【書評】『たくらむ技術』(加地倫三)
お薦めの本の紹介です。
加地倫三さんの『たくらむ技術』です。
加地倫三(かぢ・りんぞう)さんは、テレビ番組のプロデューサーです。
人気バラエティ番組、「ロンドンハーツ」や「アメトーーク!」を担当しています。
「企み続けた」半生とは?
加地さんは、自らの半生を「思えば、ずっと企んできた」と振り返っています。
番組の中の仕掛けはもちろん、新番組の企画を思いついた時、打ち合わせの時、取材の時でさえ、ついつい相手の顔色、表情、手元を観察して、分析をしてしまうそうです。
「企んでいる」というと、計算高い人間の悪だくみのようなイメージが浮かびます。
しかし、加地さんの場合は、「とにかく面白いものを作ること、楽しく仕事をすること」が企みの理由です。
本書は、ヒット企画を次々と世に送り出した加地さんの「企む技術」のノウハウを、具体的な事例を交えてまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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クソマジメに仕事を積み重ねる
テレビの業界、しかもバラエティ専門のプロデューサーというと、何となくチャラチャラした軽い印象を受けます。
しかし、実際の仕事は、そんなイメージを完全に吹き飛ばすくらいの重労働です。
例えば収録の編集について。
2時間の収録をした場合、通常9台のカメラで収録し、18時間分のVTRが素材として残ります。
それを1時間の番組に編集するのは担当のディレクターさんの作業です。
しかし、加地さんも、総合演出としてその作業に一緒に加わります。
「ここはもうちょっと短く」
「この場面ではこっちの顔をアップに」
など、テロップの字体にまで、かなり細かい指示まで出します。
プロデューサーという肩書きの人間としては、かなり細かいところまで見ている方だと思います。細かいスイッチングやテロップの字体まで見なくても、別に誰かに怒られるわけではありません。
じゃあ、なぜそうするのか。
自分がかかわる番組については「これは俺の作品だ」と思っているからです。だから、細部まで自分が納得したものでなくては放送するのが嫌なのです。
僕は自分の仕事を「饅頭作りの職人さんのようなもの」というイメージでとらえています。1つ1つの作業を丁寧に行い、気を抜かないで納得いくものを作る。常に一定以上のレベルをクリアし、そうでないものは店に出さない。
もちろん、製作者としては「だから苦労を感じてください」というつもりはさらさらありません。お客さんには「甘くておいしいなあ」とただ味わっていただければ十分です。
ただし、職人である以上、クソマジメに仕事を積み重ねなくてはいけない。
そんなふうに思っているのです。『たくらむ技術』 1 より 加地倫三:著 新潮社:刊
長い間人気を保っているものには、それなりの理由があります。
「ロンドンハーツ」や「アメトーーク!」も例外ではありません。
加地さんの「もっと面白い番組に」というたゆまぬ努力が、番組の人気を強力に支えているのは間違いありません。
トレンドに背を向ける
常に斬新なアイデアや企画や番組を企み続けている加地さん。
しかし、「アンテナを張っての情報収集」などということは、まったくしていません。
自らを「機械音痴」と呼び、パソコンもほとんど使わず、携帯もスマートフォンではなく、二つ折りのもの(いわゆる「ガラケー」)を使っているそうです。
番組作りに関して言えば、積極的に流行を取り入れたいとか、最新情報をインプットしようとかいった気持ちが全くないのです。そもそも、そうする必要を感じていません。
番組の構成作家が「今、こういうのが若い女性に流行っているんですよ。だから、ちょっと取り入れてみましょう」というような提案をしたことがあります。その時は「へえ、そんなものがあるんだ」と素直に感心し、何か取り入れようと思わなくもないのですが、結果的にいい形になったことがありません。
それはその情報なりが自分のものになっていないからです。自分の感情や実感をともなっていない、本気で面白いと思っていない、と言うべきでしょう。
結局、身の丈に合っていないものというのは、ダメなんじゃないか。そう思うのです。
視聴者を過剰に意識して、トレンドや最新情報をいくら仕入れたところで、自分自身が「面白い」という強い感情を持たない限り、番組で活かすことはできないし、どうコントロールしていいかも分かりません。
新しい情報を追うよりは、気の合うスタッフたちとの雑談で「それ、面白いよ」と盛り上がったテーマを深く掘っていくことの方が、「生きた企画」につながると思っています。実際に、「ロンドンハーツ」も「アメトーーク!」も多くの企画はそういう形で生まれています。『たくらむ技術』 2 より 加地倫三:著 新潮社:刊
テレビという流行に敏感な業界だからこそ、流行に全く興味がなく、自分が本気で面白いと思うものを徹底的に追及する。
そんな加地さんの「企み」が視聴者に受けるのでしょう。
あえて、トレンドを追わずに自らの感性を信じて突き進む。
世の中に衝撃を与える大ヒット商品というものは、そこから生まれます。
あえて「遠回り」する
子供の頃からテレビ、特にお笑い番組が好きだった加地さん。
テレビ局への入社を目指すのは自然なことでした。
加地さんの「企み好き」「笑わせ好き」は、生まれ持った性質なのでしょう。
テレビ朝日での入社面接でも、ちょっとした企みをしています。
局内の志望部署についてです。
「配属の第1志望はどこですか。どんな番組を作りたいですか」
この問いに対して、「バラエティ」には一切触れず、「スポーツがやりたいです」と答えたのです。本音を言えば、もちろんバラエティです。でも、あえてそれは口にしませんでした。
そこには大学生なりのこんな計算がありました。
もしもバラエティと言ったら、面接官は次に必ず、「じゃあ、どんな企画をやりたいの」と聞いてくるはずだ。そこでいくらアイディアを言っても、面接官の個人的好みがあるから、どうしても好き嫌いで判断されてしまうのではないか。ピッタリとはまればいいけれども、外したらアウト。そもそも企画力なんかに自信もない・・・・。それならば、バラエティ志望はいったん隠しておこう。
スポーツ志望だという回答には、そういう危険性が少ない。もともとスポーツ大好き少年だったので知識で押し通せる自信もありました。結果として入社できたのですから、この企みは成功だったのでしょう。『たくらむ技術』 11 より 加地倫三:著 新潮社:刊
加地さんの思惑通り、最初の配属はスポーツ局でした。
入社して1年半で「ワールドプロレスリング」のメインディレクターになるなど、大きな仕事を任されるなど貴重な経験を積みます。
そして、このときに身につけたことは、今でも役に立っているとのこと。
加地さんの「企み」が多くの人の支持を集めるのは、単なる思い付きではなく、深い洞察力に裏付けされた計算されつくされたものだからです。
強い人は強さを誇示しない
「ロンドンハーツ」や「アメトーーク!」が好調を維持し、雑誌で特集を組まれたり、取材を受けることが増え、「今が自分のバブル期」だ、という加地さん。
あくまでバブルなのだから調子に乗ってはいけない
と自分自身に強く言い聞かせています。
「調子に乗ったら落ちる」
浮き沈みの激しいこの業界では特にそうなのでしょう。
加地さんも、実際にそのような例をよく見てきました。
あれが嫌だ、これはNGというようなことを言ってくるよりも、「こういうのに不慣れなので、みなさんぜひよろしくお願いします」というスタンスの人の方が、周囲のやる気も出ますし、その場の空気も良くなります。
誤解しないで欲しいのは、決して「出してやる」という気持ちで言っているわけではないということです。僕らとしては「出ていただく」という気持ちでいるのは間違いありません。
ただ、長年見てきて言えることは、超一流とされる人はみなさん基本的に丁寧で常識的な方だということです。明石家さんまさんは、いつもテレビで見るのと同じ感じで、決して偉ぶったりはしていません。サングラスをかけて肩をいからせるといったこともありません。
本当に強い人は強さを誇示しないのです。
僕もそうありたいと思っているので、極力、売れていない人にも、いやむしろ売れていない人にこそ丁寧に接するように心がけています。他の人と平等に、と考えていると結局おざなりになってしまう恐れがあるので、丁寧に接するくらいでちょうどいい塩梅(あんばい)になるのではないか、と思っているからです。収録前に会場を盛り上げておいてくれる前説(まえせつ)の芸人さんにも「盛り上げてくれてありがとう」となるべく声をかけるようにしています。『たくらむ技術』 12 より 加地倫三:著 新潮社:刊
ちょっと名前が売れると、勘違いするタレントさんは多いです。
同様に、ちょっと偉くなっただけで勘違いし、周りに対して横柄な態度を取る人は多いです。
どんな人でも、一人で生きていくことはできません。
周りの支えがあってこそです。
立場や地位に関係なく謙虚に、周囲の人へのリスペクトを、つねに忘れないようにしたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「ロンドンハーツ」や「アメトーーク!」のオンエア日に、加地さんが1人だけで必ずやることがあります。
それは、録画した番組を家でじっくり見ること、つまり「あら探し」です。
次に活かすために必ず反省点を探すためですが、どんなに帰りが遅くなってもこの作業は欠かすことはありません。
ここまで徹底できるのは、「テレビで、笑いで世の中を明るくしていきたい」そんな情熱を持ち続けていればこそです。
「落ち込んでいたけれど、笑いで元気をもらった」
「勇気が出た」
自分が作った番組を見て、こんなメッセージをもらうと胸が熱くなるという加地さん。
本書を読むと、加地さんのテレビにかける想い、お笑いにかける情熱が痛いほど伝わってきます。
斬新なアイデアで、私たちを「あっ」と言わ続ける加地さんのこれからの「企み」にも期待したいですね。
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