【書評】『官僚に学ぶ人を動かす論理術』(久保田崇)

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 お薦めの本の紹介です。
 久保田崇さんの『官僚に学ぶ人を動かす論理術』です。



 久保田崇(くぼた・たかし)さん(@takashi_kubota)は、元キャリア官僚です。
 大学卒業後、2001年に内閣府に入省。
 東日本大震災のボランティア活動を契機に、2011年8月から陸前高田市副市長を務められています。

官僚の仕事に必要不可欠な「論理的思考」


 国会答弁、法案作成、事務通知、決裁書の作成など。
 それら官僚が日々おこなう業務で最も厳しく問われるのが、「論理性」です。

 理屈や筋道の通らない法案や政策が立案されれば、国会の審議などで徹底的な批判に晒されてしまいますから、当然といえば当然です。
 官公庁が立ち並ぶ霞が関には、論理的思考に長けた職員が多いです。
 国会などにその政策が提示される以前に、上司や関係部署により、その内容や理屈付けが厳しく審査されます。
 このような理屈付けの審査は、「詰める」と呼ばれています。
 審査の段階で質問に答えられないと、「詰めが甘い」と言われるのだそうです。

 久保田さんは、国の官僚として10年間、このような厳しい環境で訓練されてきました。
 
 本書は、意思決定の効果的なツールとしての論理術の基礎を解説し、「筋道が通っていて、誰にもわかりやすい」説明をするための会話術やプレゼンテーションの方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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課題解決に必須な「空、雨、傘」のフレームワーク


 論理的思考による課題解決には、正確な事実の把握が何よりも大切で、それを元に論理を組み立てます。
 特に大事なのは、「事実」と「判断」の区別で、これらが混同していると、意思決定が混乱します。

「事実」と「判断」の区別の重要性を伝えるものに、以下のような「空、雨、傘」のフレームワークがあります。

①空=事実 黒い雲が広がってきました
②雨=見解 雨が降りそうです
③傘=提案 傘を持っていくことをお勧めします

 空を見たら黒い雲が広がっていた。これは「事実」で誰も否定できないもの。すべての出発点です。
 次に、その黒い雲を見て「雨が降りそう」と予測した。これは人によっては「雨は降らないだろう」と予測するかもしれません。見解が分かれる部分です。
 最後に「傘を持っていこう」と提案(判断)します。これも人によっては「傘ではなく雨合羽を持っていこう」などと、判断が分かれる部分です。

  『官僚に学ぶ人を動かす論理術』  第1章 より  久保田崇:著   KKベストセラーズ:刊

 まずは、「空」に関する正確な事実認識が必要です。
 それによって、「雨」が降るか降らないかの見解が全く違ったものになります。
 否定できない事実は何か、しっかりと見極める力を養いたいところですね。

上司を論理的に説得するには


 自分の提案書や企画書を成立させようとしたとき、上司を論理的に説得することが大きな関門となります。
 論理的に聞こえない一番の理由として、「全体像の説明がない」ことがあげられるとのこと。

 陸前高田市のがれき処理の問題を例に取れば、いきなり「金属がれきの処理引き受け費用の業者見積もりの比較」の話題に入るようなケースがあります。確かに担当者にとってはその件で頭を悩ましているのだということはわかります。
 しかし、話を聞く側としては、まず木質、プラスチック、コンクリート、金属、堆積物など何種類かに分類されるがれきのうち、金属がれきの割合はどれくらいで、金属がれき以外の処理はうまくいっているのか、そういった全体像の説明がほしいところです。その上で「本日は金属がれきの処理についての相談です」と言ってもらえばわかりやすく感じます。
 とりわけ、上司はあなたより視点の範囲の広い(担当分野が広がったり、幹部の意向、世の中の動きを把握している)はずです。細かい論点より、全体像の理解と考え方の方向性を決定することに、より関心があるのです。
 そして、順を追って論理的に説明するには、全体像のような「問題の背景」から始まり、問題点の詳細、それに対する提案内容への批判的観点といったように、順を追って相談を進めていくとよいと思います。

  『官僚に学ぶ人を動かす論理術』  第2章 より  久保田崇:著   KKベストセラーズ:刊

 上司の立場からすれば、拠り所となる根拠がなければ安心して部下に任せることができませんから、当然のことかもしれません。
 自分の仕事が大きなプロジェクトの一部分でも、常に全体を把握しながら、上司の立場で考えるように心掛けたいですね。

ケンブリッジで学んだ「6×6」ルール


 印象的なスピーチやプレゼンテーションをする際にも、論理的な考え方や話し方は必要不可欠です。
  発表に使用するパワーポイントなどで作成したスライドにも、工夫を凝らす必要があります。
 1枚のスライドの中に文字をぎっしり書き込んでいる人を見かけますが、聴衆の側からすると見る気がしないものです。
 そうならないための対策として、久保田さんは「6×6」ルールというものを紹介しています。

 私が、英国ケンブリッジMBAの授業で学んだプレゼンテーションの指導では、1枚のスライドには6行以内、1行6単語(6 words)以内というのが原則でした。このくらいにまとめると、すっきりして頭に入りやすくなります。自分のペースではなく、あくまで聞く側の立場に立って資料を作成するということが必要なのです。もっとも、このくらいにコンパクトにするためには、主張を明確化するのが必須です。「あれも言いたい、これも言いたい」ではいけないのです。
 私はケンブリッジ時代にクラスメイトのたくさんのプレゼン資料を見る機会がありましたが、官僚出身である自分のプレゼン資料は、論理的な構成であっても、字が多い(テキストばかりである)ことに気がつきました。これに対し、コンサルティング会社出身のクラスメイトの資料は、聴衆を引きつけるために、主張を裏付けるグラフやイメージ画像、写真などを多用していたのです。

  『官僚に学ぶ人を動かす論理術』  第3章 より  久保田崇:著   KKベストセラーズ:刊

 ここでも一番大事なのは、相手の立場で考えること。
 言いたいことを詰め込むことよりも、いかに重要でないところを切り捨てられるかがポイントとなります。
 久保田さんは、この事実に気づいてから、「これは!」と思う構成とビジュアルに優れたパワーポイントの資料を可能な限り入手して、自分の手元に保存して、自分が資料をつくる際の参考にしたそうです。

個人の意思決定は「直感」で決める


 仕事においては、可能な限り、論理的な思考にもとづく意思決定が必要になります。
 しかし、久保田さんは、個人としての意思決定については、ここまで理屈付けにこだわる必要はない、と考えています。
 常にロジカルな思考を要求されては、疲れてしまいます。
 むしろ、自分にわがままに「好きか嫌いか」で決めたほうがよい、として以下のように述べています。

 私自身、米国か英国かという、留学の選択については、直感で英国を選択しました(米国に比べて英国留学経験者が少ないために情報の入手に苦労したり、TOEFLではなく、IELTSという独自の英語テストを受験する必要がありましたので、それなりの代償は払いましたが)。
 あるいは、もっと単純に、休暇の旅行先の選択については、「まだ行ったことがないから」「世界遺産があるから」「費用が安いから」という好き嫌いで決めています。
 このように、論理的思考は仕事の場では必須と言えるものですが、どんな場面でも使えるかというと、そうではないと思います。
 むしろ、プライベートな場面ではシンプルに好きか嫌いかで決めるほうが、公私のメリハリがついて、よい結果を生みだすことが多いように思います。

   『官僚に学ぶ人を動かす論理術』  第5章 より  久保田崇:著   KKベストセラーズ:刊

 論理的な思考力よりも、直観力が要求される場合も、当然のことながらあるということですね。
 プライベートな部分、特に就職や転職などの人生の岐路となる重要な局面ほど、その傾向は高まります。
 最終的な結論は、「好きか嫌いか」で決断したほうが、それがどんな結果になろうとも、後悔は少ないですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 論理的思考や論理術は確かに大事で、身に付けた方がいいことは間違いありません。
 しかし、それだけでは物事が進まないのも事実です。
 久保田さんも、仕事で最も困難な部分は人脈や人間関係、コミュニケーションで、論理術はあくまで仕事をスムーズにこなすためのツールに過ぎないとおっしゃっています。
 問題解決の場面で、論理術を用いる冷静さは欠かせません。
 しかし、それ以上に必要なのは、相手に共感できる「温かい心」です。
 特に被災地の陸前高田市で働くようになって、そのことを強く感じているそうです。

 現代の日本は、問題が山積していて、生活をしていくだけでも厳しい世の中といえます。
 だからこそ、問題から目を背けずに対処する「冷静な頭」と相手を思いやる「温かい心」。
 その両方を兼ね備えることがますます重要になってきますね。


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