【書評】『「一途一心」、命をつなぐ』(天野篤)

LINEで送る
Pocket

 天野篤先生の『一途一心、命をつなぐ』です。

 天野篤(あまの・あつし)先生は、心臓外科がご専門の医師です。
 これまで執刀された手術は6000例以上、成功率は98%と心臓手術の第一人者としてご活躍されています。
 2012年2月、天皇陛下の心臓バイパス手術の執刀医となられたことでも話題になりましたね。

好きこそものの上手なれ


 天野先生が心臓外科を志すきっかけ。
 それは、父親の心臓病を治したい思いからでした。

 しかし、その願いはかなわず、3度の心臓手術の末に亡くすという大きな挫折を味わいます。

 そのとき感じた「大切な人を救えなかった」という後悔の念と無力感。
 それは、天野先生が、自らの道を究める原動力となりました。

 以降、「好きこそものの上手なれ」という気持ちで、ひたむきに愚直に、こつこつと心臓外科医の道を突き進んできたという天野先生。

 本書は、天野先生が30年近くの長きに渡って心臓外科医の第一線を歩み続けて得た経験を自らの言葉でまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

「6000人」を背負う


 天野先生は、初めて自分の力で手術をやり遂げ、これから心臓外科医としてやっていけるという手応えを掴んだとき、「俺の両肩に6000人の命が載せられた」と思いました。

「6000人」は、生涯に心臓外科の手術を行うであろう患者さんの直感的な数字です。

 天野先生は、「いつか外科医人生に終止符を打つとき、自分の双肩には、手術でかかわった6000人の命が載っている。その生命を背負ってずっと運び続けることが、自分の使命だ」と覚悟を決めたとのこと。

 全力を尽くしたけれど助けることができなかった患者さんも、もちろんいました。

 もちろん、全力を尽くした。懸命に閻魔さまと闘った。しかし、それでも助けられなかったのは事実だ。なぜ助けられなかったのか、どうしていれば救えたのか。敗北の原因を必ず分析して、その経験を今後に生かすようにしている。二度と同じ結果は招かない、絶対に無駄にはしないぞと心に決めている。亡くなった患者さんたちのことは、そうやって死ぬまでずっと引きずっていく覚悟でいる。
 今でも難しい手術が終わって、ほっと一息つくときなど、「あのとき、こんなふうにできていたら、患者さんは助かっていたな」と思ったりする。
 「今回はなんとかうまくいきました。だから、あなたの手術での経験は無駄にしていません」と、心の中で言い訳をしたりする。
 また、こんな想像をすることもある。いつか自分が死んで、あの世で亡くなった患者さんたちに再会したら、どんなふうに迎えられるだろう、と。叱り飛ばされるのか、袋叩きにあうのか、それとも受け入れられるのか。自分の中では、それが不安と多少の楽しみが混じり合った感情として存在している。
 6000人の命を背負うと心に誓った日から、僕の闘いは始まった。宿命としての命のと闘いが・・・・・。
 その途上にあって自分にできること、やらなくてはならないことは、とにかく手術で勝つこと、負けないこと。自分の身を削ってでも、患者さんを助けること。
 そうやって勝ち続けてさえいたら、「あの世で患者さんに叱り飛ばされるかもしれない」といった思いも、あるいはいつか、払拭される日が来るかもしれない。
 そんな思いで、今も手術に臨んでいる。

 『「一途一心」、命をつなぐ』  第1章 より  天野篤:著   飛鳥新社:刊

 心臓は、生きるために欠かすことのできない臓器です。

 自分の手術の結果次第で、患者さんの生死が決まってしまうという、とてつもなく大きなプレッシャーを背負い続ける。

 そのためには、「自分の双肩に6000人の命を載せる」それくらいの覚悟が必要だということです。

 この大きな覚悟を持ち続けることができたからこそ、今の天野先生があります。

「患者になりきれない人」は元気になれない 


 これまで数多くの患者と出会ってきた天野先生。

「治療がうまくいく人、元気になれる人」

 両者の違いについて、以下のように述べています。

 それは「患者になりきれる」人だと思う。
 心臓の手術は命にかかわる。ましてや、他の病気を合併していたり、高齢だったり、再手術だったりすれば、なおのこと手術の難易度は高くなる。それだけ命を脅かす可能性もアップする。
 そういう難局を無事に乗り越えていくためには、患者さんの方もただ医師におまかせではダメだ。「絶対に元気になる!」「何が何でも生きてやる!」という強固な意志を持って、医師とともに病気に立ち向かっていく姿勢が重要になる。患者さんと医師がしっかりタッグを組んでこそ、難しい手術もうまくいくし、その後の回復も順調にいく。難易度の高い厄介な局面になればなるほど、このタッグが物をいう。
 (中略)
 手綱というのは、手術の向こう側をしっかりと見ているかどうか、手術後の青写真を描いているかどうかで決まってくる。たとえば、手術を無事に乗り越えたら、できるだけ早く仕事に復帰したい、ゴルフをしたい、野球観戦をしたい、旅行に行きたい。あるいは、あれを食べたい、あのレストランに行きたい・・・・。仕事でもプライベートでも何でもいい。目標や希望、「I want ~」というものがある人は、生きる方向へとぐっと手綱を手繰り寄せて進んでいける。そうでない人に比べて、手術後も割合すーっと回復していくことが多い。外科医の仕事は、患者さんがこの手綱を手繰り寄せやすくすることであって、手綱をつかんでいるのはいうまでも治療の主役である患者さん本人だ。

 『「一途一心」、命をつなぐ』  第3章 より  天野篤:著   飛鳥新社:刊

 最後は、患者自身の「治りたい」という意志が大事になるということです。

 天野先生は、患者さんが患者になりきるために、医師も医師になりきる。両者が“なりきって”初めて、治る力を最大限に引き出すことができるとも述べています。

 患者であることを自覚し、医師の言うことをよく聞いて実践する。
 それが、病気を克服するために必要だということですね。

「最高の手術」とは


 手術が成功したとは、手術が予定通りに終わって、患者さんが手術室を離れることでも、手術後、心臓の機能が順調に回復することでもありません。

 天野先生は、自身の考える「手術の成功」について、以下のように述べています。

 僕は、手術の成功とは次のようなものだと考えている。
 手術がうまくいって、患者さんが元気になって退院をして、普通の生活ができるようになって、社会復帰をして、周りから「本当に心臓の手術をしたんですか?」と聞かれるくらいまでよくなって、そして患者さん本人も「先生、手術をして本当によかったよ。こんなことができるようになったし、あんなこともできるようになった・・・・」と、心から喜んでくれる――。
 ここまできて初めて、手術は成功したといえる。少なくとも僕にとっては、これが心臓手術の完成形だ。
 さらに付け加えると、この成功の先にはまだ続きがある。
 患者さんがいつかその生を終えるとき、かつて心臓の病気に苦しんだことや手術を受けたことさえすっかり忘れていたら・・・・・。そして、「ああ、ここまで生きてきて本当によかった」と思ってくれたら――。
 その手術は、まさに「最高の手術」だったということができる。
 患者さんの人生に貢献できた。手術をしてきて本当によかった。心臓外科医としてそう思える、最高の手術である。
 いうまでもなく、僕らはこの最高の手術を目指して、毎日の手術に臨んでいる。
 つまり、手術が真に成功したかどうかは、すぐにはわからない。それは長い目で見て初めてわかるものなのだ。
 裏を返せば、心臓外科医はそれだけ長い間、患者さんに対して責任を持ち続けるということでもある。手術が終わったから自分の役割は果たしたとか、患者さんが退院したから自分の務めは終わったなどというのではなく、本当はその生涯にわたって手術の責任を追い続けなければならない。それが心臓外科医の本分というものだろう。

 『「一途一心」、命をつなぐ』  第5章 より  天野篤:著   飛鳥新社:刊

 自分が執刀した患者すべての命を背負う。
 そういう覚悟を決めている天野先生らしい考えですね。

 患者さんが自分が心臓を患っていたことを忘れてしまうほどの完璧な手術が「最高の手術」。
 目指す目標の高さが、天野先生を超一流の心臓外科医に押し上げました。

覚悟のない医者は手術をしてはいけない


 天野先生は、同じ判断ミスで2人続けて患者さんを失ったら、この道からきっぱりと足を洗うという決意を持って心臓外科医を続けてきました。

 難しい手術になればなるほど、術中は判断と選択の連続です。

 次に何をすべきか、どちらの方法を選ぶのか。
 秒単位の短い時間の中で、頭の中の経験と知識を総動員して判断を下します。

 しかし時には、患者さんにとって最善の道だと考えて選択しても、結果がついてこないこともあります。

 苦境に立たされた中でも一生懸命に考え、自分が正しいと思う判断を下した。それが患者さんにとって最善の道だと考えて選択した。しかし、結果がついてこなかった。命をつなぐことができなかった。それは自分の無知や経験不足が招いたことなのだから、心臓外科医にとっては敗北以外の何物でもない。
 だから、自分で自分に“角番(かどばん)”を宣言する。
 もう後はないぞ。今度、同じ判断ミスで患者さんを失ったら転落だ。心臓外科医を続けるわけにはいかない。引退しろ――。
 同じ轍を踏むのは、反省がない証拠だ。自分の力不足から悪い結果を招いたという事実を正面から受け止め、その原因を次に生かしていくことでしか、敗北は償えない。
 そのくらい自分に厳しくしていないと、命を預かる仕事を続ける資格はないと僕は思っている。
「覚悟のない医者は手術をしてはいけない。手術をするなら、自分の命を懸けるくらい覚悟で臨め。自分に厳しくなれ」
 若い医師には、事あるごとにそんな檄を飛ばしている。

 『「一途一心」、命をつなぐ』  第7章 より  天野篤:著   飛鳥新社:刊

 ほんの一瞬の油断や判断ミスが命取りとなるのが心臓外科医の仕事です。

「自分の命を懸けるくらいの覚悟」を持って臨めるか。
 それが一流と、そうでない人の差となって表れてくるということです。

スポンサーリンク

☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 タイトルにもある「一途一心」。

「ひたむきに、ひたすらに」という意味の言葉で、天野先生が大切にしている言葉です。

 1つのことにひたむきに取り組み、自分のことも、周りのことも気にならないくらい、無心になって向き合い、自分の信じた道を突き進んでいると、いつもの自分が持っている以上の力が湧いてきます。

 天野先生は、それをひたむきに努力した者だけが手にすることができる“不思議な力”と表現しています。

 心臓外科医は天職である、と言い切り、周囲の支えに感謝する天野先生。
 これからのご活躍にも期待したいですね。

 (↓気に入ってもらえたら、下のボタンを押して頂けると嬉しいです)
  にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 15

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA