【書評】『キャリア官僚の交渉術』(久保田崇)

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 お薦めの本の紹介です。
 久保田崇さんの『キャリア官僚の交渉術』です。

 久保田崇(くぼた・たかし)さんは、大学卒業後内閣府に入府し、ニート対策などの若者政策に携わる一方で、法案や予算の説明や各省協議における複雑な利害調整を通じて、要求やクレーム対応などのハードな交渉を多く経験されています。
 東日本大震災後のボランティア活動を契機として、2011年8月から岩手県陸前高田市の副市長を務め、官僚時代の経験を武器に、海外や非営利団体(NPO)、企業等からの支援案件の交渉などを手がけてられています。

交渉の基本は、「相手の興味をさぐる」こと


 国の事業は、小さなものでも、億単位の予算が動きます。
 関わる人の数も、一般企業とは、比べ物になりません。

 省庁を横断する大プロジェクトとなれば、掛かる労力は計り知れないです。

 縦割りで、縄張り意識の強い他部署との交渉をまとめ上げる。
 自部署内では、上司の承認という関門(いわゆる「スタンプラリー」)をいくつも乗り越えて、ようやく最終責任者の決裁を受ける。

 考えただけで頭が痛くなりそうな経験を、幾度となくこなしている久保田さん。
 そんな「交渉のプロ」が、“交渉の心得”について以下のように述べています。

 交渉事の特徴は、言うまでもなく、人間を相手とすることです。このため、いくら頭がよく、論理明快な提案をしても、それだけで相手を説得できるとは限りません。同様に、きれいな資料で上手にプレゼンテーションを成功させたとしても、それだけで相手を説得することはできません。
 交渉ごとを成功させるための本質は、「相手が喜ぶことをして心から納得してもらう」ことです。つまり、交渉の基本は、相手に関心を持ち、相手の興味のありかを探ることではないでしょうか。

 『キャリア官僚の交渉術』 序章 より  久保田崇:著  アスコム:刊

「技術」より、まずは「気持ち」。
 交渉事も突き詰めれば、人と人、1対1のコミュニケーションです。

 相手をいかに理解し、自分を理解してもらうか。
 信頼関係を築き上げられるか。

 それが、決め手になります。

 本書は、こちらの意思をはっきり伝え、かつ、相手の意思を汲む、双方にメリットのある「Win-Win」スタイルの交渉をするためのアイデアをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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永田町で「俺は聞いていない」は何を意味するのか


「俺は聞いていない」

 そう国会議員に言われたら、その意味は、

「この件は俺に事前に相談していないので、絶対に認めない」

 です。

 政治家にとっては、その案件を知らないということは恥であり、許せない事態です。官僚から軽んじられているということは、相手のプライドを傷つけることにもなります。これは会社の上司であっても同じことです。 法案の審議の段階になって、このようにヘソを曲げられてしまうと、非常に困ります。したがって、このような事態が生じないように、「ちょっとでも反対する可能性のある議員」には、全員根回しをします。根回しというのは事前にご説明に上がり、了解を得ることですが、その対象議員の数は、一本の法律を作るだけで、衆議院・参議院あわせて100人以上になることは珍しくありません。事前の根回しは、「多く、漏れのないように」議員をリストアップし、官僚がローラー作戦で説明に励むのです。
 その100人の議員を一堂に集めて一度に説明させてもらえれば労力は非常に少なくて済みますが、議員の方が官僚より立場が上なので、そのような「説明会」を企画したところで来てはくれないでしょう。ですから、一人一人の議員会館の事務所に、それぞれ説明して回る必要があるのです。

 『キャリア官僚の交渉術』 第二章 より  久保田崇:著  アスコム:刊

 官僚にとって、議員は、クレームや文句の多い「わがままなお客さん」というイメージです。

 それにしても、100人の議員を個別に説明ですか。

「だから日本の政治は非効率なんだ」

 そんな批判は抜きにして、根回しの重要性がよくわかります。

「1勝3敗」のススメ


 交渉事は、必ず勝つ(自分の言い分が通る)方がいいのかというと、そうとは限りません。

 久保田さんは、直属の上司との関係では、時間をかけて1勝0敗という結果を出すより、まずは先に負けておいた方が、迅速に上司の決裁を得られる(早いうちに1勝をあげる)ことになると述べています。

 久保田さんも、上司に意図が的確につかめずに、指示された資料作成に戸惑う時がありました。
 その時にとった方法が、「やり直しを覚悟で、何度もその上司トライすること」でした。

 久保田さんは三度のダメだしをもらいましたが、結果的に、目標期限ギリギリで上司の満足のいく資料を書き上げることに成功します。

 このプロセスを上司との交渉と捉えると、三度の「負け」(ダメ出し)のあとに勝ちましたので、1勝3敗となります。ひょっとしたら、じっくり時間をかけて検討しさえすれば、ダメ出しされることもなく、1勝0敗になったかもしれません。しかし、上司との交渉に回数に制限はないのですし、目標期限が迫っているような場合には、早めに負けることで最終的な交渉の成果を勝ち取るということができるのです。
 指示の意図が不明確な上司、言葉で伝えるのがうまくない上司に対しては、こちらが何度か負けながら、そのニーズをさぐっていく方法が有効なのです。

 『キャリア官僚の交渉術』 第三章 より  久保田崇:著  アスコム:刊

 最悪のパターンは、時間をかけて作成した資料が、上司の意図を汲み取っていなかったために、最初からやり直しとなるケースです。

 早めの軌道修正をする。
 その観点からも、玉砕覚悟で、さっさと上司に見せるというのは、とても効果的です。

情報発信から「共感発信」の時代へ


 久保田さんは、尊敬する内閣府の先輩であり、現在佐賀県武雄市の樋渡啓祐市長の言葉を持ち出し、これからは情報発信の時代ではない。共感発信の時代だと述べています。

 武雄市は、全国で初めて、市のホームページをフェイスブックに一本化し、アクセス数を激増させたことで有名です。

 このフェイスブックの「いいね!」「シェア」といった機能にも表れているように、現代は、共感する出来事があれば、支持者が勝手にどんどん広めてくれます。逆に言うと、共感を集められない案件は、いくら一生懸命情報発信したところで、なかなか広まっていかないということがあるでしょう。
 例えば、
「枯死した一本松の保存運動を進めています。協力をお願いします」

 と書かれているより、

「人々の願いむなしく、残念ながら一本松は枯死してしまいました。この奇跡の一本松を後世に伝えていくために、保存活動を進めています。ぜひ、協力をお願いします!」

 と書いてある方が共感は伝わりやすいでしょう(実際に、陸前高田市はフェイスブックを活用して一本松の保存基金を設置しています)。

 『キャリア官僚の交渉術』 第五章 より  久保田崇:著  アスコム:刊

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 久保田さんが指摘されているように、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の普及で、個人の発信力が急激に強まっています。
 つまり、個人のアイデアでもそれが素晴らしいものであれば、大勢の人に支持してもらえる環境が整ってきたということ。

 今後、ますます大きくなるであろう「ソーシャルネットワーク」という大きな武器。
 それを生かすも殺すも、発信者自身の交渉力次第です。

 大物議員を手懐ける彼らの交渉術は、ぜひとも見習いたいですね。

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