【書評】『「老けない体」は股関節で決まる!』(石部基実)
お薦めの本の紹介です。
石部基実先生の『「老けない体」は股関節で決まる!』です。
石井基実(いしべ・もとみ)先生は、整形外科医、スポーツドクターです。
これまでに3000件以上の股関節手術を手がけられている、人工股関節手術の第一人者です。
関節の痛みは「股関節」から
関節の痛みは、姿勢の悪化をもたらし、見た目の老化を早めます。
さらには、さまざまな内臓の病気、あるいは神経系の失調や精神的な疾患にまでつながる危険性があります。
健康な体を維持するためにも、関節のトラブルを防ぐのは、とても重要です。
石部先生は、腰やひざ、足首などの関節痛は、じつは股関節の不調が原因となって起こっていることがよくある
と指摘します。
最初に、股関節の構造について。
股関節は、太ももの付け根にある大きな関節で、「体幹」つまり胴体と、両下肢をつないでくれています。
骨の形を見ると、腰の中にある骨盤の両側に臼状のくぼみ(寛骨臼〈かんこつきゅう〉)が開いていて、そこに、太ももの骨である大腿骨のてっぺんに飛び出ている、球状の骨頭がぴたりと収まっています。
骨盤の臼の部分と、球状の骨頭が接する部分には、それぞれに柔らかで滑らかな軟骨がついていて、「潤滑油」の役目を果たしています。
そして、その周りをいくつもの筋肉や靭帯が取り囲み、強くお互いをつなぎあわせています(下図参照)。
( 『「老けない体」は股関節で決まる』 第1章 より抜粋 )
石部先生は、股関節がその他の関節の痛み、特に腰やひざ、足首などの関節痛の原因となる理由について、以下のように述べています。
股関節に痛みや不具合があると、この「かなめ」あるいは「支点」が機能しなくなります。
すると、どうしても起立したときの体のバランスがゆがみます。これは、痛みを避けようとして意識的にゆがむこともありますし、痛みの自覚はなくても先天的な不具合があったりして、無意識のうちにゆがんでいることもあります。
そのようにして体のバランスが崩れると、わたしたちの体は腰やひざ、首などその他の関節でそのゆがみを吸収しようとします。
結果、腰やひざに強い負荷がかかるようになり、やがてその関節も痛むようになる、という理屈です。
歩くときにも、股関節は歩行の仕組みに深く関わっているため、股関節に痛みや不具合があれば、それをかばうように全身を動かすようになります。
すると、ひざや腰に大きな負荷がかかり、腰痛やひざの痛みを発症してしまうことが多くなるのです。
さらには、片方の股関節に不具合があれば、当然、その負担はもう一方の股関節にも伝わりますから、結果として両方の股関節を傷めてしまうケースが多くなります。こうなると歩くこと自体が難しくなりことが多いのです。『「老けない体」は股関節で決まる!』 第1章 より 石部基実:著 すばる舎:刊
石部先生は、股関節は、立ち上がったり、歩いたりするときの「かなめ」や「支点」になる大きな関節であるために、元来大きな負荷がかかり、痛めやすい関節であることから、ほかの関節よりも大きな注意を向ける必要がある
と強調します。
具体的な股関節への負荷の大きさは、通常の歩行では、体重の3~4.5倍、階段の上り下りでは、じつに、体重の6.2~8.7倍
もあります。
関節痛を予防する「歩き方」
股関節自体は「関節」であって、本質的には骨と骨との接合部にすぎません。
よって、「股関節自体を鍛える」ことはできません。
股関節を健全に保ち、傷つけないようにする。
そのためには、股関節をはじめとする関節への負担をなるべく小さくする歩き方をすることが必要となります。
石部先生は、本書の中で「グッド歩行」と名づけた、正しい歩き方を紹介しています。
グッド歩行の最大のポイントは、「それぞれの足がかかとから地面につくこと」です。
右足でも左足でもかまいませんが、わたしたちの足は歩行するとき、かかとから着地したあと、前に進むために重心が前方に移動していきます。
足の裏の地面との接地面は、最初に着地したかかとから、重心の前方への移動にともなってつま先のほうに移動していきます。
接地面が足の指の付け根を通過し、つま先が地面に着くころには、自分の体重が片脚にしっかりと乗っていることがわかると思います。
そして、その体重をつま先で地面をけるようにして前に送り、今度は最初に接地したかかとから地面を離れ、そのタイミングで反対側の足のかかとを地面に着けます。
そして前方に進みながら、今度は体重を反対側の足に移動させていく。
これを、左右の足の間でリズミカルに繰り返すことで、グイグイという感じで前方に進んでいくのが、正しい歩き方「グッド歩行」です。『「老けない体」は股関節で決まる!』 第2章 より 石部基実:著 すばる舎:刊
石部先生は、この歩き方であれば、足が地面に着地する際の衝撃や、重心を前方に移していく際の股関節への負荷などを、下半身のさまざまな筋肉でしっかり受け止めることが可能だ
と述べています。
とくに太ももやふくらはぎの筋肉は、ひざ関節と一緒になって、自動車のサスペンションのように、しなやかに衝撃を吸収してくれる
とのこと。
運動としての「ウォーキング」の重要性
正しい歩き方をすれば、普段の生活でも下半身の関節、特に股関節にかかる負荷を最小限にできます。
しかし石部先生は、それだけでは圧倒的に「量」が足りない、と指摘します。
そして、「ウォーキング」を日々の生活に取り込んでいくことを強く勧めています。
このウォーキングは、散歩より速いペースで歩くことで筋肉が酸素を消費し、体内の余分な糖や脂肪を燃焼してくれる有酸素運動です。そのため、若く健康な体をつくる効果が高いのです。
たとえば、週に3日以上習慣としてウォーキングをしている人には、一般的に心肺機能や酸素摂取能力の向上が見られます。また、同時に体脂肪率の減少も起こります。
血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が減少し、逆に善玉コレステロールが増え、安静時の血圧が下がることも多くの研究で実証されています。
となれば当然、脳卒中や心筋梗塞などの血管に起因する疾患や、糖尿病などの生活習慣病を予防することにもつながります。習慣的なウォーキングこれらの病気を予防することも、さまざまな調査ですでに裏づけられています。『「老けない体」は股関節で決まる!』 第3章 より 石部基実:著 すばる舎:刊
よいことづくしでデメリットがほとんどない運動がウォーキングです。
「グッド歩行」で週3日ほどの定期的なウォーキング。
ぜひとも、普段の生活に取り入れていきたい習慣ですね。
「変形性股関節症」の症状を見逃さない
股関節に痛みを引き起こす、もっとも一般的な病気に、「変形性股関節症」があります。
変形性股関節症は、姿勢や歩き方、その他の生活習慣により、長い時間をかけて進行する病気です。
自覚症状が出てくるのが、多くの場合中期段階以降です。
この段階になるとたとえ痛みをがまんしても、一時的によくはなっても、根本的に病気が治るということは期待できません。
以下に挙げる項目のいずれかに該当する場合には、変形性股関節症を疑ったほうがいいです。
◎床や椅子から立ち上がるときに、股関節に痛みや違和感がある
◎腰痛で病院に行ったのだが、腰のレントゲン写真は正常だった。
◎30分以上歩いていると、股関節に痛みや違和感がある
◎家事などの立ち仕事が股関節の痛みでできなくなった
◎寝返りを打つと、股関節の痛みで眼が覚めることがある
◎靴下を履くことや爪を切ることが困難になってきた
◎階段の上り下りが股関節の痛みでつらく、手すりが必要
◎加齢とともに下肢の長さが短くなってきて、身長が低くなった
石部先生は、股関節に痛みや違和感を感じたら、すぐに整形外科や股関節専門クリニックを訪ね、医師の診断を仰ぐ
ことを勧めています。
症状が重くなると、人工股関節手術を行う必要が生じます。
手遅れにならないうちに、早め早めに対処したいですね。
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股関節の痛みや、ひざや足首の痛みを抱えている人が、人工股関節手術で痛みから解放されて感じること。
それは、「普通に歩けることの喜び」です。
痛みが出てからでは遅すぎます。
普段の生活での予防が大事です。
それは、すべての病気に通じるところかもしれません。
正しい歩き方と定期的に歩く習慣を身につけて、いつまでも若々しい健康的な生活を送りたいですね。
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