その仕事に求められる「ここまでのレベルでやる」「この日時までにやる」という「期待」です。その期待を満たせないものは、不良品の仕事だと評価されます。
「起点」と「終点」は、組織の中で役割をこなし期待に応えるために理解しておかなければならない「基本条件」です。

 どんな仕事でも、必ず段取りが必要で、自分の所に来る前の段階があります。
 段取りをうまく付けたり、前の段階の部署や人からスムーズに仕事をもらったりしないと、いくら自分が取り掛かろうと思っても始められません。その段取りや前段階へのスムーズな働きかけの内容が「起点」です。
 また、どんな仕事でも、自分のやることが終わったから終わるわけではなく、必ず報告や、格納や、次の段階で待っている人に手渡すことが必要です。それができなければ個人的には終わっていても、組織的には終わったとは認められません。
 それらの行動がすべて完了することが「終点」です。

 『逃げる勇気』 第一章 より 崇史:著 新潮社:刊

 どうでもいいような部分に力をかけ過ぎて、本質的な部分が疎かになる。
 そんな本末転倒なことにならないためにも、上の六つを理解することは重要です。

「仕事とは何か」を深く理解すること。
 ムダなことをせずに、仕事を効率的に進める第一歩です。

「根性論」から逃げて、「仕事はゲーム」と思い込む


 崇さんは、過剰な〈義務と責任〉の意識から逃げることで、かえって〈義務と責任〉を上手く果たせるようになると述べています。
 そのために必要なのは、いまだに幅を利かせる「根性論」から〈逃げる〉ことです。

 本当に結果を出したいのなら、「根性論」から逃げて、「仕事はゲーム」と思い込むことです。
 つまり、心の中から〈義務と責任〉のプレッシャーを一度追い出し、そんなものはどうでもいいんだと自由になって、仕事の目標だけに考えを集中する。
「これはゲームだ」と考えることで、ムダな力みはなくなります。
「この状況でできることは一体何なのか?」「どんなアプローチがあるのか?」と自由に考え、工夫し、楽しみながら攻略するのです。
 そして、ゲームなんだから気楽にいきましょう。ゲームの世界では、ステージクリアに失敗しても、本当に何かを失くすわけではありません。もしモンスターに殺(や)られてしまっても、実際に死ぬわけではありません。これは、ゲームではない仕事の世界でも実は同じなのです。

 読者の皆さんは、ほとんどがどこかの会社の社員として働いていると思います。会社の社員である限り、たとえ仕事でミスをして〈義務と責任〉を果たせなかったとしても、命を失うわけではありません。よほどのことでない限り仕事もなくなりません。評価は悪くなることがあるかもしれませんが、その後の仕事ぶり次第で取り返すことができます。今の会社にいにくくなれば、他にも会社はたくさんあります。ゲームの世界と大きな違いはありません。
 だから、〈義務と責任〉から逃げて仕事をゲームにし、気楽にチャレンジすべきです。そして楽しみながらアイテム(仕事の能力や実績)を次々とゲットしていき、一つずつステージアップ(昇格や昇給)していけば良いのです。
 〈義務と責任〉のプレッシャーから逃げれば、体は自由な柔軟性を取り戻し、脳の判断力は向上し、神経の反応はスピードアップします。だから仕事の成功率は高くなります。
 あなたが〈義務と責任〉から逃げることで、実は今よりもっと、〈義務と責任〉を果たすことができるようになるのです。

 『逃げる勇気』 第二章 より 崇史:著 新潮社:刊

 同じことをするのでも、苦しみながらやるのと楽しんでやるのとでは、結果は大きく変わります。

 どんなトラブルや困難においても、その状況を楽しめること。
 それが、目標達成への最短距離となります。

仕事を“適当に”済ませる技術


 仕事を上手く削れない人は、自分の仕事の仕方=スタイルに対してこだわりが強い人です。

 崇さんは、そのような人に対して「適当に仕事をする」ことを勧めています。
 「適当に仕事をする」とは「適正品質の仕事をする」という意味です。

 よく、テレビや雑誌で「日本の消費者は、ものを見る目が厳しい」「だから日本で成功すれば世界で成功できる」と言います。それは、日本の消費者が商品やサービスに対して求めるレベル=「適正品質」が、他の国よりも突出して高いということです。その代表選手は、どこにでもあり、いろんなモノが置いてある、トイレまで貸してくれる、コンサートのチケットも買える、荷物の受取もできる、銀行のATMまである、便利なコンビニかもしれません。実際に、ある有名なK−POPの女性グループが日本に来た時に楽しみにしていることの一つがコンビニに行くことだそうです。韓国にもコンビニはあるはずですが、日本のコンビニほど楽しい、面白いコンビニはどうも外国にはないようです。
 日本に住んでいれば当たり前になっていることが、外国に住む人から見れば感動するくらいのレベルになっていることが他にもたくさんあります。メーカーやサービス業など、海外の業界のプロが、日本の同じ業界の仕事を見に来て、そのレベルの高さに驚くテレビ番組があるくらいです。
 とすると、逆の発想で考えてみたら、日本の消費者にとっての「適正品質」は、外国では「感動品質」や「驚愕品質」で、「適正品質」ではないのです。消費者はそこまで求めておらず、実現しなくてもいい「過剰品質」なのかも知れない。その国にはその国の「適正品質」があって、その品質で問題なく消費者に支持され受け入れられる(=売れる)のであれば、商品やサービスを輸出する場合、日本の適正品質にかけているコストを削減して、商品の値段を下げ、売上を伸ばすことができるでしょう。
 いつもの仕事の仕方、いつものレベル、自分が今まで成功してきたやり方(過去の成功の方程式)がいつも正しいとは限らないのです。特に現代は変化が激しい時代です。今月の正解が三か月後正解である保証はありません。その時のその仕事に合ったレベル=「適正品質」で仕事をすること。これが重要です。

 このように、不足品質は問題外だけれど、一般的に見過ごされがちの過剰品質も、決してプラスとは言えません。コストが余計にかかっている分、実はマイナスです。
 昔からの「職場のしきたり」や「前任者の仕事の仕方がそうだったから」など、これまでの成り行きで何となく「過剰」になっていることは想像以上に多いはずです。職場を冷静に見渡してみると、そんなものがゴロゴロ。そしてその多くは、誰もそこまでは求めていない、単なる自己満足です。時代が変わって、その当時は「適正」でも今は「過剰」になっているものもあるかもしれません。
 そんな現代であれば、仕事は適当にする=「シンプル」にするほうが好まれます。シンプルなものは分かりやすく、伝えやすく、そして低コストで済みます。仕事の効率も、経営の効率も高いのです。「よりシンプルであること」が評価される時代に私たちは生きているのです。

 『逃げる勇気』 第三章 より 崇史:著 新潮社:刊

「時間をかけてでも、最高品質の製品を作る」から「できるだけ速く適正品質の製品を作る」へ。
 世の中全体が、そのような流れになっています。

 私たちが働いて得た給料分も、当然、製品の原価に人件費として反映されます。
 同じ価格で売るのなら、かかる人件費は少ない方がいいです。

 私たちも、これまで以上に、「コスト意識」を強く持って働く必要があるということですね。

勝負は大切な〈一割〉で決まる


 〈逃げる〉ことは、大切な技術です。
 しかし、すべてのことから逃げるわけにはいきません。
 逃げるのは、「本当に大事なこと」に力を集中するためです。

 格闘技のK−1で活躍する人気選手に聞いた話ですが、格闘技の選手は「ここだ」と思った三十秒にすべてを懸けて、全精力を使い、トップギアで相手を仕留めにいくそうです。
 どういうことかと聞くと、全世界の中で勝ち抜いてリングに上がってくるような選手は、皆それぞれ凄いレベルで、そう易々と倒せる相手ではないそうです。三ラウンド九分、延長しても四ラウンド十二分の中で、ひたすら「その瞬間」を待つと言います。残りの時間は、ある意味勝負をかけない「逃げの時間」なのです。
(中略)
 例えば他のスポーツ選手でも、その道のプロにインタビューすると、「すべての試合に真剣に向き合っているのは間違いないが、実は〈いつでも全力、すべて真っ向勝負〉ではない」と言います。成功のためには、本当に全力で真っ向勝負を懸ける瞬間があると言います。〈いつも全力、すべて真っ向勝負〉では疲れてしまい、その一瞬=一割の時間に力が出せないのです。つまり、九割は逃げて、一割で仕留めるのです。逆に言えば、その一割の勝負からは逃げてはいけない。逃げるのは、その一割へのエネルギーを蓄えるためなのです。

 どんな仕事でも同じ考え方ができます。成功している人はその一割を知っていて、そこで勝負しています。そしてその一割とは、人よりも数倍うまくやれる、そして好きだからどれだけ集中しても疲れない、自分を最大限活かすことのできる、〈好きで得意〉な仕事なのです。そこで成果を上げるためには、嫌な仕事、邪魔な仕事から逃げて時間を作り、その時間で〈好きで得意〉な仕事の力を伸ばすことが必要です。
〈好きで得意〉の種を見つけ育てる。そして時間と一緒に、お金や、人や、物といった「資源」もそこへ向かって集中的に投資するのです。

 『逃げる勇気』 第四章 より 崇史:著 新潮社:刊

 時間は、誰にとっても限られた貴重な資源です。
 大きな成果を挙げるには、その時間をどう有効に使うかがすべてといえます。

 勝負どころで全力を出すために、他の部分は〈逃げる〉。
 割り切って考えることが重要ですね。

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 日本人には、「最後までやり通すこと」が美徳だという意識が根強く残っています。
「逃げるのは、ひきょうだ」そんな雰囲気もありますね。

 そんな状況で、〈逃げる〉という選択をするのは、まさに勇気のいること。
 崇さんは、〈逃げる〉の本質は、何が自分の〈好き〉で〈得意〉で「才能」なのかを見極め、そこに集中する。逆にそうでないものからは身を遠ざける。ムダな時間を使わないようにすることだとおっしゃっています。

 逃げる技術は、自分の能力を最大限に発揮するためには、欠かすことのできないものです。
 これからの時代を生きるために、ぜひ、身につけたいスキルですね。


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