本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『「捜査本部」というすごい仕組み』(澤井康生)

 お薦めの本の紹介です。
 澤井康生さんの『「捜査本部」というすごい仕組み』です。

 澤井康生(さわい・やすお)さんは、元警察庁のキャリア官僚です。
 警察庁退官後、弁護士や非常勤裁判官として、司法の場において民事・刑事を問わず幅広くご活躍中です。

「捜査本部」って何?

 警察署において殺人など重大な事件が起こるたびに設置されるのが、「捜査本部」です。
 テレビドラマや小説ではおなじみで、よく耳にする言葉ですが、実際に誰が何をしているのか秘密のベールに包まれています。

 本書は、警察組織の概要や具体的な捜査の仕方など詳しく解説し、「捜査本部」のベールの内側に迫ります。
 その中からいくつかご紹介します。

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「警察庁」と「警視庁」の違い

 まず、警察の組織についてです。
 警察庁と警視庁は名前が似ていることもあり、違いがよく分かりません。

 両者の違いについて、澤井さんは以下のように説明しています。

 警察庁は財務省や外務省などと同じく国全体の行政を司る行政官庁です。警察関連の法律の制定・改廃、全国の警察行政の企画・立案、各都道府県警察の連絡・調整などをしています。警察庁に所属している人は国家公務員試験を受験して合格・採用された官僚です。ですから普段は他の官庁役人と同じくスーツを着て地味な事務方仕事をこなしています。
(中略)
 これに対して、警視庁は東京都を管轄する都道府県警察です。神奈川県には神奈川県警があるように、東京都には警視庁があるのです。本来は東京都警察と呼ぶべきところを特別に警視庁と呼んでいるので紛らわしい面もあります。警視庁を含む都道府県警察は現場の第一線で犯人検挙をはじめとした治安維持にあたっています。ここに所属している人は各都道府県警察ごとに実施される警察官採用試験に合格して採用された警察官です。

   『「捜査本部」というすごいしくみ』  第一章 より   澤井康生:著   マイナビ:刊

 整理すると、警察庁の人は行政官(警察官僚)、警視庁を含む都道府県警の人は捜査官(警察官)という決定的な違いがあります。

 こうしてみると両者の接点はあまりなく、同じ職場で仕事をすることはなさそうですが、そうではありません。

 警察庁の人は数年おきに都道府県警察に管理職として出向します。
 そのため、出向時は都道府県警察の警察官として、他の警察官と一緒に仕事をすることになります。

 警察官僚として、実際に警察署の中でどのような仕事が行われているのかを自分の目や耳で経験することは、法律の制定などを行う上でも必要なことでしょう。

各捜査員に対する役割分担の指示

 重大事件が発生すると、実際に捜査本部が設置されます。
 捜査本部のメンバーは、都道府県警察本部の担当課捜査員と所轄署から吸い上げられた捜査員の混成部隊です。

 捜査本部長は、各都道府県警の刑事部長、捜査本部副部長は、刑事部捜査一課長と所轄警察署長です。
 ただ、彼らはお飾り的な存在で、実際に捜査本部を指揮するのは、警察庁からの出向組である管理官ということになります。

 犯人検挙に向けて重要となる捜査方針は、捜査一課のベテラン管理官や係長あたりが立案します。
 この捜査方針に従って、具体的な捜査活動が決められていくわけです。

 具体的な捜査活動には各段階に種々の捜査があることから、捜査会議において各捜査員に対して役割分担をして指示を出すことになります。このときに管理官として各捜査員の捜査能力、適正、経験等を考慮して適材適所となるような役割分担を指示しなければなりません。
 捜査員の中にはいわゆる「落としの◯◯さん」というような取り調べが得意な者や、聞き込みのような情報収集が得意な者など、それぞれに長所、短所があります。
 管理官は本部捜査員の捜査能力、適正、経験は把握していても、所轄の吸い上げ組の捜査員についてはそれらを把握していません。そのような場合は刑事課長からも意見を聞いて、所轄捜査員の役割分担を決定します。
 本部捜査員は重大犯罪事件を数多く経験しているものの当該所轄における土地鑑には詳しくないのに対して、所轄捜査員は重大犯罪事件の経験は多くないものの土地鑑に詳しいです。したがって、一般に本部捜査員と所轄捜査員を組み合わせて捜査に当たらせることで相互に特性を活かしつつ、足りない部分を補い合って捜査を遂行することが可能性となります。

  『「捜査本部」というすごいしくみ』  第三章 より   澤井康生:著   マイナビ:刊

 捜査は、「スピード」が命です。
 いかに素早く最適な捜査体制を取り、一致団結して行動に移せるかが勝負です。
 長年積み重ねられてきた経験が活かされるのでしょう。

「刑事部」と「公安部」の捜査手法の違い

 警察には、謎に包まれた「公安部」という部署があります。
 公安部は、日本国家という体制の維持のために作られた組織です。

 極左暴力集団や右翼団体など、日本の治安を脅かす可能性のある組織を担当しています。
 一般の事件を担当する刑事部とは捜査の手法も異なります。

 刑事部は事件が発生した後に証拠や目撃者からの事情聴取を行って証拠を積み重ね、誰が結果を惹起したのかという因果の流れを辿っていって犯人を検挙します。
 これに対して公安部は、いわば事件が発生する前から思想的背景のある各種団体を内情、情報収集しておいて、事件が発生した場合には爆発物などの証拠を分析したり、標的となった人物や場所等からの推測により、犯行団体を見立てて捜査を行うのです。証拠がない場合であっても背後関係や関係する団体の状況、その他さまざまな情報を分析し、犯行を行った組織あるいはこれから犯行を行おうとしている組織を見立てて捜査を行います。
 公安部捜査の結果、対象団体がテロ活動などを企てていることが判明した場合、あらゆる法律を駆使して対処し、テロ活動を阻止します。繰り返しになりますが、公安部の目的はテロ等の阻止による日本国家という体制の維持であり、犯人検挙はそのための手段に過ぎないのです。

 刑事部の捜査がすでに発生してしまった事件について物証を収集・分析して犯人を検挙するのに対して、公安部は事件発生前からあらゆる方法を用いて情報収集作業を行って各種団体に関するデータを蓄積しておき、ひとたび事件が発生したときにそれらを照らし合わせることで犯行団体を特定するという捜査の仕方をします。

 『「捜査本部」というすごいしくみ』  第五章 より   澤井康生:著   マイナビ:刊

 公安部は、日本国家の体制維持という同一の目標をかかげています。
 そのため、日本全国の警察と相互に情報を共有しつつ、警察庁からの指揮命令系統に従い、捜査を行っています。

 つまり、刑事警察は「自治体警察」なのに対し、公安部は「国家警察」ということです。

捜査員一人一人を「知的体育会系」に!

 澤井さんは、警察組織をよりパワーアップして、強力な捜査体制を敷けるようにするためには、各捜査員がより自律的に捜査するようになる必要があると述べています。

 捜査本部を単なる捜査員の集団ではなく、ひとつの「チーム」として強化していく。
 そのためには、各捜査員への権限移譲を、これまで以上に増やしていくことが必要不可欠です。

 権限委譲を受けた各捜査員一人一人が捜査しながら自分の頭で考えて、さらなる深い捜査を行えるようになるためには、各捜査員が「知的体育会系」になればよいのです。考えてから行動するのではなく、行動しながら考える癖を付けるのです。
(中略)
 このように捜査の現場において捜査員一人一人が知的体育会系となり、捜査の過程で知覚した情報を分析した上で自らの合理的な判断に基づきさらなる捜査を遂行し、犯人に近づくことができれば、犯人検挙に至る確率も高まるし、検挙にかかる時間も短縮できます。
(中略)
 知的体育会系の捜査員であれば、捜査の過程で当初の見立てと矛盾する証拠が出てきた場合、矛盾する証拠も受け入れた上で合理的な判断に基づきさらなる捜査を行えることから、第三者が犯人である可能性が生じた時点で捜査方針を転換することも可能となります。このようにすれば知的体育会系の捜査により冤罪事件を防止することも可能となります。

   『「捜査本部」というすごいしくみ』  第六章 より   澤井康生:著   マイナビ:刊

「知的体育会系」とは、経営学の権威、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が提唱した概念です。
「現場で身体で経験しながらミクロの事象の意味を察知し、マクロの全体像に結び付けていく能力に優れた人間」のことを指します。

 縦型社会の象徴のような警察組織だからこそ、捜査員に現場での自主判断を許す権限移譲がより必要ということです。

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 警察は、自動車免許の書換えや落し物をした時以外には、一般の人がお世話になることがほとんどありません。
 しかし、犯罪が起きた時の対応はもちろん、犯罪を未然に防ぐという観点においても、警察の果たしている役割は私たちの思っているより大きいものであることが、本書を読むとわかります。

 私たちの見えないところで多くの警察官が努力されているおかげで、日本の治安が保たれているのは事実です。
 これからも日本の平和な暮らしを維持するため、日々の任務に励んで頂きたいですね。

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