【書評】『トリガー』(マーシャル・ゴールドスミス)

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 お薦めの本の紹介です。
 マーシャル・ゴールドスミスさんの『トリガー 自分を変えるコーチングの極意』です。

 マーシャル・ゴールドスミス(Marshall Goldsmith)さんは、エグゼクティブ・コーチです。
 世界的大企業の経営者100人以上をコーチしたことで知られる、この分野の第一人者です。

「トリガー」が人生を変える!


「今年こそは、◯◯をしよう」

 そう強い決意を持って取り組んだものの、続いたのは最初の数日間だけ。
 いつの間にか、記憶の彼方に忘れ去られてしまった・・・・・

 そんな経験は、誰にでもあるでしょう。
 なぜ、自らの行動を改善することが難しいのでしょうか?

 その問いに答える手がかりになるもの。
 それが、私たちを取り巻く環境に存在する「トリガー」(引き金)です。

 トリガーは私たちに新たな思考と行動をさせる刺激であればなんでもよい。起きている間ずっと、私たちを変えるトリガーとなりうる人、出来事、状況に囲まれている。これらのトリガーは突然、不意にやってくる。フィルの脳震盪のような大ごとの場合もあれば、紙で指を切った程度の些細なことの場合もある。先生に褒められて決意や志を強めて、人生を180度変えてしまうような嬉しいものもある。アイスクリームのようにダイエットを挫折させる誘惑のような逆効果なトリガーもある。仲間からのプレッシャーで悪いと知りながらやってしまうこともある。競争心を煽るトリガーには、高い給料というお馴染みの“ニンジン”から、ライバルに引き離されてイライラするものまである。大切な人が重病になったとか、会社売却のニュースなど気落ちさせるもの、雨音が甘美な思い出を甦らせるような自然界のものもある。
 トリガーは実際のところ、無限にある。それはどこから生じるのか? なぜ私たちのためにならないことをさせてしまうのか? なぜ気づかないのか? 私たちを怒らせたり、正しい軌道から逸脱させたり、「すべてこの世は事もなし」と感じさせたりするトリガーの瞬間をどうすれば正確に特定できるのだろう。それができれば、悪いトリガーを避け、よいトリガーを繰り返すことができるのに。どうすればトリガーを味方にできるのか?
 環境は、私たちの生活の中でもっとも強力なトリガーである。それも、常に私たちのために働くとは限らない。計画を立て、目標を設定し、その目標を達成して幸せになろうとする。それなのに、環境がいつも邪魔をする。台所からベーコンの香りが漂ってくると、コレステロールを下げなさいという医者のアドバイスを忘れてしまう。同僚が毎晩遅くまで残業するので、同じように頑張らなくてはという気持ちになり、子供の野球の試合を忘れてしまう。一つならず、次々と。携帯が鳴ると、大切な人の目を見る代わりに、明るくなった携帯のスクリーンを見てしまう。こうやって環境は、私たちを思わしくない行動へと走らせるトリガーとなる。
 トリガーとなる環境はだいたいがコントロールできるものではないから、どうしようもないと考えがちだ。運命に操られる人形。状況によって犠牲にされてしまう。私はそれをよしとしない。トランプでどんなカードが配られるかは運命だ。しかし、そのカードをどう使うかは選択できる。

 『トリガー』 はじめに より マーシャル・ゴールドスミス:著 斎藤聖美:訳 日本経済新聞出版社:刊

 本書は、身の回りのさまざまなトリガーを利用し、行動習慣を変える方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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大人の行動改善は難しい


 行動習慣の改善を達成するための重要な真実のひとつ。
 それは、「行動を有意義に改善するのは、とても難しい」です。

 行動を変えようと何かを始めるのは難しい、最後までやり遂げるのはもっと難しい。そのまま定着させるのはもっとも難しい。大人が行動を変えることは、生きとし生きるものが達成しようとすることの中で、もっとも困難なことであるとすら言いたい。
 誇張していると思ったら、次の質問に答えてみてほしい。

 ■あなたが改善したいことはなんですか?・・・・・体重を減らす(大きな目標だ)、転職する(これも大きい)、キャリアを変える(もっと大きい)といったことかもしれない。あるいは、髪型を変える、お母さんにもっと電話をする、居間の壁の色を変える、といったささやかなものかもしれない、何を変えたいとするかは、私の判断するところではない。
 ■どのくらいの期間、そう思っていますか?・・・・・朝起きて「今日こそ変えるぞ」と思うことが、何か月、あるいは何年の間、続いていますか?
 ■それで、どんな結果になりましたか?・・・・・つまり、ある瞬間、自分を変えようと決意し、行動し、満足いくような結果を得られましたか?

 この三つの質問は、何かを変えようというときに直面する三つの問題そのものだ。
「変える必要があることを認められない」。変化が望ましいことだと認識できない、あるいは、変化の必要を否定する巧妙な言い訳を考え出してしまうためだ。これから本書では、変化に抵抗しようとするトリガーとなる根深い考えを分析し、取り除いていこう。
「私たち惰性の力を正しく評価していない」。選べるものなら、私たちは何もしないことを選ぶ――だから「どのくらいの期間、そう思っていますか?」という質問には、何日ではなく、何年もという答えが多いだろう。惰性のせいで、私たちは何も始めない。長期的には自分のためになる、何か困難なことを始めるために、(痛みがない、慣れている、まあまあ楽しい)快適なことをやめるためには特別な努力がいる。ここで必要とされる努力を、本書で提供することはできない。それはあなたの問題だ。しかし、仕組みを使って、自分を監視するシンプルなやり方で自己改善を始め、持続させることができる。
「どうやって変えたらいいかわからない」。モチベーションと理解と能力には違いがある。たとえば、私たちは痩せたいというモチベーションはあっても、栄養学的理解がないし、効果的なメニューを作り、継続して料理する能力がない。あるいはその逆かもしれない。栄養の知識があり、料理の腕があっても、モチベーションに欠けることがあるかもしれない。本書の中心テーマは、私たちの行動は良くも悪くも環境によって形づくられるということだ。環境の力を正しく評価すれば、変わろうとするモチベーション、能力、理解が劇的に増加するばかりではなく、実際にやれるという自信が増す。

 『トリガー』 第1章 より マーシャル・ゴールドスミス:著 斎藤聖美:訳 日本経済新聞出版社:刊

 私たちは、自分の意思の力を過大評価し、「行動習慣なんて、すぐに変えられる」と考えがちです。
 しかし、習慣は、長い年月をかけて形成され、それこそ、身に染みついています。
 ちょっとやそっとで変えられるものではありません。

 安易に考えず、最善の方法を考える。
 それから覚悟を決め、腰を据えて取り組む必要があるということですね。

「生産的トリガー」と「非生産的トリガー」


 行動のトリガーとは、「行動に影響を与える刺激」のことです。
 さまざまな分類方法があり、「生産的トリガー」「非生産的トリガー」の分類もそのひとつです。

 生産的トリガーは、なりたい自分に向かうよう後押しをしてくれるトリガーのこと。
 非生産的トリガーは、逆になりたい自分から遠ざける働きをするトリガーのこと。

 この二つのトリガーの関係性を理解するためには、「欲しいもの」と「必要なもの」の関係を示したマトリックスを理解する必要があります(下図1を参照)。

生産性のマトリックス 第4章
図1.生産性のマトリックス (『トリガー』 第4章より抜粋)


 いかに、左側に位置するトリガーを減らし、右側に位置するトリガーを増やすか。
 それが、行動を継続させるための重要なポイントです。

 この図はクライアントの分析に役に立つ。彼らの人生でどういうトリガーがあったのかを整理することができる。少なくとも、それによって身の回りの環境に今まで以上の注意を払うようになる。さらに重要なのは、彼らが生産的な象限で行動しているかどうかを明らかにする点だ。マトリックスの右側は、成功した人たちが行動改善の目標に向かって進み、いたいと望む位置だ。

 さて、あなたの番だ。このささやかな課題をやってみてほしい。
 あなたが直そうとしている行動改善目標を一つ選ぶこと。スタイルをよくしようとか、親としてもっと忍耐強くなろうとか、厚かましい人にもっと断固とした態度をとるとか、誰でもいくつか持っているはずだ。
 あなたの仕事の質に影響を与える人や状況を書き出すこと。何百、何千という脳に訴える刺激があるはずだが、一日の中で出てくるトリガーをすべて書こうとしてはいけない。それではやりすぎだ。ある特定の目標に関連する一つか二つのトリガーに限るように。次に、それを定義する。後押しするものかやる気を削ぐものか。生産的か非生産的か?
 次に、トリガーをマトリックスに書き入れ、あなたは右側にいるかどうかをみる。目標未達でいるのなら、この簡単な作業でその理由がわかるだろう。あなたは欲しいものばかり得ようとして、必要なものは十分に得ようとしていないということだ。
 あなたの職場ですごく親しい友達、日に何度も机のところにやってきたり、仕事帰りにちょっと一杯寄って行こうと頻繁に誘ったりする友達は、家に帰って子どもたちと過ごそうとするのを邪魔するトリガーだったと気づくだろう(そういう友人は、しばらく「クビ」にする必要がある)。
 しょっちゅう早朝の運動をさぼるのは、朝フェイスブックやメールをチェックして時間を無駄にしているからだと気づくかもしれない。あなたは運動を必要としているが、そうではないことをやりたいと思っていることが明らかだ(運動するのに朝の時間が最適かどうか考え直す必要がある)。
 この作業をすることが、①あるトリガーについてよく理解できる手助けとなり、②行動の成功と失敗に直接結びつけて考えるヒントになればいいと思っている。

 『トリガー』 第4章 より マーシャル・ゴールドスミス:著 斎藤聖美:訳 日本経済新聞出版社:刊

「欲しいもの」と「必要なもの」は、必ずしも一致しない。
 当たり前のようですが、つい、見過ごしてしまいますね。

 問題解決の第一歩は、現状の把握です。

 変えたいのに、変えられない。
 上のマトリックスは、その理由を知るための強力なツールになりますね。

行動改善には、「選択肢」がある!


 行動改善には、「選択肢」があります。
 それをまとめたのが、下の「変化の輪」の図(下図2を参照)です。

変化の輪 第8章P115
図2.変化の輪 (『トリガー』 第8章より抜粋)


「プラス」「マイナス」をつなぐ軸は、私たちを助ける要素か、後退させる要素かを表します。

「変化」「保つ」をつなぐ軸は、変えようと決意する要素か、これからも維持しようとする要素かを表します。

 これらの四つの組み合わせから、行動改善の選択肢は、
  • 創る(変化、+)・・・・これから作り出したいプラスの要素を表す
  • 守る(保つ、+)・・・・これからも維持したいプラスの要素を表す
  • 取り除く(変化、ー)・・・・これから取り除きたいマイナスの要素を表す
  • 受け入れる(保つ、ー)・・・・これから受け入れる必要のあるマイナスの要素を表す
 ゴールドスミスさんは、「取り除く」ことの重要さについて、以下のように述べています。

 取り除くのは、もっもと解放的で、癒し効果のある活動だ。だが、私たちはいやいやする。屋根裏やガレージを掃除するときのように、何かを捨てて後悔するかもしれないと思う。いつか必要になるかもしれない。それが成功をもたらす秘訣だったかもしれないと思うと捨てられない。とっても好きだから捨てられないのかもしれない。
 私のキャリアでもっとも重要な転換の瞬間は、取り除くことだった。それは私が考えたわけではない。
 私は30代後半だった。国中を飛び回り、企業に組織行動の同じ話を繰り返して成功を収めていた。その繰り返しを維持することでたいへん儲かっていた。そのマイナス面を見るようにさせてくれたのは、恩師ポール・ハーシーだった。
「君は今やっていることを実にうまくやっているね」とハーシーは私に言った。「君の時間を企業に売ることで、ものすごいお金を稼いでいる」
 誰かが「実にうまくやっている」と言ってくれると、私の頭は中立状態に移り、褒め言葉を浴びると思う。だが、ハーシーはそこで終えなかった。
「君は自分の将来に投資をしていない」と彼は言った。「研究をして論文を書き、何か新しいことを見つけ出すことをしていない。今やっていることを、これから先も長く続けることもできるだろう。だが、君がなりたいような人物には絶対になれないよ」
 なぜか、最後の言葉がトリガーとなり、私の心に深く侵み込んだ。私はポールをものすごく尊敬していた。そして、彼が正しいことはわかっていた。ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、私は「今日のために将来を犠牲にしている」のだった。私の将来を見てみると、それは黒い空っぽの穴だった。心地よい生活を維持するのに忙しすぎた。飽きるか不満を持つようになるだろうが、その時では、手を打つのに遅すぎるかもしれない。忙しい仕事を幾分取り除かない限り、私のためになる何か新しいものを作り出すことは決してないだろう。
 収入はすぐさま減るが、日銭を求めて無益な動きをするのをやめて、異なる道を歩こうと決めたのはその瞬間だった。ポールのアドバイスにはずっと感謝している。
 私たちはみな、自分を傷つける何かを取り除いた経験がある。効果がすぐに表れ、確実である場合はとくにそうだ。厄介で信頼できない友人との付き合いをやめる、神経質になるのでカフェイン入りドリンクを飲むのをやめる、一日を台無しにしてしまうばかばかしい仕事をやめる、命に危険を与える習慣をやめる。その結果が極端に苦痛を感じるものであれば、私たちは一気に取り除く。
 問題は、楽しくてしていることを犠牲にするときだ。たとえば事細かに管理すること。表面的には、それはキャリアを傷つけるものではない。(他の人はともかく)自分のためになっていると信じている。この場合、私たちはこう考える。「どうしてやめなくてはいけないんだ?」そして何もしないことにする。

 『トリガー』 第8章 より マーシャル・ゴールドスミス:著 斎藤聖美:訳 日本経済新聞出版社:刊

 何度やってもうまくいかなかったが、別の方法で試してみたら、拍子抜けするほど簡単にできた。
 そういうことは、よくある話です。

 問題をいかに正確に把握するか、そして、いかに適切な方法で対処するか。
 それがポイントになります。

「変化の輪」は、つねに頭の片隅に覚えておきたいマトリックスです。

「AIWATT」で誘惑に打ち勝て!


 自分の行きたい方向から遠ざけるトリガーには、どう対処をすればいいのでしょうか。

 ゴールドスミスさんは、マイナスのトリガーから逃れる方法として「AIWATT」の考え方を紹介しています。

 AIWATTは、トリガーと行動の間のインターバルを長くするための仕組みだ。トリガーが何かの衝動を引き起こしたあと、行動に移る前に私たちは後悔するかもしれない。AIWATTはトリガーが引き起こした環境から、高慢な、皮肉な、批判的な、理屈っぽい、そして自己中心的な反応を引き起こすのを一瞬遅らせる。その遅れによって、もっとポジティブな反応を考える時間が生まれる。次の短い文章は、細かく解析するに値する。

 私はする気があるのか(Am I willing)というとき、日々の惰性の波に乗って動くのではなく、自分の意志で、責任をもって何かしようとしている。「私は本当にこれをしたいのか?」と自問している。
 今(At this time)というとき、現在に生きていることを思い出させる。あとになれば環境は変わり、異なる反応が求められる。今、私たちが直面している問題だけを考えればいい。
 必要な投資をする(To make the investment required)ということで、他人に反応することは、仕事であり、時間、エネルギーをかけるもの、そしてチャンスでもあることが念頭に浮かぶ。そして、どんな投資にでも言えるように、リソースは限られている。これにより私たちは、「これは本当に私の時間の最善の使い方か?」と自問しているのだ。
 ポジティブな違いを作り出すため(To make positive differece)には、私たちの親切で、優しい一面を強調する。私たちはもっとよい人になれる、もっとよい世界を作る手助けができることを思い出させる。もしそのいずれかが達成できないのなら、そもそも、なぜやろうとするんだ?
 この案件に(On this topic)とすることで、足元にある問題に焦点を絞る。すべての問題を解決するのは不可能だ。ポジティブな違いを作れない問題に時間を使うのは、違いを作れる問題から時間を盗むようなものだ。

 AIWATTを展開するのは、親切にしようか、どうしようか選ぶ瞬間に限られたことではない(とはいえ、親切にすることの重要性はいくら高く評価しても、高すぎるということはないが)。一見些細に思えるが、私たちの評判を決めるとか、関係がうまくいくかどうかを決めるようなときに、この質問は重要となってくる。

 『トリガー』 第13章 より マーシャル・ゴールドスミス:著 斎藤聖美:訳 日本経済新聞出版社:刊

 ほとんど無意識にやっていた行動も、立ち止まって冷静に判断することで思いとどまることができます。
 自制心を呼び起こす魔法の言葉、「AIWATT」。
 これからすることは、自分にとって本当にためになるのか、ならないのか。
 少しでも迷いがあるときには、ぜひこの言葉を思い出したいですね。

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 人間の行動習慣を変えるのは、正しい仕組みが必要です。
 人間の意志の力は、消耗品で、限りがありますから、それだけで、習慣を変えようとしても、無理があります。

 私たちの行動は、意識的にしろ、無意識的にしろ、環境に左右される部分が大きいです。
 環境の中に潜んでいる無数の「トリガー」のうち、どれを引いて、どれを引かないか。
 それが、私たちの行動のすべてカギを握っています。

 要は、好ましいトリガーを身の回りに近づけ、好ましくないトリガーをできる限り遠ざける。
 それが行動習慣改善の秘訣だということ。
 本書は、そのためのノウハウがぎっしりと詰め込まれています。
 本気で自分を変えたい人は、ぜひ一読して頂きたい一冊です。


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