本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』(森岡毅)

 お薦めの本の紹介です。
 森岡毅さんの『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』です。

 森岡毅(もりおか・つよし)さんは、マーケターです。
 2010年にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に入社、革新的なアイデアを次々と投入し、窮地にあった同社をV字回復させた実績をお持ちです。

USJ復活の裏に「マーケティング」あり!

 2001年、華々しく開業したUSJ。
 ところが、すぐに客足が減り、経営危機に落ち込んでしまいました。

 しかし、2011年頃から新企画を次々と当て続け、毎年100万人ずつ集客を増やすことに成功します。
 ついには、2014年度の年間集客数(1270万人)が、開業年度の記録(1100万人)を大きく塗り替えます。

 USJはなぜ復活し、大成功をおさめることができたのでしょうか。
 森岡さんは、以下のように説明しています。

 その秘密は、たった1つのことに集約されます。
 USJは、「マーケティング」を重視する企業になって、劇的に変わったのです。
 かつては新規事業の成功率は30%程度でした。それが今や、97%! 「全弾命中」といっても過言ではありません。
 人々の購買行動を決定的に変えてしまう恐るべき職能、それが「マーケティング」です。私はその職能を専門にするプロの1人、「マーケター」です。USJではCMOを務めています。CMOを採用している会社は日本ではまだ少ないのでなじみが薄いかもしれません。「マーケティング最高責任者」という意味です。

「マーケティング? 知ってるよ。市場調査したり、プロモーションプランを作ったりする仕事でしょ?」
 多くの方の認識は、まだその程度のものかもしれません。
 しかしそれは間違っています。日本の多くの、いや、ほとんどの企業は、マーケティングの本当の意味を理解していません。マーケティングを正しく理解できれば、必ず成功できます。それはUSJの劇的なV字回復を見ていただければ一目瞭然(りょうぜん)だと思います。
 私はできるだけ多くの人に、「マーケティングの考え方はマーケターだけのものではない。学ばないともったいないですよ」と伝えることにしています。マーケティングの基本の考え方である「マーケティング思考」は、全ての仕事の成功確率をグンと上げるからです。ビジネスで成功したい全ての人は、マーケティング思考を一度しっかりと学んでおくべきです。
 なぜならばマーケティングこそがビジネスを成功させるための方法論だからです。マーケティングの考え方は会社業績を上げるための道しるべとなります。マーケティングの根本にある戦略的な考え方は、仕事内容に関係なく、あなたが周囲から期待される成果を大きく上回っていくための必勝法なのです。

 『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』 第1章 より 森岡毅:著 KADOKAWA:刊

 森岡さんは、マーケティング思考の一番大切な根幹部分は、実は誰にでも理解できると指摘します。

 本書は、ビジネスで成功するためのカギである「マーケティング思考」について、具体例を交えてわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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変えたのは、「1つ」だけ

 USJが劇的に生まれ変わった理由。
 それは、社内の価値観と仕組みを「消費者視点」に変わったことです。
 森岡さんは、USJが消費者視点の会社に変わったということが、V字回復の最大の原動力だと考えています。

 消費者視点とはどういう考え方でしょうか? 私がかつて修行したP&Gというグローバル企業が信じている価値観に「Consumer is boss. (消費者を上司だと思え)」というものがあります。あの会社がやろうとしていた考え方は、この消費者視点(Consumer Driven)に限りなく近いと思います。つまり「消費者の方を向いて消費者のために働け」という意味です。
 実はP&Gに在席していた当時の私は、このConsumer is bossという表現はあまり好きではありませんでした。この表現は、bossつまり上司がどれだけ重要で無条件に言うことを聞くべき存在かと言っているように取れたからです(笑)。私は自分の意見に執着して上司に逆らうことも多い行儀の悪い社員でしたから、自然と反発を覚えたものでした。「日本ならConsumer is God(お客様は神様)やろ、なんでbossやねん」と。
 Consumer Driven Company(消費者視点の会社)であるということは、とにかく消費者の喜ぶことならば何でもしますということではありません。むやみにコストをかけて消費者の要求に対応するようでは、中長期では消費者の価値を生み出すことができなくなるからです。会社がずっと続いていくためには、様々な制約の中で総合的な判断を重ねていくことになります。その難しい判断の起点となるのは、結局のところ「どれだけ消費者の価値につながるのか」という1点に尽きるのです。
 簡単に言えば、会社側のどんな事情もどんな善意も、消費者価値につながらないのであれば(消費者に伝わらないのであれば)、一切意味がない。そう腹をくくった意思決定をできる会社がConsumer Driven Company(消費者視点の会社)です。

 『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』 第1章 より 森岡毅:著 KADOKAWA:刊

 消費者の視点から、さまざまな戦略を練り、方針を立てる。
 当たり前のような気がしますが、実際に徹底できている企業は少ないです。

 多くの部署、人が絡む商品ほど、コンセプトはブレやすくなります。
 コンセプトの軸をしっかりと支え、進むべき方向を示す。
 マーケティングには、そんな重要な役割があるのですね。

「マーケティングの力」で世界を制したアメリカ企業

「マーケティング」は、アメリカ合衆国生まれの考え方です。

 アメリカで生まれた「自由競争市場」。
 そのなかで生き残る必要に迫られた多くの企業により、いち早く導入され、方法論として磨かれてきました。

 いち早くマーケティングを研ぎ澄ましていったいくつものアメリカ企業は、爆発的な勢いで成長し、アメリカ国内に留(とど)まらず、世界的企業へと大いに飛躍していきました。わかりやすい例としては、米国中西部のシンシナティーという田舎で石鹸(せっけん)とロウソクを売っていた「P&G」(プロクター・アンド・ギャンブル社。私の古巣でもあります)は、世界最大の消費財メーカーへと発展していきました。炭酸飲料でおなじみの「コカ・コーラ社」も世界最大のソフトドリンクメーカーへと飛躍し、「マクドナルド社」も世界最大のファストフード企業へと著しい成長を遂げたのです。
 これらの会社はマーケティング技術を更に発展させるための新たな試みを生み出し、様々な革新をもたらします。諸説あるようですが、例えばP&Gは、世界で初めて組織だった消費者サンプリングの技法(家庭用洗濯洗剤を消費者の家の玄関においてまわり、商品使用経験率を強制的に上げることで購買促進を行った)を確立したり、急速に普及していったTV放送に着目し、商品プロモーション目的で初めてTVCMを使用したと言われています。
 コカ・コーラは古くからブランドイメージの強化に熱心で、ブランドを知財として認識して類似品に対する法廷闘争に早くから注力したことで知られます。また、自社をブランド戦略構築と原液を売るボトリングカンパニーとして確立し、消費者に一番近い現地で瓶詰めするボトラーを広く募るフランチャイズ形式を確立したことで一気にビジネスを拡大、瞬く間に全米を手中にし、世界へと飛躍していきました。
 他にもマーケティングの先人たちが血のにじむような試行錯誤で積み重ねた多くのマーケティング技法があり、現代の我々は幸運なことにそれらを学ぶところから始めることができるのです。
 これらのマーケティング企業の爆発的な成長に共通しているのは、「ブランド・マネジメント・システム」と呼ばれる経営管理手法を活用することで成長してきたことです。ブランド・マネジメント・システムとは、ブランドごとに収益責任を持つ担当者(ブランド・マネージャー)を置き、複数の部署からなるチームを束ねて牽引するシステムです。いわば企業内社長のような役割を担わせ、ブランドそれぞれが小さな会社のように「ブランド価値向上」の意思決定が行える単位として組織された会社構造です。ブランド・マネジメント・システムによって、部門の障壁を越えた消費者視点でブランド価値を飛躍させることができました。
 特筆すべきは、このような実戦の積み重ねにより培われたマーケティングの発展の舞台は、ほとんどがアメリカであって日本ではなかったという事実・・・・・。巨大な自由競争市場のアメリカにおいて、企業が生き残るための消費者最適を担保する知恵を体系立てたもの、それが「マーケティング」という実戦学なのです。

 『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』 第2章 より 森岡毅:著 KADOKAWA:刊

 名前を聞くだけで、何をしている企業なのか、すぐにわかる。
 誰もが、同じようなイメージを抱く、世界的な大企業は多いです。
 それらは、成り行きでそうなったのではありません。
 綿密に計算され、多額の費用と膨大な時間を掛けたマーケティングの成果です。

 正しい方法で、しっかり計画を立てて行えば、掛けたコストの何倍ものメリットをもたらす。
 それが、マーケティングの威力だということです。

マーケティングは「流れの悪い川の治水工事」だ

 マーケティングとは、「売れる仕組みを作ること」
 具体的には、以下のようなビジネス・ドライバーの流れをコントロールすることです。

  • Awareness(%)    認知率
  • Distribution(%)    店頭での配荷率
  • Display(%)      店頭での山積率
  • Trial(%)       購入率
  • Repeat(%)      再購入率
  • Pricing         平均価格
  • Purchase Frequency   購入頻度

 これらのビジネス・ドライバーに数値を当てはめることで、ブランドの売上を計算することができます。いきなり計算とか言われてドン引きしないでください。小学生でもわかる四則演算だけ使い、ここでは話を簡単にするためにざっくりと解説します。
 まず、市場に存在する消費者の人数に、認知率、配荷率、購入率を掛け合わせると、何個売れるのか計算することができます。

「売上個数」=「消費者の数」×「認知率」×「配荷率」×「購入率」
(1人が1個だけ買う場合。複数購入の場合は平均購入個数を掛け合わせる)

 次に、それに平均客単価を掛ければ売上金額になります(ここでは割愛しますが、更にリピート率や購入頻度を使って一定期間内の売上金額を計算することもできます)

「売上金額」=「売上個数」×「平均価格」=
「消費者の数」×「認知率」×「配荷率」×「購入率」×「平均価格」

 マーケターは目指している売上個数や売上金額を達成するために、このようなモデルを用います。逆に上手(うま)く行くためには「認知率を何%いかなくてはいけないか?」とか「購入率をあとどれだけ上げなくてはいけないか?」などと思案しています。目的から逆算して、成功するための必要条件を理解しようとするのです。

 具体例で示しましょう。USJであるブランドのイベントを企画したときです。そのブランドは全国に活発なファンが500万人いることが調査でわかっていました。また、認知形成に使えるマーケティング予算から想定すると、認知率は50%はいけるであろうと考えていました。次に配荷率ですが、日本全国におけるUSJの配荷率(買おうと思えば買いにいける割合)はさまざまな見方があり得ます。関西に1拠点しかないUSJでのイベントですので、交通費や宿泊費など大きな費用がかからなくても来場できる範囲と考えて関西の人口比率(つまり20%)を配荷率としました。やってみるまでははっきりわからなかったのは購入率です。大型テーマパークでやるそのようなイベントは初めてのことでしたので、自社にも競合にも参考になるデータはありませんでした。その時、私はコストを回収するのに必要な購入率は最低でも6%、もし10%までいければ大成功というように、数値を当てはめて検証していました。
 このようなシミュレーションで成功のための必要条件が明確になれば、その後やるべきことも明確になります。この場合は、実際にファンの間での認知率50%を達成するプランを作ることと、認知した人の10%が購入したくなるような魅力のあるイベント内容を制作すること、そしてその魅力的な内容を認知プランの中心に据えて訴求していくことです。そして、実際には10%以上の購入率を達成する大成功をおさめることができました。
 ちなみにこの計算式は、テーマパークに限らず、多くの業種に置き換えて適用できます。皆さんの関係しているビジネスでもシミュレーションしてみて、どこがポイントかを確認することをオススメします。

 『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』 第3章 より 森岡毅:著 KADOKAWA:刊

 森岡さんは、マーケターの仕事は「流れの悪い川の治水工事」に感じることがしばしばだ、と述べています。
 一番上流にある「市場の大きさ」という湖に100%溜まっている水を、川を使って一番下流の「売上」という企業の池へと、できるだけ多く流していくゲームだからです

 商品を売るために、今、最も力を入れて取り組むべきはどこか。
 マーケティングの仕組みを理解し、ポイントを見定める目が必要となりますね。

なぜ、「戦略」が必要なのか?

 森岡さんは、マーケターになるための最も重要なスキルは、「戦略的思考能力」だと述べています。
 戦略とは、何か達成したい目的を叶えるために、自分の持っている様々な資源を、何に集中するのかを選ぶこと。
 つまり、「資源配分の選択」です。

 戦略の意味を理解していくためには、戦略がなぜ必要かを理解することが近道です。そもそも戦略がないと何が不都合なのでしょうか? 戦略が必要な理由は2つあるのです。

  1. 達成すべき目的があるから。
  2. 資源は常に不足しているから。

 裏返すとこういうことです。目的がないなら戦略は必要ないですし、資源が無限にあるのであれば戦略は必要ないのです。しかし現実は、達成したい目的に対して資源は常に足りないのです。どんな大会社でも資源は常に不足しています。大きな会社は、達成すべき目的がより高いところに設定される上に、守るべきビジネスの範囲も広い。図体(ずうたい)の大きさに比例して資源を使う量も大きくなるので、経営資源は常に足りなくなるのです。
 とある米国の大事業家の言葉を紹介します。「およそ経営資源は達成したい目的に対し、常に圧倒的に足りないのであって、それは創業時代も今も変わらないチャレンジである」。
 ある歴史的名将もこのような言葉を残しています。「私の人生は、あと少しの騎兵、あとほんの少しの歩兵さえあればと願い絶望する苦悶(くもん)の日々の積み重ねそのものである」。
 そして、とあるマーケターの言葉(笑)。「私の人生は、あと少しの広告宣伝費、あとほんの少しの設備投資費さえあればと願い絶望する苦悶の日々の積み重ねそのものである」。
 私が着任した5年半前のUSJで使えたお金の少なさも、ある意味で究極でした。巨額な費用がかかるハリー・ポッターに資金を集中するために、それ以外ではほとんどお金を使わずに大きな集客増を何年も繰り返すことが求められたのです。
 経営資源は常に足りないのです。私がUSJに入ったときも足りなかったですが、V字回復した今も足りません。もちろん使える絶対額は大きくなっていますが、図体が大きくなってくると必要な出費もどんどんかさんでくるわけです。
 経営資源が足りない中で目的を達成するためには、限られた貴重な経営資源をどれだけ無駄なく有効に使うのか、考えて考え抜くことが必要になります。考え抜いて選ぶのです。選ぶことで足りるようにするのです。その選択こそが戦略です。

 『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』 第4章 より 森岡毅:著 KADOKAWA:刊

 スポーツでも、勝敗が実力通りに決まるとは限りません。
 たとえ能力で劣っていても、それを100%出し切れば、格上の相手に勝つチャンスはあります。

 どうすれば、自分の持っている資源(リソース)を100%出しきれるか。
 そこに「戦略」の果たす大きな役割があります。

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 森岡さんによると、日本人は、「卓越した戦術的な強み」を持っている民族とのこと。
 その特性は、工場などの現場の生産性(能力、規律、モラル)で、抜群の強さを発揮します。
 今日の、“ものづくり大国・日本”は、そうした優秀な技術者・作業員・オペレーターに支えられてきたのは、間違いありません。

 一方、日本の組織に欠けているのは、「戦略」です。
 森岡さんは、日本の組織の多くは、戦略を間違えるというよりもむしろ「戦略がない」ことが多いと指摘されています。

 作れば売れる、そんな時代は、すでに終わっています。
 誰に、何を、何のために、どうやって売るのか?
 しっかりと戦略を練り、ターゲットを絞った製品を作る必要があります。

 日本ではまだ、「マーケティング=TVCM」程度のイメージしか持っていない人も多いです。
 しかし、これからは、その重要性はますます浸透していくでしょう。

 これからの時代、売れるか売れないかを左右するのは、技術力よりもマーケティング力。
 販売に関わる人だけでなく、すべてのビジネスパーソンに読んで頂きたい一冊です。

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