本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『ノマドと社畜』(谷本真由美)

 お薦めの本の紹介です。
 谷本真由美さんの『ノマドと社畜』です。


 谷本真由美(たにもと・まゆみ)さん(@May_Roma)は、情報管理がご専門の ITエンジニアです。
 ITベンチャーや経営コンサルティングファーム、国連専門機関の情報通信官などを経て、現在はロンドンの金融機関で情報システムの品質管理とITガバナンスを担当されています。
 ツイッター上では、「メイロマ」の名前で過激な中にも優しさのある発言で多くのフォロワーに愛されている存在です。

「ノマド」という働き方

 近年、日本では「ノマド」という言葉がテレビや雑誌をにぎわせています。

 ノマドという言葉には、

「場所にとらわれずに自由な働き方をする」
「フリーランサーや個人事業主(自営業)として、雇われずに働く」

 という2つの意味があります。

 谷本さんは、日本でのノマドブームの背景には、景気の低迷と世界情勢の不安定さ、さらには2011年3月に起きた東日本大震災(3.11)による生活や人生の価値観の激変があるのではないかと分析します。

 会社も、政府も、権威も信じられなくなった若者たち。
 彼ら彼女らが、自分の手で食べていくための道を模索して、その方法に興味をもつのは、至極当然です。

 谷本さんは、ノマドワークの流れや実態は、日本のマスコミで騒がれている姿とはずいぶん違い、大変に厳しい世界なのだと強調します。

 さらに、日本の若者たちがノマドという働き方の本質と恐ろしさを十分に理解しないまま、うわべの格好良さだけに引かれ、安易にブームに乗せられようとしていることを危惧しています。

 本書は、ノマドという働き方を含めて「これからの私たちはどのように働いていくべきか?」という、ポスト「3.11」の日本人の仕事論について考察した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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日本と欧州の「ノマド事情」

 谷本さんは、現在のノマドブームは、世間知らずの学生さんや若者の中で、就職できない人や、就職することを不安に思っている人たちをカモにして、さまざまなモノやサービスを売りつけている「自己啓発商法」の一種だと切り捨てています。

 実際に「ノマド志望」の学生さんに会って、彼が見せた「機密のビジネスプラン」とやらのお粗末さと非常識で思慮に欠けた考え方に呆れてしまったとのこと。

 一方、日本よりノマド的な働き方が進んでいる英国や欧州大陸では、その歴史は古くすでに確立されたワークスタイルとなっています。

 谷本さん従事するIT業界にはノマドが大勢いますが、その多くは高給取りで、ベテランの技術者です。

 仕事が不定期なことと、雇用者側である企業はいつでも契約を解除することができることなど「不安定要因」があるので、それをカバーするためにノマドの給料は割高になっているわけです。

 ノマドはスキルベースで雇用されるので、性別も国籍も関係ありません。成果さえ出せば評価されます。ですから、彼らの中には多くの外国人がいますし、妊娠中の女性や子育てを終えた女性も大勢います。このようなことも、ノマドの人気が高まっている理由です。
 イギリスや大陸欧州、北米にはノマドワーカーとして成功して生計を立てている人が大勢います。日本では「ノマドワークは成功する!」「人脈を作ればオーケー」「セルフプランディングで何とかなる」と、具体性のないことばかり書いてノマドを紹介している人がいます。また、具体例を紹介してあったとしても、コンサルタントやテレビに出ているような評論家や執筆業の方など、実はノマドワーカーとしては「少数派」の人が少なくありません。そもそも、評論やコンサルティング、執筆などの業務は、先に述べたように市場規模が小さいので、仕事の数自体が多くはないのです。

 『ノマドと社畜』 第2章 より  谷本真由美:著  朝日出版社:刊

 欧米でノマド的な働き方をする人が急増してきました。
 その背景には、柔軟な働き方を求める人が増えてきていること、長引く不景気により正社員を雇わずに外注化できる仕事は外注化しようとする企業側の事情も大きいです。

ノマド的働き方が広がると起こる「恐ろしいこと」

 海外ではすでにフリーランスやノマドに代表される、スキルや成果ベースの働き方への移行が本格化しています。
 日本も遅かれ早かれ、その波を被ることになるでしょう。

 谷本さんは、ノマド的な働き方が広がると、「恐ろしいこと」が起こると指摘します。
 それは、「激烈な格差社会の到来」です。

 ノマド的な働き方が広まると、技能がある一部の「プロ」には、国境も住んでいる場所も関係なくますます仕事が集中し、さらに稼げるようになります。

 一方、「能なしの正社員」は切られるか、労働の付加価値が低いために、どんどん給料が下がります。

 日本でも景気が悪くなれば雇用環境が激変し、企業はノマド的な人材を使うようになることが考えられます。グローバル化に伴いビジネスのスピードが加速しているため、企業はコストが高く、知識が陳腐化しやすい正社員を抱え込めずに、プロジェクト単位でプロを雇うようになります。
 これは「能無し」の会社員にとってはまさに恐怖です。その中で生き残っていきたい、生活レベルを維持したいと考える若者や中年は、自分を「自分商店」「外人部隊の傭兵」と考え、常に「金を稼げるスキル」を磨いていくべきです。周りが言っていることに流されてはいけません。これからは人と同じことをしていては、食べていけないからです。
 私もかつて、外資系コンサルにいた人や国連機関を渡り歩いてきた人たちに仕事を教えてもらったので、考え方はノマド的な働き方をする人たちときわめて近いものがあり、いつも自分は「自分商店」だと思っています。なので、職場への帰属意識はありませんが、仕事のアウトプットや責任には、大変なこだわりがあります。

 『ノマドと社畜』 第3章 より  谷本真由美:著  朝日出版社:刊

「周りの人と同じことをしましょう」
「みんなで仲良く平等に」

 そのように育てられてきた日本人にとっては、ショッキングな事実です。

「この会社にいれば安泰だ」

 そう考えているサラリーマンにとっても同様です。

 自分は単なる「傭兵」である。
 そう意識し、生きていくための「武器」を磨いていく努力を怠らないようにしたいですね。

「社畜」は企業の奴隷か

 社畜という言葉の定義について要約すると、会社に言われれば何でも愚直に言うことを聞く、奴隷のようなサラリーマンであり、会社の歯車です。

 日本と欧米では、若干意味は異なります。
 しかし、金に縛られて逃げるに逃げられない「企業の奴隷」という点では、一緒です。

 そこの社畜の皆さん、何が社畜で何が勝ち組か、よく考えましょう。稼いでいるから、良い会社に勤めているから社畜ではないぞ、と思ったら大間違いです。今の生活から逃げられないというあなたは、「金の手錠」をはめているようなものです。
 つまり、日本ではそもそも契約に沿った働き方が普通ではないので、企業に物申さずに淡々と働き、自分の立場を勘違いしてしまっている人を「社畜」と考える一方、英語圏では労使の関係がはっきりしており、雇用契約に沿った働き方は当たり前、ただし、誰かに雇われていて、金銭的な自由がない場合は「企業の奴隷」ということになります。また、英語圏の定義では、働き方だけではなく、金銭が企業を肥え太らせる点にも注目しているところが面白いですね。
「社畜は悲惨か?」と聞く人がいますが、誰かに雇われていて、経済的な自由や保障がない状態、やりたくもないこともローンや生活費のためにやらなくてはいけない状態では、日本の定義でも英語圏の定義でも、悲惨に違いありません。しかし、悲惨度は日本風の社畜の方が高いでしょう。何しろ、そもそも雇用契約なんか無視した状況で仕事をしなければならない上に、ローンもあるのですから。そのローンで買った家だって、中古になった途端に資産価値が下落し、下手したら地震や津波で流れてしまうかもしれないのです。これを「幸せだ」という人がどこにいるでしょう。

 『ノマドと社畜』 第4章 より  谷本真由美:著  朝日出版社:刊

 日本では古くから、「愛社精神」が尊ばれ、上司の言うことを素直に聞いてそれを実行する社員が出世するという傾向があります。

 会社とは、人間を社畜化させる装置である、といえるかもしれませんね。
 とはいっても、いざというときに会社は守ってくれません。

 会社に依存せず、自分の身は自分で守る。
 そんな意識を高く持ち続けることが、社畜化から逃れる秘訣です。

これからは「ノマド的な社畜」であれ!

 先行きの見えない時代。

「ノマドにはなれない、しかし社畜も嫌だ」

 そういう人はどうすればいいのでしょうか。

 谷本さんは、社畜として会社から給料をもらいながら、ノマド的な雇い人になることを勧めています。
 つまり、「自分商店」になれ、ということです。

 会社に勤める社畜であっても、日々の仕事を工夫することで、自分らしい個性を出すことが可能です。例えば、仕事を処理する流れをフローチャートに書いて周囲と共有する、報告書の見せ方を工夫する、同じ業界や他の業界で行われている方法を研究して取り入れてみる、などです。この分野ならあなた、と言われるプロになるわけです。その分野が他の組織に行っても汎用性のある分野であれば、鬼に金棒です。転職してもきっとうまくいきます。常に創意工夫を積み重ねることで、自分らしい付加価値を仕事の中で見つけていくのです。大事なのはそれを毎日続けていくことです。何事にも近道や楽な道はありません。そして諦めてはいけません。諦めたらその時点で終わりです。お金をもらいながらいろいろ工夫する体験もできる、しかも失敗しても路頭に迷うわけではないのですから、社畜というのは誠に恵まれた身分です。
 会社がつらいなら、お金をもらって「辛い体験をする修行」に来ていると思いましょう。仮に将来ノマドになった時に、サラリーマンのつらさを知っているのと知らないのとでは、仕事のやり方に大きな違いが出ます。ノマドになっても相手にするのはサラリーマンのお客さんなのです。社内の稟議を回すのに時間がかかる、物分かりの悪い上役がいる、根回しが大変だ、社内の權力抗争がある、ということを知っておくことは実は重要なことです。

 『ノマドと社畜』 第4章 より  谷本真由美:著  朝日出版社:刊

 軒先を借りれる間は、雨露をしのぐだけでなく、そこで自分の店を開いてしまえということ。
 もちろん、いつでも場所を変えて商売できるように、その準備を怠るなという意味も含まれています。

 ノマドにしろ、会社勤めにしろ、努力せずに楽に稼げる仕事はありません。

「うちの店はこれが売り!」

 そういう目玉商品を早く見つけたいですね。

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 谷本さんは、社会人でバブルを経験した世代(今の40~50代)とバブルが弾けてから社会人になった世代(今の10~30代)では、体験していることがまったく違うので、まるで違う国出身の人たちのように、両者の間には溝があると指摘されています。

 そのうえで、「働くなら自分の腕で稼ぎたい」と考えている今の10~30代が世の中で活躍し始めるようになると、日本の働き方が大きく変わっていく可能性があると若者たちへの期待を述べられています。

 本書は、そんな若者たちへ、谷本さんが送る、厳しくも愛のあるメッセージといえます。

 現状を嘆いてばかりではなく、自分の武器を磨く。
 そして、チャンスを虎視眈々と狙う。

 そんな気概を持ち続けたいですね。

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